拠点づくり
家づくりを始めたが問題が発生した。まず、木を伐採しようとするがアリたちの顎ではなかなかうまくいかなかった。顎の形が伐採に向いていないのだ。時間をかければ切り倒すこともできるかもしれないがそれでは日が暮れてしまう。そこで俺はひとまず計画を変更し、地面に落ちている木の枝や棒などを集めてくるように命令した。
しばらくして十分な量の枝が集まると俺はそれを使って壁や屋根を作るよう仲間たちに命令する。アント達が木の枝をくみ上げていき、そこにキャタピラーに糸を吐きかけてつなげていく。それをひたすら繰り返す。最初は隙間だらけで頼りなさそうな枝の壁が時間がたつごとに分厚くなっていき屋根までできていく。
アリとキャタピラーが作業をしている間、俺とソフィアで周囲の掃除や食べ物を集める。流石、一人で森の中を旅をしていただけあってソフィアは食べ物の見つけ方を熟知していた。俺では何も見つけられないところでも彼女は次々と食べ物を見つけていく。
家づくりと食料集めがきりのいいところまで行くと俺は仲間を集めて食事をするように指示を出した。仲間が食事をしている間俺はステータス画面をみる。
名前:カヤイ
種族:蟲人(幼体)
体力:30/30
魔力:11/27
レベル:7
スキル:虫モンスターテイム、自己修復、蟲生成、生命力譲渡、念話
俺は魔力が回復しているのを確認し、【蟲生成】でレッサーアントを1体生み出す。これで仲間の数は合計12体になった。
仲間の数
ジャイアントアント×2 (1体負傷)
レッサーアント×6 (1体負傷)
レッサーキャタピラー×4
食事が終わるころには辺りがもう薄暗くなってきた。俺は仲間たちに周囲の警戒、家づくりの継続、交代で休憩をするように伝える。
そのあとは念話を使ってソフィアと会話をする。念話を覚えてから初めてじっくりと彼女と話す機会が得られた。
『ソフィア、おれはまだ生まれたばかりでこの世界についてあまり知らない。いろいろ聞いてもいいか。』
『そうだったんですか。ええ、私が知っていることでよければ全然いいですよ』
ソフィアはそう言って快く引き受けてくれた。おれは遠慮なくいろんなことを聞いていく。
彼女の説明によるとこの世界には人とモンスターが争いあっている世界のようだ。人間は日々、魔物との生存競争を繰り広げており、それぞれの国では基本的に軍隊を所有していて人々をモンスターの脅威から守っているらしい。国がもつ軍隊のほかに、抵抗する手段としてはギルドという組織があり、それは険者や傭兵などで構成されているらしい。彼らは人からの依頼を受けたり、モンスターから貴重な部位をとってくることによって金を稼ぐようだ。基本的に総合的な戦力でいえば軍隊の方が上だか個々の戦闘力は冒険者の方がはるかに高いらしい。
俺について質問してみる。おれはそういった国に行けば討伐されてしまうのか。
そう聞くと国によって対応が違うとの答えが返ってきた。国によって人間至上主義を掲げ人間のみによって構成されるところもあれば、知性を持った人型の生き物を人として扱い共に生活して共存している国、逆に人間以外の種族だけで構成される反人間主義の国もあるのだとか。なるほど。
彼女はというと人間と人型の生き物が共存している国、「グランドリア」という国で生まれ育ったらしい。それで俺のような存在には慣れていたようだ。グランドリアには彼女のような人間のほかに鍛冶が得意なドワーフ、見た目が美しくて長寿であり高い魔力をもつエルフ、全身が毛皮で覆われ基本的に身体能力が高い獣人、全身を硬い鱗に覆われているリザードマン等々、様々な種族がいたらしい。珍しいが俺のような蟲人もいるにはいるのだとか。ただし幼体の蟲人は見たことがないそうだ。
ここからグランドリアまでどのくらいかかるのか聞いてみると歩いて20日ほどかかるらしい。ふむ、行けない距離ではない。しかし今のままでは何かトラブルなどがあったときに対処できないだろう。道中に強いモンスターに襲われてしまうかもしれないし、無事に国についても中で屈強な悪人に襲われたらなすすべもなくやられてしまう。レベルを上げて最低限身を守れるようになってから行く方がいいだろう。
次に蟲人の生態について知らないか聞いてみた。ステータスによると俺は蟲人(幼体)ということになっている。ということはこれから成体になるということで気になっていた。
しかし蟲人に関する情報はあまり知られていないらしく彼女も詳しくはないようだった。唯一分かったことは蟲人は個体としての戦闘能力はあまり高くないが、虫モンスターを従えたり生み出す能力に長けている、ということだった。どんな成長をするのかなどについては不明のようだ。しょうがないグランドリアにいるらしい蟲人に会って聞いてみよう。同じ種族なら何か知っているだろう。
他にもこの辺に生息する危険なモンスター、食べ物など生きるために重要なことについて質問していく。
夢中になって聞いていたが、しばらくすると疲れてきたのか彼女の方が眠そうになってきた。そういえばもう夜も遅い。いつも寝ている時間をとっくに過ぎていた。
また時間のある時に話をすればいいだろう。俺たちは話を早々にきりあげて寝ることにした。彼女は鞄の中から寝袋を出し、俺はうつぶせになり体を丸めて寝る準備をする。
周囲のアリたちやキャタピラーたちが作業したり動き回っている音を聞きながら、明日の予定に考えを巡らせている。
明日からどうしようか。とりあえず、拠点の完成、食料集め、彼女の護衛をしなくては。いつか彼女がいたグランドリアに行ってみたいな。しかしまず強くならないとそれもままならない。たどり着く前にあのジャイアントリザードのようなモンスターに襲われてしまえば今の俺たちでは勝ち目がない。戦力を増やさないとな。蟲たち一匹一匹は弱いがおれはスキルによって仲間の数を増やすことができる。頭数こそ俺たちの強みだ。数を増やしていこう。
おれはそう結論付けて明日からもレベルを上げたり戦力を整えることを決意し、眠りについた。