ドゴンブレス
パインとアンナはゾルの攻撃を見ていた。
そして、鼻の横に剣先が命中すると同時に
ドラゴンに向かって移動を開始した。
ゾルは、ドラゴンの鼻の横に剣先が命中した時、
自分の役目は終わったと考えていた。
ゾルが足下を見ると、パインとアンナがドラゴンの前足に
移動してくるのが見えた。
ゾル:(あとは任せた。)
そう考えると、自由落下に任せて体の力を抜いた。
ドラゴンはカッと目を見開き、男を見つめていた。
男は剣先を鼻の横に命中させ、
その反動で後方へと移動していた。
このまま移動すれば、ブレスの直撃を受ける事になる。
即死しないまでも戦闘不能には追い込めるだろう。
しかし、ドラゴンはブレスを吐き出そうとした時に
異変を感じた。
ドラゴンの脳は、ブレスを吐き出す為に、
口に対して大きく開くように指示していた。
しかし、口は開かなかった。
ゾルは、自由落下中にドラゴンの顔を凝視していた。
自分に向かってドラゴンの首が伸び、
今にもブレスを吐き出そうとしていた。
もし、この距離でブレスを吐き出されたら、
ブレスの直撃を受ける事になるだろう。
しかし、口は開く動きを示さなかった。
ゾルは、地面に着地するとドラゴンを見ながら、
バックステップで後方へと移動した。
その時、ドラゴンに変化があった。
ドラゴンの顔が少し膨らんだようにみえたのだ。
同時に異変は起きた。
ドラゴンの鼻、口の隙間から炎が噴き出したのだ。
噴き出した炎はその量を急速に増やし、
ドラゴンの顔を覆いつくした。
ドラゴンは顔を左右に振り、両前足を顔に近づけるように
持ち上げ、炎を消そうと試みていた。
その隙をつくように、パインとアンナがドラゴンの懐に
飛び込み、飛び上がると剣を突き出した。
ゾルは、この時この作戦が成功したことを確信した。
そして、軍議でのキーラの発言を思い出した。
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キーラ:「ドラゴンの鱗だけど、全身にびっしりとあるように
見えるけど、無い場所があるのを知ってる?」
ゾル:「そうでね。
目でしょうか?」
キーラ:「そうね。
目には鱗はないわ。
だけど、ドラゴンが最も警戒している
場所でもあるのよ。
だから、目を狙うのはかなり難しいわ。
他には思いつかない?」
この質問に誰も声を上げる者はいなかった。
キーラ:「やはり、知られてないようね。」
パイン:「一体どこなんですか?」
キーラ:「関節の付け根よ。」
パイン:「関節の付け根?」
キーラ:「そう。
人間で言うと、脇の下や股の内側よ。」
パイン:「そこには鱗が無いんですか?」
キーラ:「そこは異なった方向の鱗が交わっている場所よ。
つまり鱗同士の間に隙間があるのよ。」
ゾル:「なるほど、そういうことですか。」
キーラ:「その隙間にドラゴンキラーの毒を塗った剣を
突き刺すの。」
ゾル:「確かに剣を突き刺せそうな気がします。
しかし、その状況はどうやって作り出すのですか?」
キーラ:「その状況を作り出すのは、ゾル。
あなたよ。」
ゾルは、驚いた。
ゾル:「えっ!
わたしですか?」
キーラ:「鍵はあなたが持っているサンダーソードよ。」
ゾル:「・・・」
キーラ:「サンダーソードは、対象を破滅させる剣では無いわ。
その効果は相手の動きを止める事。
例えば魔導士の詠唱を中断させたり、
対象の動きを一時的に止める為に使われるわ。
しかし、ドラゴンの様な巨大な生物の身体全てを
止める事はできないの。
だから部分的に止めるということになる。
そこで、ドラゴンブレスに着目するの。
ドラゴンがブレスを吐くときに口を閉じていたら
どうなるかしら?」
パイン:「ブレスが口の中に溢れるということですか?」
キーラ:「そう。
そして行き場の無くなったブレスは、ドラゴンの鼻や
口の隙間からあふれ出すわ。
そして、ドラゴンの顔はブレスで
覆いつくされるというわけね。
先に言ったように、ドラゴンの目は鱗がないのよ。
つまり己のブレスでダメージを受けるという事。
ドラゴンは顔を振ったり、両前足を使ってブレスを
消そうとするわ。」
ゾル:「両前足を使うために持ち上げるから脇が露出する
というわけですね。」
キーラ:「その通りよ。」
パイン:「師匠。
そんな冗談みたいな作戦が
本当に通用するのでしょうか?」
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パインとアンナの攻撃は、見事に成功した。
ドラゴンの両前足の脇に剣が突き刺さった。
ドラゴンは、一瞬びくっと身体を振るわせたが、
顔のブレスを振り払う事にに集中し続けた。
2人は、自由落下にまかせて剣を抜くと
ドラゴンの足元に着地した。
そして、素早く後方へと下がる。
ドラゴンは、ブレスを消す為にもがいていた。
しかし、次第にその動きは次第に緩慢となり、最後には両前足を
だらんとぶら下げ、地面に接近するほどになって行った。
最後には力が完全に抜けたように、その巨体を地面に委ねた。
その様子を眺めていたキーラは、
マジックカーテンの呪文を解くとドラゴンに近づき、
ドラゴンの胴体を優しくなでたあと、
目を閉じ、しばらく黙祷した。
キーラは目を開けると口笛を吹いた。
パイン達は何事かとしばらく様子を伺った。
すると、遠くから鳥の鳴き声が聞こえた。
空を見上げると1匹の鳥が飛んで来るのが見えた。
パイン:「あれは?」
その声に対してキーラが答える。
キーラ:「あれは、煉獄鳥*1よ。
私が初めて永久召喚を実験したときに呼び出したのよ。
あの時は、煉獄鳥の大きさを知らずに呼び出したので、
孵化する直前の卵だったわ。
召喚直後に孵化したため、
私の事を親だと思っているようね。」
パイン:「師匠でも、間違ったりするんですね。」
キーラ:「当然よ。
人の人生なんて、失敗の連続だからね。
ただ、同じ失敗を繰り返さないようにすることが、
重要なのよ。」
パイン:「確かにそうですね。」
キーラは、忘れていた何かを思い出した。
キーラ:「あっ。
貴方達は、すぐにマッカスとシルカーを救助して。」
その指示でパイン達はドラゴンの奥に置かれた檻へと向かった。
キーラは、ドラゴンの横で煉獄鳥を待った。
煉獄鳥がドラゴンの横に着地するとその胴体の大きさは、
ドラゴンよりも二回りほども大きかった。
キーラは、煉獄鳥に何やら指示を与えた。
煉獄鳥は、巨大な足でドラゴンを鷲掴みにすると、
空高く舞い上がって行った。
丁度その時、パイン達がマックスとシルカーを
救助して戻ってきた。
パイン:「師匠。
あのドラゴン、どうするんですか?」
キーラ:「ドラゴンは、魔導の素材として優秀なのよ。
全て使わせてもらうわ。」
その後、キーラ達は転移の魔法を使って砦へと戻った。
ビックスはキーラ達を出迎えた、そして真っ先に発言した。
ビックス:「魔法具が消え失せた。」
キーラ:「どういう事?」
ビックスの話は次のようなものだった。
置き土産の連動魔法により、魔法具のある
建物に火をつけた。
それにより、ザラスは移動した。
しばらくして、魔法具の反応は消え失せた。
その後、残った魔法具は、一つ、また一つと
消えて行った。
これは、何者かが魔法具を
破壊したとは思えない。
ザラス自信が何か行動にでたと考えた方が正しいように思えた。
キーラ:「そう。
まさかね。
もしかしたらザラスとの決戦は
目前に迫っているかもしれないわ。」
ビックス:「うむ、そうじゃのう。」
その時、一人の兵士が慌てた様子でキーラ達の前に現れた。
兵士:「大変です!!
空が異常です!!
空に人が!!」
キーラ達は、兵士が何を言っているのか分からなかった。
そこで、すぐに外へ出ると、空を見上げた。
まだ昼間だというのに空は厚い黒雲で覆われ、
遠くに稲光が見えた。
キーラ達が見ている間に雲は渦巻くように移動すると、
人の上半身の様な形を造り始め、そしてすぐに壊れる。
またしばらく待つと、人の様な形を造り出し壊れる。
何度か繰り返すうちにその形は段々と形作られていった。
そして、最後にはザラスと思われる形へと落ち着いた。
キーラ達は、声を聞いた。
「キーラよ。
お前ならばこの呪術を知っているだろう。
期限は1日。
決戦の場はセンド平原に用意した。
仲間たちと一緒に来るがよい。
明日の昼、どちらが生き残るか雌雄を決しようではないか。」
そこまで言うと、空に形作られたザラスは消え失せた。
同時に空にあった黒雲は消え失せて行った。
キーラ:「まいったわね。
どうやら、私の命もあと1日ということね。」
パイン:「えっ!!
師匠。
どういう意味です。」
キーラ:「あれはね。
邪神魔導士の決闘状よ。
それも命を賭けたね。」
パイン:「無視することは出来ないのですか?」
キーラ:「あの呪いは、残念ながら避けて通る事はできないわ。
逃げれば、1日で私の命は亡くなるわね。
ある意味絶体絶命のピンチってところね。」
パイン:「そんな。
さて、この場で話してもしょうがないわ。
軍議室に行って作戦を練りましょう。」
そして、キーラ達は、軍議室へと向かった。
*1:煉獄鳥
煉獄*2に住む巨大な鳥。
火属性であるため、火耐性が高い。
*2:煉獄
天国には行けなかったが地獄にも墜ちなかった人の行く
中間的なところ。
苦罰によって罪を清められた後、天国に入るとされる。




