ザラス
次の日の朝、キーラ、ゾル、ライは目を覚ました。
人狼の再生能力は尋常ではなかった。
それはパインに与えられた能力に匹敵する力だった。
キーラは、目を覚ますとすぐに動いた。
主要なメンバーを集めると軍議を始めた。
パイン:「師匠。
もう大丈夫なんですか?」
キーラ:「えぇ、大丈夫よ。
魔力不足が原因だからね。
ゾルも同じよ。
連日のフライの魔法で、かなり魔力が減っていたしね。
私の場合、魔晶石が補助してくれたしね。
ライは人狼だけあって、凄い再生能力ね。
さて、話を変えましょう。
話を聞く限り、ドラゴンはザラスの手に落ちたと
思った方がいいわね。」
ライ:「あぁ。
ザラスは間違いなく、何かしらの儀式を行っていた。」
キーラ:「そう。
これで確定ね。
間違いなくザラスは死んでいるわね。」
ライ:「んっ?
何を言っているんだ。
ザラスが生きている事は俺自身が人狼化している事で
証明されている。」
キーラ:「あぁ、そうね。
言い方を変えましょう。
肉体は死んでいる。
でも魂は生きている。」
ライ:「どういう意味だ?」
キーラ:「ザラスは元々精霊魔導士なのよ。
そして挫折して邪神魔導士になったのよ。
そのためには、精霊との契約を解除して、
邪神と契約しなければならないの。
そうしないと上位(LV4以上)の魔法は使えないわ。
パイン。
精霊との契約は済ませているわよね。」
パイン:「はい。
魔法学院の卒業時に済ませました。」
キーラ:「契約の時に何をした?」
パイン:「契約書に自分の血で署名しました。」
キーラ:「そうね。
契約は、魂の契約なの。
契約が解除される時は、自ら契約を解除するか、
あるいは、死んで魂が解放されるかしかないわ。」
ライ:「ザラスの魂が生きているから呪いが解けないと?」
キーラ:「そう。
ザラスは、肉体的には死んでいるけど、
魂は解放されていない状態なの。」
ゾル:「それってまさか。
リッチ*1?」
キーラ:「そう。
ザラスはリッチになったのよ。」
ライ:「リッチになるとどうなるんだ。」
キーラ:「さっき契約しなければ上位(LV4以上)の魔法を
行使できないと言ったけど、
実は行使する方法はあるのよ。
それは、リッチになる事。
リッチは特殊でね。
生前に覚えた全ての魔法を契約無に行使できるの。」
パイン:「えっ。
それって、邪神魔法と精霊魔法の両方をLV5まで
使えるってことですか?」
キーラ:「そう言う事になるわね。」
ゾル:「んーっ。」
キーラ:「さらに、ドラゴンを従えた。
これは、最悪ね。」
ライ:「キーラ、何故ザラスの事をそこまで知っている?」
キーラ:「そうね。
話す機会かもしれないわね。」
そう言ってキーラはザラスの事を話始めた。
=====
私が初めて魔法を習ったのは、
モーリーという魔導士の元だったの。
この頃は魔導学院なんかは無くて、高名な魔導士の元で
弟子として修業をするのが一般的だったのよ。
モーリーの元には多くの弟子がいたけど、
その中の一人にザラスがいたの。
ザラスは弟子の中でも秀逸であり、
大魔導士の卵と呼ばれるほどだったわ。
しかし、不幸は突然訪れたの。
ザラスがLV5の魔法を修得しているときにそれは起こったわ。
ザラスが修行中に突然倒れたのよ。
モーリーは、ザラスを調べたわ。
そして身体を見た時に悟ったの。
ザラスは、魔法耐性が低いという事をね。
魔法を行使する為には、魔力を一か所に集める必要があるの。
この時、集約した魔力が術者の肉体にも
少なからず影響を及ぼすのよ。
LVが上がるに従い影響力は増大するわ。
ザラスは、悲鳴を上げる肉体を抑え込んで
修行をしていたの。
モーリーは真実を知って、魔法耐性の説明を怠ったことを
謝罪した上でザラスにそれを説明したわ。
次の日ザラスはモーリーの元を去ったの。
そして次にザラスの事を知った時は、
邪神魔導士のザラスだったわ。
=====
パインは、この話を聞いて初めて魔法耐性の重要性を
認識したのだった。
パイン:「何故、邪神魔導士なのでしょう?」
キーラ:「邪神魔法は、そのほとんどが儀式を行うの。
そして媒体となる物を必要とするの。
精霊魔法の場合は、その媒体が術者の肉体という訳ね。」
パイン:「そうか。
魔力の影響を受けるものを術者の肉体から他の媒体に
変えたというわけですね。」
キーラ:「そう言う事ね。
ザラスはその負荷軽減の為に魔晶石を
手に入れようとしていたと思っているわ。
もう一度精霊魔導士に戻ろうとしたのかもしれないわ。
私が魔法防壁を発動するために、魔晶石の粉末を
ばらまいたの見ていたでしょ。
あれと同じことよ。
そして、最後にザラスを見たのは
火口に落ちて行く姿だった。
私は、彼は亡くなったと思っていたわ。」
パイン:「なるほど。」
ライ:「それで、どうすればザラスを倒す事ができる?」
キーラ:「リッチであるならば、肉体をいくら倒しても
復活してしまうわ。
そもそも死体だしね。
魂はフィラクテリーという魔法具に封印されているの。
この魔法具を破壊すれば倒す事が可能よ。」
パイン:「さすが師匠ですね。
邪神魔法にも詳しいのですね。」
キーラ:「えっ、そうね。」
ライ:「それで、その魔法具は何処にある?」
キーラ:「残念だけど、まだ分からないわ。」
ライ:「そうか。
では、見つける方法は無いのか?」
キーラ:「方法は無いわけでは無いわ。」
ライ:「では、指示してくれ。
俺がそれをやろう。」
キーラ:「そうねぇ。
一つ条件があるわ。」
ライ:「なんだ?」
キーラ:「場所が分かったとしても、
指示があるまで行動に出ないこと。」
ライ:「どうしてだ。」
キーラ:「ダミーが数多くあるからよ。」
ライ:「ダミーだと?」
キーラ:「そう。
大切なものを守るためにダミーを作っているはずよ。
本物を含めて多くても5つね。」
ライ:「もっと多く作っている事は無いのか?」
キーラ:「ダミーも魂を必要とするから限界があるのよ。
6割以上の魂が存在していないと生存できないし、
ダミーを1つ作るのに魂を1割必要とするわ。
それに、魔法具を壊すと
ザラスは直ぐに知る事ができるのよ。」
ライ:「壊されたのを知ったら移動されてしまうという事か?」
キーラ:「いえ。
本物もダミーも一度設置したら移動できないの。
移動するためには、
時間をかけて儀式をしないといけないの。
恐ろしいのは、リッチが瞬時に設置場所に
転移できるという事よ。
警戒されたら、この作戦は失敗に終るわ。」
ライ:「だとすると、ザラスを倒し復活するまでの間に
魔法具を破壊するということか?」
キーラ:「その通りよ。
それしか方法は無いわ。
ただ、、、。」
ライ:「ただ?」
キーラ:「私は、リッチでもないし、
リッチと戦った事もない。
その全てを知っているわけでは無いわ。」
ライ:「なるほど。
キーラの知らない何かがあるかもしれないということか。
そればかりはどうしようもないな。」
キーラ:「えぇ、その場で対処するしかないでしょうね。
今は、この事を議論するのはやめましょう。」
ライ:「ところで、魔法具を見つける方法が
あると言っていたが、どうすればいいんだ?」
キーラ:「そうね。
まずは、お使いに行ってもらおうかしらね。」
数分後、ライとアンナは、ドリム公国にいた。
途中2人は別れ、アンナはドリム大公の元へと向かった。
ドリム大公はアライン、エレナと会談中であった。
ドリム:「なにっ、アンナが戻ったと。
直ぐにここに連れてくるのだ。」
そしてアンナは、ドリム、アライン、エレナのいる部屋へと
招かれた。
アンナ:「マスターキーラからの書状です。」
そう言って書状をドリム大公に渡した。
アンナ:「アライン様もご覧になり返答をお願いします。」
書状には以下の内容が書かれていた。
・1-2日の間に人魚の涙砦にメルトニア兵が投降を始めるので
投降兵を纏めた上で反撃を検討してほしい。
作戦開始時期については別途相談したい。
・王国、公国内にゴルザの間者が入り込んでいる可能性が高く、
反対する者達の中に仲間がいるだろう。
ゴルザは既に敵の手に落ちている。
ドリム:「わかった。
キーラに直ぐに検討すると伝えてくれ。」
アライン:「私は、すぐに砦に向かうとしよう。」
アンナはその言葉を聞くと、一礼して部屋を出ようとした。
後ろから小走りに近づいてくる足音がする。
アンナが振り返るとエレナが立っていた。
エレナ:「アンナ。」
アンナ:「エレナ様。」
エレナ:「無事でよかった。」
アンナ:「心配していただき、ありがとうございます。
何時の日か、必ず戻ります。
その時はまた護衛をさせて頂いてもよろしいですか?」
エレナ:「もちろんよ。
その時は絶対にお願いするわ。」
アンナ:「それを聞いて安心しました。
仲間が待っていますので、これで失礼します。」
そしてアンナは一礼した後、部屋を後にした。
その頃、ライはビックス魔道具店の前に立っていた。
ライ:「ここか。」
扉を開け、中に入ると一人の老人がいた。
老人は、ライを見るなり驚きに満ちた顔をして言った。
ビックス:「お主、人狼じゃな。」
ライは驚いた。
一見で見破られたのは初めてだった。
ビックス:「何をしに来られた。
わしの命を所望かな?」
ライは、その言葉にさらに驚いた。
ライ:「いっ、いや、そうではない。
魔道具を買いに来たのだ。」
ビックスは、ニッコリと笑顔を返した。
ビックス:「それで、何を御所望ですかな?」
ライは、黙って紙きれを手渡す。
そこには、
・死者の目の力を持った魔導具 あるだけ
・銀製品 あるだけ
と書かれていた。
ライは、続けて、小さな小袋を渡した。
ビックスはそれを受け取ると中をみた。
そこには多数の千年草の実が入っていた。
ビックスはライを人睨みすると言った。
ビックス:「お主、これをどこで手に入れたんじゃ?」
ライ:「そうだ。
伝言を頼まれていた。
よく意味がわからんが、
『マリオネットの舞台は大成功したわ。』
だったかな?」
ビックス:「なるほど。
そういうことじゃな。
師匠はリッチと戦う事になったといわけか。」
ライ:「良く分かったな。」
ビックス:「これでも大魔導士の弟子じゃぞ。
魔導具に関してはわしが一番じゃしな。」
ライ:「代金はそれで足りるのか?」
ビックス:「十分じゃ。
それよりも手伝ってくれ。
商品が多すぎる。」
ライが大きな袋を手に持ち、その中にビックスが銀製品を
放り込んで行く。
ライ:「ところで爺さん。」
ビックス:「店名は見なかったのか?
わしはビックスじゃ。」
ライ:「すまないビックス。
最初に会った時、何故俺が人狼だと分かった?」
ビックス:「そうじゃな。
人以外を見分ける目を持っているとでも
言っておくかの。」
ライ:「生まれつきなのか?」
ビックス:「そうじゃな。
生まれついての能力じゃな。」
ライ:「そうか。」
ビックス:「さて、これで終いじゃな。
入口で待っていてくれ。」
ライが入口で待っていると、ビックスが頭ほどの大きさの袋を
手に持って現れた。
そして、玄関のカギを締めた。
ライ:「もう店じまいか?」
ビックス:「何を言っとるんじゃ、わしも行くんじゃよ。」
*1:リッチ
高位の魔導士が強力な魔法で自分自身の体をアンデッドに
変えることで生まれる。
リッチは生前に覚えた魔法を契約することなく全て
使用する事が可能となる。
自身の魂はフィラクテリーと呼ばれる魔法具に
封じ込められる。
このため、物質的なリッチを倒したとしても、
10日前後で完全復活することになる。
復活を阻止する為には魔法具を
破壊する以外には方法はない。
フィラクテリーには種類制限はなく、
生命を持つ物以外であれば、
小箱であったり、指輪やアミュレットであったりと
様々な物を使用することが出来る。




