襲撃
ぞろりと行く手を塞いでいるのは、色褪せて綻びと汚れの目立つ垢じみた衣類を纏った一団で
短槍や山刀など剥きだしの凶器持参だ。
わたし達はたったの七人で倍か二〇人かは居るかんじだから、ラクに略奪できる余裕が悪臭と一緒に滲んでて、イヤ。
先頭にいるのはディックとフレッド、一号車の御者はロブ。
殿はカイとノル、御者はわたしで、解説を拝聴しつつ側面と背後から囲みにくる相手に警戒している。
「降りろ。全部置いてゆけ」
汚れと日焼けで薄黒い顔に下卑た満面の笑みを皮脂とともに浮かべて賊が言う。
背後にわらわらと立つ手下どももグフグフと喜びがこらえきれなくてヤジを飛ばす。
凶器を掲げて威嚇もする。
たいへんに凶悪な景色だ。
「全部って言うのは、おまえ達の身体も命もだぁ!!」
っていうのは、はしゃぎすぎじゃない?
ずっぽーん!
へんな音でロブの馬車の幌に矢が刺さる。左側面だ。
咄嗟に意識がそちらに向かった瞬間に、一気に賊の群れが距離を詰めてくる。
駆け抜けるディックとフレッドが抜剣して馬上から振り下ろす。馬車にたかる賊の周りを周回しながら切り捨てる。
その高さの優位性を賊は数で覆しに来る。
御者台で仁王立ちして応戦していたロブが吠えた。
「テオ!許すっ!」
その声に応じて、小さく炎弾を打ち出す。
ゾロゾロゾロゾロゾロゾロ。
小さい分、沢山出す。以前、火を出したとき、山火事になるからと叱られた。
大きい火はダメだ。
だから小さくして、一人三つ四つとぶつければ良かろう。
ぞろぞろ、ぞろぞろ。
沢山の炎弾がかべのように向かう途中で、火柱になってしまう。
誕生日ケーキにろうそく生やしすぎると火柱になる、アレだ。
その火柱はうねるように巻き始める。ごうぅぅっという大きな音が響く。
火災旋風だ。
中心に向かって吹き込む強い風で賊が引き倒される。剥きだしの刃物を持ったまま。
悲鳴を上げて倒れた賊の上も逃げる賊のそばもおかまいなく火柱は縦横によたりよたりとうごめく。
進路を避けて道の左右に逃げた賊にノルが容赦なく矢を射込む。
カイが馬車周りの賊を仕留めた。
「やり過ぎだ。消火。馬が厭がってる」
馬車を中心にして放水車のように水を放つ。
自慢の水量でたっぷり火種の残らないように力強く張り倒すように放つ。
剥きだしの刃物の上に倒れてもしらん。
危ないから刃物を持ったまま走ってはいけないと言われただろう?
ディックが本隊から離れて射かけてきた射手を捉える。
弓を得手としてるから、見つけるのも射線の取り方もお互い手の内が見えるのだろう。
ぬかるみの中で血と泥に塗れている賊にごく小さく雷を飛ばす。
乙女のたしなみスタンガンなかんじ?
「だっちゃっ!」
「だっちゃっ!!」
でも。
わたしの周りでは、この語尾つけるの男の子だった。
それにしても、治安が悪い。
刃物は剥きだしでもってはだめだ。
「んだっちゃぁぁぁぁっ!!ダァーリンっ!」
などと ごしゃかってばり。
んだっちゃぁぁぁぁ!!ダァーリンっ!
意)そうでしょう。あなた(怒りっぱ)
本来ダーリンは要らないはずだが。。。
まあ雷属性なんで。




