ブレブレ
ふんっ!!!
鼻息も荒く懐から出した馬の頭つき棒を振ってみる。
なんか,゜.:。+゜ってする呪文も考案した方がいいだろうか?
にわかにゴードンに唆されている状態になったわたしをフレッドとカイが凝視している。
「なんで急に棒ふりまわしてるのか分かんないけど、気持ちが変わったようだね?」
女冒険者デビューに失敗したわたしの転職について天啓を受けたのだ。と
『山に隠棲する愛らしい魔女っ娘』イメージを早口で語ってみた。
「え?でもオトコと同棲してるんでしょ?」
「そこは魔女なんで。おかまいなく」
「おまえ。グラグラだなぁ。どうしたいんだよ?」
「それが分からないから、こうして迷走しているんでしょう」
好き。っていうか好ましい。
食事をするときも迷いなく食べ進める健啖なようすも
骨惜しみせず駆け寄っては仕事を進めてゆく気立ての良さも。
気働きするからこそそうやって次の作業をサポートしているのだ。
段取りがいいので一緒にいて気に障ることがない。
賢いっていうのはこういうことか。って思う。
聡いのだ。
だからこそ、ゴードンが執拗に推すんだろう。
でも。
どっちがフライデーなんだろう。とか
扉もないような掘っ立て小屋で貧窮問答歌みたいなスローライフ。
って思うとテンションが下がるし。
もう撤退するって決めているくせに、すぐ未練に囚われてしまう。
ここで手放したら生涯伴侶に恵まれないかもしてないという危機感もある。
先輩たるフレッドも空振りばかりだしな。
「ユーリカァ!!迎えに来たよーッ!」
大きな声が先頭のほうから響く。
たかたかっと軽い足取りで駆け寄ってくるノルだ。
ええぇ?ゆうべ昏睡していたんじゃないの?
「オリバー!どうした。体調はいいのか?」
ゴードンが呼び寄せる。
「すごくぐっすり寝たから!腰が軋むほど堅く寝た!やっぱり疲れたときに布団に入ると寝過ぎちゃうね。ユーリカ、一人で行かないで声かけてよ。目が覚めたら一人でビックリしたよ」
と朗らかだ。
…えぇぇ?担ぎ込んだ後、ピクリともしないで寝ていたのは
ただの熟睡だったの?
「…なんか息しているのか気になって夕べはずっと様子見てたけど。
打ち身だけで済んでほんとうになによりだよ」
「おおおぉ?テオ。…おまえ、夕べ二人っきりだったのかっ!」
いきなりカイが張りきり出す。
冷やかす気満々だよ。
「つきあうなり早速かー。なんかおとうさんちょっぴり寂しいわ」
「うるさいわ!付き合いはじめの初々しい二人なのにいきなり2名で宿取らなくちゃいけないし
熱出すか嘔吐するか見守っててて、一晩中寝かさないよっていう嬉し恥ずかし朝帰りだぞっ」
フロントでノル担いでチェックインする変な緊張感を返せ!!!
「…ユーリカ。…その。ごめん」
「テオ。それは聞き捨てならん!ちゃんとオリバーに責任をとらせよう」
「うるせえ。ゴードン。どさくさに紛れて横やり入れるな。その仕事は受けない。オリバーと組むことはない。いくぞ。テオ!!」
しまった。せっかく復調したノルの心をへし折って、顔色を悪くさせたまま
フレッドに引きずられて馬の背に載せられる。




