愛馬ブケパロス
騎馬の一団は去った。あらためて馬はかっこいいと思う。
店の大人たちに馬は危険なので近寄ってはいけないと言われている。
王子様みたいに馬に乗って颯爽と移動できる身の上ではないが、憧れるのは私も街の子供達も同様だ。
というわけで、ホビーホース、棒馬を作った。
折れたモップの柄と古布を貰って、馬の頭付きの棒型木馬を作った。
早朝こっそり裏庭で乗馬を楽しんでいるのを商店主オーバンさんに見つかった。
「その古布団子はなんのつもりだ」
「馬の顔ですよ。ここが耳でこれはたてがみ、これが鼻の穴。今度、友達と競技会やるんです。並足が出来るようになったので見てください」
北欧でホビーホースの競技会が話題になっていたんだよ。エア乗馬、馬の足の形態模写。
街で過ごしているときその話をしたら、みんなノリノリで夢中で枝に跨がっている。
にわか野生馬の群れは見るからにアホっぽくてカワイイ。
「下手だな。もっと観察が必要だろう」
お手本見せてほしい。
厳つい商店主による馬の足。宴会芸なら鉄板だな。町会長様に提案すべきか。
本当はこれを移動手段にしたいのだ。
馬には乗れないけれど、魔女なら箒に乗って飛べるだろう。
箒は先輩店員の管轄で勝手にできないけれど、棒馬は私が持っていても咎められない。
棒馬で飛ぶ魔法の練習をしていたのだ。
歪な馬の顔は暗がりで見ると気味が悪いと不評だったため
店主奥さんの指導が得られることになった。
ちっちゃくなった指先では布の重なりを縫う力が足りない。結果、一部の縫い目最大1㎝だ。
古布を巻き付けて糊で貼り固めていたので、はみ出した糊もテカって傷っぽくみえて不気味さを増していたかもしれない。
奥さんは忙しいのだが、型紙を作ってくださり、鼻の穴の刺繍を手伝ってもらった。古い指ぬきと艶のある黒い角のボタンも貰った。
少し褪せや擦れと綻びのある黒い繻子の古上着を貰った。布がほつれないように丁寧に裁断した。耳の内側はピンクの小花模様の可愛い端布を使った。
細い針と細い糸を使う。運針の練習のように丁寧に縫った。
指ぬきとまともな型紙があるおかげでちゃんとぬいぐるみらしい形になった。
濡れた大きな眼のすべらかなかっこいい黒馬。
「私の愛馬、ブケパロス」
うっとりと名付けをして跨がると、にわかに軽々とだく足で宙に駆け上がる。
「え?自走?」
トロットしてるの私の足じゃないか。
飛んでるのはすごいけど、地面じゃないところを『走る』のか。乗せて飛んでくれないのか。
魔法で空を飛ぶアニメは箒に運ばれていくものだったが、私は小児用プレ自転車みたいに蹴り漕ぐのか。
なんだか想像と違うとはいえ、飛べるようになって良かったと思う。
カブトムシも白鳥も重たそうに全力で揚力を得て飛んでいるんだから、仕方ないんだろう。
セニアカー並の速さだ。どうなの。
ああ、でも棒馬をマッハで蹴っている。とか目撃したら爆笑しちゃう。
お付き合いありがとうございます