テリトリー
キーラ、パイン、アリス、ゾル、アンナ、マッカス、マイク、
ライの8人は、ゲーノモス山脈の入口に野営していた。
入口といっても、入り口や境界線がある訳ではなく、
不帰の森の境界というだけである。
マイク:「ここから、千獄谷に入ります。
渓谷や峡谷が多数あるので、
最大の難所と言われます。」
マイクは地図を指さして難所であることを告げて出発した。
最初の渓谷を越えた時のこと。
マイク:「魔法とはすごいな。
この渓谷は、3本の指に数えられる程の難所だ。
それをこうもあっさりと通過できるのとはな。」
マッカス:「あぁ、そうだな。
高位の魔導士が優遇されるのもよくわかる。」
マイク:「千獄谷を抜けるのも安易なことかもしれないな。
メルトニアに到着できれば、私の仕事は終わりです。
もしよろしければ、祝杯を上げさせてもらえませんか?」
マッカス:「そうだな。
一つの区切りとしてはいいだろう。」
この後、一行はいくつもの渓谷・峡谷を越えていった。
そして、最後の渓谷に到着した。
マイク:「この渓谷が最後です。
これを越えれば、あとは我々を阻む道はありません。」
キーラ:「それで、この先はどうなってるの?」
マイク:「この渓谷を越えた先からは、尾根伝いに進みます。
途中、ドラゴンのテリトリー*1をかすめるため、
そこが難所となるでしょう。
しかし、道中は見晴らしがよく、ドラゴンの奇襲を
受ける可能性は少ないですね。」
キーラ:「そう。
じゃあ、気を引き締めていきましょう。」
数時間後、一行は何事もなく渓谷を抜け、尾根を歩いていた。
右側は、崖だった。
マイクは、自生する草を確認すると、皆に告げた。
マイク:「皆さん、そろそろドラゴンのテリトリーに入ります。
十分気を付けて、うぁーーーっ。」
マイクの叫び声に視線が声の方向に向く。
しかし、そこにマイクの姿は無かった。
マッカス一人が、崖の方に走り出し下を眺めた。
マッカス:「マイーーーーク!!!」
マッカスは、マイクが崖に引きずり込まれるのを目撃していた。
マッカスの傍らも全員が集まり崖下を見る。
しかし、そこにはマイクの姿は無かった。
ライが鼻を鳴らし、辺りを探る。
ライ:「あれを見ろ。」
ライが崖下のある一点を指さす。
ライの指さす方向には、不思議な形状をした地形があった。
壁床ともに巨大な球体が消え失せたようにえぐられており、
その中心に落石の跡があった。
ライは、こぶし大の石を取ると、落石跡めがけて放り投げた。
石は、落石跡の中の大岩に一直線に進み、ぶつかった。
ライ以外の者達は、自分の目を疑った。
大岩はゆっくりと動き出し、少し進むとまた動きを止めた。
キーラ:「まさか、ミミクリードラゴン?」
ライ:「あぁ、そうだな。」
キーラ:「生きている個体がいるなんて、驚きだわ。」
パイン:「ミミクリードラゴンって何ですか?」
キーラ:「あぁ、そうね。
太古には、擬態を有するドラゴンがいたの。
化石等から、その存在は指摘されてはいたのだけれど、
実際に目撃したという記録は存在しないのよ。
それで、絶滅したのではないかと言われていたの。」
パイン:「マイクは、あれに?」
ライ:「多分そうだ。
ミミクリードラゴンは、カメレオンの様な長い舌を
器用につかって獲物を捕食する。」
キーラ:「詳しいのね。」
ライ:「あぁ、今までに何度も出会っているからな。」
マッカス:「ライ!!。
マイクを助けることは出来ないのか?」
ライ:「残念だが、もう無理だろう。
奴の舌には、無数の毒針が付いている。
人間程度なら即死してしまうだろう。」
マッカス:「くそっ!!」
ライ:「復讐なんて考えるなよ。
奴を倒すには多くの命が必要だ。」
キーラ:「そんなに強いの?」
ライ:「いや、奴は弱い。
ブレスも持たず、反撃もしてこない。
奴を殺すには切り刻めばいい。
だが、それを実行すれば、攻撃者の命も無いだろう。
危険なのは、奴の体液なんだ。
奴の体液は、全てを溶かす。
その体液を霧状に撒き散らすんだ。」
キーラ:「魔法ではどうかしら?」
ライ:「それは、無理だな。
奴は魔法に対する完全耐性をもっている。」
キーラ:「それは、すごい。」
ジェイク:「遠隔攻撃では?」
ライ:「相手は岩だぞ。
それを貫けるほどの遠隔武器は
攻城兵器ぐらいしかないだろうな。
奴は、ドラゴンの中でも異質の存在だ。
俺の知る限り、奴は最悪のドラゴンだ。
我々にはマイクの冥福を祈るぐらいしか
残されていないだろう。」
マッカス:「・・・」
マッカスの落胆ぶりは大きく、何も語らずに最後尾を進んだ。
そしてドラゴンのテリトリーに入った時に
ワイバーンが飛来した。
マックスの行動は誰よりも早かった。
マッカスは、ドラゴンへの憎悪で溢れていた。
状況を確認しようとするキーラの指示を無視して、
剣を抜くと、ワイバーンへと突撃した。
それは、まるでワイバーンに立ち向かう鬼神のように見えた。
振るう剣の一撃は常に全力だった。
剣を振るうたびにワイバーンの硬い皮膚が切られて行く。
マッカスの持つ剣は、魔法具ではあるものの、
キーラの見立てでは、鋭さを強化する魔法が
掛けられているのみだった。
ワイバーンは、切り刻まれ、次第に動きが鈍くなって行く。
そして、ついにその巨体を倒した。
マッカスは、雄たけびを上げた。
マッカス:「うぉーーーっ。」
キーラが、マッカスに近寄る。
マッカスは落ち着きを取り戻し言った。
マッカス:「すみません。
命令違反については、罰を受けます。」
キーラ:「そんなことは、どうでもいいわよ。
それよりも、気が済んだ?」
マッカス:「えぇ、私はマイクに借りを作ったようですね。
やはり、私は武人だったということです。」
キーラ:「どういうこと?」
マッカス:「私は、元冒険者で運よく将軍という職に
就くことができた。
しかし、私は将軍の器ではなかった。
大軍を率いることの出来ない将軍では価値が無い。
だからこの作戦に参加した。
しかし、カトブレパスとの戦いで、
私は剣技の衰えを感じた。
現役を退いていたから?
年齢による衰え?
いや、実際はそうではなかった。
マイクは、私の剣を見て言っていた。
剣に迷いが見られると。
私は、笑い飛ばした。
しかし、彼の見立ては正しかった。
将軍という職に甘え、
冒険者としての信念を失っていたのだ。
マイクの死はそれを思い出させてくれた。」
キーラ:「そうだったの。
この件が終わったら、
マイクを英雄として称えましょう。」
マックス:「そうか。
そうしてもらえれば、彼も満足するだろう。」
キーラ:「じゃあ、先へ向かいましょう。」
マッカス:「あぁ、そうだな。」
一行は、さらに尾根を進み、明日中にはメルトニア側に
到達できる距離まで来ていた。
そして、ゲーノモス山脈での最後の野営をしていた。
彼等は、安心しきっていた。
彼等が深い眠りの中にいるとき、森の中を移動する影があった。
彼等は、遠くから焚火の炎を確認した。
そして、静かにそして迅速に焚火の周りに散開した。
最初に気が付いたのは、ジェイクだった。
自分達の周囲を松明の灯りが包囲していた。
ジェイク:「起きろ!!
囲まれたぞ!!」
その声に反応し、声が聞こえた。
???:「まさか、ジェイク隊長ですか?」
ジェイク:「その声は、ケイン副長か?」
???:「ジェイク隊長!!!」
1本の松明の灯りがジェイクの方へと近づいてきた。
ジェイクは、その者の顔を見て笑みをこぼした。
ジェイク:「よかった。
脱出できたのか。」
ケイン:「はい。
なんとか。」
そして、ケインの部隊が焚火の前に集まると、
そこは足の踏み場も無いほどに込み合った。
そして少し離れた場所にいくつもの焚火が作られて行った。
ジェイク:「この兵士達は?」
ケイン:「はい。
私は、冒険者協会へ続く道を進みました。
幸いにも追手はありませんでした。
冒険者協会に到着した私は協会の者に経緯を告げると、
少しでも多くの者を逃がす為の行動をとりました。
そして、兵士の詰め所へ向かい、
落ち合う場所を決めて、
首都から離れるように指示しました。」
ジェイク:「なるほど。
彼等は、その指示に従った者達というわけか。」
ケイン:「はい。
我々は、ここから南に進んだ場所に
砦を構えています。」
ジェイク:「砦があるのか?」
ケイン:「はい。
何年も前に放棄した砦です。」
ジェイクは思い出した。
ケインが新兵だったころ、
森の中の砦に勤務していたということを。
ジェイク:「そうか。
あの砦か。」
ケイン:「はい。
あの砦を修理して利用しています。」
ジェイク:「それで、何人いるんだ?」
ケイン:「そうですね。
現在は兵士は350人というところでしょうか。
民間人も含めると1万人近くいます。
しかも、日が経つごとに増えています。」
ジェイク:「ん?
あの砦の収容人数は5000人程でなかったか?」
ケイン:「えぇ、多くの者はテントを張り、
生活していますよ。」
ジェイク:「そうか。
それで、これからどうするつもりなんだ?」
ケイン:「首都を奪還するつもりでいます。
そこでジェイク隊長。
我々の指揮をとっていただけないでしょうか?」
ジェイク:「ケイン。
手伝ってやりたいが、
私にはアライン様の指示がある。
それに、皆、お前についてきているのだぞ。
お前が指揮を執るべきではないのか?」
ケイン:「私には荷が重すぎます。」
そこにキーラが割って入った。
キーラ:「面白い話じゃない。
ジェイク、やってみたらどうかしら?」
ジェイク:「しかし、私にはアライン様の指示が、、、。」
キーラ:「目的は同じよ。
そう、メルトニアを奪還する事。
それに、私の指示に従うのが、アラインの指示でしょ。」
ジェイク:「確かにそうですが。」
キーラ:「じゃあ、指示するわ。
貴方は、陽動部隊を作って頂戴。
方法は全て任せるわ。
作戦の決行日は追って連絡する。
これで、どうかしら?」
ジェイク:「わかりました。
感謝します。」
その日の明け方、ジェイクとケイン達はキーラ達と別行動を
取る事になった。
キーラ:「さて、出発しましょうか。
私達はとりあえず、村を目指すわよ。」
ケイン:「リーモ村へ向かうなら、南東に進むといいでしょう。
真直ぐ進むとドワーフの領地を侵します。」
キーラ:「わかったわ。
ありがとう。」
ケイン:「あっ、そうだ。
我々の砦は、リーモ村から真西にあります。
それでは、お気を付けください。」
ケイン達がいたせいだろうか、
森の中に魔物の姿は見当たらなかった。
キーラ達は、何事もなく森を進んだ。
*1:ドラゴンのテリトリー
ゲーノモス山脈には、数多くのドラゴンが生息しているが、
その多くは、山を下りる事は無い。
いや、下りれないが正しいだろう。
遥か昔人間は村や町に度々現れるドラゴンに苦慮していた。
その多くはレッサードラゴンと呼ばれる、
知能の低いドラゴンであり、ワイバーン等が含まれる。
研究の末、レッサードラゴンは、目的を持ち村や町へ
飛来するのではないことが判明した。
人間はドラゴンの飛来を阻止する方法を模索した。
ドラゴンは、イグサやセンダンの葉が嫌いと言われ、
それらを山中に自生させることにより
ドラゴンのテリトリーを制御しようとした。
その策は見事に成功し、それ以降ドラゴンの飛来は
限りなく少なくなったとされる。




