おまえもかっ!
涙は悲しいとか切ないときに流すのではなくて
口惜しくて気持ちの高ぶりが抑えきれなくて鼻から垂れてくるものだ。
だから、ディックもロブもどうかそのままスルーしてほしいんだけど。
ターバンを解いて顔を覆うけれど、
垂れてくる洟をすすらないように一生懸命顔を拭うんだけど、
メソメソしている感は否めない。
不甲斐ない。
口惜しい。
口を開けば涙声が出そうで、どうこの状況を否定したらいいのか。
ちがうから!
好きな男の甲斐性がないぶんはちゃんと自分で稼ぐって言う、都合の良い女になれないだけだから!
打算をするのに失うのが惜しいみみっちい女なだけだから!
声も出せず、衣擦れの音だけさせて顔をこすっていると
「……。どうしてうちのメンバーは順番に泣き落としにくるのかなぁ」
アルがため息をつく。
「まあ。…。カイの時も、フレッドの時もウンって言ったんだから」
そういったロブがゴードンのほうへ歩み去って行った。
アルがオリバーに
「うちは年齢的に長く維持できないと思うけれど、おまえも将来を考えているなら早く独立したいだろうからオレらといっしょに働いて先行きの目処をたてればいいだろう?」
そういってメンバーに勧誘した。
「あれこれ言ってもテオに甘いんだよ」
そういってカイがわたしの背後から肩をたたく。
わたしが切ながって泣くから、もう一緒に連れていい。ということにしたの?
「衆人環視なんだよ?生木を裂くような非道扱いされちゃうじゃん」
あー。。。。キャラバンのみんなが娯楽として見ているのか!!
付き合い始めた年若い二人が引き裂かれる、涙の愁嘆場。的な?
そんなロマンスはないのだよ。
唯の打算しかなくて、涙じゃなくて鼻水なのよ。
他人は実情よりも面白いほうが盛り上がるからね。痴話げんかとか噂にしたいよね。
きっとわたしは妊娠くらいはしてて彼は縁談がきている。二人は仕事先で恋に落ちて暴走中。
戻ったら別れろと言われて、女、涙で大暴れ。
ってくらいの創作がされてそう。
あぁぁ。やはり人前で泣くのはダメだ。勝手に面白くされてしまう。
「なんかいろいろゴメン」
ターバンの中から鼻声でカイに詫びる。




