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61話 誘拐犯、語る

「バレてたか」

「最初は気づきませんでした」


 私を抱き抱えていたレイオンが大きく剣を振るいアパゴギが受ける。独特の衝突音がした。


「一番は北部訛りが見られたからです」


 フードの男として現れた時はだいぶ訛りを隠していたけど、所々違和感を抱く程度に語調が変わっていた。

 思えば初めて国境線に来た時、彼と話した後に指先が震えたのが答えだったのだろう。トラウマに自覚がなかった時でも、目の前の男が犯人だと私は分かっていて震えという形で現れた。泉で誘拐犯として会った時も震えたのだから間違いない。

 彼ならこの要塞を少数精鋭で襲撃できるし、王城については辺境管理の一環として仕入れている情報に加え、レイオンが王太子殿下と懇意にしているから、それ以上を知ることもできる。辺境領地内に拉致した聖女候補を一時的に隠すことも可能のはずだ。

 私が回答に至る経緯を話すと、アパゴギは私の推測を聞いて眉間に皺を寄せて笑った。


「さすが聖女様だな?」

「からかわないで下さい」


 剣が弾かれ距離があいた。アパゴギは離れた場所に留まり周囲を見回す。戦局を読んでいるのか、国境線山側の一人に目配せをした。なにかする気?


「坊っちゃんは気づいていたな?」

「……」

「え?」


 横目で確認すると眉間に皺を寄せ苦しそうにしていた。泣いてしまいそう。


「俺が主犯と分かってて放っておいたってことさ」

「……」


 剣を握る手に力が入った。


「二十年前、最初の王城侵入の時から分かってたな?」

「……確証がなかった」


 ここにきてレイオン側に応援が入った。

 背後から足音と声が届き、それぞれに加勢していく。一気に形勢が変わり、フードの集団は押され始める。ただアパゴギだけはそのまま余裕の体で立っていた。


「あんたの拉致が失敗した後、追手が厳しくてどうにもならなくてな。密かに国境を越えようとしたんだ」


 そこにレイオンの御両親がいた。

 事情を知らない二人は北部の困窮者だと主張したアパゴギに手を差し伸べ、自身の国境武力の面子に加えたと当時を嘲笑う。


「それで俺に殺されてんだから笑えるな」

「え?」


 ご両親は転落事故だとレイオンから聞いた。事故ではなかった?


「坊っちゃんと同じで最後まで何考えてるか分かんねえ面してたが」


 まあ憂さ晴らしにはなったと主張する。


「憂さ晴らし?」

「そうだろ。坊っちゃんに邪魔されてこっちは金が入らない、しかも追われる身になったんだぜ?」


 自分が犯罪を犯したのにレイオンのせいにするなんてひどすぎる。そのお門違いな考えの報復でご両親まで手にかけるなんておかしい。


「なんでそんなことができるんですか」

「お貴族様には分かんねえだろうよ。こっちは生きるか死ぬかでやってんだ」

「お給金ならきちんと払われているはずです。今は三国友好で戦争もないのに」

「そういうとこだな?」


 アパゴギが不快感をあらわにした。

 最初から大きく快適な家があり、なんでも買える財力もあり、食べ物にも着る物にも困らない。それが全てない人間の気持ちなど分かるわけもないと憎々しげに囁かれる。


「……まあいいさ。あれから今までなあなあで済ませてきたがな。奥様、あんたに再会して気が変わったんだぜ?」

「私?」

「あんたを見たら、一発当てたくなった」

「それが聖女候補の人身売買?」


 笑顔で肯定した。


「少なくともエクセロスレヴォ、アガピカトでは手が上がった。パノキカトはちと厳しいがいけないことはない。奥様、あんた引く手あまたなんだぜ?」

「やめろ」


 レイオンが低く唸る。構わずアパゴギは続けた。


「坊っちゃんの手つきでも構わねえって酔狂なじじい共が最初だったか」

「やめろ」

「ああもちろんじじい以外のお求めも多いぜ?」

「やめろ」

「だからあんたは特別にオークションにかける」

「アパゴギ!」


 再びレイオンが叫んだ。怒ってもいるし、やっぱり辛そうに見える。

 そっと手に触れると僅かに震えてこちらを見下ろした。


「大丈夫」

「メーラ」


 やれやれと言った様子で肩をすくめ、いいのかとアパゴギが私に問う。


「あんたも酔狂だよな」

「なにがですか」

「あんたを害そうとした男を泳がせていた挙げ句、魔物の血が入った化け物をよく夫にできるなって話だよ」


 またその話か。

 どうしてこうも彼を悪く言うのだろう。ここの騎士たちはレイオンのことを他人の評価なく彼自身を見た上で国境線を共に守ってくれていると思っていた。アパゴギもおかしな逆恨みはしていたとしても、化け物だという偏見ありきで彼を見るとは思ってなかったのに。


「レイオンは私を守ってくれました」


 彼が私の名を呼んだ。


「今も守ってくれます。真面目すぎなとこもありますけど、きちんと感情もあって、とても優しい、私には勿体無い夫です」

「……メーラ」

「レイオンは人です。化け物ではありません」


 何度だって言えることだけど、さすがにちょっと恥ずかしいのでレイオンを見られなかった。纏う空気が場違いなぐらいふわふわしているのを側から感じる。喜んでいるようでよかったけど、見たら恥ずかしくなりそう。


「はあ、本当暢気だなあ」


 呆れが見えた。


「まあいいさ。精々震えてろ」

今日のわんこ「ごしゅじんたまが褒めてくれた!(感動)」というこで、(っ'-')╮=͟͟͞͞ (シリアス) ブォン

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