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グレイグ  作者: 夢之中
43/52

石櫓



次の日の朝、ドワーフ王がキーラ達の元へとやってきた。

ドワーフ王は一振りの剣と小さな壺を持っていた。

ゾルはその剣に注目した。

それは飾りなど何もない、いたって普通の剣に見えた。

ゾルはそこに剣の神聖さを見て取った。

美術品としてなら豪華であったり派手であったりした方が

良いだろうが、剣の性能としての良し悪しには、

見た目は含まれないのだ。


キーラ:「どうやら完成したようね。」

ドワーフ王:「時間はかかってしまったがな。」

そう言ってドワーフ王はキーラに小さな壺を渡した

キーラ:「ありがとう。

    これでなんとかなりそうね。」

ゾル:「えっ?」

キーラが受け取ったのは剣ではなく、小さな壺であることに

ゾルは驚いた。

ゾル:「マスターキーラ。

   まっ、まさか、ドラゴンキラーというのは

   剣のことではないんですか?」

キーラ:「えっ。

    剣では無いわよ。

    もしかして、剣だと思ったの?

    ドラゴンキラーというのは、この壺の中身よ。

    人間には無毒だけど、

    ドラゴン族にとってこれは毒なのよ。

    これを塗った武器でドラゴンに傷をつければ、

    ドラゴンは動けなくなるわ。」

ゾル:「・・・」

その返答にゾルは明らかに落ち込んでいた。

うなだれ、今にも座り込みそうだった。

パイン:「しかし、どうやってドラゴンに傷を?

    鱗を突破するのは無理があります。」

キーラ:「それについては後で説明するわ。」


ドワーフ王が、落ち込んでいるゾルに近づき言った。

ドワーフ王:「ゾルと言ったな。

      そなたにこの剣を授けよう。

      雷剣(サンダーソード)*1だ。」

うなだれていたゾルは、雷剣(サンダーソード)という言葉に

反応し差し出された剣を凝視した。

ゾルは、その名称に食いついた。

ゾル:「雷剣(サンダーソード)!?」

ドワーフ王:「この剣は、ドワーフに伝わる七宝剣*2の1本。

      キーラと共にブラックドラゴンに挑んだ時に

      使った剣だ。」

ゾル:「どんな能力があるんですか?

   雷を呼び出すとかですか?」

ドワーフ王:「そこまですごい剣ではない。

      そうだな、あえて言うなら雷の力で

      相手の動きを一瞬止めるだろうな。」

ゾルは、地味な能力にまた落ち込んだ。

そんなゾルを見てキーラが言った。

キーラ:「あら、ゾル。

    よかったじゃない。

    この剣はすごいわよ。

    派手な剣ではないけれど局面を変えられる剣よ。」

ゾル:「局面を変える?」

キーラ:「そうよ。

    相手の魔法の詠唱を止めたり、

    相手の動きを封じたりできれば、

    一瞬で局面が逆転すると思わない?」

ゾルは少し考えて答えた。

ゾル:「確かにそうですね。」

キーラ:「そう。

    貴方が局面を変える力を持つのよ。」

ゾル:「局面を変えるか。

   うん。

   ドワーフ王。

   ありがとうございます。

   謹んで頂戴いたします。」

ゾルはそう言ってドワーフ王に頭を下げた。

キーラ:「それじゃあ、戻りましょうか。」

キーラとドワーフ王は、

意気揚々と出口へ向かうゾルを見ていた。

ドワーフ王:「これでよかったのか?」

キーラ:「えぇ、ありがとう。

    これで、また一つ駒が揃ったわ。」



キーラは砦へ戻ると、すぐにビックスの元へと向かった。

部屋に入ると、ビックスが頭を抱えているのが見えた。

キーラ:「ビックス。

    状況はどう?」

ビックス:「おぉ、師匠。

     丁度良いところへ。」

キーラ:「丁度良い?

    なにかあったの?」

ビックス:「死者の目は正常に稼働できたのじゃが。」

キーラ:「じゃが?

    ハッキリ言って。」

ビックス:「反応数が多すぎるんじゃ。」

キーラ:「幾つ反応したの?」

ビックス:「10以上じゃよ。」

キーラ:「あら。

    それは多すぎるわね。

    それで選別することはできそう?」

ビックス:「ある程度までは選別できてはいるのじゃが、

     最後まで選別できてはおらんのじゃよ。」

キーラ:「そう。

    それで、幾つ残っているの?」

ビックス:「全く動きが無い物は7つじゃ。」

キーラ:「あら。

    たった7つなの。

    なら、直接見てくればいいわね。」

ビックス:「それができるのならば、それが一番なのじゃが。」

キーラ:「反応した場所を地図に起こしてもらえるかしら。」

ビックス:「それなら、もう終わったぞ。」

キーラ:「さすがね。

    なら、問題はどうやって城壁の内側に潜り込むかね。」



キーラは、関係者を集めると軍議を始めた。

キーラ:「首都バーランドにどうやって潜り込めばいいか、

    意見を聞かせてほしいの。」

ジェイク:「物見の報告では、南門以外は閉じております。」

キーラ:「さすがに堂々と門から入る訳にはいかないわよね。

    他に入る方法は無いのかしら?」

軍議の場に長い沈黙が訪れた。

そんな中、ケインが口を開いた。

ケイン:「よろしいですか?」

キーラ:「良い方法がある?」

ケイン:「いえ。

    これは、あくまでも想像なのですが。」

ジェイク:「想像だと?

     そのような事、この場で話す事ではないだろう?」

キーラ:「想像ね。

    面白いわね。」

ジェイク:「しかし、想像ですよ。」

キーラ:「想像するということは、そこに至る何かしらの理由が

    存在するのよ。

    その理由を聞かなければ真偽の判断は出来ないわ。

    それで、ケイン。

    どんな話なの?」

ケイン:「はい。

    今回の宮殿からの脱出で、私は魔導学院へ抜ける道を

    進みました。

    道は本道のみで真直ぐだったのですが、

    魔導学院への出口付近で本道が落盤があったように

    塞がれていたのです。」

キーラ:「それで?」

ケイン:「私は子供の頃、魔導学院の近くに住んでいましたが、

    その頃、魔導学院は敷地の東側に大規模な拡張工事を

    始めました。

    その工事の途中で、地面の陥没事故が発生したのです。

    調査が行われた後、拡張工事は中止になりました。

    父は不思議がっていました。

    何年も前から計画されていた工事が、

    何故急に中止になったのかと。

    今考えると、知られてはならない何かが

    起こったのではないかと思うのです。」

キーラ:「なるほど。

    陥没した場所が脱出用の地下通路で、

    それで、工事が中止になったという事ね。」

ケイン:「はい。

    そうです。」

キーラ:「ビックス。

    地図があったわよね。

    見せてもらえる?」

ビックスは、キーラの目の前に地図を広げた。

キーラは、地図を見ると、宮殿と魔導学院を

直線で結んだ線を引き、その先をさらに伸ばした。

地図上に伸ばした直線は、城壁の外で建物と思われる何かの上を

通過していた。

キーラ:「この印は何かしら?」

ケイン:「あぁ、それは、石櫓(いしやぐら)*3ですね。

    今は使われておらず、封鎖されているはずです。」

キーラ:「ふーん。

    封鎖ねぇ。

    元々の地下通路が石垣まで続いてたと仮定した場合、

    陥没事故で封鎖されてしまい、止むを得ず魔導学院に

    経路を変更したと考えれば辻褄もあうわね。

    もし、そうだとしたら、この石櫓があやしいわね。

    ここを調べてみる価値はありそうね。」

マッカス:「それならば、自分にやらせてくれ。

     ここに居てももうできる事は無い。」

キーラ:「そうね。

    首都の街並みに詳しい人がいいわね。」

マッカス:「それなら大丈夫だ。

     冒険者時代に何度も訪れている。」

キーラ:「んーっ。」

その時、軍議室の扉が開き、全ての者が扉に注目した。

開いた扉の前には、1人の男が立っていた。

まっさきに声を上げたのは、マッカスだった。

マッカス:「シルカーじゃないか。

     どうしてここに?」

シルカー:「魔導士を要求されたんだが、

     何かが始まりそうな予感がしたので、

     大公に無理を言って、その中に含めてもらったんだ。

     どうだ、良い勘してるだろ?」

マッカス:「あぁ、まったくだ。

     その勘に何度助けられたことか。」

シルカーはビックスを見て驚いた。

シルカー:「ビックス先生じゃないですか?

     シルカーですよ。」

キーラ:「知り合いなの?」

ビックス:「シルカー?

     おぉ、お主シルカーか。

     立派になったのー。」

シルカー:「はい。

     おかげ様でマスターになる事ができました。

     まさか、先生がマスターキーラともお知り合いだとは

     思いませんでした。」

ビックス:「んっ?

     わしの師匠じゃよ。」

シルカー:「そうだったんですか。」

キーラ:「へーっ。

    ちゃんと約束を守ってたんだ。」

ビックス;「当然じゃよ。

     晴れの日に雷に打たれたくないからの。」

パイン:「えっ、師匠。

    そんなことをしたんですか?」

キーラは、ビックスをひと睨みすると笑顔で言った。

キーラ:「馬鹿ね。

    そんなことするわけないでしょ。」

シルカー:「マスターキーラ。」

キーラ:「なにかしら?」

シルカー:「まず、進軍の件ですが、協議が纏まらない状況です。

     何人かの貴族が不審な行動をしており、

     もうしばらくかかるでしょう。」

キーラ:「やっぱりね。

    こちらの情報が流れている可能性があったしね。

    まあ、そちらは任せるしかないわね。」

シルカー:「ところで今回の作戦に、

     私を参加させていただけますか?」

キーラは、シルカーの申し出に驚いた。

キーラ:「えっ、それは助かるけど、

    どうして参加する気になったの?」

シルカー:「マッカスが参加すると聞いて、

     冒険者時代の事を思い出したんですよ。」

キーラ:「なるほどね。

    ただでさえ魔導士が少なかったから、

    とても助かるわ。

    ところで、何人連れて来てくれたの?」

シルカー:「私を含め、公国から10人、王国から20人です。

     但し、他の者は中位(LV3)魔導士の為、

     特殊任務には不向きでしょう。」

キーラ:「十分ね。

    さて、話に戻るわね。

    首都メルトニアに詳しい人は?」

その質問に手をあげたのは、

ジェイク、ケイン、アンナ、ビックス、ライ、マッカス、

シルカーの7人だった。

キーラ:「そうね。

    できれば、身バレしにくい人がいいわね。

    それじゃあ、4人におねがいするわ。

    そしてペアで行動してちょうだい。

    ペアを言うわね。

    ビックスとライ。

    マッカスとシルカー。」

ビックス:「なんじゃい。

     わしも行くのか?」

キーラ:「当然でしょ。

    魔法具無で見えるんだから。」

ビックス:「まあ、そうじゃの。」

キーラ:「じゃあ、シルカーにはマッカスが説明しておいて。」

マッカス:「了解した。

     ところで、どうやって石櫓まで移動するんだ?

     ここからは、距離がありすぎるぞ。」

キーラ:「えぇ、それについては、考えがあるわ。

    準備が必要だから、調査メンバーは、

    しばらくここに待機していて。」

そう言って、キーラは部屋を後にした。



*1:雷剣

 ドワーフに伝わる七宝剣の1本。

 雷の力を付与した剣。



*2:七宝剣

 ドワーフ族に伝わる7本の剣。

 火水土風氷雷幻の力が付与されている。


*3:石櫓

 防御や物見のために建てられた仮設または常設の建築物。



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