その頬にふれたら
「テオーッ!どうだった?」
「ランチの後、雑貨を土産に買うって言ったらノルがつきあってくれた。っていうかどうせ見てたんでしょう?」
「全部は見てないよ。あちこちから目撃情報が来たくらいだ」
狭いからね。
町の規模もたかがしれているから、出先で出くわすのは普通だし、
コミュニティが小さいからくっついた分かれたはお茶請けに最適だろうとも。
ふて腐れて言うわたしの頭をカイの手がグリグリする。
「あぁぁ!もうっ!!せっかく巻いてあるのに!くずれちゃうよ」
「取ればいいでしょ。もう帰ってきたんだ」
「中身たいへんなことになっているからお風呂まではぜったい外せないんだってば!」
蒸れていたり芳しくなっていたり変な方向に癖ついていたり、あらゆる意味で尊厳を損ねる。
宿の廊下で大騒ぎしながらターバンのひっぱりっこをしていたら
アルが来て、カイの頭をぶっとばす。
板張りの廊下がはずむほどぶっ飛ばされて、静かにしろとどやされる。
「はしゃぎすぎだ」
「こないだからテオがふわふわしてるから、ちょっとからかいたかっただけなのに」
「初彼で浮かれてナニが悪いっていうのさ」
「そのへんの詳細を聞いてやるから、ちょっと飲もう?アルはもう少し年少者に優しくして?」
いいおっさんがこてりと首をかしげる。はじけそうな肩の筋肉に頬のヒゲが当たっている。
きっとわたしの知らないニッチな市場では需要があるのだろう。
「それで、スカートはどうしたんだ?」
いつもの作業着で帰着したのでそこから咎められる。
「靴が。あとストッキングがなくて」
スカートがあっても足回りが不足していることに気づかなかったのだ。普段着ないと気づかないよね。
履きつぶし気味のゴツいショートブーツと合わせるといかにも着慣れていない、にわか感が気になった。
「こないだ買った靴があっただろう?」
「そう思ったんだけど成長期なのよ」
せっかくの靴がもう履けないかと思うと蜂蜜酒をだくだくとジョッキに注いでしまう。
「ああああっ!!なんてことをっ」
高かったからね。
あー。蜂蜜の匂い。好き。
そのままアルにさしだす。
「楽しく過ごせたんだろう?なんでそんな意地悪するんだよ」
「うん。今日はカエルの形のガラス細工もらった。かわいい指輪なんだよ」
「…かえる」
「指先の吸盤まで丁寧に作ってあるんだよ」
「…かわいい?」
「かわいいに決まっている。お礼になにがいいかな?」
それが聞きたい。カイならきっと知っている。
「ノルはね、ヒゲを伸ばしていないのよ。ヒゲが生えそろっても疎らなんだって」
「…ノル?」
「…ほう。じゃあ俺がテオにジョリジョリしてやろう」
「そういう趣味じゃないってば。スカスカなのか。って見ていたら、顎の下にそり残しがあって、けっこうな期間逃げおおせている長さだった」
「伸びちゃうと逆に剃れないからなぁ」
「かわいかったっ」
「…は?そういう惚気くる?」
「え?そういうのを言うために飲んでるんじゃないの?」
さわりたかった。
まばらだという頬に。
いくつも見落としている頤に。
邪な目でみていました。ごめんなさい。という下衆な心までは語らなかった。




