予選がある
「言葉遣いが悪い。アスタの頭を掴まない。室内で裸火を出すのは放火するときだけ!」
フレッドによる、セオドア。ちょっとここにお座りなさい。から始まるお説教を食らっている。
暴力と血にまみれた暮らしなのに、フレッドの真っ当な感覚が好ましい。
このごろ奇妙なくらい怒りがこみあげていたけれど、やはり成人として正しくない。
改めるべきだよね。
「そういう綺麗事って好き。今度からはもっと上手くやる」
工夫が大事だよな。
アスタのせいでわたしだけ警護から外されて、お得意様のキャラバンは代理の護衛1名を加えて出立する。
やっぱり大人だけで行くほうが行動しやすいから、わたしクビって言われたら悲しい。
とても不安な気持ちだ。
だけど、いずれわたしは独立する。
できればもう少し時間がほしいけど。
独りで食べて行けるように、ツテと技術を得なくては。
さて紛糾した曰く付きの中央商店街の催事は、反響が大きく応募多数で予選までやるそうだ。
もちろんこの予選を観覧することもできる。
チケットの売れ行き好調。
食べ盛り男子はお城勤務の若い衆にもいて、休みの調整のうまく出来た強者がエントリーしている。身なりがいいのですぐそれと判る。
商店の若手も多くいる。食いしん坊っぽい丁稚とか目立ちたがりとかお客様らしい観客に笑顔で手を振っている。
いかにも食べそうなムッチリした体躯の大柄な成年も混じり、先日の催しとは比べ物にならない熱量と人数だ。
という、うるわしい秋晴れの吉日。
わたし達はステージの上の審査員席の傍らに用意された衣装を着せられて座っている。
ナイスバルクな男前に埋没するから。と婦人部の奥さんの口車に乗せられて
わたしは真新しいターコイズブルーのターバンを頭に巻かれ、左右の見頃がそれぞれ紅色とピスタチオグリーンにブロッキングされているチュニックを被せされている。
眼がチカチカする。
チャンピオンくんは大きな襟のついた江戸紫の上着とトラテープみたいな太い縦縞のズボンで玩具のクラウンを載せられている。
準優勝のお兄さんは襟とそれぞれの袖と見頃の色が全部違う五色豆みたいな上着だ。
遠くから識別しやすいでしょうね。
この国の王城にはきっと宮廷道化がいるんだろう。
鈴のついた帽子かぶっている侏儒みたいな衣装だ。
チャンピオンくんはあまりにも非日常な衣装に抵抗とか不満とかいうこともなく
ただ困った犬のような眼をしている。
テレビで見た宮中晩餐会のような、長く長く連ねたテーブルに
いかにもたくさん食べそうな逞しい筋肉質なお兄さんや毎食一升飯かき込んでそうなスポーツ少年風やご飯大好きキャラみたいな豊満がずらりと並んで予選が始まる。
「予選は、早く食べきった人から順に20名選抜します。銅鑼の音で開始します」
それから揃いのエプロンを着けた婦人部により給仕されたのは
おおきな椀にたっぷり入ったアツアツの煮込み。
もちろん不公平の無いようにシードのわたし達の前にも運ばれる。
なんていうんだろう、すごく色々な匂い。
エキゾチックな、まるで外国のマーケットに来たようだ。
続きは明日の朝6時です




