もやもや
「やったぁー!」
男は動かない。死んではないがしばらくは意識を取り戻すこともないだろう。
カンバラは男が気絶したと同時に電池が切れたみたいに倒れてしまう。相当無理していたみたいだ。さっきもアドレナリンとテンションで動いていたに違いない。
さてとりあえずこいつを拘束しないとな。色々と聞きたいこともあるし。
「なーに負けてんの」
ぞくりと胸を掴まれるような感じがした。
声の主は赤髮の女だ。抜群のプロモーションに美しい顔立ち。気がつくとその女は男の側にいた。
「あんた誰よ!」
カノンが声を荒げる。
「私? 私はパラド・アメス。この弱火野郎とムテキ・ヘスカバンを回収しに来たの」
「てことはそいつの仲間?」
カノンは男を指さす。
「そうなるわね」
まずい。たぶん、パラドは炎男並みに強い。カンバラさんはダウンしている。僕らもボロボロだ。こんな状態でこの人と戦えるか?
でも男とムテキさんを奪われるわけにはいかない。現状一番強いのは僕。僕がやるしかないんだ。
僕は大地を蹴って飛び上がり、パラドに襲いかかる。だがパラドに近づいた次の瞬間、ぼくは顎に衝撃を感じ、アッパーでもされたみたいに上を向く。
一体何が? 攻撃が見えなかった。
僕は体勢を立て直して、僕に攻撃したなにかを探す。だがそんなものはどこにもない。いるのはパラドだけだ。しかもそのパラドが直接僕を攻撃したわけでもない。
何かのスキルか?
そうこう考えているうちにカノンが巨大な火の玉をつくり、パラドに放つ。だがまるで、バリアでも張っているみたいに火の玉はパラドに当たらない。彼女に近づいた瞬間、火の玉の起動が逸れるのだ。
その後も何度か攻撃したが、パラドには一切きかなかった。彼女は僕らの攻撃なんて無視して、ムテキの所まで歩くと、彼を担ぎ上げる。
「それじゃあな」
そう言うとパラドがその場からまるで、最初からいなかったみたいにパッと消えた。
どういうことだ? スキルは一人に一つまでだ。何であいつはバリアと瞬間移動の二つの力を使えるんだ?
空は晴れ、暖かな日差しが森を照らす。まるで、魔物に汚染された森を浄化しているようだった。
でも僕らの胸に残ったもやもやは浄化されなかった。