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【本編完結】小学生で迷子になっている   作者: へますぽん
地方都市イルワにて 八歳〜

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初めての遠出10

貫頭衣とチュニックの中間みたいな服から襟のついたシャツに替えただけで

都会風になったと思うほど素朴なわたしはトカゲの好事家の家の裏口を叩いた。

生息地から離れたところで研究するなんて余裕のある。って分かるような大きな邸宅だ。

中心からやや離れていると言っても四階建てだ。


「こんにちはー!シロヒゲオオトカゲ、いかがですか?」

酷い挨拶だ。毎回どうかと思う。だが気の利いたことを言えない。

応対してくれた女中さんはまただよ。って顔をしたがすごい速さで取り次ぎに行ったからどんな情報も受け付けているようだ。


主は気さくに初対面の子連れに応じてくれた。


シロヒゲオオトカゲについて熱い関心を寄せているのは有名である。完品を獲ることができたのでお話させて欲しい。

といかにも胡散臭い子どもが売り込むのだ。

怪しすぎて釣りが返っている。


「命以外は全て備わっています。生のまま低温で運んできました」


可哀想にほんとうに好きらしい。

こんなに怪しいわたしたちなのに、完全に欲しくなっている。


「胃の中身を見たら何を食べていたのか判るんですよね?」

「歯や骨で年齢とか判るかもしれない?」

「他にも従来捨ててきた部分から知ることってどんなことがあるんでしょう?」

あ。なんか語りたそうになってる。

好きなんだね?

買ってくれ。腐る前に。


価格の話はフレッドさんに任せる。


「では、品物をおもちしても?」


「いや、受け取りに行こう」

好きすぎるだろう。


「重いですから、お望みの場所にお届けします」

「どのくらい重い?」

「160kgの個体より軽かったです」

今度は計量したくなったらしい。楽しそうだな。


女中さんが持ち込みの場所について小声で厳しく窘めているのを聞こえないふりをして、場所の指示を待つ。


解体をするので裏庭の小屋に搬入するように案内される。


歩きながら、わたしの『初めてのトカゲ狩り』についてぽつりぽつりと語る。

岩山が険しかったこと。悪路過ぎること。トカゲ釣りが入れ食いなこと。

最初、生息地に子どもが行ったことと完品のトカゲを抱えて帰路移動できたことで自分も可能だろうという顔をしていたが

「やっぱり、聞いていた通りか」

ガッカリする。


うん。あの崖とかヤバすぎる。


「釣れたら釣れたで恐いですよ?吊り上げた個体の足が接地した瞬間襲いかかって来るんですって」

「らしいねえ。だから、受け取る標本だいたいズタボロなんだよ」



小屋にはわたしのベッドくらい大きな作業台があった。

荷台の麻袋を抱きかかえ、台の上に載せるとはみ出した。


ハサミで麻袋を切り、中のトカゲを見せる。


「ほんとうに完品のシロヒゲオオトカゲだ!!」


保冷の結界を解く。よかった。まだ眼が透き通っている。腐臭もしない。とても状態が良い。まるで死にたてだ。

「痛みやすい内臓もそのままなので、処理はお早くお願いします」

もう彼は何も聞いていない。

巻き尺で各部位を図ってメモを取ったり口を開けて覗いたり夢中だ。


「主人からこれを預かっております」


フレッドさんが女中さんから小切手を渡されて帰る。


お付き合いありがとうございます

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