初めての遠出1
外出に備え、傷みそうな食品を使い切り、ゴミを処分し埃よけの布を家具に掛ける。
翌朝早く、残った食品で簡単に済ませて、シーツ類は洗濯してバスルームに干し、雨戸を閉じて荷物を持ち旅装でギルドに向かう。
張り出されたばかりの依頼票から3枚選んでフレッドさんは受注した。
「通り道にできる町があったから、今回はついてる」
そのまま予約していた貸し馬屋に向かい、馬具と馬を借り、持参の荷物をくくりつける。
急ぐので、わたしは見ているだけである。
二頭とも栗の実のような明るい艶のある茶色の馬だ。たてがみと尾は黒。これが鹿毛で、もっと明るい色味の馬が栗毛っていうのがよく判らん。
依頼票にあった商店を周り、ファイル1つと製品の入った一抱えあるような箱、小さい包みをそれぞれ中身をお互い確認して預かる。
馬屋から商店まで全て最短のルートで無駄がない。
「お店の場所全部分かるんですか?」
「こんな割高な依頼をするところは限られている。テオも覚えろ」
スタスタと馬を引いて急いで町を出る。
すぐさま馬に乗り街道を歩き出す。フレッドさんの馬に続いてポコポコ歩くだけなので、難しくない。
生け垣に囲われた牧草地や石垣の中にある畑のあいだをぬってすすむ埃っぽい舗装されていない道だ。
遠くに見える山は青く霞んでいる。雲がまばらにあるが日差しは強い。暑くても埃よけのフードを被る。
木陰のあるところで馬の休憩を挟みながら進む。馬上で飲む水筒はすぐ空になるので休憩中に水を詰める。
ランチは馬のための草地でとる。弁当はキュウリとハムのサンドイッチとスモモだ。
「今日は野営の練習もするから。テント張れるか?」
あぜ道に張ったことがあります。ズルズルで。
日が長いので歩かせているだけでずいぶん距離が稼げる。暗くなる前に慌ただしくテントを張る。
「張り方は分かった?独りでテント張るのは最初難しいんだけど、テオが持っててくれるから楽」
一人分のテントだけど、二張り設営する時間を惜しんだ。わたし小さいし。
枯れ枝を拾い、小枝が焚付けになるよう枝を組み、人差し指を伸ばしてお気に入りの魔法を唱える。
「びんぼう」
爪の先に小さな火が灯り、煙が燻り小枝がパチパチと爆ぜる。
コッヘルをかけて干し茸出汁の野菜スープを作る。残り野菜を小さくカットして自家製干し野菜にして持ってきたからすぐ火が通る。
昨日焼いたパンに杏ジャムをつけて食べる。
まだ保存食に手を着けない。
「冬は日の出も日の入りも早いから、同じところに行くにも1日以上日程が延びる。って分からないお客さんも多くて困るんだよ」
「ここを真っ暗で走るのは恐ろしいですね」
「だからそういうときは受注しない。ケガをしたらその後働けない」
寝る前に目隠しの結界の中で濡れタオルで汗を拭き、着替えをする。
顔は埃だらけで、髪にも埃が絡んでゴワゴワと固まって指が通らない。
「フレッドさん、脱いだ服あったら、今洗って干しておけば明日の朝乾きますがどうしますか?」
「洗濯が移動中できるのは今までなかったから、思いつかなかった!」
嬉しそうに靴下をさしだしてきた。一日ブーツの中にあったものが脱ぎたてでたいへん香ばしい。
結局着ていたシャツも肌着も受け取ってタオル類とまとめて
「ドラム式」
小さくつぶやくと二重結界の中でぐるぐる洗剤液と衣類が縦回転する。
フレッドさんは猫のようにパンツやタオルの動きを見つめている。
「面白いよね。これ」
「夜は起きて見張るんですか?」
「野生の獣や野犬が出るから熟睡はできないな。賊が現われることもある」
「では、今のうちに休んでください。洗濯が終わるまで起きています」
「テオが警戒しても、判るかなあ?」
テント内には洗濯物を干す。馬も近くに休ませてフレッドさんごと結界を張る。
ぼろの臭いが充満するが鼻も慣れる。疲れもあって朝までぐっすりだ。
「テオ。二人で寝ちゃったら危ないじゃないか」
夜明け前、鼻を摘ままれて起きる。
「大丈夫ですよ。トイレにも行けないようになってます」
立ち上がって向こうに歩を進めたフレッドさんが結界にぶつかって額を押えている。
「結界か?」
「ええ。雨と虫も避けられます」
「テント要らなかったんじゃないか」
「要ります。洗濯物がクサくないです」
「おまえが馬クサいじゃないか」
「乗るからしかたないですよねー」
「それなら洗濯物もクサくて問題ないだろうが」
なるほどなあ。
「フレッドさんて天才?」
お付き合いありがとうございます。
続きは明日6時と20時過ぎの2回更新です




