潜入
ビックス、ライ、マッカス、シルカーの4人は
軍議室で待機していた。
マッカス:「なぁ、シルカー。」
シルカー:「どうした?」
マッカス:「ここから石櫓までの距離は非常に遠い。
見つからずに移動するのは、時間的にも距離的にも
かなり難しい。
マスターキーラは、石櫓までどうやって
行くつもりなのだろうか?」
シルカー:「そうだな。
まず転移魔法は無理だな。」
マッカス:「どうしてだ?」
シルカー:「転移魔法は、転受の魔法陣が必要なんだ。
転受の魔法陣の位置を知らなければ
移動することはできない。」
マッカス:「ほかには?」
シルカー:「フライの魔法だが、
今回フライの魔法を使えるのは2人だけだ。
本人以外を運ぶには無理がある。」
マッカス:「そうか。
では、ほかには?」
シルカー:「邪神魔法にゲートという魔法があるのだが、
本来この魔法は、召喚につかわれるんだ。」
マッカス:「召喚?」
シルカー:「精霊界や魔界等の異世界と我々の世界を接続して、
精霊や魔族を呼びだすんだ。
現世と現世を繋ぐことも可能なのだろうが、
実際に実行したというのを私は知らない。
残念ながら、4人を同時に運ぶ方法は
思い当たらない。」
そんな話をしていた時、キーラが軍議室に現れた。
キーラ:「準備が出来たわ。
一緒に来て頂戴。」
5人は、キーラに率いられるように廊下を進んで行った。
そして、一つの扉の前に到着した。
キーラが扉を開くとその先には、小さな部屋があった。
その光景にライは驚きの顔を見せた。
ビックスは、頷きながらニヤニヤと笑っている。
キーラは、4人を中に誘導した。
キーラ:「椅子にすわって。」
キーラは4人が椅子にすわるのを待ってから言った。
キーラ:「すこし揺れるかもしれないから気を付けてね。」
そしてキーラは、部屋を出て行った。
マッカス:「揺れる?
一体なにが起こると言うんだ。」
ライ:「少し気になる事がある。
通路からこの部屋に続く扉だが、俺の記憶が正しければ、
その扉はこの部屋ではなく、裏庭に続いていたはずだ。」
マッカス:「どういうことだ?」
相変わらずビックスはニヤニヤと笑っていた。
シルカー:「ビックス先生、何かご存じなのですか?」
ビックス:「そうじゃのー。
しばらく様子を見た方がいいじゃろうな。」
ビックスがそう言った時、部屋が大きく揺れ、
同時に部屋の中が光に包まれた。
「んっ?」
「どうした?」
「むぅ。」
「・・・」
そして、4人は意識を失った。
4人の意識が戻った時、そこは建物の中だった。
マッカスが辺りを見回すと、石壁で作られた円柱形の建物である
ことがわかった。
壁際に上へと続く階段がらせん状に続いていた。
他の者も辺りを見回し不思議がっていた。
キーラ:「ここは、目的の石櫓よ。
私は戻るけど、皆は調査を続けて。」
そう言い残すとキーラは、転移の魔法で消え失せた。
マッカス:「一体どうやって移動したんだ?」
ビックス:「フライの魔法だと思うぞ。」
シルカー:「フライですって?
しかし、マッカスとライは魔法を使えませんし、
フライで運ぶのは重量的に不可能だと思われますが。」
ビックス:「そうじゃの。
フライで4人運ぶなど、たとえ師匠だとしても
不可能じゃろうな。」
シルカー:「ではどうやって?」
ビックス:「ドールハウス*1じゃよ。」
シルカーはドールハウスと言う魔法を聞いたことが無かった。
シルカー:「ドールハウス?」
ビックス:「ドールハウスは魔法具じゃよ。
邪神魔法に分類される魔法を使用しておる。
ドールハウス内にいる生物を人形に変えるんじゃよ。
元々は侵入者用の罠として作ったんじゃが、
まさかこんな使い方をするとはのー。」
シルカー:「作った?
もしかして先生の作品ですか?」
ビックス:「師匠とわしの合作じゃな。」
シルカー:「そうでしたか。」
ライが2人に近づくと言った。
ライ:「そろそろいいか?
こっちに地下へと続く階段がある。」
4人はライの発見した階段を降りて行った。
階段を降りると目の前に金属で補強された扉があった。
シルカーが扉の前に歩み出て、何やら呪文を唱える。
シルカー:「どうやら、魔法や罠はかかっていないようだ。」
シルカーは続けて呪文を唱えた。
『カチッ。』
扉の鍵は音を立てて解錠された。
マッカス:「俺が先に行く。」
そう言うとマッカスは扉をゆっくりと開き、
扉の先を覗き込んだ。
扉の先には洞窟が続いていた。
シルカーとビックスが4人の剣の先端に明かりを灯した後、
部屋の中へと進んだ。
マッカス:「狭いな。」
シルカー:「あぁ。
壁面に人が掘った跡がある。
明らかに目的をもって掘られた物だ。
だとすると、脱出用に掘られた物に
間違いないだろう。」
ビックス:「わしも同じ意見じゃな。」
ライ:「という事は、正解ということだな。」
4人が洞窟を進むと、広い空洞に出た。
その広い空洞からは、四方八方に別の道が先へと続いてた。
ただ、1本だけ他の道よりも広い道があった。
マッカスは、扉の近くに散乱する骨を発見した。
マッカス:「おぃ、見ろ。
これは、人骨だな。」
ライ:「あぁ、間違いないな。
こんな場所にというのもあるが、量がすごい。
何人分あるのだろうか?」
シルカー:「あぁ、何があったのかは分からないが、
かなり昔のもので間違いないな。」
ビックス:「そうじゃな。
これ以上情報を得られんじゃろ。
先へ進むとしようかの。」
シルカー:「そうですね。」
マッカス:「なら、一番広い道が本道だろうから、
そこを進もう。」
シルカー:「いや、確かに本道かもしれないが、
他の道も調べた方がいいんじゃないか?」
ビックス:「そうじゃのー。
手分けして調べるかのー。」
シルカー:「そうですね。
二手に分かれて調べましょう。
あまり深追いはせずに決めた時間以上は
調査しない方針で。」
そして、ビックスとライ、マッカスとシルカーに分かれて
支道の調査が始まった。
4人はしばらく調査したあと約束の時間になった為、
最初の空洞へと戻った。
マッカス:「それで、どうだった?
こちらは、全て行き止まりか、
この空洞へと続いていた。」
ビックス:「こっちも、1本を除いて同じようなものじゃ。」
ライ:「あぁ、1本だけ、先へと続いている。」
シルカー:「そうですか。
では、本道とその支道を二手に分かれて
進んでみましょうか。」
ビックス:「そうじゃのー。
時間もないし、そうするのがいいかのー。」
そして、マッカスとシルカーが本道へ進み、ビックスとライが
支道を進むことになった。
ライは少し苛立っていた。
それはビックスの足取りが遅いためだ。
ライ:「ビックス爺さん、もう少し早く歩けないのか?」
ビックス:「すまんのー。
しかし、年寄はいたわるものじゃぞ。」
ライ:「もうすこし早く移動できる魔法はないのか?
たとえば、そうだ。
フライとか使えないのか?」
ビックス:「フライは使えるが、この狭さでは難しいかのー。」
ライ:「くそっ、じれったい。」
そう言うとライはビックスを持ち上げて背負った。
ビックス:「なっ、何をするんじゃ。」
ライ:「俺が運ぶから、しっかりと掴まってな。」
ライは暗い洞窟の中をビックスを背負い疾走し始めた。
その頃、マッカスとシルカーは本道を進んでいた。
剣先の灯りは通路の全てを照らすにはあまりにも弱かった。
数メートル先は暗闇に覆われており、2人が歴戦の冒険者で
無かったとしたら臆する事は間違いないだろう。
それほどまでに暗闇は人を恐怖へと誘う。
2人は、わずかな音も聞き逃さないように
聴覚を研ぎ澄ましていた。
視覚を奪われている以上、音に敏感になる事は当然ともいえる。
マッカス:「この感覚、久しぶりだ。」
シルカー:「あぁ、まさか再び味わえるとはな。」
マッカス:「冒険者をやめた事を後悔しているか?」
シルカー:「んー。
まだ分からん。」
マッカス:「俺は後悔している。
こんなゾクゾクとした感覚、
他では味わえないからな。」
シルカー:「あぁ、それには賛同しよう。」
マッカス:「だよな。
やっぱり、冒険は俺に合っている。」
シルカー:「私もそう思う。」
しばらく進むと、扉があった。
マッカスとシルカーは音を頼りに中の様子を探った。
2人の結論は中に人の気配は無いという事だった。
シルカーが魔法を唱え解錠する。
マッカスがゆっくりと扉を開けて中を覗き込む。
そこは小さな部屋だった。
いや部屋と呼ぶのは相応しくない。
家具など一切なく、あるのは反対側の扉だけだった。
マッカスは部屋の中を見回した後、
シルカーの方を見て頷いた。
そして部屋の中へと入る。
シルカーも後に続いた。
2人は、他の事には目もくれず、
真っ先に反対側の扉へと向かった。
その扉は、把手や鍵穴が無く、
開閉できるように作られていなかった。
しばらくしてシルカーが言った。
シルカー:「この扉には魔法が掛けられている。
解錠には少し時間がかかりそうだ。*2」
マッカス:「そうか。
ならば俺は壁を調べよう。*3」
シルカー:「頼んだ。」
丁度その頃、ビックスとライは行く手を遮られていた。
行く手を遮っていたのは、大小様々な石が積み上げられた
石垣だった。
ライ:「何故、こんなところに石垣が?」
ビックス:「明らかに人が積み上げたものじゃな。
少し調べてみるかの。」
そう言ってビックスはライの背中から降り、
石壁を丹念に調べ始めた。
そしてある部分に違和感を感じた。
ビックス:「すまんが、ここを照らしてくれ。」
ビックスはその部分を丹念に調べ始めた。
ライはビックスを見守るしかできなかった。
ビックスは、終いにはその大きな石に手をあて上下にゆする。
そして、ライの方を見ると言った。
ビックス:「この石を引き抜くことができるか?」
ライは最初ビックスの言っている意味が分からなかった。
しかし、ビックスの示した石の辺りを見るとその意味を察した。
その辺りの材質が明らかに他の石と違うのだ。
ライ:「やってみよう。」
ライは、両手を胸のあたりまで持ち上げた。
ビックスの見ている前で爪が伸びて行き、
2cm程伸びると止まった。
ビックス:「ほぅ。
便利なものじゃな。」
ライ:「あぁ、たまにはそう思うよ。」
ライは、その大きな石の隙間に爪を差し込み、
ゆっくりと引き抜こうとする。
ライ:「んっ?」
ライは直ぐに気が付いた。
その石が見た目以上に軽いのだ。
ズリズリと音を立てて石が引き抜かれた。
その石は薄く明らかにはめ込んだという物だった。
重さも10Kg程度というところだろうか。
成人男性であるならば、取り外す事も可能だろう。
空いた穴は腹ばいになれば、大人でも通り抜けることが可能な
大きさだった。
ライは取り外した石板を壁に立てかけると、
首を中にいれて中を確認した。
反対側にも石板らしき板が設置されている。
ライはそれを慎重に取り外した。
そして、身体を穴に滑り込ませる。
ライは、石垣の反対側に出ると辺りを見回した。
そこは、部屋の中だった。
ライは、剣を前に突き出し辺りを見回した。
真っ先に目に入ったのは石棺だった。
後から入ったビックスがライの横に立つとポツリと言った。
ビックス:「地下墓地のようじゃな。」
ライ:「あぁ、そのようだ。」
ビックスとライは地図を頭の中に描くと、現在の場所を探した。
先に声を上げたのはビックスだった。
ビックス:「首都の東の端の墓地のようじゃな。
用心するんじゃ。
死者の目の反応位置じゃ。」
その時、2人の背中に悪寒が走った。
同時にライが声を上げた。
ライ:「なんだあれは?」
そう言って剣を前方に突き出す。
剣先の明かりが、前方を照らす。
明かりの中に見えたのは、半透明な人の姿だった。
ビックス:「レイス*4か。」
その頃、マッカスとシルカーは、扉を開ける為に動いていた。
しかしどちらの作業も順調とは言えなかった。
マッカスが壁を調べていると、入った側の扉の先から
異音が聞こえた。
それは、カチャカチャと何か乾いた硬い物が
接触する時に発する様な音だった。
マッカス:「おぃ、シルカー。
なにか聞こえないか?」
シルカー:「すまないが、今は手が離せない。
1人で調べてくれ。」
マッカス:「そうだな。
わかった調べてこよう。」
マッカスは入ってきた扉を出ると洞窟を戻って行った。
しばらくしてシルカーは、呪文を唱えた。
「カチッ。」
シルカーの顔に笑みが浮かぶ。
同時に部屋の中が光に包まれた。
マッカスは、洞窟を戻って行った。
カチャカチャという音が大きくなるにしたがって、
進む速度は低下していく。
最後にはその場に静止し、剣を強く握りしめた。
しばらく待つと、剣先の明かりに音の正体が現れた。
それは、複数体のスケルトン*5だった。
複数体とあいまいなのは、明かりが届かない範囲にいるであろう
スケルトンの気配を感じるのだ。
マッカスは直ぐに動いた。
剣を下段に構えると、先頭のスケルトンめがけて剣を振るう。
マッカスの剣はスケルトンの腰骨を捕らえた。
攻撃を受けたスケルトンはバランスを崩し、
ガラガラと崩れ落ち、骨の山を作る。
次の瞬間、骨は浮かび上がり、何事も無かったように再生した。
マッカス:「むぅ、浅かったか。
それにしても、厄介な相手だ。」
ビックスとライは、レイスと戦っていた。
ライ:「おぃ、まだなのか!!」
ライはレイスから距離を取り、
レイスの攻撃を避けるのみだった。
レイスは霊体であり、通常の武器ではダメージを与える事が
不可能なのだ。
ビックス:「そうあせるな。
あとすこしじゃ。」
レイスの攻撃を受けると肉体的ダメージではなく、
精神的ダメージを受ける事になり、
短時間で死に至る事はないものの、次第に衰弱して行く。
現にビックスもライもレイスの攻撃を受け精神的なダメージを
既に負っていた。
しかし、それは目に見えるものではなく、
疲労という形で表れていた。
2人共それを自覚していたからこそ焦っていたのだ。
ビックスの身体が光に包まれ*6、光が地下墓地を包み込んだ時、
疲労は限界に達していた。
そして2人は、崩れ落ちるように倒れた。
*1:ドールハウス
魔法具の一つであり、罠の一つである。
特徴としては、大きさを自由に変えられることと、
魔法を発動すると部屋の内部に存在する生物を人形に変える。
人形になった生物は、ドールハウスの外にでると、
通常の状態に戻る。
*2:時間がかかりそうだ
物理的に施錠された鍵は魔法によって
簡単に解錠することができる。
しかし、魔法の掛けられた扉を無理やり開けるには、
魔法を解かなければならない。
そのためには掛けられている魔法を知らなければならない。
*3:壁を調べよう
扉には魔法がかけられている事が多々ある。
この場合開ける方法を設けるのが一般的であり、
それは巧妙に隠されている。
マッカスは、それを発見するために壁を調べ始めた。
*4:レイス
肉体と魂が分離することによって変貌してしまった姿であり、
魂の持ち主と同じ姿で現れる。
*5:スケルトン
人間のように動き回る骸骨であり、アンデットに分類される。
剣や盾を携帯することもある。
主要な骨が粉砕されない限り、何度でも復活する為、
非常に厄介な相手である。
神聖魔導士の浄化の魔法で一掃できる為、
パーティで行動する場合は、脅威になることは少ない。
*6:身体が光に包まれ
神聖魔法の浄化の呪文が発動した時に現れる現象である。
その光は、邪悪な霊体を浄化する。




