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グレイグ  作者: 夢之中
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吸収の杖


キーラの放つ魔法攻撃はことごとく不発に終わっていた。

その全てが吸収の杖*1に防がれたのだ。

キーラ:「なるほど。

    杖に魔法が命中すると吸収魔法が発動*2するのね。

    よく考えたじゃない。」


キーラは、過去の記憶が蘇った。

それは子供の頃の記憶。

ザラスと出会ってから一ヶ月程経った頃の事である。


=====

小さな泉の前で1人の少年が立っていた。

キーラは、少年に近づくと話しかけた。

キーラ:「ねぇねぇ、なにしているの?」

少年は振り返った。

それは若き日のザラスであった。

ザラス:「キーラちゃんか。

    ちょっと考え事してたんだ。」

キーラ:「なにかんがえてたの?」

ザラス:「吸収の杖について、ちょっとね。」

キーラ:「きゅうちゅうのつえ?」

ザラス:「んー。

    魔法障壁ってわかるかな?」

キーラ:「キーラ、しってるよ。

    んーとね。

    まりょくをけしさっちゃうんだよね。」

ザラス:「良く知っているね。

    その通りだよ。

    攻撃魔法を中和する事で、魔法を無力化するんだ。

    でも、魔法障壁は、膨大な魔力と魔法陣が必要なんだ。

    だから、移動できない。

    もし、移動できるようにできたらすごくないかい?」

キーラ:「うん。」

ザラス:「でも、魔導具は、多くの魔力を溜められないんだ。

    魔法具で、魔法障壁を実現しようとすると、

    1回、それもすごい短い間しか発動できない。

    そこで、魔法を打ち消すのではなく、

    魔力を吸収することで魔法を消し去ろうと考えたんだ。

    吸収した魔力は、次の発動に使うんだ。」

キーラ:「すごーい!!」

ザラス:「でも、問題があるんだよ。」

キーラ:「どんな?」

ザラス:「小さな杖だと溜められる魔力に上限があるんだけど、

    強い魔法だとそれを越えちゃうんだ。

    そうすると、杖が壊れちゃう。」

キーラ:「ふーん。」

ザラス:「その魔力をどうするかで悩んでいるんだ。」

キーラは深く考えずに何気なく答えた。

キーラ:「すてちゃえば?」

ザラス:「捨てる?」

ザラスは何かを考えるように口を閉ざした。

しばらくして、ザラスは満面の笑みを浮かべると言った。

ザラス:「そうか。

    なんで気が付かなかったんだ。

    余った魔力は、捨てればいいんだ。

    キーラちゃん、ありがとう。」

そして、ザラスは笑顔を残して去って行った。


この時キーラは、吸収の杖に興味を持った。

しかし、それは一時の事でもあり、すぐに忘れ去った。

月日は流れ、ザラスはキーラの前から姿を消した。

その時、キーラは吸収の杖の事を思い出した。

それから数年後、吸収の杖の研究を始める事となる。

しかし、完成間近に1つの問題にぶつかり、

結局問題を解決できずに研究を中止した。

その代わり、吸収の杖に対抗する魔法の研究を始めた。

当然ザラスとの対決に向けての対策ではない。

ザラス以外にも同様の事を考える者が現れるかもしれない。

対抗する手段がなければ、勝つことはできない。

その対策というわけだ。

=====


キーラにとっては、これは賭けでもあった。

もし、ザラスが自分が解決できなかった問題を

解決していたとしたら、この戦いは絶対に勝てない。

キーラは、ザラスを直視するとボソッと呟いた。

キーラ:「私も色々と考えたのよ。

    でも、解決はできなかったのよね。

    さて、どんな杖が完成したか見せてもらうわよ。」

そう言うと、呪文を唱え始める。

ザラスの周囲に無数の大小の光の玉が出現した。

キーラは両手を前に突き出すと、10本の指を器用に動かした。

指の動きに合わせ、大小様々な光の玉は動き始めた。

光の玉は緩急を付けながらザラスを翻弄する。

大きな玉がザラスに近づくと、直前で移動方向を変える。

そしてその影から小さな玉がザラスに向かう。

小さな玉が杖に命中する寸前、杖はその場から移動した。

小さな玉は、杖に命中することなくザラスの身体に命中する。

小さな玉では、ザラスにダメージを与える事は出来ないだろう

キーラの狙いは、小さな光の玉を杖に当てたかったのだ。

吸収の杖は、攻撃魔法が命中した時に発動される。

そして、その攻撃魔法の魔力を吸収するのだ。

吸収した魔力は次の発動に使用される。

しかし、ここに大きな問題があった。

魔法を発動する魔力量より少ない吸収を続ければ、

いずれ魔法を発動する為の魔力が不足することになる。

つまり、吸収の杖を封殺することができるのだ。

しかし、これを実現するには小さな玉を何発か

杖に命中させなければならない。

ザラスもこのことは予見していたのだろう。

大きな玉のみに集中し、小さな玉を避けるように動いた。

キーラの予想に反して、ザラスの動きは素早かった。


キーラ:「まいったわね。

    もっと練習しておくべきだったわ。」

後悔先に立たずである。

キーラは諦めずに攻撃を続けた。


その時、パイン達は、キーラの行動を眺めていた。

最初は、キーラが何をやっているのか分からなかった。

しかし、幾度も繰り返される動きを見ていた時、

パインは気が付いた。

そして、直ぐに行動に移した。

他の4人も、パインの意図を察したかのように行動を起こした。


パイン、アリス、ゾル、アンナ、ライの5人は、

キーラの攻撃の邪魔にならないように、

ザラスを取り囲むように展開した。

パインは、右手の手のひらをザラスに向けて身構えた。

他の4人は、足元に転がる石を手に取ると、

パインと同様に身構える。

次の瞬間、パインの手のひらから小石程度の大きさの何かが

飛び出した。

残りの4人は、パインの行動を確認すると、

手に持った石をザラスに向けて投げた。

それらは、一直線にザラスへと飛んで行った。


ザラスの反応はすごかった。

飛んで来る何かに気が付き、手と杖を使い、

それを打ち払おうと動いた。

ザラスの注意が一瞬それた。

キーラは、その時を見逃さなかった。

小さな玉の一つが杖に命中する。

吸収の杖は一瞬鈍く光ると、すぐに光は消え去った。

さらに、キーラは小さな玉を当てようとした。

しかし、成功したのは、最初の1回のみだった。

ザラスは飛んで来る石を無視し、光の玉に意識を戻した。

この後、ザラスはキーラの攻撃に集中し、

決して意識を逸らす事は無く、膠着状態が続いた。


パインとゾルは、考えていた。

キーラの指示を思い出す。

キーラは、戦いの前にパイン達に指示をしていた。

それは、キーラの合図を待ってから全力で魔法攻撃を

仕掛けるというものだった。

2人は、キーラの合図で魔力の続く限り、

魔法攻撃を続ける事を決めていた。


アリスは、考えていた。

自分は神聖魔導士であり、魔法攻撃は出来ない。

神聖魔法にも攻撃魔法は存在するが、

アリスはまだそれを修得していなかった。

そして、自分のやる事を決めた。

アリス:(誰かが傷ついたら治療に専念しよう。)


アンナは、考えていた。

自分は、直接攻撃しかできない。

魔法攻撃が始まれば、ザラスに近づく事は、場を乱すことに

なりかねない。

そして、自分の立ち位置を決めた。

アンナ:(魔法攻撃が終わるまでサポートに徹しよう。)


ライは、考えていた。

状況は、膠着している。

このままだと、完全にキーラが不利だ。

どうすればいい?

一瞬でもザラスの意識を逸らす事ができれば、

キーラが何とかするだろう。

だが、普通の攻撃では、やつは受けきるだろう。

そう、普通の攻撃では、、、。

ライは、防御を捨て、ザラスの意識を逸らす事だけを考えた。


キーラ:(あと1発。

    あと1発当たれば、、、。)


その声が聞こえたかのように、ライが動いた。

ライは、丁度ザラスの真後ろに位置していた。

ザラスは座り込むように身体を小さくすると、

地面から突き出た石に片足をかける。

そして、一気に身体を伸ばした。

その光景を横で見ていたアンナは、驚いた。

 「ドン!!」

という音と共にライの身体がぼやけたのだ。

アンナも力を与えられた者の一人なのだ。

そのアンナがライの動きを捉えられなかったのだ。

それほどまでに早い動きだった。

ライは、そのままザラスの足元にタックルした。

だが、ザラスはライの攻撃にもピクリとも動かない。


ザラスは足元を見ると、左手を横に振る。

ザラス:「じゃまだ!!」

その途端、ライは身体の自由を奪われた。

ライの身体に風がまとわりつき、ザラスから引き剥がされた。

そしてライの身体は、風の力で空高く舞い上がった。


ライの攻撃は、ザラスにダメージを与える事には失敗したが、

注意を逸らす事には成功した。

このライの攻撃を見たキーラは、チャンスと判断し、

小さな玉を杖めがけて突進させた。

小さな玉は、次々と杖にぶつかる。

最初の1発は、杖は淡く光ったが、

2発目以降は、光を灯す事は無かった。

それを見てキーラは叫んだ。


キーラ:「今よ!!」


キーラ、パイン、ゾルの3人は、呪文を唱え始める。

アンナは、フェイントをかけながらザラスを牽制する。


丁度その時、飛ばされたライが地面に激突した。

何時もなら、まるで猫の様に着地する直前に身体をひねり、

両手両足で衝撃を吸収していたが、今回は違った。

背中から地面に激突したのだ。

それを見ていたアリスは、

素早くライに近づくと、治療を開始した。


3人の攻撃魔法が発動すると、ザラスは炎に包まれた。

吸収の杖の効果は発動していない。

キーラ、パイン、ゾルは、魔法がザラスに直撃していることを

知ると、立て続けに魔法を唱えた。

ザラスは、全く動こうとはしなかった。

それどころか反撃の魔法さえ発動しなかった。

無駄な魔法を発動せずに、全て受けきるつもりなのだろう。


炎系の魔法によってザラスは燃えていた。

ザラスの身体を包み込むように炎が立ち上っている。

まるで全てを焼き尽くすような炎であった。

それは、まるで地獄の業火といってもよかった。

永遠とも思える時間の中、ザラスは立ち続けた。


最初にパインの変化に気が付いたのはアンナだった。

アンナは、力を得てからパインと繋がっていた。

パインの状況や考えている事がなんとなく分かるのだ。

アンナは、パインの疲労を感じていた。

そして、パインの方を見た。


パインは疲弊していた。

魔法の連続詠唱がこれほど疲労するとは思っていなかった。

肉体的な疲労ではない。

精神的な疲労だ。

呪文を発動するたびに疲労が増大して行く。

意識がもうろうとし、自分が何をやっているのかさえも

分からなくなってきていた。

そして、最後の呪文が発動すると、前のめりに倒れた。


アンナは、パインが倒れていくのを見た。

素早い動きでパインに近づくと、パインを支えた。

そして優しく地面に横たえると、パインの介抱を始めた。


ゾルも疲労を感じていた。

しかし、ゾルはパイン以上に魔導に精通していただけあった。

同じ呪文を連続で詠唱せず、かつ間隔を開けて詠唱をしていた。

その労力に見合うだけの効果はあった。

しかし、疲労の蓄積はゾルの予想を裏切るものであった。

そして疲労が限界に達し、

パインに続き、その場にへたり込んでしまった。


最も長く呪文を詠唱し続けたのは、キーラだった。

疲労には耐えきったが、

キーラと言えど魔力は無限にあるわけでは無い。

ついにキーラは、魔法の連続詠唱をやめ、片膝をついた。

そしてザラスの方を睨み付けた。


呪文の詠唱が止まると、

ザラスの周りの炎は徐々に弱くなっていった。

炎の隙間から骨が見える。

ザラスの着ていた服は完全に燃え尽き、

手に持っていた杖も炭の様に炭化している。

完全に炎が消え去ると、

スケルトンの様なザラスの全貌があらわになった。

立ち尽くすザラスは、片膝をつくキーラを見下ろしていた。



*1:吸収の杖

 攻撃魔法に対して魔力を吸収することにより、

 魔法を無効化する。

 魔法障壁は、攻撃魔法の魔力を打ち消すが、

 吸収の杖は攻撃魔法の魔力を吸収することにより無力化する。

 範囲化できない。


*2:杖に魔法が命中すると吸収魔法が発動

 魔法障壁の様な継続魔法は、

 発動と維持のために魔力を消費する。

 魔法の発動タイミングを極限まで遅らせれば、

 維持の為の魔力を減らす事ができる。

 蓄積される魔力量の少ない魔導具等では、

 最も検討される事である。


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