だらだらと過ぎていく
たたたたたたっ!たたっ!!
今日もまた忙しないノックと共に扉を開けてノルが現れる。
「ユーリカっ!菓子買ってきたからっ!」
菓子さえもってくれば、わたしのところに来て良いと思っているようだ。
まあ、実際、お菓子か。って聞けばつい顔がほころんでしまうんだけどさ。
今日は殻つきの種にスパイスや塩気をつけたものを小さな鉢に分けている。
やや多めに盛ってわたしに差しだすのがノルのアピールだ。
わたしは殻をいれる素焼きの壺と例のハーブミックス満タンのマグを差しだす。
小鍋で煎じている間に、ノルはテーブルの上に小さな帳面を開いていた。
「ねぇ。これ、みてくれるかな」
覗きこむとノルらしい几帳面だけどちょっと歪な手跡の数字が並んでいる。
「なんだろう?」
「この四ヶ月の収入と貯金額なんだ」
おこづかいちょうですね?
順調に貯金額増えている。だが残念ながら当分フレッドのような剣は買えないな。
「うん。がんばっているね。すごいよ」
「どうだろう?これで」
なにが?
…あ。
「この調子で貯めればきっと三年くらいであの剣も買えるんじゃない?
ほら、そのうち値段も落ち着くだろうし。
でも、貯金していることはあまり言わない方がいいよ?金の気配を察したらすぐみんな賭場に誘うじゃん。」
馬でもうけたヤツぁないよ。って昭和の偉人が歌っている。
博打は儲けるためにするものじゃないぞ。向こうが勝ったり、こっちが負けたりするから賭場がなりたつ。
賢しげに語ると、ノルは頸を振る。
「…そうじゃなくて。
これで所帯を持てるとおもう?」
「…んんんんんー。
この四ヶ月分しかデータないから断言できないけど、難しいと思うよ
受注できる仕事も変わるだろうし。
子どもを何人か持つとしたら妊娠して新生児を抱えて、また妊娠して。ってなるんでしょう?
何年も収入が一人分になってしまうからなあ。
みんなどうやって家事と家計をやりくりしているんだろうね」
すこし冷めた煎じ汁を啜る。
今度、タンポポ珈琲にしてみようかなぁ。
カフェインがないから、デカフェっぽくつかえそうじゃない?
ノルへの返事をうやむやにしながら
ルルちゃんが長い春からさきへ踏み切れなかった理由に思い至る。
こうしてずるずる先送りにしたあげくがあの長すぎる春だったのか?
離れることもできないし
近づくこともできない。
決定打も無く、破局もなく。
宙ぶらりんのまま過ぎていくのがリアルの日常ってヤツだ。
そしてもしノルを伴侶にできなくていずれ抉られる痛みに悶えても、それもまた日常に埋もれていくのだ。かつてそうだったように。
応援ありがとうございます。
テオの交際は今回はココまでです。
さくさく結婚して子どもをもうける国に未婚の友達同士で行った際
現地の方と家族について話したとき
お互いに、年齢をきいて
えっ?
ライフデザインの違いに驚いたのを書きたかったのです。
今後は 床下の迷宮 をよろしくお願いします。
追記 25/7/19 東風に乗って もお願いします




