夏野菜の畑
週末は2回更新します。20時頃次話投稿予定です。
フレッドさんは季節にもよるが三ヶ月に2度くらいの頻度で10日から2週間の留守がある。
だから家を借りるとき、月に1回10日も空けるなら、食事も出来る宿のほうが効率いいんじゃないかと迷ったらしい。
それ以外にも単発で遠出の依頼も受ける。
それでも保管場所兼ねて家を確保した。宿がいっぱいで泊まれないことがあって困ったらしい。
今回家賃以外にわたしの維持費もかかるようになったけれど、食費と光熱費など合わせても、宿代と比べて割安感があるといってくれた。
テオが大きくなって独り立ちするまで、ウチで是非と酔っ払いに両手をつかんで懇願された。
それまでの数年、フレッドさんにも無病、無事故で過ごしてもらいたい。切実に。
迷宮を卒業したので、昼の時間に書き取りをしている。
オーバンさんのところでは計算の練習は出来たけれど、書き取りは夜になるとどうにも眠くなってペンを握りしめて顔に本の跡をつけながら寝てしまうことが多かった。
ランドセルから資料を出して、フレッドさんの旅程の地名を辿って特産品や産業を覚える。
冒険者になって旅の段取りを身につけて初期費用を稼いでだな、将来的に馬と馬車を買って行商人になって酒を売りに行くのはどうだろう。って思っている。
剣と魔法の世界なのに、将来像が地味だ。
厨二なころは吟遊詩人とかに憧れたけど、正直カラオケですらビミョーだったわたしだ。
夏らしくなったころ、書き取りは定型の手紙文を綺麗な書体で書く練習をしていると
フレッドさんはまた商隊の護衛にいくと告げた。
「今度は方面が違うので2週間かもう少し。独りで過ごせるか?」
たしかに子どもが単独で過ごす期間じゃないと思う。だがここの家の家事を担っているのはわたしだ。
「泥棒と火事に注意します。安心してお仕事をしてきてください」キリッ!
そういってまるで留守宅を守るようなことをいうが、わたしは翌日ギルドへ行く。
作男の短期就労を決めた。夏野菜の収穫。
農家に挨拶に行き、小さいのが来たとちょっとガッカリされる。4日に1度休みを入れながら12日にした。
今回の農家は別の村落で北側の門から出て、30分以上歩く。少し遠いので街から離れたらブケパロスを駆る。
遠駆けに出たようで楽しい。
浮いているとは思えない低さで移動しているので、遠目にチラ見ならたぶんタダのはしゃぎ過ぎ。
この頃は自転車並みに速いんだよ?
夜明けから始まる作業で慣れない姿勢を取るから初日はとても身体に来た。
ピーマンとかキュウリでもたくさん取ると重みがある。
株を痛めないように収穫のコツを教わって、収穫物が新鮮なうちに傷をつけないように丁寧に手早く出荷する箱に収める。
終日屈みっぱなしだが、背が低いのと体重が軽いので大人の作業より捗る。重いものを運ぶのは不利だけど、大根やカボチャじゃないので頑張る。
立ったり座ったり運んだりで一日の作業終了って言われても帰る気力がなかなか湧かない。
危うく納屋の隅で宿泊しそうになった。
翌日は酷い筋肉痛で身体がギシギシ軋んだ。とても歩く気になれず人目を忍んで夜明け前にブケパロス通勤する。
他に3名臨時雇用されていて、一月とか6週間くらい農場に泊まり込んで働き、また別の地域に移動して臨時の農作業を手伝うそうだ。
プロの作業が出来るので、摘心とか摘果とかも任されていて、かっこいいと思う。
わたしは水遣りや摘み取ったものを運ぶようなお手伝いをするだけだが、森に採取に行くより、討伐に行くより、満足しているので悩んでいる。
これでは将来冒険者経由行商人になれる気がしない。
もっと青虫相手だろうと戦うべきなんだろうか。
今一番気に入っている魔法を使ってみよう。
ターゲットをぴしりと伸ばした人差し指で指しポーズを決めて叫ぶ。
「びんぼう!」
小さな指の丸い爪の先にとても小さな火が灯る。
ごく弱火でじりじりと褐色のコガネムシだけを炙り殺す。
「…しょぼい」
みみっちい魔法の使い方だが、コガネムシの幼虫の被害は大きいのでちゃんと駆除するのだ。
お付き合いありがとうございます




