バートランド平原への道
キーラ、パイン、アンナの3人がナカサ村へ到着したとき、
村がもう存在していないことを知った。
ナサカ村のあった場所には、
焼け焦げた家々の残骸のみがあった。
パインが偵察に来た時、ナサカ村はゴブリンやオークに
襲われていた。
村人はパインが見た限り村人を発見することは出来なかった。
そして、力を得た者にゴブリンやオークは殺されたのだ。
この時、それを見ていたパイン達も襲われたのだが、、、。
状況から考えれば、力を得た者が燃やしたのか、
あるいは、進軍した連合軍が燃やしたかのどちらかだろう。
キーラ:「村で情報を集めようと思ったけれど、
これじゃあ、しょうがないわね。
先へ進みましょう。」
キーラが得ていた情報では、ナサカ村の真東の岩山に
洞窟の入口があるらしい。
3人はわずかな情報を頼りに先へと進んだ。
岩山までは、それほど時間はかからなかった。
到着すると、それは直ぐに発見できた。
キーラ:「これって、洞窟の入口じゃなくて、亀裂よね。」
キーラの言う様に、洞窟の入口ではなく、
人が入れるほどに割けた亀裂であった。
3人は、剣先に明かりを灯すと、
恐る恐る亀裂の中へと入って行った。
しばらく進むといきなり視界が広がった。
まさしく洞窟であった。
洞窟の側面に亀裂が繋がっていたのだ。
キーラが地面を確認すると、真新しい多数の足跡が
北に向かっているのが分かった。
キーラ:「どうやらこっちに向かったようね。」
そう言って北の方を見る。
その瞬間、飛び出そうとするアンナをキーラの腕が制した。
パインは驚いた。
アンナは、グレイグの力を得ているのだ。
生身のキーラがそれを止めるには、
事前にそのことを知っていなければ不可能だ。
キーラは、アンナの行動を予測していたのだろうか?
キーラは焦るアンナに言った。
キーラ:「まだ、早いわ。
敵に気付かれるとエレナを危険に晒す事になるわよ。」
その言葉にアンナは気を落ち着かせた。
そして、3人はゆっくりと先へと進んだ。
途中何本かの分かれ道があったが、足跡を確認しながら進んだ。
そして、崩落の跡を発見した。
その崩落は道を塞ぎ、先へ進むことが出来なかった。
良く調べると、別の場所に穴があいていた。
その穴も崩落で出来たものだろう。
3人はその穴を通り抜けた。
すると、別の洞窟が続いていた。
しばらく進むと、様相が一変した。
壁が人工的な様相を醸し出したのだ。
壁は削っただけではなく、綺麗に磨かれており、
さらに不思議な模様が描かれていた。
キーラ:「あら、こんなところに遺跡が。
パイン、この遺跡。
何か気が付くことはない?」
パイン:「えっ、何と言われても、、、。
あっ、この壁の模様、何処かで見たことがあるような。
そうだ。
師匠と出会った、あの山の遺跡。
あれと同じ模様じゃないですか。」
キーラ:「よく気が付いたわね。
だとすると何か思う事は無い?」
パイン:「えっ、いきなり言われても。
あっ、もしかして魔法の罠のことですか?
ここにも魔法の罠があると?」
キーラ:「良く分かったわね。
正解よ。
絶対にあるとは言えないけれど、
その可能性は高いわ。
なので、ここからは慎重に進むわよ。」
アンナは、落ち着いたと言っても、やはり気が気ではなかった。
そこで、少しでも早く進めるように何かしなければと考えた。
そしてキーラに提案した。
アンナ:「私が先に行って様子を見てきます。」
キーラ:「そうね。
力を使えば発動後でも逃げられるとは思うけど*1、
魔法の罠には注意してね。」
アンナ:「わかりました。」
そう言うとアンナは先へと先行した。
パイン:「それにしても、良くそこまで気が付きますね。
どうやったらそうなれるのですか?」
キーラ:「別に難しい事では無いわ。
まずは、何にでも興味を持つ事。
そして、それをよく観察する事。
例えば、私がパイン、貴方を観察したとする。
次第にパインの通常の行動が分かってくるの。
通常と異なる行動をとった時、
それを知る事ができるわ。
そして、何故そのような行動をとったのかを
考えるのよ。
ここでは、今までに得た知識を使うわ。
あぁ、経験も知識の一つだからね。
そしてその行動をパインの気持ちになって考えるのよ。
そうすれば、おのずと答えを導き出せるわ。
確実ではないけれど、かなり近い結果を出せるわ。
もし、答えが間違っていたならば、何故間違えたのかを
考え修正を加える。
この繰り返しが重要なの。」
パイン:「なるほど。
問題は知識ですね。
恥ずかしながら、知識が足りなすぎます。」
キーラ:「知識が足りないのを恥じる必要はないわ。
恥じるべき事は、知識が足りないと知っているのに
知ろうとしないことよ。」
パイン:「そうか。
放置したら、知識は増えませんからね。」
キーラ:「そして注意すべきは、思い込みね。
折角知識を得ようと努力したのに、
思い込みで全てを台無しにすることがあるわ。
知らない知識を得ようとしたときに、
別の知らない知識が出た場合、
面倒でも、その知識を得るまでは先に進まないことね。
もっとも危険なのは思い込みや想像で進める事よ。
もし、知らない知識ばかりだった場合、
その知識を得る為の最低限の知識を得ていないと思って
他の知識を得る事を考えた方がいいわよ。」
パイン:「んーっ、大変ですね。」
キーラ:「当然よ。
知識とは、知識という土台の上に成り立っているのよ。
土台が脆ければ直ぐに崩れてしまうわ。
だから、建物を建てるようにしっかりとした土台を
作らなければならないのよ。
急がば回れってことね。」
パーン:「地道に進むしかなさそうですね。」
キーラ:「その通りよ。」
その時、アンナが戻ってきた。
アンナ:「マスターキーラ。
この先に壊れた扉があります。」
3人が扉の前に到着すると、扉を眺めた。
それは両開きの鉄製の扉であった。
しかし、観音開きの扉ではなく、
左右にスライドする方式の扉であった。
扉は、何かで叩いたようにくの字に折れ曲がっており、
もう二度と閉じる事ができなかった。
それは、丸い何かをぶつけたような曲がり方だった。
キーラ:「どうも叩き壊したって感じね。」
パイン:「それにしても凄い力ですね。」
キーラ:「パインなら力を使えば同じことが出来るかしら?」
パイン:「試してみましょう。」
そう言うとパインは扉に近づいた。
左手で扉を抑えると、折れ曲がった部分を右手で掴む。
そして力を加えた。
パインの右手が黒く変色して行く。
扉はギシギシと音を立てながら変形して行った。
そして、ある程度まで試すと力を抜いた。
パイン:「ふぅ。
かなり硬いですね。
時間をかければなんとかなると思います。」
キーラ:「そう。
ちょっと変わってくれる。」
キーラは、パインと入れ替わるように扉の前にたった。
そして、扉の曲がった部分に手をかざすと呪文を唱えた。
その後、扉を掴み力強く引っ張った。
扉はまるで水飴の様にぐにゃりと曲がった。
キーラ:「どうやら、効果はあるようね。」
パイン:「えっ。
どうやって?」
キーラ:「この魔法は、ソフティン*2という魔法よ。
特定の金属を軟化させる効果があるのよ。
もの凄く特殊な魔法で、よほどの事が無い限り
わざわざ修得する魔導士は存在しないわね。
そう。
よほどの変わり者の魔導士か、あるいは、
修得する魔法が無くなった魔導士とか以外わね。
それにこんな魔法を使える魔導士は限られるわね。」
パイン:「それって、敵の中に優秀な魔導士が同行しているって
ことですか?」
キーラ:「えぇ、そうなるわね。
それも、かなり高位のね。
魔導士の生き残るための6か条覚えている?」
パイン:「えーと。
1.魔導士と悟られることなかれ。
2.接近されることなかれ。
3.先制されることなかれ。
4.準備を怠ることなかれ。
5. 常に罠を警戒すべし。
6.切り札を用意すべし。
でしたっけ?」
キーラ:「正解。
この中で3の先制されることなかれは、最も重要よ。
これによって多くの魔導士が命を落としているわ。
もし、私に魔法攻撃が来た場合、私から離れなさい。
力を持っている貴方達なら可能なはずよ。」
パイン:「えっ、でも。」
キーラ:「私は大丈夫。
私一人だけならば、
瞬時に魔法結界を張る事ができるわ。
私の結果は強力よ。
並みの魔導士には打ち破れないわ。」
パイン:「分かりました。」
キーラ:「それでは、先に進みましょう。」
3人は、警戒しながら部屋の中へと進み、
入口で立ち止まると部屋の中を観察した。
部屋は3つに仕切られていた。
3人が進んだ場所は部屋というより通路だった。
反対側には、入り口と同様に壊された扉があった。
左右は透明度の高いガラスのような壁で覆われている。
ガラスの向こう側は、白を基調とした色の壁。
見た事もない机や椅子。
机の上には、四角い箱のようなものが多数置かれており、
扉と思われるものが存在していた。
通路の天井には多数の良く分からない物がぶら下がっている。
パイン:「不思議な部屋ですね。
まるで、ここを通る人を観察するような。」
キーラ:「そうね。
たぶんそんな目的で作られたんでしょうね。」
この時、キーラは前方の床にある足跡を眺めていた。
積もった埃の上にくっきりと足跡が残っている。
多くの足跡が残されていたが、
ごく短時間でキーラは識別していた。
人数は、およそ7人。
足運びから見て、その内の一人はシーフ。
戦士等の肉体系が2人というところだろうか?
後は、ゴルザとナガット、そしてエレナ。
あと一つは、魔導士と思われるが、
明らかに他の足跡とは異なっている。
体重が軽すぎるように思えるのだ。
それだけではない、足跡に残留魔塵を感じたのだ。
キーラは特殊な能力を持っていた。
それは、別に特別なことではない。
人は、生まれながらにして特殊な能力を持っている。
プラス方向の能力もあれば、マイナス方向の能力もある。
しかし、人はそれを選ぶことはできない。
パインが強力な魔法耐性を持っているのと同じように、
キーラは、意識を集中すると残留魔塵を感じる事ができた。
ただ、それは明確に見えるのではなく、
なんとなく感じるだけではあるのだが。
足跡にまで残留魔塵を残す事ができる魔導士は限られる。
常に防御魔法等の魔法を掛け続けなければならない。
その為には人並み外れた魔力を持っていなければならないのだ。
それだけの魔力を持つ者がどれだけいるだろうか?
キーラの頭の中には、まるで走馬灯のように魔導士の顔が
浮かんでは消えていった。
そして、1人の魔導士に辿り着いた。
キーラは、ぼそりと呟く。
キーラ:「ザラス、、。
まさかね。」
アンナ:「どうされました?」
キーラ:「いえ、何でもないわ。」
*1:力を使えば発動後でも逃げられるとは思うけど
魔法陣による魔法の発動は瞬時であるが、
それでも多少の遅延が発生する。
その遅延は人間が行動する速度より早いため、
常人では逃れる事はできないが、
グレイグの能力を使えばその限りではない。
*2:ソフティン
特定の金属(主に鉄)を軟化する。
魔法具を作成するときに必要そうに思えるが、
鉄を加工する場面は想像以上に少ない。
剣や防具を作る場合は鍛冶職人に任せた方がより良い物を
作り出せるからだ。
修得することが難しいわりに使い道に困る魔法でもある。
その為、修得する魔導士は稀である。




