表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/83

28話 全裸水浴び→熊遭遇

「フォー、おはよ」


 挨拶したらすぐにちゅーしてくれるようになった。

 さすが頭のいい子、毎回唇と頬に一回ずつをなんなくこなせている。


「すっかり慣れたね」


 尻尾を一振り。

 そういえばレイオンもたまにキスしてくれるようになった。とは言っても私に起こされて寝惚けている時だけだ。普段その気だって好意だって見えないのに。

 直近は満月の日に症状緩和したのか寝室の扉が開いて、話をする為に扉の前に座り込んでいた私を抱き込んでそのままベッドで抱き枕にされて寝た日の朝だったかな?

 あの人実はキス魔なんじゃないの? まだ満月の余波があったから寝ているのをいいことにもふもふ耳触りまくったけど。実にいいケモ耳だった。


「ん? なに?」


 フォーが私の荷物をじっと見ている。

 そうね、いつもより多いから仕方ない。


「もうあったかいでしょ? 泳ごうと思って」 


 フォーは今度は驚かなかった。

 レイオンから聞かされていたのかな? 魔物がいないなら、一度だけでもいいから泳ぎたいと言えば、フォーを連れることを条件で少しの無言の後にお許しが出た。


「フォーも泳ぐ?」


 首を横に振った。泳げないのかな?

 タープの下で手早く服を脱いで、足から水に浸ける。暖かくなったとはいえ、少し冷たい。

 入り始めは浅瀬が続き、滝が落ちるとこまで近くにつれて深くなっていく、定番の泉だった。やっぱり泳ぐと気持ちいい、


「フォー、本当にいいのってあれ?」


 タープからも離れ、泉から背を向けて伏せしている。私伏せの指示してないけど、なにに待機してるの?


「フォー具合悪いの?」


 伏せしたまま首を左右に振る。


「元気?」


 尻尾を一振り。


「こっち来ない?」


 またしても首を横に振る。

 レイオンの指示なの? 大体おいでって言えば来てくれるのに今日は頑なすぎる。


「私は構わないのに」


 反応無し。


「ふうん」


 フォーと一緒に泳いできゃっきゃしたかった。浅瀬で水掛け合いっこしてもいい。けどフォーはあんなだし、水が苦手っぽいから諦めよう。


「はあ……きもちい」


 水の上に浮いて空を仰ぐと綺麗な晴天。空がもやっと近くなってきたから、まだまだ春の走りとはいえ夏が徐々に来てる。

 さすがに身体が冷えてしまうので、早めにあがって持ってきたタオルで身体を拭く。その間もフォーは私に背を向けたままだった。


「フォー」


 終わったよと声をかけると、慎重にこちらを確認した後、足取り軽く近づいてくる。

 心なしか嬉しそう。やっぱり一緒に遊べないとつまらないかな。


「フォーは火、大丈夫だったね」


 尻尾を一振りするのを見て薪を燃やす。

 屋敷のを頂くのもと思って、自分で寝室に持ち込んで水分を抜いて持ってきた。レイオンがなにも言わなかったのは不思議だったけど、基本あの人は他人に甘い気質ぽいので私から特に言っていない。

 フォーにだけ、ここから薪を持ち帰る時に伝えていた。小首を傾げていたけど今使うのを見て納得してるようだった。


「次はコーヒーミルでも買おうかな」


 ね、とフォーに言うと無反応。キャンプ用品は聖女様ブランドしかないし、エクセロスレヴォでは広く知られてないから、フォーがわからないのも無理はない。


「ここでコーヒー作って飲みたいなって」


 お金はあるけど、そんなほいほい使うのもよくない。夏のボーナスで買おうかな。ボーナスもなにもないのだけど。


「ん?」


 がさりと左手側からなにかが動く音が聞こえた。ここは水場だから、野生動物や大人しい草食性の魔物は今まで数える程だけど稀に現れる。

 いつもフォーがいるからか、近づくこともなく、大概は水を少し飲んですぐにいなくなってしまう。今回も同じだろうと思っていた。


「おや」


 茂みから出てきてのは抱き上げると丁度良さそうなサイズの子熊だった。こちらを見て首を傾げた後、少しずつ近づいてくる。焚き火を怖がらないのか。


「本当にぬいぐるみみたい」


 フォーとは違うもふもふね。

 可愛いなあ。


「あれ?」


 子熊?

 今は春、子熊が生まれる時期で間違いない。

 隣のフォーが威嚇して構えている。

 やっぱりそうだと思った瞬間、子熊が出てきた茂みからざばっと大柄な母熊が飛び出してきた。


「やっぱりクマー!」


 冬が終わり、子熊を生んだ母熊が外に出てくる。

 この子熊を連れた時期の母熊は神経質で攻撃的だ。見境もない。

 急いで離れようとすると子熊がなぜかついてくる。


「なんで?!」


 おいかけっこですか~と言わんばかりの嬉しそうな顔をしていた。その無邪気さは今いらないから! なんでこういう時に限って動物に好かれるスキルが生かされるの。子熊可愛いけど! 母熊にはそのスキルきいてないけど!


「いたっ」


 足が縺れて転んでしまう。

 こんな時にと血の気が引いていく。当然母熊が迫っていた。

 いくらなんでもあの爪と牙にやられたら助からない。

 起き上がらないとと身体に力を入れた時、右手から勢いよくフォーが飛び出した。


「フォー?!」

裸族にとって、野外・裸・水浴びが叶って幸せなのに熊に襲われる悲劇、フォーに至っては据え膳くらっていたところに襲撃(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ