止まらないのが鼻水
けたたましく叫きながら診療所の扉をあけて、くくりつけたままのノルごと飛び込んで行く。
医者はどこだ?
崖から落ちた。意識が混濁している。応答が鈍い。
おねがい、早く診察してっ。
興奮しきってやかましいわ泥だらけだわなわたしはどう言いくるめられたのか
待合室の奥の中庭のテラコッタ敷テラスに直座りしている。
チラチラと診察待ちの人がこっちを見ている。
ノルは。
ノルは、タダの打撲だよな?それとも急所に直撃が入っているのか?
不安で動揺がおさまらない。涙がだらだらと止まらない。
もっと困るのは鼻水だ。
ぬぐってもぬぐっても滂沱と滴る鼻水で手ぬぐいがしとどに濡れる。
拭うのが遅れればぼとぼと鼻から滝のように落ちて行く。
それを待合の窓から見られるのが厭で、ごそごそと尻を上げ窓の下に移動する。
のぞかれないように結界を張って隠れた。物陰で真っ赤になっているだろう目と鼻をこする。しみる。
泣いたところでどうにかなるものじゃない。
だからとっとと泣き止むのが正しい。
そうと分かっていても止まらないのが鼻水だ。
頭が痛くなるほど水分を絞り出して尚どこからか湧き上がってくる。
気を紛らわすために、手を動かす。
泥だらけのまま拾い上げて放り込んだノルの荷物。
ついた土や汚れを払ってぬぐう。
あぁ。あとで箒かりてテラコッタにこぼした泥を回収しなくちゃならんな。
そして自身からもバサバサと葉っぱや土や小石がこぼれ落ちることに気づく。
バタバタと脚を動かしながら一散に飛んできたのに、まだ付いている土があるのか。
「え?まって?こんなに土がわたしについている?
しかも鼻水が涙が顔中べとべとにしてる?」
あまりにも恐ろしい現実に、鼻先で丸く垂れ下がっている鼻水がぽとんと落ちる。
わたしの顔、ゴーレム状態?
ゴーレムが飛来して泣きじゃくっているの?
ヤダナニソレコワイ。
いきなり素にもどってしまう。
とりあえず水だ。
指先から細く水をだして顔じゅうの各種ベタベタと泥を流す。
背の荷物からタオルと着替えを出す。
ずるずると鼻から垂れてくるのを拭いながら冷静さを取り戻して行く。
どうしよう。
白昼堂々と砦の衛門ぶっちぎりで飛びこえてきちゃったよ。
見られたよな。衛門やぶり。。。
魔法つかうのは知られているけど、『飛ぶ』のはあまり言っていないから咎められるだろうか。
飛ぶっていえば、鳥のように早く自在に移動できそうな印象を与えるけど
さほど早くない。
今回飛んだのは一直線に障害物を越えて移動するからだ。
山道は高低差と足元の悪さと山肌に沿ってクネクネとつづら折りが続いているから
ショートカットは時間の短縮になる。
普通に移動したら、私は馬に敵わない。移動速度も距離も劣る。
ぐずぐずと見苦しく泣いているのを見られないように、庭の死角に潜んでいたけど
いまさら咎められる可能性に気づき、いよいよ小さく膝を抱えて息を殺す。
はやくノルの手当終われ。
大丈夫ですって言え。
はやく。
明日の朝六時にも公開します。
荷物の開梱が進まず、どこに何を収納するかばかり考えていると
なかなか気持ちが切り替えられず、投稿が遅れています。
ごめんなさい。
いま探しているのはフライパンとアイロンです。
母はそんなに高価なものじゃないんだから
新しく買ってしまえ。出てきたら捨てちゃえ。といいます。
鉄フライパン派なので仰天していたのですが
テフロンフライパンは使い捨てなんですよね。




