魅了
キーラ一行は、リーモ村の近くでキャンプするための
準備をしていた。
キーラとゾルは透明化と飛行の魔法を
使い、上空からリーモ村を調べる為に行動していた。
パイン達が焚火の準備をしていると、
ライがクンクンと鼻を鳴らした。
ライ:「誰かいる。」
パインは辺りを見回し警戒する。
アンナとアリスが剣の柄に手をかけた。
そして、剣を抜く。
アンナはアリスのこの初動を見て、心から安心した。
アリスは、ここ数日アンナから剣術の指導を受けていた。
移動中は、剣術に関する知識を。
キャンプ中は、実戦指導をだ。
アンナは不安だった。
アリスは神聖魔導士だ。
剣技に優れているわけでは無い。
どちらかと言えば並み以下と言えるだろう。
受けの剣を持っているとはいえ、剣を構えなければその恩赦を
受けることは出来ない。
つまり、アリスには初動が重要なのだ。
ライは剣を抜くことをせず、クンクンと匂いの元を探した。
ライ:「ここか!!」
ライは、慎重に1本の巨木の裏側に回り込んだ。
ライ:「!!」
そこには、1人の少年が木に横たわるように倒れていた。
ライは、子供を確認する。
息はしている。
ライ:「アリス。
子供だ。
意識が無いようだ。」
アリスは、すぐに剣を鞘に納めると、ライの元へと移動した。
そして、少年の容態を見始める。
アリス:「衰弱しているようだけど、大丈夫そう。」
アリスはドクターの能力を発動した。
しばらくするとアリスは、子供を抱きかかえ、
焚火の傍に移動した。
丁度その時、キーラとゾルが戻ってきた。
キーラ:「その子供は?」
ライは、キーラに説明した。
キーラ:「そう。
アリス、その子をお願いね。
集まって頂戴。
リーモ村の様子を説明するわ。」
そして、キーラはリーモ村で見た事を話し始めた。
リーモ村は、人の気配が無く、閑散としていた。
そして、村の中央の広場には、1つの檻があった。
中には、一人の人らしき者が入っていたが、
それが誰かを確認することができなかった。
もし、ゾルに千里眼の力があれば
また違った結果になったかもしれない。
キーラとゾルはしばらく監視していたが、
状況に変化が無いため、一旦引き上げたということだった。
その時、子供が意識を取り戻したのか口を開いた。
子供:「きっと、それ、大王様だよ。」
キーラ:「大王様って、ドワーフ王のことかしら?」
子供:「うん。
大王様が他のドワーフ達に連れ去られたんだ。
僕は、それを追って来たんだけど、
歩き疲れちゃったんだ。」
キーラ:「そう。
大王様は、私達が何とかするわ。
だから、あなたは少し眠りなさい。」
子供:「うん。
わかった。」
そして子供は目を閉じた。
キーラ:「さて、ドワーフ国に何か起きたようね。
ゾル。
ドワーフ国まで行って帰ってくるだけの魔力は
残ってる?」
ゾル:「えぇ、なんとか。」
キーラ:「私とゾルは、ドワーフ国へ行ってくるわ。
貴方達は、ケイン達のいる砦へ向かって。
私達も後で合流するわ。」
そしてパイン達は、砦へと向かった。
パイン達は、ケイン達の巡回のおかげか、
ゴブリンやオークなどに出会う事も無く砦が見える位置まで
移動することができた。
砦を見てパイン達は驚いた。
それは、水堀で囲まれ、高い石壁を持ち、
そしてその上に多数のバリスタが設置されていた。
ケイン達は砦と呼んでいたが、砦と呼ぶよりも要塞
呼んだ方がよいだろう。
元々は、ドラゴンの来襲に備えて防衛用に建築されてものだが、
ドラゴンの来襲が減少した今、軍事費削減という名目で
使用を中止した。
パイン達が、跳ね橋に近寄ると、多数のバリスタが一斉に
パイン達に照準を合わせた。
そして、石壁の上の兵士がこちらに呼びかけた。
「止まれ!!
何者だ?」
パイン:「私は、パイン。
ケイン殿に話があってきた。」
その言葉に兵士が慌てて移動して行ったが、
相変わらずバリスタはこちらを向いていた。
しばらくして、石壁の上にケインとジェイクが現れた。
そして、右手を上げて指示を出すと
ゆっくりと跳ね橋が下り始めた。
その頃キーラとゾルは、ドワーフ国の入口に立っていた。
洞窟の中に入るとドワーフの女性達*1が地面に座り込んでいる。
キーラは彼女達に話しかけたが、まるで上の空だ。
この時キーラは、確信した。
服従の魔法*2。
この朦朧とした状態は、服従の魔法をレジストした場合の
副作用だと判断したのだ。
洞窟の内部を調べると多くのドワーフが存在していないことに
気が付いた。
そして玉座の間には、大王も側近もいなかった。
さらに洞窟内を調べ、人間が存在していないことを確認すると、
キーラは砦に向かう事を決断した。
ドワーフは人間よりも遥かにタフである。
人間であれば、4-5日も水分補給が無ければ
死に至るとされるが、ドワーフはそのタフさゆえに一ヶ月ほどは
問題ないと言われている。
その日の夕方、キーラとゾルは無事砦内に降り立った。
ケインとジェイクの計らいで、空からの移動者を攻撃しない旨の
通達が出ていたからだ。
キーラは、パイン達と合流すると、少年の元へと向かった。
少年は丁度食事を終えた所だった。
キーラは、少年に向かって笑顔をみせると言った。
キーラ:「すこし話をさせてもらえるかしら?」
少年:「うん。」
キーラ:「私はキーラ。
貴方は?」
少年:「ジェイだよ。」
キーラ:「ジェイは、どうしてドワーフ国にいたの?」
ジェイ:「うん。
村に沢山の兵隊さんがやってきたんだ。」
キーラ:「メルトニアの兵隊さん?」
ジェイ:「そうだよ。
それでね、村の皆が森に逃げ始めたんだ。
それでね、エル姉ちゃんと一緒に逃げたんだけど、
途中ではぐれちゃったんだ。
そしたら、ドワーフのおばちゃんがやって来て
助けてくれたんだ。」
キーラ:「なるほどね。
じゃあ、
ドワーフ王が連れ去られたときの事は知ってる?」
ジェイ:「知ってるよ、見てたから。
檻の中に大王様が入って、
その檻をいっぱいのドワーフが担いでたよ。
それで、追ったんだ。」
キーラ:「それを見る前はジェイは何処にいたのかな?」
ジェイ:「んーと。
水汲みしてた。」
キーラ:「水汲みに行く前に何か変わったことは無かった?」
ジェイ:「ローブを着た人が入って行ったよ。
なんか変な仮面を被っててちょっと怖かった。」
ライ:「ザラスか、、、。」
キーラ:「ほかに何かいつもと変わったことは無かった?」
ジェイ:「あっ、そうだ。
ドワーフのおじさん達、みんな腕輪してたよ。
いつもはそんなのしてないのに。」
キーラ:「そう。
ジェイ。
ありがとうね。
貴方は強いわね。」
そして、キーラ達は部屋を後にした。
キーラ達が部屋を出ると、ジェイクが待っていた。
ジェイク:「マスターキーラ。」
キーラ:「なに?」
ジェイク:「この砦の転移の魔法陣のなのですが、
何とか稼働させることは出来ないのでしょうか?
できれば、民間人を避難させたいのですが。」
キーラ:「分かったわ、見てみましょう。
でも、期待はしないでね。」
そして、転移の魔法陣のある地下へと向かった。
キーラ:「転送の魔法陣は、やっぱり完全に壊れてるわね。
んっ?
ちょっとまって、転受の魔法陣は、止めていたのね。
んー。
だとしたら、修復できそうね。」
ジェイク:「本当ですか?」
キーラ:「えぇ。
この砦は、何年も使われてなかったのよね。」
ジェイク:「はい。」
キーラ:「なるほど、撤退時に転送の魔法陣を使ったのね。
その時に、転受の魔法陣は、止めておいた。
それで、壊れなかったのね。」
ジェイク:「どういうことです?」
キーラ:「アラインが緊急脱出魔法を発動した時、
管理下の転移の魔法陣は、全て壊れるように
なっていたのよ。
でも、この魔法陣は、止まっていた。
だから壊れなかった。
そういう訳よ。
ところで、この砦には魔導士はいる?」
ジェイク:「はい。
少数ですが。」
キーラ:「なら、兵士分の帰還の巻物を作らせて頂戴。
あと、他国へ転移できる転移の魔法を覚えている者を
探して、民間人の撤退を進めて頂戴。」
ジェイク:「はっ、分かりました。」
この後、キーラは皆を集め軍議を始めた。
パイン:「ドワーフ王を捕らえるとか、
いったい奴らは何をしようとしてるんだ?」
ジェイク:「軍隊ですかね?」
キーラ:「ジェイク。
私もそう思うわ。」
アリス:「えっ、どういう事?
ドワーフ王と軍隊がどう関係するの?」
キーラ:「そうね。
ドワーフ王の件は、ドワーフ軍を作るための
一つの過程に過ぎないということね。
指導者を失えば、新たな指導者を求める。
当然、納得できる考え方や理念が必要だけど、
納得できるという部分を魅了で補う。
成功すれば、軍隊の完成だわ。」
アリス:「ひどい、、、。」
パイン:「力を得た者が多数いるのに軍隊が必要なんですか?」
キーラ:「あなた、疲れたりしない?」
パイン:「確かに力を得る前よりも疲れにくいと感じます。
しかし、疲れない訳じゃないです。
それに、力を行使した時は、やはり疲れますね。」
キーラ:「でしょう。
パインが寝ているのを見て、そう思ったんだけどね。
力を得た者でも疲労はある。
つまり、永久に戦い続けられる訳では
無いということよ。
最初の戦いでもそう。
最後まで戦わずに撤退しているしね。
だから、敵は大軍には大軍をぶつける以外に
方法は無いと考えると思ったのよ。」
パイン:「そんなに簡単に実現できるものなのですか?」
キーラ:「現にドワーフ王は投獄されているわよ。」
パイン:「確かにそうですね。」
ケイン:「メルトニアの兵士達は、どうなったと思いますか?」
キーラ:「多分大半が取り込まれていると思っているわ。
そうねぇ。
偽情報とかを流しているのでしょう。
たとえば、人魚の涙の砦が王国によって
占領されたのを、王国が侵略を始めたとでも
煽っているのかもしれないわね。
アライン元首がいなくなったのを、
王国に寝返ったとかね。
情報制限や偽情報は、大きな効果を生むのよ。
それに魅了を付加すれば、さらに効果は上がるわ。」
ケイン:「・・・」
キーラ:「ところで、メルトニア軍はどれぐらいの規模なの?」
ジェイク:「そうですね。
専従兵ならば、1万2千というところでしょうか。」
キーラ:「それだけいれば、次の手に打って出そうね。」
ジェイク:「次の手とは?」
キーラ:「人魚の涙の砦の攻略よ。」
ジェイク:「奇襲ですか。
砦は大丈夫なんですか?」
キーラ:「ラング将軍が、ちゃんと動いてくれていれば、
大丈夫だとおもうわ。」
ジェイク:「・・・」
ゾル:「魅了ということは、時間的な限界がありますよね。」
キーラ:「いい事に気が付いたわね。
さて、問題です。
魅了を延長するには、どうすればいいでしょう?」
ゾル:「そうですね。
再度掛けなおす。
エターナル系の魔法陣の中で生活させる。
それぐらいですかね。」
キーラ:「何故、魔法具は入れなかったの?」
ゾル:「それは回数が決まっているからです。
回数が限界に達したら終わりですからね。」
キーラ:「チャージできたとしたら?」
ゾル:「軍隊って、数千あるいは、万単位じゃないんですか?
定期的に回収して1つ1つチャージするなんて、
どう考えても不可能ですよ。」
キーラ:「本当にそうかしらね。
もし、魅了された者が自分から
チャージしに行ったとしたら?」
ゾル:「えっ!!!
たっ、確かに可能です!!」
キーラ:「じゃあ次の質問。
大軍相手に少数で戦いを挑む場合、
もっとも効果的な方法は何だと思う?」
ジェイク:「そうですな。
防戦であるならばゲリラ戦、
攻撃するならば、兵站*3の分断ですか?
ゲリラ戦であれば、我々も準備を始めています。」
キーラ:「どんな準備かしら?」
ジェイク:「元々存在した避難経路用の地下道をゲリラ用として
改修中です。」
キーラ:「さすがね。
地下道の改修はそのまま続けて頂戴。
いつ攻められるかわからないしね。
質問の正解は、もう一つの方。
兵站よ。
糧道*4を制圧すること。
じゃあ、この事を今回の魅了の件に置き換えてみて。」
パイン:「そうか!!
チャージしている魔法陣か何かを
破壊するということですか?」
キーラ:「そう。
その何かを破壊して魅了を解くのよ。
とりあえず、目先の方針は決まったわね。
それじゃあ、細かい作戦を考えましょう。」
*1:ドワーフの女性達
ドワーフは男女とも髭を生やしており、
一見では性別を判断するのは難しい。
ドワーフ以外の者は、
胸の膨らみや服装で判断するしかない。
*2:服従の魔法
魅了の上位版である。
魔法と呼ばれるが呪いに分類される。
高価な触媒を使用する上に短時間(数秒から数十秒程度)しか
効果が無いため単独で使用されることはほどんどない。
レジストすることが魅了よりも難しいため、
耐性の高い種族に対して魅了の前段階として
使用されることがある。
服従の魔法をレジストした場合、媒体の効果のみが残り、
数日の間、腑抜け状態となる。
*3:兵站
戦場で後方に位置して、前線の部隊のために、
軍需品・食糧・馬などの供給・補充や、後方連絡線の
確保などを任務とする機関やその任務。
*4:糧道
軍隊の食糧を運ぶ道。




