帰路
「ゴードンっ!てめぇ。とんだ面のカワだなっ!!」
テオを引き抜くためにオリバーを参加させたとフレッドやカイがなじるのに
ゴードンはしれっと今日もウチの子をよろしくね。と殿にバツの悪そうな顔をしたオリバーを置いてゆく。
殿がわたしとフレッドなのは、落ちた道を渡る段取りがあり、この道を進む都合上、固定だ。
引き抜き要員であることが露顕したオリバーはすこしバツの顔をしたものの
「ユーリカが好きなのは本当だし、この機会を逃すつもりはないんだ」
と淡々と口説く。
昨夜、あのあとゴードンにどんな洗脳を受けたんだよ?
とまどう私の傍らでオリバーは大量の荷物を担いで、満載の荷駄を積んだ馬の口をとり
「これで装備の借金も清算できるかと思うと、脚が軽いわぁ」
とクスクス笑う。
足場の悪いゴロつく山道もブレることなく歩いてゆく。
体幹がしっかりしている。
ヒマラヤ登山隊のシェルパのようだ。スゴい。
「ユーリカ。これが欲の力だよ。僕は君の結婚相手に相応わしいくらい稼げるようになるからね」
日焼けした顔がパカリとほころぶ。大きく笑う彼は本当にかわいい。
「荷運びくらいでそんなにイキがらなくていいぞ?」
洗濯係兼靴下管理人強奪を目論む仇と認定したフレッドは行きと違って素っ気ない。
どのくらいつれないかと言えば、大盛り荷物の帰り支度を見ても
お前のカバンに入れてやる必要がないからな。と釘を刺しにくるくらい。
彼氏の荷物なんだから、持つ手伝いくらいしたかったけど
それはちがうってカイもアルも首を振った。
「今は手の内を明かさないでおけ。っていうかテオはずっとオレらに伏せていたじゃない?
やっぱオトコだと違うのか?テオってそういう貢ぐ系?」
などとなじられると考えこんでしまう。
どうなんだろう。
尾根を越えて行く道は険しいけれど、風は乾いていて爽やかだ。
先を行くディックは獲物になりそうな生き物の気配に敏感で、道中は副収入を得るべく油断がない。
おかげで殿は御神輿の後ろをついて歩くようなのんびり感がある。
いや、背後から狙うものもいるんだけどね。
「あの魚のパイは美味しかった。部屋で食べていたら、ゴードンたちが取ろうとするからたいへんだったけど」
分けて食え。そのつもりの大きさだったんだが。
「え?一人で完食できたの?すぐ食べないといたむって言ったのに?」
取っておいて何度かに分けて食べるものではないのに。
「すぐ食べたよ。美味しかった。お腹いっぱいになった。でもゴードンが避けといた魚の頭をとって食べちゃって。全部僕が食べたんじゃない」
「シェアして食べてもらうつもりだったよ。同室で独り占めはどうかと思うし
あれはイロモノでしょう。ご笑納いただければ。ってヤツだよ?」
「違う。恋人からの贈り物だから。
僕だけのものなんだよ」
あの時点では違ったはずだが。
「次は配慮するわ」
「『次』があるんだね。ユーリカ」
すこし頬を赤らめてクシャリと破顔する。
どうしよう、よく笑う彼が好きだ。




