スキル「魔鏡」の使い道が分からない
魔鏡、それは一見普通の鏡でありながら、光を反射させて作った像の中に絵や文字を浮かび上がらせる細工がなされた鏡である。
その昔、隠れキリシタンが信仰を守るために用いていたと言われている。
しかし、俺が異世界に転移して得たスキル「魔鏡」は、どう使ってよいのか、さっぱり分からないのだ。要するに、鏡を魔鏡に変えることができるのだが、役に立つスキルであるとは思えない。
こちらに転移してきた者は、何らかのスキルを与えられているのが常であるが、当たり外れの差が著しく大きい。以前の世界で読んだ小説では、スキルを選ぶことができたり、複数のスキルが与えられたりしていたが、現実は、完全に運次第で、1つしか与えられなかったのだ。
前世の記憶とやらは、ほぼ完全に残っている。ちなみに俺の前世は、普通のリーマンで営業職。40歳を目前にトラックに轢かれて、異世界へ転移となった。幸か不幸か、未婚である。
とりあえず救いは、俺が転移してきた異世界は、比較的転移者が多いらしいということだった。転移者は、異世界ネイティブとは違う能力、すなわちスキルを1つだけ持つということが、だいぶ前から知られているようで、それが故に保護対象なのだ。当然、役に立つスキルが期待されているわけだが、意外な使い道があったりするので、どんなカススキルであっても1年ほどかけて使い道が検討される。そのためにプロジェクトチームが組まれるくらいだ。
が、「魔鏡」は特殊過ぎて、優秀な官僚たちの頭脳を以てしてもアイデアが浮かんでこないようだった。せいぜいが、国家間での贈答品くらいだ。それだって、極めて芸術性が高い絵や美文字を浮かび上がらせることができるのなら相当の価値を持ったスキルだったかもしれない。
残念なことに、俺は図画工作および美術の成績はずっと2だった。1は不可に相当するわけで、事実上の最低ライン、つまり、俺の魔鏡の芸術的価値はゼロだ。そして字に至ってはミミズである。
ひょっとしたら、かえって魔除けになるかもしれん。俺は、サンプルを作って官僚たちに見せてみた。図柄はその辺の草花にしたが、出来はお察しだ。
すると、意外な反応が返ってきた。「1つ譲って欲しい」と言ってきたのだ。それも皆、個別に、こっそり依頼してくるのだ。
どういうことか? 思い切って1人に聞いてみた。
「……なんというか、あれは、その……。」
……俺の魔鏡は、猥褻物を投影する鏡と認識されたらしい。