57話 刺客撃破の後、屋敷に到着
「嘘の情報の可能性もある?」
「あるが、九割真実だろう」
情報戦において屋敷にいるバトレルたちが後手になることはない。そう自信をもって言うからには、それなりに備えをしてきているのだろう。かつては国同士が争い前線であった国境領地、情報の漏れや偽情報で初動が変われば戦局も変わる。広大な敷地を管理するディアフォティーゾ辺境伯として非常事態の対応は必須であり、こなさないといけない。
「旦那様!」
馬車に揺られ王都を出てすぐだった。御者がレイオンを呼び、彼は予想していたのか落胆の色を見せて溜息を吐いた。
「やはりか……」
「レイオン?」
「刺客だ」
外に出ないようにと言われ、私が返事をする時間も与えず彼は静かに出て行った。なんてことなしにちょっと買い物に行くような軽さだけど内容不穏だよね? え、そんなあっさり?
当然外の喧騒は争いの色を見せているけど、その中で聞こえてくるのは相手方の悲鳴だけだ。
ちょっと理解が追いつかないんだけど、どうしたらいいのかな?
「メーラ」
出て行った時と変わらない軽さと見た目で戻って来た。馬車の扉を開け、そのまま動かない。
「レイオン、怪我は」
ない、と端的に答えた後、出るように促され馬車の外に出る。そこには野盗と思われる人間が地に伏せ呻きつつ、淡々とその人間たちを縛る御者の姿があった。
「ここからは馬だけで行く」
「いいけど、この数全部レイオンが?」
「……襲ってきたのは素人だ」
否定しないあたり一人で全部やったの。レイオンのこういうとこはまだあまり知らない。今度剣の扱い方でも教えてもらおうかな。エピシミア辺境伯夫人は大きな剣を振るって戦うと言う話もあるし、女性が格好良く戦う時代が来ても何も問題ない。
と、レイオンは野盗を無表情で眺めながら、フードの男に今だけ雇われた即席の刺客だと言った。
「足止めが目的だろう」
こんな一瞬で終わることが足止めと言わないのではとは思ったけど口にしなかった。ただ彼の言う通り、馬車から馬に乗り換えて行くことを了承し、彼と同じ馬に乗る。御者は襲ってきた者たちの引き渡しをする為に残った。
「お気をつけて」
あの御者には何回か領地内の町に連れて行ってもらっていたけど、この足止め用の刺客討伐をこなしたあたり、こちらもそれなりに腕がたつよう。レイオンのとこって見た目と中身が違う人が多いんじゃないのと思いつつ御者と別れ馬を走らせた。
「辛ければ言って」
「うん」
そこから屋敷までは襲撃はなく、ひたすら馬を走らせるだけだった。
屋敷に立ち寄ると、すぐに玄関に家令が集まる。
「こちらは無事です」
バトレルが丁寧に今ある情報を伝える。
火の手はあくまで砦だけ、周囲の敷地や森には至っていない。中については混乱があるのか、はっきりしたことは分からないと言う。
「メーラ?」
「あ、ごめんなさい。早く向かわないと」
「屋敷に留まる方が」
「一緒に行く」
現在状況なら屋敷が安全と判断できるし、戦場に私を連れていくことは通常であれば有り得ない。それでも私は彼と行くことを選ぶ。私を狙っているのなら、どこであろうともフードの集団は現れる。どこにいても同じだ。
なにより兄はレイオンに私を側に置けと言っていたし、その時にこの領地でなにが起きているか見届けたいと伝えた。
瞳を逸らさず見上げる。眉間に皺を寄せ悩むレイオンの姿があった。
「ああ、着替えないとね?」
「え?」
「ゾーイ、遠乗り用の服を持ってきて」
「え?」
「早く」
慌てて部屋に戻るゾーイを見届け、レイオンに視線を戻す。
「まさかここで着替えるのか」
「うん」
周囲から「は?」という声が上がった。
驚くなかれ、今の私の裸族レベルはカンストしている。周囲に裸族趣味がバレるのは思うところはあるけど今は非常事態で時間も惜しい。ならここでレベルカンストを活かして着替えるのが正解だ。
私の言葉にバトレルですら慌てた様子を見せるも、彼は私の言わんとしていることを悟ったらしく静かに同伴を肯定した。
「分かった。分かったから、バトレルから話を詳しく聞いている間に部屋で着替えて」
「ここでいいのに」
「駄目だ」
耳元で君の趣味は私だけが知っていればいいと言って背中を押された。
仕方ないので部屋で大人しく着替えよう。
「メーラの護衛にヴォイソスとヴォイフィアを連れていく」
着替えて戻った私にレイオンが告げる。後は任せると言うレイオンに周りはただ頷き、え? と私だけ場違いな声がでた。
二人はただの侍従と侍女のはずだ。
「ここはバトレルに任せる。指揮をとるように」
「委細承知致しました」
「指揮?」
ここが戦場になるような言い方をする。国境線から最初に辿り着くのはこの屋敷だろうけど、距離もすぐ近くというわけでもない。
野盗の類いであれば、辺境伯家の財産目当てに屋敷を標的にするのも分かるけど、最初に狙われたのは国境線だ。なぜ最初に国境線を狙う必要があるのだろう。国境線自体が狙いだとしたらなにを得られるのか。
レイオンに聞いてみようかと顔を上げると双子の家令が立っていた。
「奥様安心してくださいね? 俺もヴォイフィアもけっこー強いんですよ!」
「そう」
さっきの御者のこともあるし、家令たちの佇まいを見るに、他とは違う教育を受けているのだろう。妙に肝が据わっている。
「レイオン、行こう?」
「ああ」
裸族レベルカンストを勘違いしているに一票(笑)。まあ時間は惜しいのには同意ですが。
レイオンとしても、メーラの裸は自分だけの特権、って思っているので断固拒否です。
(っ'-')╮=͟͟͞͞ (シリアス) ブォン




