予知夢
軍議室への移動中、パインはキーラに疑問を投げかけた。
パイン:「師匠。
あの現象はなんですか?魔法ですか?呪術ですか?」
キーラ:「その話は、軍議室で皆に話すわ。」
パイン:「分かりました。
では、もう一つ。」
ドラゴンとの戦いの時、何故ザラスは力を得た者達を
連れて来なかったのでしょうか?」
キーラ:「あぁ、そのことね。
以前にザラスは単独で行動しているのではないかと
言ったわよね。」
パイン:「はい。
でも、それだけが理由ですか?」
キーラは、歩みを止めると、パインの方を向いて言った。
キーラ:「それだじゃないわ。
ちょっと裏工作もしておいたのよ。」
パイン:「裏工作?それは?」
=====
メルトニア兵の投降が始まってから、ラングは悩んでいた。
メルトニアの兵士達は、メルトニア奪還の為に全てを投げ出す
覚悟を決めていたのだ。
毎日の様にメルトニアの奪還の為の進軍を懇願されていた。
しかし、ラングはそれを抑える立場にあった。
状況のつかめない現状での進軍は危険すぎるのだ。
そんな時、ラングの元にキラから親書が届いた。
ドラゴンが砦のを襲撃した次の日、キーラは、キラの名で
ラングに対して親書を送ったのだ。
親書を受け取ったラングは、緊急で軍議を開催した。
将軍達の中には、投降したメルトニア軍の将軍も含まれていた。
ラング:「敵は、魅了を使うなど非人道的な行為に及んでいる。
私もメルトニアの民同士で戦う事は
避けるべきと考えている。
しかしながら、このまま事態を長引かせることは、
良い結果を生まないだろう。
そこで、我々はメルトニア軍と共に
メルトニア奪還の為、進軍することとする。」
「おぉーー!」
「うぉーーー!。」
:
投降したメルトニアの将軍達を中心に歓声があがる。
ラングは、両手を前に出し、歓声を静めた。
そして、歓声が静まると話始めた。
ラング:「敵には、まだ力を得た者が多数含まれると思われる。
前回の戦いで力を得た者を倒したが、彼等も
平原での戦いは不利と知っただろう。
情報では、メルトニアへの進路には森が存在する。
私の予想では、この森が第一の戦場となるだろう。
こちらが大軍であるとはいえ、力を得た者達が、
木々の間を縦横無尽に飛び回れば、
こちらも只では済まない。
そこで、洞窟を抜けた先に砦を築くこととする。」
ラングが話した内容は、キラの親書に書かれている内容だった。
ラングは、キラに従う事は癪ではあったが、
キラが指示を親書で送ったこと、提案であったことで、
自分の手柄になることが分かっていた。
キラも当然分かってやっている事だろう。
そして敵の侵攻を押さえて対抗することが
もっとも重要だと考えた。
そして、それを実現するためには、キラの示した地点に拠点を
築くことだと思えたのだ。
そして、その日の内に準備を整えて、
次日の早朝に進軍を開始した。
進軍中は特に攻撃を受ける事も無く、
洞窟の先に到着することが出来た。
そこは、以前メルトニア軍が野営していただけあり、
大きく開けており、砦を造るには十分な広さであった。
ラングは簡易砦の建築を指示すると、森に偵察隊を派遣した。
砦の建築地点から、10分程進んだところに森があった。
実際には森というほど木々は密集しておらず、
どちらかというと林と呼んだ方がよいかもしれない。
ラングは、偵察隊の帰還を待っていた。
ラング:(んー。遅い。遅すぎる。)
ラングは、偵察隊の帰還の遅さに苛立ちを感じていた。
もし、偵察隊が力を得た者達に襲われていたとしたら、
森を超える事は至難の業と言わざるを得ない。
その時、1人の兵士がラングの元に飛び込んできた。
「偵察隊の隊員が帰還しました。」
ラング:「すぐ通せ!!」
そう言いながら、今の言葉に疑問を持った。
ラング:(偵察隊ではなく、偵察隊の隊員といったな、、、。)
1人の偵察隊の隊員がラングの元に現れた時、
ラングは驚きの声を上げた。
隊員が血だらけだったからだ。
ラング:「どうした?
なにがあった?」
隊員は、つらそうな顔をしながらラングの質問に答えた。
偵察隊は何事もなく森に到着した。
その時隊員たちは、森の不気味さを感じ取った。
普通なら聞こえるであろう、鳥のさえずりや虫の発するであろう
音が聞こえてこないのだ。
森は、風によって枝が擦れ合う木の声のみを発していた。
一瞬躊躇したものの、隊長に促されるまま森の中へと
入って行った。
森の中は静かだった。
不気味さは消えなかったが、視界もよく、陽の光が勇気を
湧き上がらせた。
偵察隊は慎重に、そして迅速に行動を開始した。
周囲を警戒しながら前進して行く。
何も起きなかった。
安心した隊長は、密集体系からすこし散開して罠等の発見と
偵察を続けた。
1キロ程進むと森の反対側へと抜けた。
森の先は草原が続いていた。
隊員全員の安否を確認する。
全員無事であり、さらに罠等の設置物も存在しなかった。
気をよくした隊長は、すぐに帰還の指示を出す。
帰路も、同様に罠などの設置物の発見に注力した。
そして、目の前に森の終わりが見えた時に、それは起きた。
「ドサッ!!」
という音と共に後方で何かが倒れる音がした。
他の隊員もその音に気付き、音のする方へと
慎重に移動して行った。
その時見てしまった。
仲間の隊員の首から噴水の様に噴き出る血液を。
敵らしき者は見当たらなかった。
危険と判断し、咄嗟にその場を離脱し、森の外へと走った。
空は、森の出口まであと少しということろで、
張り出した木の根に躓きバランスを崩した。
その時、右肩に強い痛みを感じた。
左手で痛みの発する場所をまさぐると、
右肩に何かが刺さっていた。
報告しなければならない。
そう考え、無我夢中で走った。
意識がハッキリした時、建造中の砦の前に座り込んでいた。
ラング:「そうか。
よくぞ戻ってきてくれた。」
ラングは、ねぎらいの言葉をかけると、医療班に引き渡した。
そしてラングは、森へ近づくことを禁止すると共に、
砦の建築を急がした。
=====
パイン:「なるほど。
奴らの目を軍隊へと向けたのですね。」
キーラ:「そう。
少しでも分散させようと思ってね。
力を得た者がいなかったということは、
彼等の戦力もかなり低下していると思っていいわね。」
その時、キーラは、1人の魔導士風の者がこちらに速足で
近づいてくるのが見えた。
手には、封書らしき物を持っており、
一瞬見えた封蝋の印は、薔薇だった。
キーラ:(薔薇?)
キーラを記憶を探った。
数多く見て来た封蝋の印の中に薔薇の印は見当たらなかった。
魔導士風の者は、キーラの前を通り過ぎると、すぐ後ろにいた
アンナの前に立ち止まると、アンナに封書を渡した。
そして、耳元で何かささやくとすぐに立ち去った。
アンナは、驚き、笑顔を見せ、そして真剣な顔になり、
直ぐに封書を開いた。
そして、それを読むと神妙な顔へと変わった。
キーラは、アンナの顔の変化を見た後、前を向き歩き出した。
キーラ:「軍議室へ向かうわよ。」
軍議室へと到着した後、キーラは、
今回の不思議な現象について話始めた。
キーラ:「あれは、失われた呪術の一つよ。
失われた理由はたった一つ。
術者にとって何の利益も生み出されないからよ。」
パイン:「どういう意味ですか?」
キーラ:「あの呪術は、術者か対象者のいずれかが死ぬという
呪いなのよ。
一方的な呪いもあるから、この呪いを
選ぶ理由は皆無なのよ。」
パイン:「では、どうして?」
キーラ:「考えられるのは、強い恨みね。
死者の強い恨みはたとえ対象が死んだとしても
決して消える事はないのよ。
強い恨みは対象に関係者に飛び火し、
そして最後には無関係な者にも向けられるわ。」
パイン:「・・・」
キーラ:「自ら滅びたとしても、相手を滅ぼしたいという
強い恨みが原動力になっているのでしょうね。
そして私が選ばれたということね。
この呪いはとても強力なのよ。
必ずどちらかが滅びる事になるわ。」
パイン:「どうやって相手を倒すんですか?」
キーラ:「相手の魔力を枯渇させるのよ。」
パイン:「相手の魔法攻撃を受けきるということですか?」
キーラ:「その逆よ。」
パイン:「えっ?」
キーラ:「あの呪術の術者の効果は絶対防御。
魔法攻撃、物理攻撃等、全ての攻撃を魔力で
無効化するの。」
パイン:「そんな。」
キーラ:「そこまで悲観する必要も無いわよ。
ザラスの魔力は膨大であると思われるけど、
無限では無いわ。
攻撃を続ければ、いずれ枯渇するはず。」
パイン:「・・・」
キーラ:「さて、ところでアンナ。」
アンナ:「はい。」
キーラ:「何か言う事は無い?」
アンナ:「えっ!!」
キーラ:「封書を貰ったわよね。
あれは、エレナからではないかしら?」
アンナは、驚いた。
アンナ:「はっ、はい。
エレナ様からのものです。」
キーラ:「やはりね。
道理で見たことが無い封蝋だったわけね。
それで、何と書かれていたの。」
アンナ:「前にお話ししたことがありますが、
エレナ様は、予知者だと思われます。
そして、昨日、とある夢を見たそうです。」
キーラ:「どんな夢?」
アンナは、黙ってしまった。
キーラ:「大丈夫よ。
予知は絶対にその通りになるとは限らないわ。
変える事も可能なのよ。」
アンナは、回答を一瞬戸惑ったが意を決したのか話始めた。
アンナ:「エレナ様からの手紙には、次の様に書かれていました。
3人の光の者と1人の闇の者が対峙する。
光の者達の攻撃は激しく、闇の者を圧倒する。
しかし、闇の者は、あまりにも強かった。
全ての攻撃を受けきった。
そして光の者達は、一人、また一人と減って行った。
最後には、一人の光の者と闇の者の戦いとなった。」
キーラ:「それで、結果は?」
アンナ:「いえ。
一対一の戦いになってからの夢はありませんでした。」
キーラ:「そう、ならチャンスはありそうね。
最初は、私と、パイン、ライの3人で行こうかと
思っていたけれど、フルメンバーで行った方が
良さそうね。」
キーラ達は、入念な準備を済ませると、次の日の早朝に
決戦の場であるセンド平原へと飛んで行った。




