進軍
ランド平原の上空は、不思議なことにまるでその地域のみを
覆いつくすためだけに存在していると思われる様な、
厚い雲に覆われていた。
キーラは上空からランド平原を眺めた。
そして平原の中央辺りにザラスの姿を確認した。
そこにいたのは、ザラスのみであり、
他の者の存在は確認できなかった。
キーラ:(ラングは最善を尽くしてくれたようね。)
=====
キーラ達がセンド平原に飛び立った日の早朝、
ラングは半ば完成した砦の外にいた。
ラングの前には5000人もの兵士達が整然と整列していた。
ラング:「それでは、本作戦の主役達を紹介しよう。」
ラングが右手を上げると、兵士達の中からガシャン、ガシャンと
音を立てて、20人のフルプレートアーマーを着用した
兵士が進み出る。
そしてラングの前に一列に並んだ。
彼等が着ているフルプレートアーマーは、
各パーツのつなぎ目を覆う様に補強された物だった。
見るからに重量は増大しているだろう。
さらに、可動範囲が制限され明らかに動きにくそうだった。
ラングは彼等を見ると頷いた。
ラングは感無量だった。
自分の提案が採用されたのだ。
力を得た者達との戦いは、辛うじて勝利を得たが、
こちらの損害も少なくは無かった。
その多くがフルプレートアーマーを着用しているにも関わらず、
倒されているのだ。
その攻撃は、フルプレートアーマーの隙間に剣を突き刺す
というものだった。
常人には困難極まりない攻撃方法であったが、
奴等はこれを難なくこなした。
ラングはこれ以上損害を出したくなかった。
そこで、攻撃を捨て防御中心のアーマーを考えたのだ。
それでは、攻撃はどうするのか?
それについてはラングには策があった。
国王に策を説明し、許可を得たのだ。
そして開発を続け、ごく最近その成果が届いたのだ。
成果物は非常に満足いくものだった。
さらに、ラングの策は、多数のメルトニア兵士の投降により、
より現実味を帯びていた。
そこで今回の戦いに実践投入することを決断したのだった。
フルプレートアーマーの兵士に続いて、50人のローブを
纏い、多くの水袋をぶら下げた者達が続いた。
彼等は魔導士であり、大半はメルトニアの元兵士であった。
メルトニアの奪還の為に危険な任務に自ら志願したのだった。
ラングの前に今回の作戦の主役達が整列した。
ラングは彼等を見回すと声を上げた。
ラング:「これより、メルトニア奪還に向けて進軍する。」
ラングの言葉に応えるように、兵士達の歓声が
まるで地響きのように辺りを覆いつくした。
しばらく待って、ラングは右手を上げた。
それを見て一斉に歓声が止まる。
そして、ラングの軍は進軍を開始した。
:
:
軍は森から100m程度離れた位置で停止して陣を築き始めた。
陣を敷いている最中、夜だと言うのに、森から逃げる鳥の群れを
多くの兵士たちが目撃していた。
ラングもその一人だった。
ラング:(どうやら、成功に一歩近づいたようだな。)
陣を敷き終わる頃には、辺りは次第に明るくなっていった。
まもなく夜明けである。
ラングは、夜明け前に、魔導士達を、夜明けを待ってから、
フルプレートアーマーを装着した兵士達を進軍させた。
20人の兵士達は、躊躇なく森へと入って行った。
ラングは兵士達を見送ると、陣の後方へと移動し、
テントへ入ると報告を待った。
小一時間程経った頃、一人の兵士がラングの元へとやってきた。
無言のままラングは、テントを出ると、森の方向をみた。
森の上空に白色の狼煙があがっていた。
それも、5本。
ラング:(始まったな。)
ラングはその場でじっと狼煙を見続けた。
しばらくして、5本の狼煙の色が次々に赤に変わる。
ラング:「よし!!
作戦開始だ。」
ラングの指示で、陣からも白色の狼煙が上がる。
ラングは自分に言い聞かせるように呟いた。
ラング:「必ず成功する。」
その頃、森の中では、フルプレートアーマーを着込んだ兵士達
4人が輪になって赤い煙の狼煙を守るように囲んでいた。
兵士の耳には、金属がぶつかる音が絶え間なく続いていた。
「おい、おい、本当に大丈夫なんだろうな。」
「大丈夫もなにも、信じるしかないだろ?」
「こえーよー。」
「静かにしろ、じっと耐えるんだ。
まだ、狼煙はみえないか?」
「の、のろしがあがっています。」
「何色だ?」
「今はまだ白です。」
「そうか、白から赤くなり、
敵の攻撃がやむのを待ってから退却だ。」
ラングは、陣の最前まで移動するとじっと森を凝視していた。
程なくして、森の端の至る所から炎が上る。
炎はまるで、ファイアーウォールの魔法の様に森を
取り囲んで行った。
ラングは、炎の勢いが最大になるのを待ってから指示を出す。
陣の狼煙の色が白から赤へと変わった。
ラングはまるで反芻するように今回の作戦を思い出していた。
そう、力を得たものとの最初の戦い。
力を得た者の弱点。
彼等は空中高く舞い上がる。
しかし、それは魔法とは異なる。
自在に空を飛べるわけでは無いのだ。
飛び上がる為には、足場となるものが必要となる。
足場が無ければ、方向さえ変えられないのだ。
つまり、足場を無くしてしまえばよい。
それも、広範囲に。
しかし、ラングにはその方法が思いつかなかった。
そんな折、メルトニアの兵士達が投降してきたのだ。
かられの情報で洞窟を抜けた先に森がある事を知った。
それも適度なサイズの森だった。
ラングは神と自分の運に感謝した。
そして、開発中のプレートアーマーに追加指示を出した。
そう、炎の耐性を付加したのだ。
これには、投降してきたメルトニアの魔導士達が
喜んで協力してくれた。
そして、20人分のプレートアーマーが完成したのだ。
ラングは、呪文のように何度も呟いた。
ラング:「成功する。成功する。成功する。、、、」
その時、炎の壁の中から、1人の兵士が現れた。
それに続いて、1人、また1人と続いた。
ラングは、20人の兵士の生還を確認すると、作戦の9割が
成功したことを確信した。
ラングは、兵士達を称賛すると5人の隊長を呼び集め、
彼等からの報告を聞いた。
彼等の報告をまとめると、力を得た者は7人。
ラングの興味は、既に作戦成功の残り1割だった。
それは、力を得た者の攻撃がいつまで続いていたかだった。
ラング:「それで、攻撃は何時まで続いていたのだ?
狼煙が赤くなる前か?
それとも後か?」
隊長の回答は全て、赤くなってから後だった。
その回答に、ザラスはほっとした。
ラングは満面の笑顔を見せて言った。
ラング:「そうか、後か。」
この時、ラングは作戦成功を確信した。
そして、テントを飛び出ると、炎に包まれる森を眺めた。
その頃、キーラ、パイン、アリス、ゾル、アンナ、
そしてライの6人がセンド平原へと降り立った。
ザラスはセンド平原に立っていた。
キーラ達は、ザラスから少し離れた位置に降りた。
ザラスは、ローブを羽織り、1本の杖を持っていた。
ザラスは、杖を地面に突き立てると言った。
ザラス:「遅かったな。
なるほど、全員で出来たか。
だが、残念ながら、私には勝てない。」
キーラ:「そうかしら?
やってみなければわからなくてよ。」
ザラス:「ならば、いつでも来るがよい。」
ザラスの言葉が終わる前に全員が散開した。
そして、キーラの左の小指の指輪が光った。
同時にザラスを中心に巨大な炎の竜巻が発生した。
精霊魔法のファイアトルネードの呪文だ。
炎の竜巻は天高く伸びていった。
それは、まるで、火の龍が天に駆け上がるようにも見えた。
しかし、魔法は直ぐにかき消された。
この時キーラは、ザラスの持つ杖が光っているを見た。
竜巻が消え去った時、何事も無かったように同じ姿勢で立つ
ザラスがいた。
ザラスは突如目の前に現れたパインに反応した。
パインの左手に持った剣が頭上に振り下ろされる。
その剣を杖で防ぐ。
その時、パインの右手はザラスの目前にあった。
突然パインの右手から剣が出現した。
剣は、ザラスの左目を深々と突き刺した。
ザラスの左手がパインに向かう。
パインは、ザラスの胸に片足を当てると強く突き出した。
パインはその反動でザラスから飛びのいた。
同時に左からアンナ、右からライ、そして後ろからゾルが
剣を突き立てる。
3本の剣は、ザラスに突き刺ささった。
しかし、3人は、反撃を恐れ、素早く後退した。
その時、キーラの頭上には炎の玉があった。
火の玉は3人の後退を見て解き放たれた。
火の玉がザラスに命中する。
誰もが凄まじい炎で焼き尽くされるザラスを想像していた。
しかし、炎は一瞬で消え去った。
地面に突き刺した杖が光りを帯びていた。
ザラスは、その場から動かずに平然としていた。
ザラスのくぐもった声が辺りに響く。
ザラス:「この吸収の杖がある限り、私には魔法は効かぬ。
キーラよ。
もう少し楽しませてほしいものだな。」
キーラは、思い出した。
キーラが幼い頃、ザラスが求めていた杖。
それが吸収の杖。
そう、魔力を吸収する杖だった。
全ての魔法攻撃を吸収する。
もし、完成することができれば、
魔法に対する絶対防御となりうる杖。
それが目の前にあると言うのだ。
キーラ:「まいったわね。
そう、完成させていたのね。
さて、どうしようかしらね。」
キーラはボソッと呟いた。
キーラ:「みんな後退して。」
キーラはそう言うとパイン達を後方へと下がらせた。




