羊肉のスパイス煮込み
とろみのついたアツアツの煮込みは冷めることがない。
なにかの肉だろうけれど臭み消しに使うスパイスをふんだんに用いることでとても食べやすい筈。
「高級スパイスを惜しみなく使った羊肉の煮込みはご観覧の皆様にもお求めいただけます」
「エール、ワイン、牛乳など飲み物のご用意もございます」
会場にすかさずアナウンスが流れ、観客も興味津々で注文するが
それは食べやすいよう配慮されてて小振りのお椀で提供される。
牛乳っていう時点でお察しのように
「辛いっ!」
「あっついっ!」
悲鳴と咽せる音がテーブルの各所から上がっている。
アツアツおでん芸である。
ギャラリーの反応が良い。
口に入れると最初は甘い味付けと肉の旨味。続いて喉が焼けるような唐辛子の辛さ。からの舌がしびれるような山椒のような辛さ。そしてピリピリする生姜の風味。フルーツの香りと酸味。
多彩なスパイス使いである。
「旨い。汗が止まらないけど、美味しい」
ママカレーだった子どもがインドカレーデビューした日を思いだす。
噴き出すのは汗だけじゃなく、涙とか鼻水とか、誤魔化すように手巾で拭いまくる。
辛いものをアツアツで食べると刺激倍増。
水を飲んでもヒリヒリは治まらないから、後の食事を考えてがぶ飲みは控える。
顔を真っ赤にして、噴き出す汗が止まらず、舌を出しながら食べる姿に観客は大喜びだ。
挙句、汗を拭こうとこすった手についていた汁が眼に入って悶絶するものもお約束のように現われる。
椅子から崩れ落ち床で丸まって悶えている。身体張ってるなぁ。
いや、婦人部、見てないで眼を洗ってやりなよ。
いっしょに審査員席で食べているお兄さんやチャンピオン君も耳まで真っ赤になっている。
辛さと熱さに阻まれて最初の一人はなかなか出なかったけれど、10名を越えた辺りから接戦に成り、まとまって完食の合図をしたので
「じゃぁ、この中盤グループまでで!」
ざっくりした予選で26名が選抜された。
ステージに席が慌ただしく追加され、招待選手のわたし達含めて29名で本戦である。
ひな壇になっていて遠くからでも貪る姿が見えちゃうのだ。
しかもすごい色の服着ている。
なんていうか、恥ずかしい。
フレッド達がいなくてほんとうに良かった。
婦人部給仕部隊がつぎつぎにお盆のように大きなお皿を掲げて現れる。
フッシュアンドチップスが遠目にも分かるであろうほど、積んである。
大きな魚の切り身をフリッターにしたものとフレッドの親指のような太さに切った芋が
四十肩を悪くしそうなくらい大盛りだ。
わたしこの給仕のアルバイトのほうがしたかったなぁ。
運ぶだけで崩れそうなくらい盛ってある。
「食べきったらお替りをお持ちしますので手を上げてくださいね」
そして銅鑼が鳴り、一斉に皿に手が伸びる。
続きは明日の朝6時です




