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グレイグ  作者: 夢之中
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偵察


パインが小屋に戻ったあと3人は海賊達と共にコリキ村の

冒険者協会事務所へと向かった。


 「なるほど、そうですか。

 元海賊の皆さんには、お約束通りに住居と仕事を提供します。」

 「ありがたい。

 それは助かる。」

 「それでは、後程ご案内いたしますので、

 隣の部屋でお待ちください。」

海賊達はおとなしくそれに従い隣の部屋へと移動していった。


 「パインさん、アッシュさん、パムさん、ご苦労様でした。

 これが報酬になります。」

そう言って、小袋を机の上に置いた。

そして話を続けた。

 「さて、実は現在問題が発生しておりまして。」

パイン:「問題ですか?」

 「はい。

 ナカサ村をご存知ですか?」

パインはその村の事を知っていた。

そう、グレーターアントに襲われたあの依頼をした村だ。

パイン:「この前の依頼の村ですね。」

事務員はパインの資料に目を通す。

 「あっ、そうですね。

 実は、その村からの連絡が途絶えておりまして。」

 そこで、3人の内の誰かに、

 あの村の調査を依頼したいのです。」

調査はパーティーで行うと目立ちすぎる為に個人依頼が多い。


アッシュ:「調査にはどれぐらいの日数を予定している?」

 「そうですね。

 数日から1週間というところでしょうか?」

アッシュ:「それじゃあ、我々は無理だな。

     我々はバジール村に戻らなければならない。」

そう言ってアッシュは自分とパムを交互に指さす。

 「パインさんはいかがですか?」

パイン:「えっ?

    いやしかし、、、。」

 「お気持ちは分かります。

 パーティー全滅というのは心に大きな傷を残すものです。

 しかし、前へ進まねば未来はありません。」

パイン:「いや、そうではなくて、私はカッパーなんです。」

パインが言いたかったのは、情報収集依頼が受ける事の出来る

ランクの事だった。

情報収集は、未知の危険が伴う。

その為、通常はアイアン以上と決められていた。


 「あっ、そうでしたね。

 隠し事は無しでお話しします。

 現在、アイアン以上で依頼を受けていない冒険者が

 いないのです。」

パイン:「えっ!」

パインは驚いた。

確かに冒険者になる者は少ない。

命を賭けてけて行う職業なのだ。

しかし、そこまで冒険者が不足していたとは

思っていなかったからだ。

 「そこで、依頼内容を下げる事にしました。」

パイン:「どういうことですか?」

 「はい。

 通常は村まで入らなければならないのですが、

 今回は村の外から情報を集めてもらえば良しとします。

 さらにアイテムも提供します。

 これです。」

そう言って、木でできた筒形の物と巻物を差し出した。

パイン:「これは?」

 「これは望遠鏡というものです。

 これは覗くことにより遠くのものを

 近くに見ることが出来るものです。

 そして、こちらは帰還の巻物*1です。

 命の危険が迫ったと判断した場合、

 何時でも戻っていただいてもかまいません。

 さらに監視塔*2の転移ゲート*3の使用も許可します。

 あと、この依頼の成功報酬としてブロンズタグへの昇格を

 保証します。

 どうでしょう。

 引き受けていただけますか?」


これは破格な依頼であった。

まず、アイテムの提供だ。

アイテムは通常冒険者が準備するものであり、

提供されるものではない。

さらに転移ゲートの許可、ブロンズへの昇格である。

それだけこの依頼が危険あるいは緊急を要することが

窺い知れる。


パインはアッシュの方を見た。

アッシュはパインと目が合うと、首を横に振った。

アッシュはこの依頼を受ける事に反対なのだろう。

自分もそう思う。

内なる心が危険信号を発している。


パインはしばらく考え、重い口を開いた。

パイン:「わかりました。

    引き受けます。」


そして監視塔の説明を受けた後、

明朝に再び来るように言われ、事務所を後にした。



パイン、アッシュ、パムの3人は酒場で卓を囲んでいた。

アッシュ:「何故引き受けた?

     ゲイルとは関係ないかもしれないんだぞ。」

パイン:「言いたいことはわかります。

    しかし何かが起ころうとしている。

    いや、起こっていると思うんです。

    それが、あの包帯男から始まっている。

    何故かは分からないですが、そう思えるんです。」

包帯男の情報を集めれば、グレイグの情報も

得られるのではないかと考えていた。

しかしグレイグの話を他者にするわけにはいかない。

パイン:「それが何かわからないと、

    全ての依頼が危険だと思うんです。」

パム:「なるほどね。

   確かにそう言う考え方もあるよね。」

アッシュ:「危険は承知の上という訳か。

     ならば止める訳にもいかんな。」

パイン:「すみません。」

アッシュ:「謝る必要などないぞ。

     ただ、何があっても諦めるなよ。」

パイン:「わかりました。」

パインは新たなる力、クレアボイヤンスを思い出していた。

グレイグは遠くを見る目と言っていた。

その力があれば、有利に働くのではないかと。



次の日、冒険者協会事務所の隣にある建物から

転送の魔法陣を使い、監視塔へと移動した。


監視塔の中は、直径5m程の円形をした空間だった。

その空間は、魔法の光で満たされているのか、

松明などは存在しないのに生活するには十分な明るさがあった。

足下には転受の魔法陣が描かれていた。

壁は石を積み上げ、滑らかになるように削ったのだろう。

外周には4個のベット、食事を作る為のカマド、

食料の入った箱、水やエールの入った樽などが

整然と設置されていた。

食料は、4人が1月程生活できる量だと思う。

壁には扉は無く、1本の梯子のみが設置されていた。


パインは慎重に梯子を上った。

そして、上の階にたどり着く。

天井が高い。

10m程はあるだろうか。

パインは辺りを見渡す。

壁際に多くの武器が置かれていた。

壁には扉は無く、所々に5cmx20cm程の覗き窓があった。

覗き窓には金属の蓋が蝶番(ちょうつがい)で取り付けてある。

丁度反対側の壁に上に登る梯子(はしご)があった。


パインは1つの覗き窓に近づき、蓋を開ける。

外の景色が眼に飛び込む。

そこは何もない草原だった。

パインは、外の景色に興味を無くし、

武器を一つ一つ調べて回った。

パインは、1つの剣置き台の前で立ち止まると目の前の剣に

手を伸ばした。

それは、ツーハンデッドソードだった。

パインの身長とさほど変わらないその剣の柄を掴み、

片手で高々と持ち上げた。

そして振り下ろす。

 「ビュンッ。」

剣が風を切る音が耳に届く。


パイン:(軽すぎるな。)

咄嗟にそう思った。

これは魔導士のパインにとっては考えられない事だったが、

今はそれを受け入れている。


 「ビュンッ、ビュンッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ。」

立て続けに剣を振る。

パインは剣を持っていくか考えた後で、

持ち運び難い点に重きをおき、剣を剣置き台へと戻した。

そして、すぐ横にある台の上の箱に気が付き近寄る。


パイン:(これが例の箱か。)

パインは冒険者協会員に言っていた言葉を思い出した。


-----

監視塔には出入口はありませんが、魔法具を使用すれば

出入りが可能になります。

そのような事態はあり得ませんが、万が一外に出なければ

いけない場合は、武器部屋の箱に腕輪があります。

その腕輪を装備してください。

1階から出入りする事ができます。

-----


パインは念のため、腕輪を1つ取り出し、腕にはめた後、

上へと続く梯子を昇った。

そこは外だった。

外周は城壁のように胸壁*4を備えている。

ここが見張り台なのだろう。

方角を確認して、ナカサ村側へと移動する。

凸部に隠れるようにしながら、狭間から望遠鏡を覗いた。

村の全貌が見えたが、住人は小さすぎて見えない。

パイン:(遠すぎるな。)

パインは望遠鏡を外すと、

クレアボヤンスを試してみる事にした。

村は小さすぎて良く分からない。

しかし、村に意識を集中すると村は次第に大きくなり、

良く見えるようになっていった。

村の中を探したが、村人を確認することはできなかった。

無人なのか?


 「何か分かったかな?」

パイン:「!!!」

突然声をかけられ、パインは驚いた。


後ろを振り向くと赤い魔導士のローブ*5に身を包んだ男と

2人のチェーンメイルを着た男が立っていた。

パインはローブの色から真ん中に立つ男が

上位魔導士だと理解した。


パインが驚いているのを見て、その魔導士はあやまった。

 「驚かしてすまなかった。

 私は、魔導士のゾルだ。

 残りの2人は、戦士リックと戦士ソマス。

 私の護衛というところだ。」

戦士2人は、無言のまま微動だにしない。

パイン:「私は、見習い魔導士のパインです。

    上位魔導士様が何か御用ですか?」

ゾル:「そう警戒するな。

   私も君と同じく、ナカサ村の調査に来たんだ。

   つまり味方ということだ。」

パイン:「冒険者協会の依頼ですか?」

ゾル:「冒険者協会の依頼ではない。

   我が主の命によって調査に来た。」

パイン:「主?

    それは誰ですか?」

ゾル:「んー、いずれ知る事にはなるだろうが、

   今は教える訳にはいかないな。」

パイン:「そうですか。」

ゾル:「そうだ、情報を共有しないか?」


パインは、考えた。

これはこちらに有利な提案だ。

こちらの手持ちの情報は、村には人が居ないということだけだ。

しかし、ゾルはもっと情報を持っているかもしれない。

パインは即答した。


パイン:「お願いします。」


2人は情報を交換した。

ゾルは、インビジブル*6の魔法を使って、

短時間だが村の中の調査も行っていた。

しかし、村人が居ないという事以外の情報は得られ無かった。


ゾル:「そうか。

   あまり有益な情報は無かったな。

   仕方が無い、しばらく様子を見る事にしよう。」

パイン:「そうですね。

    ところで、何故インビジブルの魔法が解けた後も

    調査を続けなかったんですか?」

ゾル:「あぁ、それの事か。

   オーガの匂いがしたんだ。」

1度でもオーガに遭遇した者は、

オーガの独特の嫌な匂いを忘れないだろう。


パインは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

パイン:「なるほど。」


4人は、監視塔からナカサ村の監視を続けた。

そして、陽が沈む頃、それは起きた。



*1:帰還の巻物

 中位魔法である転移の魔法を封じ込めた巻物。

 転移の魔法は、指定した転受の魔法陣へと瞬間移動する

 魔法である。

 帰還の巻物と呼ばれるが、転移の巻物である。

 移動する場所が固定であり、主に帰還時に使用されるため、

 帰還の巻物と呼ばれる。


*2:監視塔

 不帰の森には多くの魔物が存在してる。

 さらに5年から10年間隔でゴブリンの大量繁殖があり、

 食料不足等により人間の村を襲いに来るのだ。

 そのため、不帰の森の出口には一定間隔で監視塔が

 建造されている。

 通常は無人であるが、緊急時の利用の為に、

 建物内に転受の魔法陣が存在する。


*3:転移ゲート

 テレポーテーションの魔法の着地点として設定される魔法陣。

 通常は転送の魔法陣と転受の魔法陣の2つで構成され、

 一方通行で瞬間移動を実現する。


*4:胸壁

 城壁や城の最上部に設けられ、城壁最上部の通路や当該場所で

 活動する兵士を防御するための背の低い壁面のこと。

 一般的にはこの壁面を凹凸(おうとつ)状にして

 凹部を狭間として利用すると共に、

 凸部には狭間窓が設けられることもあった。


*5:魔導士のローブ

 魔導士にファッションという言葉は存在しないと言っても

 過言ではないだろう。

 殆どの者がフード付きのローブを着るのだ。

 しかし、王宮ではそれは許されない。

 あまりにもみすぼらしい恰好は拒否される。

 そのため、同じローブでも素材や色を付ける事によって

 区別することになった。

 長い年月がそれを定着させ、

 いまでは魔導士のステータスとなったのだ。

 マスター:白、紫、黒

 上位  :赤

 中位  :青

 下位  :緑

 見習い :茶

 神聖魔導士:白、赤、青、緑、茶

 精霊魔導士:紫、赤、青、緑、茶

 邪心魔導士:黒、赤、青、緑、茶


*6:インビジブル

 透明化の魔法であり、上位精霊魔法の一つである。

 使い方によっては非常に強力な魔法であるが、

 5-10分程度と効果時間が短い上に、発動までに時間がかかる。

 対処方法も数多く存在する為、

 時と場合を選ぶ魔法の一つでもある。


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