守護者
半時ほど前、
エレナは、ナガットに連れられ遺跡の中にいた。
そこには長い通路が続いていた。
エレナは何も話さずに男たちに付き従った。
エレナは、自分を拉致した男達の中の1人の魔導士が
気になっていた。
その魔導士は不気味だった。
裾の長いローブ、目深に被ったフード、
そして表情を隠すためか仮面を被っていた。
今まで言葉も発していない。
頷くのみであり、何かを話す場合は
ボスらしき男に耳打ちしている。
仮面の下の瞳は地獄へ続く穴のようにも見えた。
その深い穴は、勇気という感情を引きずり込む深淵だった。
底知れない恐怖が湧き上がってくる。
エレナは死を覚悟していた。
湧き上がる恐怖は、死ぬことでは無かった。
得も言われぬ恐怖がエレナを覆いつくしていた。
エレナ達は通路を進んだ。
通路の終わりには扉があった。
男達は扉を開けると中を覗き込んだ。
扉の中は巨大なホールだった。
部屋の真ん中に巨大なものが置かれている。
手と足、胴と頭があった。
ゴーレムの様にも見える。
男達は動こうとしない。
何かを恐れているようにも見えた。
男達は、しばらくの間とどまっていた。
しかし、意を決したのかホールへと踏み込んだ。
その時ゴーレムの様な物が光に包まれた。
それは、ゆっくりと立ち上がると、こちらに顔を向けた。
それはゴーレムに似ていた。
しかし、それは明らかにゴーレムとは違っていた。
キーラ、パイン、アンナの3人は、
壊れた扉を越えたところで驚きの声を上げた。
部屋を出てすぐの所に戦士と思われる男が絶命していた。
遺体はまだ微かに暖かい。
男の身体を調べると、所々に黒く焼け焦げたような傷があり、
まるで真っ赤に焼けた火箸を突き刺した様だった。
近くには、金属と思われる瓦礫がいくつも転がっていた。
金属の瓦礫には足にも見える細い棒状のものが突き出している。
それらの瓦礫には多くの残留魔塵が見られた。
キーラ:「どうやら、何かと戦ったようね。
それも今しがた。」
パイン:「一体何と戦ったのでしょう?
ゴーレムとかですかね?」
キーラ:「瓦礫の金属にも、いくつも傷があるわね。
どうやらこの瓦礫と戦ったようだけど、
ゴーレムではないわね。
ゴーレムなら中身がこんなにスカスカではないわ。
私達の知らない何かかしらね。」
キーラは、心躍る気持ちに酔いしれていた。
自分の知らない何か。
その謎を解き明かしたいという気持ち。
忘れていた感覚だった。
キーラ:「どうやら、こっちに行ったようね。」
キーラは、足跡を確認するとその方向に目をやった。
パインとアンナがキーラの目線の方を向こうとした時、
2人の目の隅に動く物体を捕らえた。
それは、昆虫を連想させた。
丸みのある胴体。
胴体の頭と思える場所に赤い目が光っていた。
目の上に触角の様な短い角が生えている。
胴体の底から伸びる複数の金属の足。
その足を器用に動かして移動している。
その昆虫は、その場で回転するとキーラを真直ぐにとらえた。
その時既にアンナは動いていた。
剣を抜きながらその昆虫に突き進む。
そして剣を頭上に振り上げると昆虫めがけて振り下ろした。
一瞬遅れてパインも動いていた。
昆虫がこちらを向いている。
目の向きは、明らかにキーラだ。
触角の様な角が微妙に動くのが見えた。
何かしらの攻撃をしようとしているように感じた。
そして、キーラを移動させようと動いた。
同時に昆虫の触角が光りを放った。
光の筋は、キーラへと直進し、ジュッという音と共に
キーラのローブに穴を開ける。
アンナの振り下ろした剣は、昆虫を真っ二つに切り裂いた。
キーラは、よろめくようにその場に崩れ落ちる。
パインは、崩れ落ちようとするキーラを支えた。
パイン:「師匠。
大丈夫ですか?」
起き上がろうとするキーラの顔が歪む。
アンナがキーラの前に来ると心配そうにキーラの顔を覗き込む。
キーラ:「助かったわ。
2人共。
それと、パイン。
私を移動させたかったのはわかるけど。
ちょっと力が入り過ぎよ。
次からは、もう少し優しくお願いね。」
そう言ってニッコリと笑った。
パイン:「はっ、はい。」
キーラはゆっくりと起き上がると、
右手をローブの内に入れて患部を抑えて呪文を唱える。
ローブの上からも魔法光*1が見えた。
パインはそれを見て驚いた。
パイン:(この魔法光はLV5か?)
キーラは、精霊魔導士である。
つまり、精霊魔法に対しては、
熟練度を上げる事によりLV5まで魔法の威力を上げる事ができる。
しかし、神聖魔法や邪神魔法については、そうではない。
いくら努力してもLV3止まりであり、
LV4以上は不可能を言われているからだ。
パインの中で疑問が沸き上がった。
マスターキーラは、魔導士の上限をも超える事ができたのか?
しかしパインは、今この場で聞く事ではないと考え、
その疑問を飲み込んだ。
魔法光の光が消えると、キーラはゆっくりと立ち上がった。
そして、アンナが切った金属の昆虫を調べる。
キーラ:「これは、、、。
全く分からないわ。
こんなものが存在するとはね。
古代人はこんなものを生み出す力があったという事ね。
今後は、こいつらにも注意しましょう。
さて、先へ進みましょうか。」
真直ぐに伸びる通路はあまりにも長く、終わりが見えない。
3人は、通路を慎重に進んで行った。
途中いくつかの部屋が存在しており、
その全てが開かれていた。
キーラは疑問に思っていた。
それは壁や机、椅子、そして金属の昆虫のことだ。
長い年月を経ているのにも関わらず朽ち果てもせず、
その形を保っている。
それは魔法によるものでは無い事は既に分かっている。
一体どんな技術が使われているのだろうか?
それとも誰かが維持していたのだろうか?
疑問は尽きなかった。
その時、キーラは白い玉の事を思い出した。
あの傷をつける事のできない白い玉。
もしかしたら、同じ時代に作られたものでは無いのだろうか?
今まで幾多の遺跡を見て来た。
しかし白い玉と同時代と思われる遺跡は見たことが無かった。
キーラ:「それにしても、凄いわね。
これは今後の研究の対象になりそうね。」
「ドーン!!」
遠くから聞こえる爆音と共に床が細かく振るえる。
アンナ:「!!」
パイン:「なんだ?」
キーラ:「この音は、エクスプロージョンのようね。」
パイン:「エクスプロージョン!!
高位魔導士ですか?」
キーラ:「マスタークラスか、それ以上のね。」
パイン:「マスタークラス以上ですか、、、。」
パインも見習いとは言え魔導士の端くれである。
高位の魔導士がどれほどの強さを持っているのかを知っていた。
一般的に1人の魔導士は、一般兵10ー100人に相当すると
言われており、マスタークラス以上であれば、
1000人以上と言われる。
パインにも分かっていた。
これから戦う相手がそれほど手強い相手だということを。
キーラ:「これから戦う相手だけど、かなり手強いはずよ。
敵の魔導士は私が受け持つわ。
パイン、ナガットをお願い。」
パイン:「はい。」
キーラ:「アンナ、エレナの救出を最優先でお願い。」
アンナ:「はい。」
キーラ:「それじゃ、行きましょう。」
3人は真直ぐに通路を進んで行った。
時折聞こえるエクスプロージョンの音が
次第に大きくなっていった。
しばらく進むと破壊された扉が見えた。
そして、中を覗き込んだ。
扉の向こう側は、非常に大きな空間だった。
そして、右の方で異様な光景を目にした。
巨大な何かと戦っている者達がいるのだ。
巨大な何か。
それは遠くからはゴーレムの様に見えた。
戦っているのは、2人だった。
1人の動きは、明らかに力を得た者だった。
もう一人は精霊魔導士だ。
戦いは互角の様に見えた。
戦っている内の1人はナガットだろう。
しかし、もう一人は誰かは判らなかった。
左を見ると戦いを避けるように壁際を移動する者達が見えた。
人数は4人だ。
パインは、その中にエレナを見つけた。
パイン:「エレナ様を見つけた。」
アンナ:「どこに?」
パインは、エレナの方を指さした。
その途端、アンナが消え失せた。
キーラ:「素早いわね。
私達は、しばらく戦いを見守りましょう。」
パイン:「はい、わかりました。」
巨人と2人は、いつ終わるとも思わぬ戦いを続けていた。
巨人は想像以上に俊敏な動きをしていたが、
それでもナガットの速度には敵わなかった。
ナガットは素早く動き、巨人に切りつけていた。
しかし、巨人はびくともしていない。
パイン:「ナガットの攻撃は効いていないように見えます。」
魔導士は、様々な魔法を発動していた。
炎系魔法、水系魔法、風系魔法、雷系魔法、氷系魔法等々
その全てが効果が無いように見えた。
キーラ:「そうね。
それに、どうやら魔法も効いていないようね。」
パイン:「師匠。
あんなのをどうやって倒せばいいのか、
私には思いつきません。」
キーラ:「そうね。
あれは、厄介ね。」
その時、エレナの方に動きがあった。
アンナがエレナの傍に現れたのだ。
あっという間に決着はついた。
エレナの周りに立っている者はいなかった。
アンナは、エレナを抱きかかえると、
こちらへ向かって移動を始めた。
ナガットが異変に気が付いたように動き始めた。
パイン:「んっ?」
キーラ:「どうしたの?」
パイン:「気のせいかもしれないですが、
ナガットの動きが鈍くなっているような、、、。」
キーラ:「・・・」
ゴーレムから徐々に離れると倒れている者達に近づく。
魔導士はナガットの動きを補佐するように動いた。
2人の連携は見事なものだった。
しばらく戦闘を見ていた時、キーラはある事に気が付いた。
ゴーレムが光を発し始めたのだ。
キーラの直感がアラームを鳴らした。
キーラ:(ここに居てはいけない。)
キーラ:「アンナが戻ったら、すぐにここから離れます。」
パイン:「ナガット達はどうするのですか?」
キーラ:「そんなことを言っている余裕はなさそうよ。」
徐々にゴーレムの発する光は強くなって行く。
アンナが飛ぶように移動し、2人の元へと戻ってきた。
アンナの腕の中には、気を失ったエレナがいた。
キーラ:「ここは危険だわ。
直ぐに戻りましょう。」
キーラ達の転移の魔法が発動した直後、ゴーレムは光を放った。
*1:魔法光
魔法の発動時に発生する光。
魔法LVが高いほど明るく光る為、
魔法発動者の力量の判断材料の一つにされる事が多い。
キーラの発動魔法の発光現象は精霊魔導士の唱える
神聖魔法としては驚異的なものであった。
*2:エクスプロージョン
爆発系魔法であり、炎系系魔法の上位魔法である。
範囲魔法であり、戦闘時に最も大きな効果を期待できる
魔法の一つである。
LV5まで強化した場合、岩石を破壊するほどの威力がある。




