抱擁
オリバーは手応えを感じている。
臨時雇いのお屋敷の女中たちや朋輩からの得た情報から鑑みるに
これはイケる、たぶん。そのはず。
彼女のほうに向き直ると左の膝頭が彼女の脚にあたる。
びくり。と身体を震わせる。
あんな荒くれたおっさん達と何年も組んで働いていると聞くのに
言うこともふるまいも繊細なところがある。
「ねぇ。ユーリカ。帰ってしまったら次にまた一緒に過ごす時間がいつ取れるか判らない。
僕はきっかけが紹介であろうと運命の出会いでだろうと
一緒に暮らす相手にどうめぐりあっても構わないと思うよ?
僕はかわいいユーリカが伴侶だととても嬉しい。
僕はまだ駆け出しで稼ぎも不十分だけど、ゴードンは将来有望だといってくれるし
ユーリカはまだとても若いからすぐに子どもをもうけなくてもいいだろう?
それまでに僕は稼ぎを増やすから」
彼女の手をとって、伝えようと思っていた口上を、
いくつかとんでしまったけれども、なんとか口にのせた。
ドキドキして自分の手の汗が気になるし、すこし震えたかもしれない。
ほんとうは昼間会ったときに言うはずだった。
そのために呼んだ。
でも、どのタイミングで言うのか判らなくて、どうでもいいことばかり。ずっと。
不首尾で帰ったことは一発でゴードンにバレた。
彼女の応答がない。
オリバーはフードの中で俯く彼女の様子が見たくて
「ユーリカ?」
そっとフードを後ろに倒す。
彼女のターバンがない。
いつも青い布で覆われていた髪を、初めて見る。
夜目でも濃い色だとわかる。オリバーの髪色と同じだ。
「同じ色の髪だったんだね」
そういって一房手に取る。
とたんにまた跳ね上がるように身体を震わせる。
そしてオリバーの胸に手をつっぱって
「…近いっ!!」
小さく叫ぶという器用な芸を披露した。
「うん。寄せてるんだよ」
そういって、ぐいっとその腕を引き寄せて抱き込んでみた。
どうも彼女は近接格闘はしないらしい。
かんたんに彼女は膝の上に乗り上がった状態で確保できた。
できたが、そのあとどうして良いのかが分からない。
ここまでしか調査がすすんでいない。
聞き取りによれば、あとはイイ感じになんとかなる
とムニャムニャ誤魔化されてしまったのだ。
とりあえず、初めて見る彼女の髪を、抱き込んだ背にまわした手ですいてみる。
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さて、ついに屋根裏の漏水案件に動きが!
わたしは一度、家をでて、どかんと工事をすることになりました。
絶賛荷造り中。すごいたくさん箱にいれるのでたいへん。
このため6/3まで更新をお休みさせていただきます。
お待たせしますがいましばらくご容赦ください。




