表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】小学生で迷子になっている   作者: へますぽん
地方都市イルワにて 八歳〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/230

そうか。お兄ちゃんだな。

*注意:動物を仕留めます。

無事、ウサギ駆除の仕事を得て、翌日、農家に挨拶に行く。

作ってもらったばかりのギルドカードと受注票をもって、黄色い学帽とブケパロスをランドセルに入れて門の外に出る。


イルワの街からほど近い近郊農家だ。

林の近くの畑の被害が深刻で耕作放棄しそうなくらい萎えているらしい。

収穫間近の蕪の畑がいま危機にある。だが、他の畑の作付けや除草でこの時期監視が不十分とのこと。

「1週間。ウサギの活動するのは夕方から早朝まで」

子どもの就労時間とは思えないが大人がやるほどの報酬ではない。なるほど、不人気依頼になるな。

スーパーのレジ打ちバイトのほうが魅力的。無いけど。


「罠は仕掛けてありますか?」

「手入れするのに危険があるから止めた」

「夕方から早朝の時間帯だけ、わたしの罠を仕掛けてもいいですか?」

「畑の作業の邪魔にならないなら」

ぶっきらぼうな言い方だけど怖いわけじゃない。

畑の中の食害にあったところをみせてもらう。

あちこち囓りさしては他の株も倒していて、栽培している側としては切ない。

「捕って食ってやる」

あー。おとうさんのアイコンがミートパイになるやつ。


林から出てくる場所(推定)と狙われやすい場所も確かめて、野営の支度をする。いきなり泊まりになるとは思わなかったのでテントもランタンもない。



細い縄を貰ってこぶし大の石に十字に結びつける。結界石のかわりだ。

茶室のある庭園の飛び石ではしゃいでいた頃、棕櫚縄の付いた石ころがちょうど邪魔になるように進路を塞いでいた。

蹴り飛ばそうとしたら母が

「りどん。だめ。それは留石。結界石よ。この先に来ないでねって意味」

制止した。

たしかにちょっとだけ足止めされた。


案内を受けた林の際に「ここから先に出るな」と留石の結界を張ってまわる。

鼻面を押し込んで通るほどにわずかに結界の隙間を空けた先にU字溝の形状で結界をはめ込む。

ウサギの体長より少し深くして、水をすこしだけ張っておく。

幾つかの隙間と落とし穴を用意したら林から畑を挟んだあぜ道まで後退し、ランドセルからカッパ替わりのローブを出して羽織る。


夕方になるとすこし冷えてくる。

夜は寒いから結界の中に入りたいけど、今夜はたくさん結界を起動しているので朝まで維持できるのかちょっと不安だ。


ランドセルから給食袋を取りだし中を探る。

「揚げパン、来い!」

チョコペーストとコッペパンだった。悪くない。むしろ好き。

あと小さくて酸っぱいリンゴ。水。温めたいけれど、負担がどのくらいか分からないから、我慢。


畦の路肩で杭に腰を預けて宵の明星を眺めて過ごす。

月はまだ出てこない。

一人で見るには惜しいような空に広さだ。

虫の声、葉擦れの音。湿った土の匂い。街灯のない夜空の美しさ。


「やばい。結界に入らないと危険じゃん!」

野生の王国なの忘れていた。あわてて自分を包む。

途中で維持できなくなったら林の留石を解除してでも、自分を守らないと食われるのを忘れているなんて、粗忽が過ぎる。


結界の中で寛いでいたらそのまま安らかに眠ってしまったが。

明け方に大喚きする声で目覚めた。

「オワーオゥ!ンワーーーアァァ!」

下僕を呼びつける猫の鳴き方だ。緊急召喚されると誰の家の猫だろうと駆付ける仕様になっているわたしだ。

夜明け前の薄暗がり、ブケパロスに跨がり一直線に畑を横切る。

「まさかこっちでも猫は下僕を使うのか?」


案の定マヌケの猫が落とし穴の中でガチギレしている。手を出せばザクザク引き裂かれるだろう。

触れないように結界の中から猫だけ放り出す。


薄明かりでずぶ濡れなので判然としないが、グレイかサバに白のハチワレ。シッポがカギ。

シャァァァ!!とわたしに威嚇音を放ち、身体から水を払うと感謝の感じられない態度で濡れそぼった猫は走り去ってゆく。


落とし穴の中にはネズミが数匹落ちていた。ネズミはすでに息絶えている。

残りの落とし穴を確認するとネズミとウサギが1羽落ちていた。濡れた脚で滑る足場を跳ねることができずに転けてはイライラと落とし穴の中をまわっている。


「今日の分はこれでいいかな?」

ネズミを出し、落とし穴をウサギの大きさに縮め、冷たい水をバシャリと入れる。

冷やして動きが鈍くなったのを確かめてから、開放し、ナイフを首に入れる。

ほんとうは皮を剥いたほうがいいと思うけど、非力で上手くいかない。

夕刻貰った縄でウサギを林の木に吊し血抜きしている間に置いた結界石を回収し落とし穴も解消する。

日の昇る頃に血抜きした後毛を乾かしたウサギと濡れネズミを持って農家を訪ねる。


「おはようございます。夕べはネズミとウサギと猫が捕れました。猫は飼い猫っぽかったので放免しました」


「この辺は夜犬も放つのよ。大丈夫だった?」

おくさん、それは先に言え。怖いじゃないか。


「夕べは無事でした。今夜は用心します。捕ったのはココに置きます。明日もネズミを持ってきますか?」

「止めて。もう今日見たから」

うん。そういうと思った。ものすごい顔してるから、確認した。


「では、また夕方に」

「ちょっと。おうちに朝ご飯あるの?食べてゆきなさい」


やった。夕べのパン一つでひもじかった。

食卓に招かれる。旦那さんと男児がすでにテーブルについていた。


「ありがとうございます!うれしいです」

オートミールと温かいむき豆のスープの朝食。どちらもとろみがあるのでおなかの中から暖まる。

「いろいろな野菜も入っていて美味しい!」

「間引いたのとか傷のあるのとか全部煮ちゃえば美味しいのよ」

「父ちゃんが作っているからな!うちの畑のは街でもすごくよく売れているんだぞ」

誇らしげな男児。


「兄さん、何歳?」

「6歳だ。おまえより大きいだろ」


それはない。わたし9歳だもん。一年生と三年生だぞ。

でも子どもの相手はメンドクサイ。


「まじか。すげえな。じゃあ、今日もしっかりお父さんに師事して研鑽してくださいね」


一旦帰宅して夕方まで休もう。

なんか腹はくちくなったし、慣れない夜間作業だったし、身体がだるくてフラフラと街に戻る。

真新しいギルドカードを門衛さんに見せてフレッドさんちを目指す。

玄関入って鍵を掛けて全部脱いでそのまま屋根裏の毛布の隙間に収まってしまった。


ゆりかの愛称が ゆりどん→ りどん。

兄弟は たへ(長男) やじで(次男)

3人兄弟です。

お付き合いありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ