1・シスコン姉の出会い
「は…っ、初めまして!わ、私…ミューラ…です。その……よろしくお願いします…。お姉さま…」
モジモジとしながら少女―フィーアにそういうのは、緑がかった青髪の可愛らしい少女だった。フィーアと同じ父親譲りの瑠璃色の瞳。ストレートに腰まで伸びた髪は艶を帯びて美しい。
そんな浮世離れした少女を目の前にして、フィーアは思った。
(あ。私が転生した世界って乙女ゲームの世界だったんだ)
フィーアには生まれた時から〝前世〟の記憶がある。
代々剣道を極める一家に生まれ、〝日本〟と言う国で高校生をやっていたところまで。
ちなみに彼女が死んだ日は、全国剣道大会の決勝だった。私は晴れて日本一となったんだけど…それに嫉妬した相手によって線路に突き落とされて呆気なく死亡。んで、気が付いたら赤ちゃんをやっていたのだ。
そして、今発覚した事実。
ココは前世でフィーアが一番好きだった乙女ゲーム『聖なる乙女と王国の騎士』の世界の様なのだ。
魔術があるから、ずっと「異世界ファンタジー!!うやっほぉぉぉぉぉいッ‼」と叫んでいたが、まさか乙女ゲームの世界だったとは。
フィーアは感動でうずうずする拳を硬く握り締め、にやける頬を叱咤する。
『聖なる乙女と王国の騎士』は、ヒロインが学園に入学するところから物語が始まる。細かい話を省くが、学園で攻略対象と恋をし最後に魔王を討伐出来たらトゥルーエンド。できなければバッドエンドになる。しかもこのゲームは単なるイケメン攻略ゲームではなく、魔物討伐と言ったバトル要素も含まれる素晴らしいゲームなのである。
しかも攻略キャラによって剣でも戦えるため、フィーアにとっては一石二鳥になり本当にやり込んだ。
「あ……あの…?お姉、様………?」
僅かに涙を浮かべながら、ミューラは不安そうに首を傾げた。
(あ、ヤベ。ゲームのことに夢中になってて、うっかり目の前の天使を忘れちゃってたぞ…)
「あ、あははー。ミューラがあまりに可愛くて、ついぼーっとしてしまったよ。…始めまして、私はフィーア。歓迎するぞ!ようこそ、ノスタルト公爵家へ」
なんとか誤魔化しながら、ミューラに手を差し伸べて挨拶をする。
すると、何ということだろう!
「…!あ、ありがとう、ございます…っ!!」
ミューラはフィーアの手を取り、ふわりと花が咲くように微笑んだのだっ!
(あぁあああああああああ―――ッ!!か・わ・い・い・ッ・!?)
反射的に鼻を抑えながら、フィーアは悶える。
(えっ、やばいッ!悪役令嬢がこんなに可愛いだなんて聞いていないッ!?って、あれ?そう言えばミューラが性格悪くなった原因って、家族にあったんだっけ?…いやっ!もう今は、そんなことどうでもいいッ!!)
「ミューラ!お前を悪役令嬢になんて、絶対にさせないからなッ!!」
「え…?あ、はい…。?……悪役令嬢って、なんだろう……?」
ぎゅっと困惑するミューラを抱きしめながら拳を天高く上げ、フィーアは未来の攻略対象たちに闘志を燃やした。