石櫓
次の日の朝、ドワーフ王がキーラ達の元へとやってきた。
ドワーフ王は一振りの剣と小さな壺を持っていた。
ゾルはその剣に注目した。
それは飾りなど何もない、いたって普通の剣に見えた。
ゾルはそこに剣の神聖さを見て取った。
美術品としてなら豪華であったり派手であったりした方が
良いだろうが、剣の性能としての良し悪しには、
見た目は含まれないのだ。
キーラ:「どうやら完成したようね。」
ドワーフ王:「時間はかかってしまったがな。」
そう言ってドワーフ王はキーラに小さな壺を渡した
キーラ:「ありがとう。
これでなんとかなりそうね。」
ゾル:「えっ?」
キーラが受け取ったのは剣ではなく、小さな壺であることに
ゾルは驚いた。
ゾル:「マスターキーラ。
まっ、まさか、ドラゴンキラーというのは
剣のことではないんですか?」
キーラ:「えっ。
剣では無いわよ。
もしかして、剣だと思ったの?
ドラゴンキラーというのは、この壺の中身よ。
人間には無毒だけど、
ドラゴン族にとってこれは毒なのよ。
これを塗った武器でドラゴンに傷をつければ、
ドラゴンは動けなくなるわ。」
ゾル:「・・・」
その返答にゾルは明らかに落ち込んでいた。
うなだれ、今にも座り込みそうだった。
パイン:「しかし、どうやってドラゴンに傷を?
鱗を突破するのは無理があります。」
キーラ:「それについては後で説明するわ。」
ドワーフ王が、落ち込んでいるゾルに近づき言った。
ドワーフ王:「ゾルと言ったな。
そなたにこの剣を授けよう。
雷剣*1だ。」
うなだれていたゾルは、雷剣という言葉に
反応し差し出された剣を凝視した。
ゾルは、その名称に食いついた。
ゾル:「雷剣!?」
ドワーフ王:「この剣は、ドワーフに伝わる七宝剣*2の1本。
キーラと共にブラックドラゴンに挑んだ時に
使った剣だ。」
ゾル:「どんな能力があるんですか?
雷を呼び出すとかですか?」
ドワーフ王:「そこまですごい剣ではない。
そうだな、あえて言うなら雷の力で
相手の動きを一瞬止めるだろうな。」
ゾルは、地味な能力にまた落ち込んだ。
そんなゾルを見てキーラが言った。
キーラ:「あら、ゾル。
よかったじゃない。
この剣はすごいわよ。
派手な剣ではないけれど局面を変えられる剣よ。」
ゾル:「局面を変える?」
キーラ:「そうよ。
相手の魔法の詠唱を止めたり、
相手の動きを封じたりできれば、
一瞬で局面が逆転すると思わない?」
ゾルは少し考えて答えた。
ゾル:「確かにそうですね。」
キーラ:「そう。
貴方が局面を変える力を持つのよ。」
ゾル:「局面を変えるか。
うん。
ドワーフ王。
ありがとうございます。
謹んで頂戴いたします。」
ゾルはそう言ってドワーフ王に頭を下げた。
キーラ:「それじゃあ、戻りましょうか。」
キーラとドワーフ王は、
意気揚々と出口へ向かうゾルを見ていた。
ドワーフ王:「これでよかったのか?」
キーラ:「えぇ、ありがとう。
これで、また一つ駒が揃ったわ。」
キーラは砦へ戻ると、すぐにビックスの元へと向かった。
部屋に入ると、ビックスが頭を抱えているのが見えた。
キーラ:「ビックス。
状況はどう?」
ビックス:「おぉ、師匠。
丁度良いところへ。」
キーラ:「丁度良い?
なにかあったの?」
ビックス:「死者の目は正常に稼働できたのじゃが。」
キーラ:「じゃが?
ハッキリ言って。」
ビックス:「反応数が多すぎるんじゃ。」
キーラ:「幾つ反応したの?」
ビックス:「10以上じゃよ。」
キーラ:「あら。
それは多すぎるわね。
それで選別することはできそう?」
ビックス:「ある程度までは選別できてはいるのじゃが、
最後まで選別できてはおらんのじゃよ。」
キーラ:「そう。
それで、幾つ残っているの?」
ビックス:「全く動きが無い物は7つじゃ。」
キーラ:「あら。
たった7つなの。
なら、直接見てくればいいわね。」
ビックス:「それができるのならば、それが一番なのじゃが。」
キーラ:「反応した場所を地図に起こしてもらえるかしら。」
ビックス:「それなら、もう終わったぞ。」
キーラ:「さすがね。
なら、問題はどうやって城壁の内側に潜り込むかね。」
キーラは、関係者を集めると軍議を始めた。
キーラ:「首都バーランドにどうやって潜り込めばいいか、
意見を聞かせてほしいの。」
ジェイク:「物見の報告では、南門以外は閉じております。」
キーラ:「さすがに堂々と門から入る訳にはいかないわよね。
他に入る方法は無いのかしら?」
軍議の場に長い沈黙が訪れた。
そんな中、ケインが口を開いた。
ケイン:「よろしいですか?」
キーラ:「良い方法がある?」
ケイン:「いえ。
これは、あくまでも想像なのですが。」
ジェイク:「想像だと?
そのような事、この場で話す事ではないだろう?」
キーラ:「想像ね。
面白いわね。」
ジェイク:「しかし、想像ですよ。」
キーラ:「想像するということは、そこに至る何かしらの理由が
存在するのよ。
その理由を聞かなければ真偽の判断は出来ないわ。
それで、ケイン。
どんな話なの?」
ケイン:「はい。
今回の宮殿からの脱出で、私は魔導学院へ抜ける道を
進みました。
道は本道のみで真直ぐだったのですが、
魔導学院への出口付近で本道が落盤があったように
塞がれていたのです。」
キーラ:「それで?」
ケイン:「私は子供の頃、魔導学院の近くに住んでいましたが、
その頃、魔導学院は敷地の東側に大規模な拡張工事を
始めました。
その工事の途中で、地面の陥没事故が発生したのです。
調査が行われた後、拡張工事は中止になりました。
父は不思議がっていました。
何年も前から計画されていた工事が、
何故急に中止になったのかと。
今考えると、知られてはならない何かが
起こったのではないかと思うのです。」
キーラ:「なるほど。
陥没した場所が脱出用の地下通路で、
それで、工事が中止になったという事ね。」
ケイン:「はい。
そうです。」
キーラ:「ビックス。
地図があったわよね。
見せてもらえる?」
ビックスは、キーラの目の前に地図を広げた。
キーラは、地図を見ると、宮殿と魔導学院を
直線で結んだ線を引き、その先をさらに伸ばした。
地図上に伸ばした直線は、城壁の外で建物と思われる何かの上を
通過していた。
キーラ:「この印は何かしら?」
ケイン:「あぁ、それは、石櫓*3ですね。
今は使われておらず、封鎖されているはずです。」
キーラ:「ふーん。
封鎖ねぇ。
元々の地下通路が石垣まで続いてたと仮定した場合、
陥没事故で封鎖されてしまい、止むを得ず魔導学院に
経路を変更したと考えれば辻褄もあうわね。
もし、そうだとしたら、この石櫓があやしいわね。
ここを調べてみる価値はありそうね。」
マッカス:「それならば、自分にやらせてくれ。
ここに居てももうできる事は無い。」
キーラ:「そうね。
首都の街並みに詳しい人がいいわね。」
マッカス:「それなら大丈夫だ。
冒険者時代に何度も訪れている。」
キーラ:「んーっ。」
その時、軍議室の扉が開き、全ての者が扉に注目した。
開いた扉の前には、1人の男が立っていた。
まっさきに声を上げたのは、マッカスだった。
マッカス:「シルカーじゃないか。
どうしてここに?」
シルカー:「魔導士を要求されたんだが、
何かが始まりそうな予感がしたので、
大公に無理を言って、その中に含めてもらったんだ。
どうだ、良い勘してるだろ?」
マッカス:「あぁ、まったくだ。
その勘に何度助けられたことか。」
シルカーはビックスを見て驚いた。
シルカー:「ビックス先生じゃないですか?
シルカーですよ。」
キーラ:「知り合いなの?」
ビックス:「シルカー?
おぉ、お主シルカーか。
立派になったのー。」
シルカー:「はい。
おかげ様でマスターになる事ができました。
まさか、先生がマスターキーラともお知り合いだとは
思いませんでした。」
ビックス:「んっ?
わしの師匠じゃよ。」
シルカー:「そうだったんですか。」
キーラ:「へーっ。
ちゃんと約束を守ってたんだ。」
ビックス;「当然じゃよ。
晴れの日に雷に打たれたくないからの。」
パイン:「えっ、師匠。
そんなことをしたんですか?」
キーラは、ビックスをひと睨みすると笑顔で言った。
キーラ:「馬鹿ね。
そんなことするわけないでしょ。」
シルカー:「マスターキーラ。」
キーラ:「なにかしら?」
シルカー:「まず、進軍の件ですが、協議が纏まらない状況です。
何人かの貴族が不審な行動をしており、
もうしばらくかかるでしょう。」
キーラ:「やっぱりね。
こちらの情報が流れている可能性があったしね。
まあ、そちらは任せるしかないわね。」
シルカー:「ところで今回の作戦に、
私を参加させていただけますか?」
キーラは、シルカーの申し出に驚いた。
キーラ:「えっ、それは助かるけど、
どうして参加する気になったの?」
シルカー:「マッカスが参加すると聞いて、
冒険者時代の事を思い出したんですよ。」
キーラ:「なるほどね。
ただでさえ魔導士が少なかったから、
とても助かるわ。
ところで、何人連れて来てくれたの?」
シルカー:「私を含め、公国から10人、王国から20人です。
但し、他の者は中位(LV3)魔導士の為、
特殊任務には不向きでしょう。」
キーラ:「十分ね。
さて、話に戻るわね。
首都メルトニアに詳しい人は?」
その質問に手をあげたのは、
ジェイク、ケイン、アンナ、ビックス、ライ、マッカス、
シルカーの7人だった。
キーラ:「そうね。
できれば、身バレしにくい人がいいわね。
それじゃあ、4人におねがいするわ。
そしてペアで行動してちょうだい。
ペアを言うわね。
ビックスとライ。
マッカスとシルカー。」
ビックス:「なんじゃい。
わしも行くのか?」
キーラ:「当然でしょ。
魔法具無で見えるんだから。」
ビックス:「まあ、そうじゃの。」
キーラ:「じゃあ、シルカーにはマッカスが説明しておいて。」
マッカス:「了解した。
ところで、どうやって石櫓まで移動するんだ?
ここからは、距離がありすぎるぞ。」
キーラ:「えぇ、それについては、考えがあるわ。
準備が必要だから、調査メンバーは、
しばらくここに待機していて。」
そう言って、キーラは部屋を後にした。
*1:雷剣
ドワーフに伝わる七宝剣の1本。
雷の力を付与した剣。
*2:七宝剣
ドワーフ族に伝わる7本の剣。
火水土風氷雷幻の力が付与されている。
*3:石櫓
防御や物見のために建てられた仮設または常設の建築物。




