センド平原の戦い
センド平原。
それは、それはまさに不毛の大地と呼ぶにふさわしかった。
センド平原はアンデットが生み出される場所として有名であり、
メルトニアでは長い間浄化の方法を模索していたが、
結局のところ問題解決には至っていない。
一帯に広がる赤黒い土が不気味さを増しており、
所々に大きな岩が突き出していた。
木や草の類は全く見当たらない。
時折吹く風が少ない砂塵を舞い上がらせる。
伝説によれば、遥か昔に多くの死傷者を出した
大きな戦いがあったと言われk
土の色はその時に流れた地が土の色を変えたともいわれる。
キーラ、パイン、アンナ、ゾル、ライの5人は、センド平原に
立っていた。
キーラ:「遅いわね。
いつまで待たせる気かしら。
招待した側が遅れるなんて非常識よね。」
他の者は緊張しているのかキーラの言葉に耳を貸さず、
辺りを見回し続けた。
その時パインが上空の一点を指さし言った。
パイン:「あれは、ドラゴンです。
どうやら来たようですね。
ドラゴンの後ろ脚に四角い箱の様な物をもっています。」
キーラは、左手の指にはめた1つの指輪を唇に当てると言った。
キーラ:「どうやらきたようね。
準備はいいかしら?」
キーラの頭の中に声が聞こえた。
ビックス:「準備は出来ておる。
何時でも開始可能じゃ。」
キーラ:「指示をだすまで、待機しておいて頂戴。」
ドラゴンは5人の上空を一度旋回するとキーラ達から
少し離れた位置に着地した。
背中の上にはザラスが立っていた。
四角い大きな箱は檻であり、中には、
マッカスとシルカーが横たわっていた。
ザラス空中を浮遊するようにドラゴンの背中から移動すると、
セント平原の大地に降り立った。
キーラ:「遅かったわね。」
くぐもった声でザラスが答える。
ザラス:「時間には正確なはずだが。」
キーラ:「まあいいわ。
久しぶりね。」
ザラス:「私は砦でお前をみている。」
キーラ:「あなたがドラゴンを捕まえた時ね。」
ザラス:「あぁ、そうだ。」
キーラ:「一つ教えて。」
ザラス:「なんだ?」
キーラ:「何故私なの?」
ザラス:「お前にはその意味が分かっているはずでは?」
キーラ:「なるほどね。
ならばしょうがないわね。
お相手しましょう。」
ザラス:「そうこなくてはな。
まずは、ウォーミングアップといこう。
この程度で倒されないことを期待している。」
ザラスが指示を出すと、ドラゴンは檻を後ろ足で掴むと
上空に飛び上がった。
ザラスは小さな小袋を取り出し、上下に振り始める。
上下に振るたびに小袋から粉状の何かが舞い上がった。
粉状の粉末は、辺りを覆い次第に霧の様に広がって行った。
同時にザラスは空中へと浮かび上がった。
その時パインは驚いた。
パイン:「えっ!!」
目前の地面から骨だけになった腕が突き出たのだ。
それが始まりという様に、至る所の地面からスケルトンや
ゾンビは湧き出て来たのだ。
その数数百はいるのではないかという量だった。
キーラ:「もう、面倒ね。
皆は近くのアンデットに集中して。
あとは、私が何とかするわ。」
キーラはそう言うと、呪文を唱えながら天を指さし、
頭の上に円を描くように大きく回した。
キーラの唱えた呪文はファイアーウォール*1だった。
キーラ達を取り囲むように炎の壁が出現した。
パイン達は炎の壁の内側のアンデットを
一匹づつ殲滅していった。
キーラは続けて呪文を唱える。
キーラの唱えたのはファイアートルネード*2だった。
巨大な炎の竜巻がキーラの指先に動きに合わせて
その巨大な身体を移動して行く。
巨大な竜巻はキーラ達の周囲を一通り移動し終わると、
何事も無かったように消え失せた。
同時にキーラは左手を口元に付けると何かを呟いた。
続けて炎の壁も消え失せた。
辺りには炭と化したアンデットが無残に横たわっていた。
ザラスは地面に降りると言った。
ザラス:「さすがに、アンデットでは役にも立たんか。
では、ドラゴンの相手をしてもらおう。
ドラゴンを倒せたら私が相手をしてやろう。」
そう言ってザラスは再び空中に舞い上がった。
作戦通り、パイン、アンナの2人がドラゴンの攻撃を受け、
ライがキーラを守るように動いた。
ドラゴンの動きは前にもまして多彩だった。
パイン達はドラゴンの前足の攻撃や尾の攻撃を受け流し、
時折やってくるブレスをキーラの張った
マジックカーテンに隠れてやり過ごした。
その時ゾルは、何をするわけでもなく、
キーラの隣でじっとドラゴンを見ていた。
少し前、丁度キーラ達がアンデットを倒しきる頃、
砦の一室でビックスはキーラからの指示を待っていた。
広い部屋には家具は存在せず、
部屋の中央に魔法陣が描かれていた。
魔法陣の中心に1枚のコインが置かれている。
ビックス:「さて、そろそろじゃな。」
ビックスは魔法陣に近づき待機した。
しばらくするとキーラの声が聞こえた。
キーラ:「始めて頂戴。」
その声を合図に、ビックスは呪文を唱える。
すると魔法陣の内側が炎に包まれた。
キーラは、マジックカーテンを発動しながらザラスを見ていた。
ザラスの動きには特に変化はなかった。
キーラ:(まだなの?)
キーラは徐々に焦り始めていた。
ドラゴンは、一生のうちの大半を寝て過ごす。
しかし、体力が無いわけでは無い。
一度行動におよぶと不眠不休で行動できるのだ。
いざという時の為の睡眠という訳だ。
つまり、長期戦になればなるほど、こちらが不利になる。
それは明確な事実だった。
ザラスがいる状態で作戦の決行は勇気がいる。
万が一にも防がれたりしたら価値は限りなく零になってしまう。
この作戦はザラスが居ないと言う絶対条件が存在するのだ。
ドラゴンとの戦いは一進一退の攻防が続いた。
しかし、予想通りパインとアリスの剣は鱗に防がれていた。
そのとき、ザラスが異常な行動を始めた。
ドラゴンとの戦いを静観していたザラスは、キョロキョロと
辺りを見回し、そして突然その場から消え失せたのだ。
キーラは怒鳴った。
キーラ:「ザラスが居なくなったわ!!
作戦開始よ!!」
その声にゾルの血は沸き上がった。
頭の中にブレスへと続くドラゴンの前行動が浮かび上がる。
首を大きく引き、前に出すと同時にブレスを吐き出す。
ドラゴンの身体的構造の為か、大抵のドラゴンは
この様な行動の後にブレスを吐く。
確かにブレスは脅威でもあるが、この行動があるせいで、
準備を整えていれば受けきる事も可能となる*3。
ゾルは待った。
作戦開始の指示は受けたが、キーラより自信のあるタイミングで
行動するように言われていたからだ。
既に2回も行動開始を躊躇していた。
ゾルの躊躇の原因は、尾の攻撃だった。
2本の前足と違い、尾の攻撃は予測がつかないのだ。
さらにそのスピードである。
明らかに前足よりも速い攻撃であった。
尾の攻撃の合間を縫って行動を開始しなければならない。
そのタイミングがつかめないのだ。
キーラは、ゾルの焦りも理解していた。
ゾルの行動開始が遅れるほどに焦りが増えていくだろう。
この事は、事前にライと話し合い、
その状況に応じて行動するように指示していた。
そして、その時がやってきた。
ドラゴンがブレスを吐く動作にはいった。
ドラゴンの尾は、次の攻撃に移るべく待機している。
ライが動いた。
腰帯に差した短剣を抜き取るとドラゴンに向けて投げたのだ。
短剣は真直ぐにドラゴンに向かって飛んで行く。
ドラゴンはブレスに移る行動の途中で、
それを避ける事は困難だった。
そこで尾を使った。
尾はすごいスピードで短剣に向かい、そして弾き飛ばした。
その時、ドラゴンは気づいていなかった。
尾の影に隠れていた事も一つの要因だっただろう。
しかし、最も大きな要因は、意識が飛んで来る短剣へと
向かったことにある。
その一瞬の間に詰め寄られたのだ。
ドラゴンはブレスの動作を止める事ができなかった。
尾も次の動作へと移るために後方へと引いているところだった。
しかし、ドラゴンには攻撃を受けきる自信があった。
鱗で守られた身体に傷をつける事等不可能だと思っていた。
ドラゴンは、そのままブレスの動作を続けた。
その時、ゾルが飛び上がった。
ドラゴンは、顔の前に突然現れた男を凝視した。
剣を振りかぶり、目に一撃を与えようとしていることは
明白だった。
しかし、ドラゴンは知っていた。
顔にも鱗が存在する。
唯一ダメージを受ける場所は目だけだという事を。
この攻撃で片目を失うかもしれない。
ドラゴンは、男の剣の剣先を見てから、
目を閉じて顔を少し動かした。
ゾルの剣は、目をそれ、鼻の横に命中した。
ドラゴンは、その感覚を感じ攻撃を受けきったことを確信した。
*1:ファイアーウォール
言葉通り、炎の壁を出現させる呪文である。
LV4精霊魔法であり、術者の示した場所に炎の壁を作り出す
魔法である。
主に防御系として利用される。
*2:ファイアートルネード
炎の竜巻の事。
LV5精霊魔法であり、範囲呪文に分類される。
*3:受けきる事も可能となる
あくまでもブレスの種類が判明している場合の受けであり、
ブレスの種類が不明な場合はこの限りではない。




