春の行商2
「んぁぁあああああああ!んだもぅ!」
「ぅるさいよ。カイ。黙れ」
雨に濡れて異臭を放ち始める髪や衣類から水滴を拭い、ブーツの泥を落とす。
順番にお湯を浴びて体温を取り戻す。
湯気と過密な人員で室内の不快指数はあがり放題。蒸し暑い。
山あいを抜ける街道は春先霧で視界が奪われるから、荷馬車も警護もピリピリする。
ましてそのまま小糠雨になって全身満遍なく濡れそぼる状態になると移動を断念するしかない。雨でぬかるむか岩や露出した根で滑って山の中で立ち往生するよりましだ。
そう判断する者は多く、宿はごった返す。
ようやく取れた1部屋に六人。現在、これにキレているところだ。
行商人の人達は別の宿を押さえられたようだ。
「誰がベッドを使うか。クジでも引くか、カードで決めるか?」
2台しかないベッドを見ながらロブが問う。
「わたし野営用のハンモックで!」
「オレはハンモック無理だなあ。身体が食い込む」
「カイも身体重いもんねぇ。フレッドとか高級ハムっぽく見えるんじゃん?」
ネット状のハンモックは結び目が体に当たって痛いから布帛の物を愛用しているけど
ベビースリングみたいに布に巻き込まれてちょっと窮屈。それでも地面で寝るより良い。
「椅子かエキストラベッドは?」
「とっくに売切れ」
「外じゃないだけありがたい。もう床で良いよ」
アルはやけくそだ。
室内は湿度と体温で息が苦しくなるほどに不快指数が高まる。
バターナイフですくってパンにペッタリ塗りつけられそうな重くこってりした空気。
たまらず窓を開ければ細かい雨が風に乗って吹き込んでくる。
ロビーに抜け出してたフレッドが早々に帰ってきて
「部屋が取れなかった客がロビーで雨宿りしてて座る場所もない」
「テオ、水が出せるんだから湿気をどうにかしろ」
「…無茶をいう。どうやって。」
空中湿度なあ。
とりあえず濡れた衣類を洗濯する。いよいよ増す湿度。衣類に冷たい風を送って窓のガラスで余分な水分を結露させてみる。
「…寒い」
ちっ。
「あ。分かった。乾いた風を送るのか!」
大トカゲのいたダミニの周りの空気。あれだ。
温かく乾いた風を部屋中に送る。
空調が整うだけでずいぶん過ごしやすくなり、ミッチリと髭メンを敷き詰めたむさ苦しい部屋でも安眠できた。
翌朝には雨が止んでいたので、朝靄のなかをフレッドと街道の状態と安全の確認に行く。
「見ろ。アレがクマの足跡。これは爪とぎ。これは狐の足跡。その木は鹿の囓った跡が。そこにイノシシの糞。」
乾ききらない道を馬の足元に注意しながら進んでいるのに、フレッドは次々に指さす。
「あぁ。オオカミもいるな。気をつけろよ」
ぬかるんだ泥に残る足跡を指す。
「これは?」
小さい裸足の子の足跡に似ているのが数人分重なっている。
「子鬼」
いるのか。
「山だからな。時々はいるらしいけど。オバケとか子鬼は討伐系の冒険者が捕るから平気だ」
「フレッドは?取ったことある?」
「あるぞ。テオも獲ってみたいのか?」
「いやだ」
「今度な」
お付き合いありがとうございます
投稿開始時からの目標にしていた100,000文字を達成しました。
9/13ごろから意識していましたが、投稿するまでは不安で文字にできませんでした。
三日坊主なのでやり遂げた感がとてもあります。
続きはまた明日の朝6時です。
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