襲来
キーラとゾルが砦の近くまで戻ると、砦から煙が上がっていた。
キーラとゾルは何事かと思い急いで砦へと向かった。
そして砦内の広場へと降り立った。
広場には多くの人々が集まり大騒ぎだった。
キーラは、広場にジェイクを見つけ、問いただした。
キーラ:「一体何があったの?」
ジェイク:「ドラゴンが城壁を登って砦内に入ってきたのです。」
キーラ:「なんですって!!」
ジェイク:「パイン殿達のおかげで、何とか退治したのですが、
皆怯えてしまって。」
キーラ:「それで、どんなドラゴンだったの?」
その時、パインが歩いているのが見えた。
キーラ:「パイン!!
ちょっと!!」
その声にパインはキーラの元へと走ってきた。
パイン:「師匠。
御無事で何よりです。」
キーラ:「ちょっと、ドラゴンって何なの?」
パイン:「あぁ、それなら大丈夫ですよ。
撃退しましたし、ドラゴンではないです。
あれは、オオトカゲ*1ですね。
数は多いですが、大して強くないです。」
キーラ:「オオトカゲ、、、。
倒したオオトカゲはどうしたの?」
ジェイク:「それなら、腐敗するとまずいので
燃やしていますが。」
キーラ:「んーっ。
それは、まずいわね。」
ジェイク:「どういう意味です?」
キーラ:「オオトカゲは、レッサードラゴンの主食なのよ。」
パイン:「まさか!!
ドラゴンが来ると言うのですか?」
キーラ:「匂いにつられてやってくる可能性が高いわ。
直ぐに防衛の準備を、、、。」
そこまで言ったところで、多くの人々が上空を見上げているのに
気が付いた。
キーラとパインも空を見上げた。
上空には、3匹の鳥の様な生き物が旋回していた。
それはあまりにも小さく、キーラには、
それが何かわからなかった。
最初にそれが何かを最初に知ったのはパインだった。
パイン:「あっ、あれは、ドラゴンです。」
キーラ:「何色?
それと特徴を教えて。」
パイン:「えーと。
色は黒です。
そして、翼に赤い縁取りがあります。」
キーラ:「んーっ。
まいったわね。
どれは、ブラックドラゴン族のレッサードラゴンね。
レッサーと言っても、狂暴なうえに
最強のレッサードラゴンよ。」
キーラ:「ジェイク。
魔法防壁の発動は出来ないの?」
ジェイクはすまなそうに言った。
ジェイク:「まだ復旧に時間がかかるようで、、、。
なにせ魔導士の数が少なすぎます。」
キーラは、続けてジェイクに指示を与える。
キーラ:「直ぐに皆を建物の中に避難させて。
時間が無いから急いでね。」
ジェイクは、すぐに行動に入った。
その時、ドラゴンを見上げていた者達が騒ぎ出した。
1匹のドラゴンが砦に向かって飛んでくるのが見えた。
残りの2匹は、それぞれが別方向に飛んで行った。
キーラ:「アンナとアリスは?」
パイン:「アンナは、ライと一緒にオオトカゲがほかにいないか
砦内を見回っています。
アリスは、救護室で患者を診ています。」
キーラ:「そう。
直ぐに、アンナを呼んで。
繋がってるんでしょ。」
パインは、その言葉に驚いた。
パインは、キーラにも話していないことがあった。
確信と言えることでもなかったため、話す事をためらっていた。
力を与えたあの日以来、不思議なことを何度も体験した。
まず、漠然とだが、3人の今いる場所が分かるのだ。
分かると言っても確証があるわけでは無いし、
ただ、なんとなくそう感じるだけだ。
次に、力を与えた3人の誰かと話をしたいと考えた時だった。
そう考えたとき、必ずその者が自分の前に現れるのだ。
最初は気にも留めなかった。
しかし、何度か繰り返すたびに段々と現実味を帯びてくる。
そして、つい先日、何故来たのかを尋ねたのだ。
それに対して、なんとなく呼ばれた気がしたと答えたのだ。
パインは、今の今まで半信半疑だった。
しかし、師匠であるキーラのその言葉で確信した。
そして強く念じた。
パイン:(アンナ、すぐに広場に来てくれ。)
アンナは、ものの10秒足らずでパインの元に現れた。
アンナ:「パイン。
どうしました?
緊急事態ですか?」
パイン:「師匠の話を聞いてくれ。」
キーラ:「パイン、アンナ、ゾル。
3人で砦の外に出て迎撃の準備を。
ゾル。
上位魔法を使えるのはあなただけ。
マジックカーテン*2でブレスを防いで。
直ぐに移動して。
私は、砦を覆う結界を張るわ。」
ゾルは、驚いた。
通常広範囲の結界を張るには、連動魔法陣*3を使用する。
これは、少ない魔法陣かつ魔力の消費を抑える目的である。
1人の魔導士が広範囲の結界を張った場合、
どれ程の魔力が必要なのだろうか?
キーラは、ローブの中を探ると、子供の頭程の袋を取り出した。
そして、その中身を足元にばらまいた。
パインとゾルは、それが何か直ぐに理解した。
それは、魔晶石の粉末だった。
キーラは素足になると、魔晶石の粉末の上に立った。
そして、3人に言った。
キーラ:「いそいで、すぐに行きなさい。
無事を祈っているわ。」
その言葉を合図に、3人はものすごい勢いで城門へと向かった。
そして、そのまま飛び上がると軽々と城壁を飛び越え、
視線から消え失せた。
それを確認すると、キーラは呪文を唱えた。
キーラを包み込むように、半透明の何かが出現した。
それは、大きなシャボン玉の様にも見えた。
そして両手を広げる。
さらに呪文を唱える。
キーラの足元の魔晶石の粉末が光りを発した。
同時に半透明の何かが急速に拡大して行く。
十数秒後には、半透明の何かは砦を覆いつくした。
パイン、アンナ、ゾルの3人は、城門の前に立つと、
上空を見上げた。
ドラゴンは、目前まで迫っていた。
その大きさは3人を驚かせた。
今まで見て来た動物の中でも最大級と言ってもいいだろう。
ドラゴンは、砦に向けて一直線に飛行し、
半透明の何かに激突した。
ドラゴンはバランスを崩し、そのまま失速する。
そして、砦前の広場に着地した。
パインとアンナは、剣を抜き構える。
ゾルは、魔法の詠唱を始めた。
胴体だけで5mはあろうかというドラゴンは、
ゆっくりと振り向いた。
そして、目前にいる3人を認識した。
首を前に伸ばし、一度吠えると3人を威嚇する。
「グォーーーッ」
空気がビリビリと振動する。
しかし、3人は微動だにしない。
ドラゴンは、一度首を縮める。
続けてドラゴンは首を伸ばすとブレスを吐いた。
それは、業火の炎だった。
ドラゴンは、首を振り周囲に炎をまき散らす。
地面に生えていた草がバチバチと音を立てて燃え上がる。
ドラゴンがブレスを吐き終わった後、
3人はその場に立っていた。
ゾルの魔法が発動したのだ。
3人の目の前には半透明の何かがあった。
パインとアンナは、ブレスを吐き終わるのを待ってから、
直ぐに動いた。
ドラゴンの動きも早かった。
だが、パインとアンナは、その上を行っていた。
速さ的に優勢であると言っても、
時折やってくる尻尾の攻撃が厄介だった。
視覚外からやってくるその攻撃は、一瞬の気のゆるみがあれば、
致命傷を与えるだろう。
2人の攻撃のいくつかは、ドラゴンに届いていた。
しかし、ドラゴンの鱗*4にその全てが弾かれていた。
パインとアンナは、示し合わせたように一度引いた。
その時、ドラゴンの頭に毛むくじゃらの何かが飛びついた。
3人は、すぐにそれがライだと分かった。
チャンスと考えた2人は、再度ドラゴンへと向かった。
ライは、アンナと2人で砦内の見回りをしていた。
砦内に侵入したオオトカゲを見つける為だった。
その時、突然アンナが言った。
アンナ:「パインが呼んでいる。
直ぐに行かないと。」
それだけ言い残すとアンナは消え失せた。
ライは状況を確認するために、高い場所へ移動する事を決め、
城壁の上へと上がった。
そして、上空にドラゴンを確認したのだ。
ライは、その異様な光景に力を溜めた。
口と鼻が前に突き出し始め、
途全身の皮膚から毛が伸びる。
変身が完了するとドラゴンの進行方向に向かって走り始めた。
ドラゴンは、頭に憑りついた何かを振り払おうと、
頭を振り続けていた。
ライは、鱗の隙間に爪を挟み抵抗していた。
その時、ライの目線に人らしき者を確認した。
男の周りには、多数の蝋燭があり光を放っている。
小さな祭壇があり、その上には供物と思える何かが
置かれていた。
ライは、この光景を過去に見た事があった。
呪いの儀式だ。
そう、ザラスに捕まっていた時に何度も見ていた
呪いの儀式だった。
強力な呪いを発動する為には儀式が必要なのだ。
そしてその人物に注目した。
その人物は、ローブを羽織り仮面を被っていた。
ライ:(ザラスだ!!)
そう思った瞬間、ライはとてつもない力で吹き飛ばされた。
パインは、焦っていた。
ライの掩護によってドラゴンへの攻撃は当たっている。
しかし、ダメージが通らないのだ。
その攻撃は全て弾かれた。
その成果は、ドラゴンの鱗にわずかに傷をつけるだけだった。
パイン:(一体どうすれば、、、。)
そう考えた時、ドラゴンの尻尾がライに向かって行くのを見た。
尻尾の側面がライを見事にとらえた。
ライは尻尾の直撃を受け、吹き飛ばされると、
大きな木に激突した。
パイン:「ライ!!!」
パインがそう叫んだ時、アンナは別の場所を見ていた。
それはドラゴンの首の辺りだった。
煙の筋の様な物がドラゴンの首に巻きついているのだ。
それは、幾筋にも巻きつき、
まるで締め上げているようにも見えた。
突然ドラゴンが吠えた。
パインもドラゴンを見る。
ドラゴンは、急におとなしくなった。
次の瞬間、ドラゴンの上に人が出現した。
それは、ローブを纏い仮面を付けた者。
そう、それはザラスだった。
ドラゴンは、ザラスを背に乗せたまま、
翼をばたつかせると上空に飛び上がった。
そして、空の彼方へと消えていった。
ほっとした後、パインが振り向くとゾルが倒れていた。
アンナにゾルを任せ、パインはライの元へと急いだ。
ライは、まるで操り人形の様に
右腕と右脚が変な方向に曲がっていた。
パインは、ライを抱きかかえると砦へと向かった。
砦に入ると仁王立ちしたキーラが目に入った。
そしてそのまま崩れ落ちる。
パインは、アリスを呼び寄せるとキーラを救護室へと
運ばせた。
パインは、ベッドに眠る3人を見つめながら思った。
ドラゴンは退ける事はできたが、これは明らかに負けだ。
*1:オオトカゲ
体長2m程のトカゲである。
その大きさから恐怖を感じる者も多いが、
人間を襲った話は聞かない。
雑食であり、繁殖力が高い。
*2:マジックカーテン
熱や冷気を防ぐ魔法のカーテン。
魔力を消費して熱や冷気を防ぐ為、
連続して発動し続けなければならない。
*3:連動魔法陣
魔法陣を頂点とした範囲内に結界を張る。
連動魔法陣のメリットは、少ない魔法陣で広範囲を
カバーできることである。
さらに、魔力の消費量を極端に抑えることができる。
*4:ドラゴンの鱗
ドラゴンが最強であると言われる理由の1つとして
あげられるのが鱗の存在である。
ドラゴンの鱗は、最高の強度と耐性を持っている。
特にブラックドラゴンのそれは、最強と言われている。




