初めての遠出7
「じゃあ、始めるよ」
わたしをかばう位置に立たせ、フレッドさんは生肉をスポーン!と崖の向こうに放り投げる。
細い金属ロープがスルスルと岩の上を滑って落ちてゆく。わたしがのぞきこもうとする。
「テオ、危ないから崖の縁に行かないこと。岩が脆くて崩れる」
肉がガザンと落ちた音がした。と同時にアタリが来る。
入れ食いにも程がある。
「見に行くな。どうせ、おれがここに引き揚げる」
アタリに反応してむこうを見やったわたしを制止する。
それでもブケパロスに跨り釣果を覗きに行く。
「えげつない」
カンダダに縋りついた亡者のようだ。
釣れた個体に噛みついて貪るトカゲまでいる。
喉の針を厭うてバンバン暴れているのに、がっぷり食らいついている。
それを問答無用で引き揚げているフレッドさんの腕力ってどうなっているの?
とりあえずトカゲを結界で包む。
「動くな」
大人しくなるように氷温のチラーを浴びせる。急冷だ。
鮮度を保つってフレッドさん言っていたから
「窒素充填」
してみたらどうだろう?
「フレッドさーん!ダブルで釣れていました!崖の縁に引っかかりそうです」
「自分で蹴上がってくる。気をつけろ。喰われるな」
「いやもう動かないからムリ」
「あ?」
「窒息させています。暴れると引き揚げ難いでしょう?」
絶命しているのかはわからない。
アイテムボックスに収納できたら、骸ってことだ。
ランドセルのフタを開けてブケパロスに乗って崖の縁にゆく。
明らかにサイズが合わないのに、2頭を収められた。
「ほら。テオはできる子だ。逃げなくて良かったんだよ。日が暮れる前に帰ろう」
手際よくトカゲののみこんだ針を外しロープと滑車を片付けて背嚢にしまう。わたしは結界していた留石を回収する。
帰りのガレ地は下りでいよいよ危険だ。
浮いた石に足を取られるし、疲れもあるし、膝の負担も大きい。
ましてデカいトカゲを2頭をまとめて吊り上げて消耗しているだろう。
不安しかない。
だから。
「むしろこのほうがおれには不安なんだが?」
小さい子供用の棒馬にタンデムとか物理的に無理すぎるか。
「しっかりつかまってください。漕げるか試します」
重い。
足の動きが阻害される。
いや、しかし魔女っ子たるもの箒の後ろにはネコを乗せるものだ。二人乗りが通常運転だ。
オッサンだと思うな。ネコちゃんだ。黒くて金眼の猫だ。ちょっと大ぶりな江戸の黒豹だ。
自分を騙し、トカゲ入りのランドセルを前につけ、
重心が後ろに持ってゆかれそうになるのを抑えるように前傾でガシガシ漕ぐ。よし、進める。
フレッドさんはわたしを抱え、重心移動に合わせる。時々方向の指示を出す。
絶壁の鎖場も腹を山に擦り付けるような崖も越えてガレ地の登山道までフラフラと降下する。飛ぶと言うより緩慢な墜落。
「一息に華麗に下山ってはならないんですね」
どちらかと言うとジタバタだ。
息がきれる。馬の休憩は必要だ。
「水飲んで、飴食べよう。バタートフィを昨日買った」
「今日は豪勢ですね!」
「テオのデビュー戦だからな!」
息がおさまっても、ここからなら歩くとフレッドさんは言って下りの登山道を進んだ。
わたしは下り勾配のゴロつく岩場を歩くのは諦めて、ブケパロスに跨がる。
何度かフレッドさんがグラついたところで
「怪我は困ります」
二人で干上がるのはごめんだぜ。
再び間抜けな二人羽織状態でブケパロスを漕ぐ。
降りて休んで歩いて乗って。
マシュマロだのヌガーだのジェリービーンズだのフレッドさんは休む都度違う飴を少しずつポケットから出した。
飴に釣られて下山できたと言っても良い。
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