フレデリック(冒険者)
「いつもありがとうございます。ご注文のお酒と塩お持ちしました。空き瓶も回収してゆきますね」
「あああ。瓶は。。。どこだったかな。今度で良いかな?」
頻繁に配達に行く顧客だが、いつも空き瓶の回収が出来ない。お一人様の冒険者なのだ。
あの扉の向こうはおそらく、汚宅になっている。
「下男、雇いませんか?帰宅してから、道具のメンテして洗濯して掃除してって身体が保たないでしょう?」
「ああ。…でも、おたかいんでしょー?」
「住み込みで食事付きなら、飲み会をちょっと減らすだけで楽々のお支払いです!」
「おまえも言うねえ。あてはあるのか?」
「わたしです。掃除と炊事、買出し、洗濯を請け負います。台所の隅っこでいいので置いてくれませんか?」
「テオ。どうしたんだよ?お客をしくじったか。」
「しょくばのにんげんかんけいで悩んでいるんです」
「先輩に苛められたか」
「苛めはないです。あ、わたし、将来、冒険者になりたいって思うようになったんです」
「急に取って付けたな。いいや。もう。掃除頼みたいし。ウチに盗むほどのモノもないからな」
飛び込みで子供を雇ってくれた商店主には感謝しかないんだけど、
「お世話になっていて恐縮なんですが、おかげさまで将来を考える余裕ができたんです。
どうやらわたしには店を持つほどの器量がないと思うと、やはり冒険者になりたいです」
「それは…。テオ。おまえ向きの職業なのか?」
うん。子供のヒーロー願望っぽいよね。ちっちゃくて腕力ないくせにって思っているよね。わたしもそう思う。
「…ついてはお客様のフレデリックさんちに弟子入りを願い出ました。受け入れていただけるようになったので、とりあえず空き瓶を収集してお店に戻したいです」
「ああ。それは頼む。だいぶ行きっぱなしになっている。あと掛けの回収も」
「任せてください。繁忙期の配達は今後も是非誘ってください」
持ち物も少ないので、倉庫の隅の巣をまとめた。シーツに包んで手に抱えランドセル背負ってブケパロスを握って徒歩15分の転居転職をした。
彼は食事を外でまかなっていたようなので、家中に詰まっていたのは酒瓶と脱いだ衣料品と素材と武具、資料だった。虫が発生してなくて幸運だった。
内開きの扉が動かなくなるほど部屋にはモノが詰まっていて
手前はいくらかしかモノがないけれど、壁に向かって積み重なったモノが高くなる『八百屋』状態。何かを踏まずに前に進むことが出来ない。
手の届くところから堆積物を仕分けをして酒瓶を先に返却してから靴下だの肌着だのシャツだの色毎に分けて洗濯する。
床の露出した作業場所と自分の座る場所を確保した。
「素材と武具はわかりません。どうしたら良いでしょう?」
「自分でやる。っていうか、コレ、ここにあったんだな。」
「へそくりとの再会って大掃除あるあるですね。ところで、わたしはフレデリック様のことなんてお呼びしたらいいんでしょう?ご主人とか?」
「外でそんなふうに呼ばれたら、どれだけからかわれると思う?勘弁してくれ。」
「えええ。なんて呼ぶのが目立たないんでしょうね。親分ですか。アニキですか?」
「なんだ、この羞恥プレイ。いたたまれないんだが。前はどうしていたんだよ?」
「店長。とかオーバンさんですね」
「じゃ、それで」
「では。店長。土間にスペース作ったので私の拠点にしてもいいですか?」
積み上がっていたアレコレを退けた床に積もった埃を掃き集めながら尋ねると襟からつまみ上げられた。
「っ!!店長。喉が絞まります」
「絞めてんだよ。おれは何屋さんの店長になったんだ?」
「がんばりやさん」
「テオ。うまいこと言ってんじゃねえよ」
職業柄、屋外での活動が多いから肌は焼けているのに、それでも耳が赤くなっているのが判る。意外と褒めて伸びるタイプなのかも知れない。
街の規模と先輩の数、既存店、資力、独立難しい?っていまさら将来設計を迷ったんです。