メルトニア軍
リーモの村は静かだった。
メルトニア兵と思われる兵士が数人見回りをしている。
建物の前には歩哨はおらず、無警戒と言ってもいいだろう。
そんな中それを目撃してたものがいたとしたら、
異様な光景と思っただろう。
暗闇の中、2つの指輪が空中に浮遊しているのだ。
その指輪は、時には早く、時にはゆっくりと、
村の中央広場に向かって移動し、
檻の前まで進むと動きを止めた。
ドワーフ王は、イビキをかいて寝ていた。
しばらくすると、ドワーフ王の肩辺りが僅かに光を発した。
ドワーフ王は、突然起き上がると、辺りを見回した。
そして、囁くような声を耳にした。
???:「バルガ=ドヴェル。」
ドワーフ王:「んっ?」
???:「何を呑気に寝ているの?」
ドワーフ王:「んんんっ?
その声。
まっ、まさかキーラか?」
キーラ:「声が大きい。
もっと小声で。」
ドワーフ王:「すっ、すまない。
しかし、何でこんなところに?」
キーラ:「決まってるじゃない。
貴方を助けに来たのよ。
長話は危険よ。
巡回兵が戻ってくる前に、おさらばしましょう。」
ドワーフ王と2つの指輪は光の中に消え失せた。
キーラ達とドワーフ王は、リーモ砦の軍議室にいた。
キーラ:「さて、何があったのか教えて頂戴。」
その言葉にドワーフ王は、ことの経緯を話始めた。
=====
数日程前、ドワーフの国に1人の商人を名乗る者がやってきた。
商人は、洞窟内を一通り見学すると、豪華な装飾をほめてから
足りないものがあると言った。
わしが、それが何かを聞くと、商人は香りだと言う。
商人が言うには、この装飾に香りが合わされば、
王宮にも勝る宮殿が出来上がると言うのだ。
そこでわしは商人にそれを依頼した。
次の日、ローブを着て仮面をした者が現れた。
そして、洞窟の入口で香木を焚くと言うのだ。
わしはそれを許可した。
香りづけの作業は進んだ。
洞窟内は良い香りで充満していった。
その時突然背中の魔法陣が光った。
今まで経験した事の無い激痛が身体を襲った。
わしは、その激痛にあがらいきれなくなり、
そのまま意識を失った。
=====
ドワーフ王:「そして気がついたら檻の中という訳だ。」
キーラ:「なるほどね。
そんなことをしたのは、
やっぱり、ドワーフ軍を作る為かしらね?」
ドワーフ王:「檻の中にいたが色々と話は聞こえた。
ドワーフ軍か。
それもあるだろうが、もう一つある。」
キーラ:「もう一つ?」
ドワーフ王:「あの村からずっと南に行った場所に
洞窟があるらしい。
その洞窟が落盤によって塞がってしまった。
それの復旧の為らしい。
なにせ洞窟作りにおいては、
ドワーフに勝る者はないからな。
なんでも、バーランド王国側に繋がっていると
言っておったぞ。」
パイン:「それって、あの遺跡の洞窟のことでは?」
キーラ:「パインの言っている事は当たりの様ね。
あの村から洞窟までは、数日かかるわ。
それで、ドワーフ達は出発したの?」
ドワーフ王:「あぁ、昨日の朝に出発した。」
キーラ:「そう。
じゃあ、私達も急がないとダメね。
洞窟の復旧をさせてはならないわ。」
次の日の昼、キーラ達は、砦の建物の屋上に立っていた。
キーラ:「私とゾルは、あの洞窟へ向かうわ。
パイン達は、リーモ村の件をよろしくね。」
パイン:「はい、お気をつけて。」
パイン達は、飛んで行くキーラとゾルを見送ると、
早速行動に移った。
パイン達の目的は、リーモ村に存在するであろう
チャージの魔法陣を兵士に危害を加えずに破壊することだった。
そこで、ジェイク達が率いる兵士達と
パイン達との共同作戦を立案した。
その日の夕方、ジェイク含め100人程の兵士達は、
リーモ村の側の森の中に潜み、パインの合図を待っていた。
パインはというと、カモフラージュの能力を発動し、
村の中を探索していた。
パインに同行した者は、ライだった。
パインが一つの建物に近づいた時、ライは建物の屋根にいた。
ライは、当然であるが透明化の魔法やカモフラージュの能力を
持っていなかった。
しかし、人狼の能力を生かした行動をとっていた。
それは、まるでシーフであった。
足音を消し、物陰に隠れて監視者の目線を避けていた。
パインが1つの建物の窓から中を除こうとした時、
ライがパインの横に飛び降り、語り掛けた。
ライ:「中に見たことが無い魔法陣がある。
確認してくれ。」
パインは、キーラから渡された透明な石を目の前にかざした。
その透明な石を通して物を見たとき、魔晶石がある場合は、
赤く光って見えるという石だった。
パインは、部屋の中を覗いた。
部屋は横長で、左右に扉があった。
部屋の中には2人の兵士が何かを話していた。
その中間の机の上に真っ赤に光る板とその上に描かれた
魔法陣を見つけた。
パインは、小声でライに言った。
パイン:「見つけました。
たぶんあれがチャージをする魔法陣でしょう。」
ライ:「そうか。
ならば、合図をするぞ。
準備はいいか?」
パイン:「はい。
頼みます。」
ライは、小さな玉を取り出すと、空に向けて力強く投げた。
小さな玉は、村の上空でまばゆいばかりの光を発した。
同時に鬨の声が聞こえた。
その声に村の中はにわかに慌ただしくなった。
「なんだ、あの声は、、、。」
「敵襲か?」
「おいおい、なんだってんだ。」
「全員、門前に集合せよ!!」
集合の声に部屋の中の2人も建物を後にした。
2人は建物に忍び込んだ。
ライは腰に下げたスクロールを取るとパインに渡す。
パインは、スクロールを確認すると魔法陣の上に広げた。
一方キーラとゾルは、休憩を挟みながら南へと急いでいた。
そして次の日の朝、洞窟の近くまで到達することができた。
洞窟の周りには、大規模な野営地があった。
それは1万前後の兵士達が野営していたのだろう規模であった。
していたとは、既に野営地には人影が無かったからだ。
朝にも関わらず、人の気配が全くないのだ。
そればかりか、歩哨すらいなかった。
キーラ達は野営地の近くに降り立つと、野営地の中を調査した。
キーラ:「どうやら一足遅かったようね。
想像以上にドワーフ達の作業が早かったようだわ。」
ゾル:「砦は大丈夫でしょうか?」
キーラ:「そうねぇ。
ラング将軍によるわね。」
そう言いながら、野営地の中心付近の大きなテントを
調べて回わった。
そして、1つのテントの中で、目的の物を発見した。
キーラ:「見つけたわ。
さっさと壊しちゃいましょう。
ゾル。
その辺りにある箱を調べてみて。」
キーラが、呪文を唱えている間にゾルは、辺りの箱を物色した。
ゾルは、キーラが呪文を唱え終えるのをまってから話した。
ゾル:「マスターキーラ。
魔晶石が大量にあります。」
キーラ:「やっぱりあったわね。
これは、ありがたく貰って行きましょう。」
そう言って大量の魔晶石をローブの中にしまい込んで行く。
それを見ていたゾルは驚いた。
ゾル:「えっ、そのローブ、一体どうなっているんですか?」
キーラ:「気が付いたようね。
まっ、当然か、、、。
このローブはね、特別製なのよ。
ローブに魔法陣が縫い込んであって、秘密の倉庫に
繋がっているのよ。」
ゾル:「えっ、どういうことですか?」
キーラ:「転移の魔法陣の応用よ。
簡単に言うならば空間を接続する魔法かしらね。
魔法陣の先には、私の倉庫の棚があって、手を伸ばして
そこから出し入れできるのよ。
ローブの中にアイテムをいっぱい持つのはいやでしょ。」
キーラ達が、野営地に到着した頃、人魚の涙の砦のラングの元に
兵士が飛び込んできた。
ラング:「何事だ?」
兵士:「東の地にメルトニアと思われる大軍が現れました。
少数ですが、ドワーフの部隊も混じっているようです。」
ラングは、予期していた様に質問した。
ラング:「それで、兵力は?」
兵士:「およそ1万。」
ラング:「防衛体制をとるように指示しろ。」
そう言うとラングは、あの日の事を思い出した。
それは、最後にラキがやってきた時の事だった。
=====
ナガットの尋問を終えた後、キーラはラングの傍にやってくると
耳打ちした。
キーラ:「一月以内にこの砦に大軍が押し寄せてくるわよ。」
ラング:「なんだと!!。」
キーラ:「しーっ。
黙って聞いて。
メルトニアが落ちたのは知ってるわよね。」
ラングは、黙って頷く。
キーラ:「現在メルトニア軍は、敵の手中にあると思われるわ。
でもメルトニア軍は、魅了で操られているのよ。
後で防衛の為の魔導士を派遣するから、
できるだけ戦いは避けてほしいの。」
ラング:「んっ、そう言う事か。
わかった。」
後日、キーラの発言通りに防衛の為の策と共に
魔導士が派遣されてきた。
この時、ラングは考えた。
ラキの指示通りに動かされるのは癪だったし、
大軍が来るという話も半信半疑だった。
しかし、それを無視して本当に大軍が来た場合、
その責任を負うのは自分である。
準備をしたうえで大軍が来なければ、
その責任はラキにある。
黙ってラキに従うのが最善の策である。
そう結論付けた。
そして黙々と防衛の為の準備に励んだのだ。
=====
ラングはぽつりとつぶやいた。
ラング:「やはり、侮れない相手だな。」
防衛線は、非常に単純な方法だった。
城門の補修と、防衛用の柵および罠の設置、
そして、巨大な投石機やバリスタの設置だった。
罠といっても、強力な罠ではない。
そのほとんどが足止めを目的としており、
場合によっては、投石機やバリスタで攻撃するという
よくある防衛罠である。
しかもそれらを目立つように配置している。
いわゆる心をくじく作戦だった。
派遣された魔導士は、最低でも5日足止めをするようにと
言っていた。
さらに、投降するものは、受け入れるようにと。
つまり、5日以内に何かが起こるということだ。
このときラングには、それが何かは分からなかった。
メルトニア軍は、戸惑っていた。
目前には、延々と柵が続いていたのだ。
そして、あからさまな看板が目についた。
『足止めの魔法陣が設置されています。』
ミンサ:「なんだこれは?」
メルトニア軍を指揮していたのは、ミンサだった。
柵の内側には、所々に魔法陣が設置されており、
ミンサが確かめると確かに足止めの魔法陣だった。
砦へと続く石門の近くには、巨大な投石機と
バリスタが設置されている。
まさに足止めした上で、それらで攻撃しますよと
言っていた。
ミンサ:「これは、罠に違いない。
他の魔法陣も隠されているだろう。
柵の先はどうなっている?」
兵士:「柵は、石門を中心に半円上に設置されています。
そして、半円の頭頂部に人1人が通れる幅の道が
敷設されていました。」
ミンサ:「なるほど、石門に辿り着くには、罠を通過するか、
その道を通過するしかないという訳か。
もう少し、調査が必要だ。
少し下がって、陣を築く。
全軍後退だ。」
兵士:「歩哨はどうしますか?」
ミンサ:「そうだな、どうするかな。」
兵士:「あの柵と罠エリアは、砦からの新軍も防いでいます。
柵の近くに数十メートル間隔で歩哨を立てるのは
どうでしょうか?」
ミンサ:「それだと、人数が多くなりすぎるな。」
兵士:「では、野営地内の歩哨を減らして、その分柵の警備に
回しましょう。」
ミンサ:「そうだな。
敵の進軍ルートは、限られる。
対応は、任せた。」
兵士:「はっ、畏まりました。」
そして、メルトニア軍は、後退を始めた。
キーラとゾルは、その光景を少し離れた場所から眺めていた。
キーラ:「ラングは、ちゃんと指示を守ったようね。
これで、何とかなるわ。
さて、私達は、あの魔法陣がどのテントに設置されるか
観察していましょう。」
その日の深夜、
キーラとゾルは、メルトニア軍の野営地に潜入した。
歩哨の数が異様に少なかった。
当初キーラは、罠ではないかと疑った。
しかし、起きている者達は砦側に集中しており、
奇襲に備えていた。
さらに、目的のテント以外のテントを確認した時、
罠ではないと確信した。
彼等は本当に眠っていたのだ。
2人は、静かにそして迅速に目的のテントへと向かった。
そして、魔法陣の破壊と魔晶石の奪取に成功した。
その日の朝。
ミンサのテントに兵士が飛び込んできた。
ミンサ:「何事だ!!?」
兵士:「チャージの魔法陣が動きません。」
ミンサ:「なんだと。
分かった、すぐに行く。」
ミンサは、すぐにチャージの魔法陣へと向かった。
ミンサ:(まさか、奴らの攻撃だというのか?)
ミンサは、チャージの魔法陣を調べた時、
疑問が確信へと変わった。
魔法陣は、明らかに破壊されており、
予備の魔晶石も消えていた。
ミンサ:「やられた。
直ぐに後退する。
まだ、負けたわけでは無い。
こんなこともあろうかと、洞窟の反対側に
残してきたのだ。
抜かりはないのだよ!!
準備を整え再侵攻だ!!
わっはっはっはっ。」
数時間後、ミンサの目論見は脆くも崩れ去った。




