奴隷市場
僕とカノンはカフェを出て街を歩く。
「うーん。二人かー」
そう呟くとカノンは僕の腕にしがみついてきた。めっちゃいい匂い。
「私と二人は嫌?」
「別にそういうわけじゃないんだけど、僕のバフって一回に三人にまでかけられるんだ。三人にバフをかけたら一日誰にもバフをかけれない。だからあと二人いていいのかなって」
カノンは安心したようにため息をついた後、顎に手を当ててなにかを考えるようなしぐさをする。
「だったら奴隷買えば? 奴隷なら絶対裏切らないわよ」
たぶん、さっきパーティーから追放されたって話をしたから、この提案をしてくれたのだろう。
「そうだね」
てなわけで奴隷市場にやってきた。色んな生物や種族が折に入れられて売られるのを待っている。
「おー。お客さん。エルフとは珍しい。高値で買い取りますよ」
奴隷市場の店主が僕にそう言ってくる。こいつ、ふざけるなよ。
「彼女は僕の仲間です。売りに来たんじゃない」
店主は後ろに後ずさりながらも「では奴隷を買いに?」と話をずらした。
「ええ。何かおすすめはありますか?」
「ちょっと待ってくださいね」
と、店主は席を外した。すると、カノンが後ろから抱きついてくる。
「ありがと」
「お礼はいいよ」
仲間なんだから、そんなのいらない。
「お待たせしましたどうぞこちらに」
その後は店主に様々な奴隷を紹介してもらった。僕が気になったのは「信じて。信じて」と叫び続ける黒い横縞模様の服を着た黒髪ロングの少女だった。
「この人は?」
「ああ。そいつは囚人から奴隷に堕ちた女ですよ。なんでもとある貴族の一族を皆殺しにいたらしいです。その罪で一生奴隷として生きるって刑罰をくらってここに連れてこられたんですよ」
長い間風呂に入ってないせいか、顔は泥まみれだが、それでも綺麗な顔立ちをしていることがわかる。
「信じて、と言っていますが?」
「こいつ自分が無実だって言い張ってるんですよ。コラ! 黙れ! 人殺し!」
店主はそう怒鳴って、近くにある水の入ったバケツを信じてと叫ぶ女の子に浴びせる。
「……冷たい」
身体を鎖で固定されている女の子は僅かに身を震わせた。
「やめましょうよ。そんなこと」
僕は女の子に語りかける。
「君、無実なの?」
「は、はい。信じてくれるんですか?」
「うん」
この人が僕に重なった。境遇には格差があるけど、自分のバフの功績を信じてもらえなかったときと重なった。
「決めました。この人を買います」
「え? いいんですか? 人殺しですよ」
「いいんです。この子の名前は?」
「エリー・キュウイです」
奴隷市場の店主に尋ねたつもりだったが檻の中にいる本人から返答があった。
こうして仲間が一人加わった。