ザラスとライ
パインは、白い玉に触れた。
グレイグの声が聞こえる。
グレイグ:(新しい力を手に入れた。
剣の力だ。)
パインは、剣の力と聞き、すぐに試した。
右手を前に出し、待った。
右手首辺りがムズムズとする。
手首を見ていると色が黒く変色し、肉が盛り上がった。
肉の盛り上がりは、時間と共に伸び、形を変えて行く。
そして最終的に真っ黒な剣の様な形になった。
パイン:(時間がかかりすぎる。
これでは、使えない。)
パインがそう考えた時にグレイグの声が聞こえた。
グレイグ:(それは、始めの1回だけだ。
出し入れしてみるといいだろう。)
グレイグの言う通りだった。
パイン:「これは!!」
パインは剣の出現に希望を持った。
パインは自覚していた。
自分の剣術は決して優秀とは言えない代物だ。
すぐに良くなるとも考えていなかった。
しかし剣の瞬時出現は、それら技術不足を補うのに
十分な可能性を秘めていた。
剣を鞘に納めるということは、剣を抜く行動自体が、
剣の軌道を限定させるのだ。
剣速と回避速度に余程の差が無い限り
防がれることが目に見えている。
剣の瞬時出現は、鞘から抜く行動と、
それにかかる時間を無視できる。
もっとも重要なのは、動きの中のどのタイミングでも
剣を出現させることができるという事だ。
これは、不意打ちに匹敵する。
さらに、剣を持っていない事が相手の油断を生む。
予想外の攻撃というものは、より大きな成果を生むものなのだ。
パインは、これに掛ける事にした。
キーラもまた、剣の瞬時出現に驚いていた。
パイン:「師匠。
この剣の力は、素晴らしいです。
さらに効果を上げる為に、この受けの剣をアリスに
渡したいのですが、どうでしょう?」
キーラ:「パインは、武器を持たないということ?」
パイン:「はい。」
キーラ:「ふーん。
凄いわよ。
良くそこに気が付いたわね。
でも、短剣が見えるように携帯しなさい。」
パイン:「えっ?」
キーラ:「人は、疑念を持つものなのよ。
貴方が完全に丸腰なら、間違いなく疑ってかかるわ。
だから、使わない短剣を装備するのよ。
ルールのある試合ならともかく、
生死をかけた戦いは、騙し合いなのよ。」
パイン:「なるほど!!」
その後3人は、野営地まで移動した。
ライは、アリスから予備のローブを貰うと、
それに袖を通していた。
ゾル:「マスターキーラ。
どうやら知り合いみたいですが、
彼は一体何者なんですか?」
ライ:「俺の事かい?」
そう言いながら、ライは焚火の傍に座った。
ライ:「俺はな、人狼*1だ。」
キーラとライを除く全員の視線がライに集中した。
マッカスとジェイクが腰の剣に手をかける。
しかし、キーラがそれを止めた。
キーラ:「彼は、元人間よ。」
マッカス:「どういうことです?」
キーラ:「ちょっと複雑なのよね。
まあ、いいわ。
今日は、ここで野営しましょう。
彼の身になにが起こったのか、
ザラスとは、何者なのか。
全部話すわ。」
そう言って、キーラは話始めた。
=====
話は、メルトニアがまだ王国だったころのこと。
魔晶石湖の発見により、魔晶石の流通が活発になり、
メルトニアには多くの魔導士が流入した。
そんな中、どこからそれを知ったのか分からないが、
魔晶石湖の魔晶石を独り占めしようとした魔導士がいた。
彼は、密かに同志を集め、次第に組織を大きくしていった。
その計画は一人の名も無き者の告発でその計画は露見した。
彼等のリーダーは、邪神魔導士のザラスという者だった。
王国は、密かにザラスを調べさせた。
ザラスを調査していた者の1人がライだった。
ライは国王の命を受けて、秘密裡にザラス達を調べ、
彼等の計画が真実であることを知り、国王にそれを報告した。
邪神魔導士に対抗するためには、邪神魔導士が必要だった。
邪神魔導士の主な攻撃は呪いだ。
呪いを解くためには、邪神魔導士が必要なのだ。
国王は、ザラスに対抗するための邪神魔導士を探した。
しかし、邪神魔導士達はザラスの名前を聞いて怖気づき、
協力しようとはしなかった。
ライは決定的な証拠を入手しようと、国王の指示を待たずに
彼等のアジトへと侵入した。
そこで彼等の罠にはまり、捕まってしまったのだ。
丁度その頃、邪神魔導士のゾーラがメルトニアに立ち寄った。
国王は、ゾーラに協力を仰いだ。
ゾーラはそれを快く引き受け、ザラスの調査を始めた。
そして、ザラスのアジトを見つけ出し、アジトを襲撃した。
しかし、ザラスは襲撃を事前に察知し、
一足早く逃げ出していた。
その時、アジトで囚われているライを発見したのだ。
ライには様々な呪いが掛けられていた。
ザラスが呪いの実験に使ったのだ。
ゾーラは、ライに掛けられた呪いを全て解く事を約束した後で
ザラスを追った。
キーラとセイラは、少し後にゾーラと会うために
メルトニアに到着した。
そして、ゾーラがザラスを追ったことを知り、
ゾーラの後を追った。
そして、ゲーノモス山脈にある活火山の火口付近で
戦う2人を発見した。
2人の戦いは凄まじかった。
しかし、最後に生き残ったのはゾーラであった。
この時、キーラとセイラは、ザラスが火口へと落ちてゆくのを
目撃している。
メルトニアに戻ったゾーラは、
約束通りにライに掛けられた呪いを1つ1つ解除して行った。
しかし、たった一つだけ解除できなかった呪いがあった。
それが、人狼化の呪いだった。
=====
ライ:「ここからは、俺が話そう。
俺は、ゾーラに聞いた。
呪いを解くにはどうすればいいかと。
ゾーラは教えてくれた。
ザラスが死ねば確実に呪いは解けるはずだと。
つまり、ザラスはまだ生きているということだ。
そして俺は、ザラスを探す旅にでたという訳さ。」
ゾル:「何故、洞窟にいたんですか?」
ライ:「あぁ、洞窟内を調べていたら、
地滑りが起きて閉じ込められたんだ。」
マッカス:「人狼ほどの身体能力をもってすれば、
崖側の穴から脱出できたんじゃないのか?」
ライ:「あぁ、多分いけるだろうな。
しかし人間の頃の俺は、高いところが苦手でね。
見る分にはいいが、飛び降りるのはちょっとな。」
アリス:「何故マスターキーラに借りがあるの?
借りがあるのはマスターゾーラじゃないんですか?」
ライ:「あぁ、その件か。
俺は、ゾーラに言ったんだよ。
何時の日にか借りは必ず返すと。
そして聞いた。
もしあんたが死んでいたら、誰に借りを返せばいいかと。
ゾーラは、笑いながら言ったよ。
キーラかセイラ、あるいはその子孫に返してくれってね。
だが、ゾーラとセイラが死んだことを知ったんだ。
そして今日キーラに出会った。
こんな場所に来るにはそれなりの理由があるんだろうなと
思ったよ。
だから、助けようと考えたんだ。」
キーラ:「私はライに同行してもらおうと思っているわ。
人狼は、
驚異的な身体能力を持ち合わせているから、
仲間になってもらえれば心強いしね。
そうね、私を守ってもらえるかしら?
そうすれば、パイン達も心置きなく戦えるわ。」
ライ:「いやまて。
助けるとは言ったが、同行するとは言っていないぞ。」
キーラ:「私達と一緒に行けば、
ザラスに会えるかもしれないわよ。」
ライ:「なんだと!!」
ライは少し興奮気味に言った。
キーラ:「私達の敵の中にザラスと思われる魔導士を見たわ。」
パイン:「いや、師匠。
ちょっと待ってください。
ザラスは、邪神魔導士なんですよね?
でも、あの魔導士は明らかに精霊魔導士でしたよ。」
キーラ:「パイン。
一つ質問します。
何故、邪神魔導士は、精霊魔法LV4以上を
唱えられないのでしょう?」
パイン:「それは、契約することにより解放されるんですよね?
そうか、契約しなおせばいいという事ですか?」
キーラ:「正解。
契約しなおすと、LV4,LV5の魔法は使えなくなるわ。
でも、メリットもあるのよ。
例えば、LV5を覚えないと覚えられない魔法とかが
あるからね。」
ゾル:「そうか。
全ての魔法を唱えられるようにするためには、
一度全ての魔法をLV5まで上げて、契約しなおす。
それで、全ての魔法が使えるようになるという事か。」
キーラ:「その通りよ。
ザラスは精霊魔導士になったのよ。」
ゾル:「うーん。」
ライは、心を落ち着けるように目を閉じた。
そして少し考えてから目を開いて答えた。
ライ:「そうか。
やっと、人として死ねる時を得られそうだな。
キーラ、あんたに同行しよう。」
丁度その頃ナガットはメルトニア宮殿のベッドで目を覚ました。
ナガットは目を開くと、辺りを見回した。
遺跡に侵入した時の仲間が、ナガットを覗き込んでいた。
ナガット:「助かったのか。」
ナガットはそう言いながら
ゴーレムと戦った時の事を思い出した。
=====
あの時、ナガットは焦っていた。
既に一人の戦士がゴーレムによって潰された。
その力は一撃で戦士を肉塊に変えてしまうほどだった。
しかし動きは遅く、ナガットは直ぐに倒せると考えていた。
ゴルザの連れて来た魔導士は優秀だった。
さらにナガットと魔導士は初めて共闘したとは思えないほどに
連携できていたからだ。
しかし、それはすぐに大きな誤算だと気が付いた。
ゴーレムに攻撃が効いていないのだ。
しかも魔導士の唱える高位の魔法でも
ゴーレムに傷さえつけられていない。
ゴーレムへの無意味な攻撃は続けられた。
ナガットはその時気が付いた。
自分の動きが鈍くなっているのだ。
別に怪我をした訳でもないし、疲れている訳でもない。
何故か素早く動けなくなってきているのだ。
これは、致命的だった。
戦いの中、遠くでゴルザが倒れるのを見た。
そしてエレナを奪還された。
奪還した者は、自分と同じ力を授かった者であることは
直ぐにわかった。
ゴーレムと戦っている今の状態では
それを阻止する事は不可能だった。
そして、エレナを諦め、一時撤退する決断をした。
魔導士に対して撤退の指示を出す。
入口には敵がいるため、必然的に出口に進むしかない。
ナガットはゴーレムを牽制しつつ、
ゴルザ達の方へと移動して行った。
その時、ゴーレムが発光し始めた事に気が付いた。
魔導士はナガットの行動を理解したのか、それを補佐した。
ナガットはゴルザの元へ着くと、ゴルザとその部下のシーフの
生死を確認した。
2人とも生きていた。
シーフは目を覚ましたが、ゴルザは目を覚まさなかった。
ナガットはゴルザを小脇に抱えると、
シーフに出口に向かう様に指示した。
魔導士は、すでに大きく回り込み出口を背にしていた。
エクスプロージョンの魔法を連発する。
エクスプロージョンの魔法では、
ゴーレムを破壊することは出来なかったが、
後退させることはできた。
エクスプロージョンの魔法が発動するたびに、
ゴーレムは、1歩、また1歩と後退していった。
ゴルザを抱えたナガットとシーフは出口へと走った。
魔導士は時折、エクスプロージョンの魔法を発動して、
ゴーレムを足止めする。
ゴーレムの発光はさらに強くなった。
既に魔導士は出口まで下がっていた。
ナガットはゴルザをつれて出口に到着した。
そして、ゴルザを扉の裏に横たえた。
その時ゴーレムが強い光を発した。
ここで、ナガットは意識を無くした。
=====
ナガットは、魔導士を見ると、ゆっくりとした口調で言った。
ナガット:「貴方は、私の命の恩人だ。
感謝している。
ザラス殿。」
*1:人狼
いわゆる狼男である。
狼男は、不死身であり銀製の武器で無ければ
倒す事ができないと言われているが、これは少し違う。
狼男は不死身ではなく驚異的な再生能力を持っているのだ。
その再生能力は細胞1つからでも完全に再生するため、
不死身と呼ばれるのだ。
銀製の武器はこの再生能力を阻害するのみであり、
倒す事ができるわけではない。
銀製の武器で致命傷を与えなければならない。
さらに、満月の夜に狼男に変身すると言われるが、
これも少し意味が異なる。
変身はいつでも可能だ。
通常時は理性によって狼男に変身するのを止めている。
しかし満月を見る事により理性が飛び、
人間でいる事をやめるのだ。




