不帰の森
キーラ達は、トモフ村の宿屋で地図を見ながら
議論を繰り返していた。
その時、1人の男が現れた。
マイク:「この度、案内を請け負ったマイクです。
マッカス将軍、お久しぶりです。」
マッカス:「んっ?
マイク?
おぉ、まさか、あのマイクか!?」
マイク:「はい。
あのマイクです。」
マッカス:「まさか、こんなところで旧知の者に出会うとは。」
キーラは、事前に手を回しゲーノモス山脈を越える為の
案内人を探していた。
多くの者がそれを不可能と言い、非協力的だった。
そんな中、一人の男が名乗りを上げた。
それはマイクというガイドだった。
マイクは、当初この話を受けなかった。
しかし、一行の中にマッカス将軍がいる事を知ると、
案内することを承諾したのだ。
マイクはプラチナの称号を得るほどのチームに所属していた
冒険者であった。
マッカスとの出会いは、公国領に現れたバンパイア討伐に
参加したことに始まる。
このバンパイア討伐時に、ブルーサファイアのジェム称号を持つ
チームにいたのが、マッカスとシルカーだった。
バンパイアとの戦いは壮絶を極めた。
最終的にマッカスとシルカーによってバンパイアを
討伐することができたが、冒険者達の損害も想像以上であった。
マッカスのチームは半壊し、マイクのチームも
全滅寸前状態まで追い込まれた。
マイクのチームが全滅しなかったのは、
マッカスとシルカーのおかげと言っても過言ではない。
それ以来マイクは、マッカスとシルカーに恩義を
感じているのだ。
マッカスとシルカーは、チームの半壊によって、
冒険者を引退することを決めた。
公国は、マッカスとシルカーに対して、
バンパイア討伐の功により要職を与えた。
マイクは冒険者を引退して故郷へと帰り、
現在の仕事を始めたのだった。
キーラ:「さて、私達はどういうコースで行けば良いのかしら?」
マイク:「そうですね。
このコースはどうでしょう?」
マイクは、地図の上を指でなぞった。
キーラ:「予想される日数は?」
マイク:「20日です。」
キーラ:「成功率は、どのぐらいかしら?」
マイク:「幸いなことに、最も危険な時期ではありません。
そうですね。
6割というところでしょうか。」
キーラ:「もっと早い道はないのかしら?」
マイク:「あることはありますが、途中に何か所も難所があり、
成功率は3割程度に落ちるでしょう。」
キーラ:「何日でつける?」
マイク:「成功すれば、10日程でしょうか。」
キーラ:「決まりね。
10日の道を進みましょう。」
マイク:「それで大丈夫なんですか?」
キーラ:「えぇ。
こちらにはフライの呪文を使える者が2人います。
難所は、それで乗り越えましょう。」
マイク:「おぉ!、それは心強い。
それならば、成功率は格段に上がるでしょう。」
そして準備と休養を挟み、2日後の出発と決まった。
キーラ達一行は、マイクの案内で山道を進んでいた。
山道といっても禿山ではなく、林道である。
それも、広大に広がる『不帰の森』の中だ。
しかし、マイクはこの森のことを知り尽くしていた。
生まれ故郷であると共に剣の修行の場でもあった。
この森には、多くのゴブリンやオーガは生息していたが、
それ以上の脅威になるような生物は見たことがなかった。
キーラ:「不気味なぐらい静かね。
何も起きなければいいのだけど。」
マイク:「確かに珍しいぐらい静かですね。
しかし私は、この森でゴブリンやオーガ以外の
脅威になる生物を見た事がありません。
何も起きませんよ。
そうだ、この先に大きな泉があります。
そこで一度休憩を取りましょう。」
そんな話をしながら先を急いだ。
しばらくすると、突然大量の鳥たちが何かから逃れるように
羽ばたいた。
同時に地響きが聞こえる。
「ドドドドドドドド、、、。」
次第に音が大きくなってくる。
何かが近づいてくるのは明らかだった。
キーラは、すぐにフライの呪文を唱えると、
上空に浮かび上がり、そして、すぐに下りて来た。
キーラ:「カトブレパスよ。
絶対に眼を見てはダメよ。
即死するわよ。」
パインは、驚いた。
カトブレパスは、ドラゴン族、バンパイア族等と同等に
危険視されている種族である邪視族*1に分類される。
王国魔導学院ではこれらの種族に出会った場合は、
何も考えずにとにかく逃げろと教えている。
マッカス:「カトブレパスか。
それならば、私に任せろ。
皆は目をつぶってそこの木の裏にでも
隠れていてくれ。」
マッカスは、そう言うとローブの中から1本の細長い帯を
取り出した。
これは、戦士がよく使う帯であり、
戦闘中に汗が眼に入らないように頭に巻くものだ。
それをまるで目隠しするように頭に巻いた。
音のする方向を向くと、剣を鞘から抜き下段に構える。
マッカス:「本来、剣技というのは、気配で戦うものなのだ。
相手の気配を読み、そして、それに応える。」
その時、カトブレパスが現れた。
カトブレパスは、目前に立つ者を見ると直進を停止した。
その場で、一度吠える。
カトブレパスは、マッカスに対して威嚇の姿勢を見せたが、
マッカスは微動だにしなかった。
痺れを切らしたカトブレパスは、マッカスを押しつぶそうと
前足を高く持ち上げた。
その時、マッカスが動いた。
大きく飛び上がると同時に、
左下から右上に向かって剣を振った。
一瞬の出来事であった。
カトブレパスの首の最も細い部分を皮一枚残して切断したのだ。
カトブレパスは、地響きと共に、そのまま地面に転がった。
マッカスは、目隠しを外すと言った。
マッカス:「少し浅かったようだな。」
マイクは驚いていた。
この森にカトブレパスが存在しているなどとは
思ってもいなかったからだ。
マイクはその時に思い出した。
過去にドラゴンが山を下りた事があったという話を聞いた。
その時も、普段はいない魔物が現れた。
マイク:「そう言えば、過去にも普段はいない魔物が現れた時が
あったようです。
その時はドラゴンが山を下りたと言われています。」
キーラ:「なるほどね。
つまり、何かに追われて移動してきたと言う事ね。
そう何かにね。」
カトブレパスは泉を生息域とするため、
一行は泉を避けるように大きく迂回するように移動した。
その迂回行動が新たなる発見へと導くこととなった。
パイン:「えっ。」
キーラ:「どうしたの?」
パイン:「白い玉を発見しました。」
パインの視界に赤い十字が浮かび上がった。
キーラ:「それは、興味深いわね。
多少の遠回りは仕方が無いようね。
行ってみましょう。」
キーラ達は北へと進路を変え白い玉の場所を目指した。
しばらく進むと、突然視界が開けた。
それは峡谷だった。
地面はV字にえぐられ、遥か下の谷底には川が
流れていることが確認できた。
パイン:「どうやら白い玉は、この崖の中間あたりの
地面の中を示しているようです。」
そう言って印の方向を指さす。
キーラ:「地面の中ねぇ。
何処かに洞窟があるのかしら?」
ゾル:「そうですね。
私が崖側を見てきましょう。」
そう言うとゾルは、フライの呪文を使い、
峡谷へと飛んで行った。
キーラ:「じゃあ、私は峡谷以外の場所に洞窟の入口が
無いか見てきましょう。」
そして、キーラも飛び立った。
残った者達は、枯れ枝を集め焚火の準備を始めた。
パインは、集めた薪に炎系魔法を唱え、
薪に火をつけた後でその近くに座った。
そして、大きめの革袋を取り出すと、唯一詠唱可能な
水系呪文を唱えた。
革袋の中に水があふれた。
それを見ていたアリスがパインの横に座り話しかける。
アリス:「すごいわね。
そんな魔法があるのね。」
パイン:「自分が唱えられる唯一の水系魔法だよ。
近くにある水を集められるんだ。
それにこの魔法で集めた水はとてもきれいで、
飲料水としてはとても優れているんだ。」
アリス:「へーっ。」
パインは、木の枝を手に取ると焚火に放り込んだ。
パイン:「アリス、本当にすまない。」
アリス:「えっ?」
パイン:「いや、大変なことに巻き込んでしまった。」
アリス:「そんなことを気にしていたの?
もし私達が出会わなかったとしても、
この戦いは起こっていたのよ。
遅かれ早かれ、巻き込まれていたはずよ。
これは運命だったのよ。」
パイン:「アリスは、強いな。」
その時、マッカス、アンナ、ジェイク、マイクの4人が
野兎を捕まえて戻ってきた。
マイク:「少し早いが、昼食の準備を始めよう。」
4人は短剣を器用に使い、野兎を捌いて行く。
どうやら捕まえた野兎の半分は料理に使い、
残りの半分は燻製にして保存食にするようだった。
ある程度食事の準備が整った時、キーラが戻ってきた。
キーラ:「最近この先で地滑りがあったようね。
広範囲が土砂に埋もれていたわ。
洞窟の入口があったなら埋もれてしまっているわね。」
マッカス:「だとすると、洞窟の入口の発見は困難ですな。」
キーラ:「確かに、そうね。
でも、まだ峡谷側に存在する可能性もあるわ。
まずは、ゾルの帰還を待ちましょう。」
そう言って焚火の前に座った。
キーラが座ってから直ぐにゾルが戻ってきた。
ゾル:「峡谷の崖に洞窟を発見しました。
しかし、、、。」
キーラ:「しかし?」
ゾル:「確証はないのですが。
だれか住んでいるように思えるのです。」
キーラ:「えっ。
こんな場所に誰か住んでいるというの?」
ゾル:「私にはそう思えました。」
キーラ:「なるほどね。
地滑りで洞窟に閉じ込められたのかしらね。
まあ、いいわ。
とりあえず、その人に会いに行きましょう。
パイン、行くわよ。」
パイン:「はい。」
キーラ、パイン、ゾルの3人は、峡谷の端まで移動した。
キーラとゾルはフライの魔法を唱え、2人がかりでパインを
持ち上げた*2。
ゆっくりと崖にある洞窟の入口まで移動すると、
パインを降ろし、洞窟の中を覗き込んだ。
ゾルの言う通り、何者かが生活しているようだった。
キーラ:「あのー。
すみませーん。
誰かいますかー?」
キーラの声が洞窟の壁に反響する。
返事は無かった。
しかたなく3人は洞窟の中に入ると、白い玉を探した。
パインは白い玉を直ぐに発見した。
そして、その玉に触れようとした時、背後から声がした。
???:「まて。
お前らは何者だ?」
キーラは後ろを振り向くと声の主を見た。
そこには、髭だらけの顔に腰巻を付けただけの男が立っていた。
痩せているように見えたが、
四肢の筋肉は想像以上についていた。
武器になるようなものを携帯しているようには見えない。
キーラ:「怪しい者では無いわ。
私達はその玉に用があるのよ。
玉に触れてもいいかしら?」
男:「だめだ。
動くんじゃないぞ。」
キーラ:「2人共、動かないようにね。」
男はキーラに近づくとクンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。
男:「んっ?
この匂いは、、、。
そうか、そういうことか。
なるほど、成功したんだな。
お前、キーラだろ?」
キーラ:「あら、私の事を知っているの?」
男:「あぁ、知っている。
俺はライだ。」
キーラ:「ライですって。
懐かしいわね。」
ライ:「俺は、お前に借りがある。
ザラスを倒すまでの間、お前に従おう。」
キーラ:「なるほど。
やはりザラスは生きているのね。」
ライ:「あぁ、俺が生きているのが、その証拠だ。」
キーラ:「確かにそうね。
皆に紹介するわ。
一緒に来て頂戴。」
*1:邪視族
メデゥーサ、コカトリス、バジリスク、カトブレパス等の
視線に石化効果や即死効果等の特殊効果を持つ
魔物の種族である。
*2:2人がかりでパインを持ち上げた
フライの魔法は浮遊の魔法であるが、
自身を浮遊させるの程度の浮力しか得られない。
移動速度を犠牲にすることによって+1人分程度の
浮力を得られるが、所詮その程度である。
そのため、2人がかりでパインを浮かせることになった。




