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グレイグ  作者: 夢之中
30/52

リック


ナガットが第4区画に到着した日の深夜。

ゴルザは、豪華な部屋のソファーに座っていた。

テーブルを挟んで反対側には、ナガットが座っていた。


ゴルザ:「それで、女をメルトニアに連れて行きたいのか。

    しかしな、メルトニアへの転移の魔法陣は

    壊れちまったよ。

    どうやら、転受の魔法陣が壊されちまったようだ。

    そういう訳で、復旧のめどは立たない。

    さらに、メルトニアの航路は今封鎖されている。

    それに、どうやら軍が動いているようだ。

    こんな状態でどうやって移動するっていうんだ?

    兄弟よ。」

ナガット:「ゲーノモス山脈を越えるのはどうだ?」

ゴルザ:「勘弁してくれよ。

    あそこは、ドラゴンとドワーフの縄張りだぞ。

    無事に超えられるとは思わない。

    まあ、道が無い事は無いんだが、かなり危険を伴う。」

ナガット:「それは?」

ゴルザ:「ナサカ村を知っているか?」

ナガット:「あぁ、知っている。」

ゴルザ:「ナサカ村の東にある不帰の森の中に

    地下に続く洞窟があるんだが。

    それがメルトニア平野に続いていると言われている。」

ナガット:「言われている?」

ゴルザ:「あぁ、実は道が確立されているわけじゃあないんだ。

    そこを通ったやつはもう死んじまってな。

    手探りで探すしかないという訳だ。

    そこでだ。

    そのルートを我々のみの道として確立したい。」

ナガット:「なるほど、海路だと、軍の検閲をうけるからな。

     裏ルートを作りたいというわけか。」

ゴルザ:「そう言う事だ。」

ナガット:「分かった。

     俺はメルトニアに行ければそれでいい。

     ルートはお前にやろう。」

ゴルザ:「ところで、当初の計画はどうなった?」

ナガット:「あれは、中止だ。

     それよりも、もっといい話がある。

     どうだ?

     聞きたいか?」

ゴルザ:「あぁ、金になる話なら大歓迎だ。

    なあ、兄弟。」



パイン、ラキ、アンナ、クーザ、リックの5人は、

第4区画へと続く城門建物の前にいた。

リック:「第4区画は、スリやひったくり、置き引きなんかが

    いっぱいいるから、大切なものは置いて行った方が

    身の為だよ。」

パイン:「そんなに危険なのか?」

リック:「あぁ、気がついたら取られていたなんて言うのは

    当たり前の事だよ。

    比較的安全なのは、美人の姉ちゃんが着てるような、

    フードの付いたローブだね。

    あと、武器は外から分かるようにしておけば、

    牽制にもなるよ。

    気の荒い連中が多いけど、武器を携帯している者は

    警戒されるんだ。」

ラキ:「クーザさん。

   準備できるかしら?」

クーザ:「はい。

    すぐに。」

そう言うと、クーザは第4区画の城門前の建物に入って行き、

その後直ぐに出てきた。

クーザ:「アンナ殿とリックのローブは

    常備品で対処できそうです。」

ラキ:「ありがとう。

   それは、助かったわ。」

パイン:「リックは、若いのに修羅場をくぐり抜けてるって

    感じだな。」

リック:「修羅場というより、生活の一部なんだよ。」

パイン:「生活の一部か。

    ところで、リックはいくつなんだい?」

リック:「俺かい、12だよ。」

パイン:「えっ、12!!」

アンナ:「あなた、一体いくつから情報屋なんてやってるの?」

リック:「2年前だから、10の時からかな?」

クーザ:「なんだって、両親は何をしてるんだ?」

リック:「両親はいないよ。

    姉さんと2人で生きて来たんだよ。」

クーザ:「そうか。

    すまなかったな。」

リック:「気にしなくてもいいよ。

    いつもの事だから、なんとも思わないよ。」

クーザ:「・・・」

ラキ:「ところで、クーザさん。

   まだ時間がかかるですかね?」

クーザ:「あっ、申し訳ありません。

    現在申請中であと少し時間がかかりそうです。」

ラキ:「しょうがないわね。」

リック:「あっ、そうだ。

    中に入ると、色々と珍しい物を売り込みに来るけど、

    相手にしちゃだめだよ。

    99%偽物だから。」

ラキ:「99%?

   1%は本物があるの?」

リック:「あるよ。

    ここの売人は買い叩くから、自分で売るんだ。

    そう言う売人は、本物を売っている。

    他の区画から盗品なんかを売りに来るんだよ。」

クーザ:「盗品を売ってるのか?!」

リック:「そう熱くなるなよ。

    ここじゃあ、当たり前のことなんだからさ。

    それに、軍関係者もたまに買いに来るみたいだよ。」

ラキ:「へぇー、面白いわね。」

クーザ:「そうなのか?」

リック:「お偉いさんも特定の店には、たまに来るらしいよ。

    どんな店かは知らないけどね。」

クーザ:「・・・」

リック:「ところで、作戦とかはないのかい?」

ラキ:「そうねぇ。

   リックはマーケットに入ったことはあるの?」

リック:「いや、入ったことはないんだ。」

ラキ:「そうなのね。

   情報収集する時間もないし、考えている時間もない。

   だから、正面から正々堂々と突入することにしましょう。」

リック:「大丈夫なのかい?」

ラキ:「大丈夫だから、安心してみていなさい。」

リック:「あぁ、わかったよ。」

リックは、若干の不安を感じながらも、

ラキの事を信じる事にした。

そして、しばらくたった後、許可が下り、

5人は、第4区画へ続く門を通過した。


5人が中に入ると、第3区画と同様に入り組んだ

路地が続いているのが見えた。

大きく違っていたのは、住居ではなく露天や出店で

溢れかえっていたのだ。

周りにいる人々が一斉にこちらに注目する。

そして、数人の売人がこちらへとやってきて、

早口で商売の話を始めた。

リックが彼等と話を始めると、すぐに売人達は5人の元から

去っていった。

パイン:「どうやって追い払ったんだい?」

リック:「あぁ、自分の上客だから手をださないでくれってね。

    帰りに店を紹介するからって言ったら、

    おとなしく帰ったよ。」

パイン:「すごいな。

    リックは、値切りとかもうまいのかい?」

リック:「もちろん。」

パイン:「何か買う時は、リックに相談しないとな。」

そう言うとリックは、ニコニコしながら答えた。

リック:「何時でも言ってくれ。」

その後、5人はリックの道案内で、マーケットの入口のある

路地へとやってきた。

路地は、人通りが極端に減り、異様な雰囲気を醸し出していた。

路地を進むと、少し広くなっている場所に到着した。

その凹み部分に1人の男が立っていた。

スキンヘッドに刺青を入れた屈強な男だった。

彼は、5人を睨み付けると、声をかけて来た。

???:「おい。

    ここに何の用だ?

    ここは、貴様らの様な者が来るところじゃないぞ。

    道に迷ったんなら大目に見るが、

    直ぐにこの場から離れるんだな。」

ラキ1人が前に歩み出ると、ローブのフードを上げた。

???:「おっ、こりゃとんでもない上玉じゃないか。

    どうだい、俺の女にならないか?」

そう言っている間にラキは、ローブの前をはだける。

???:「な、なにか、ごようでしょうか?」

突然スキンヘッドの男の態度が変わった。

ラキ:「中に入りたいんだけど、どうかしら?」

???:「はっ、はい。

    いま、開けさせます。」

そう言うと、スキンヘッドの男は中の者に指示を出す。

そして、難なく扉を開けさせることに成功した。

ラキ:「ありがとう。

   ところで、ゴルザはいまどこにいるのかしら?」

???:「ボスですかい。

    ボスならいつもの場所にいるはずです。」

ラキ:「いつもの場所?

   良く分からないわ。

   詳しく教えて頂戴。」

???:「地下街の道を奥まで行った突き当りの扉の先です。」

ラキ:「わかったわ。

   ありがとう。」

それを見ていたリックは驚いた。

リック:「えっ、一体何が?」

パインはリックの耳元で小声で答えた。

パイン:「魅了だよ。」

リック:「ラキは魔導士なのかい?」

パイン:「あぁ、高名な精霊魔導士だよ。」

リック:「そうか。

    ますます嫁にしたくなってきたな。」

パイン:「えっ!!」

リック:「いや、なんでもないよ。」

5人が扉の中へとはいると、少し大きめの部屋だった。

奥にカウンターがあり、仮面をつけた女性が立っており、

カウンターの上には受付と書かれた板が張られていた。

受付嬢:「初めての方々ですね。

    この先へ行くには仮面を付けていただきます。

    ここにある仮面の中からお選びください。」

ラキ:「へー。

   じゃあ、私は、そこの猫の仮面を。」

5人は、仮面を選んだ。

ラキは、猫の仮面。

パインは、狼の仮面。

アンナは、黒豹の仮面。

クーザは、犬の仮面。

リックは、鷹の仮面。

そして、仮面をつけると奥の扉の先へと進んだ。

扉の先は、長い階段だった。

階段を最後まで下りると目の前には広い空間が広がっており、

広い道と左右には華やかな店が立ち並んでいた。

人はそれほど多くはないが、全ての人が仮面をつけていた。

パイン:「客の情報を守る仕組みみたいですね。

    仮面舞踏会みたいなものですかね?」

ラキ:「そうね。

   人にもよるけど、自分が誰か分からなければ

   行動が大胆になる事が多いのよ。

   理性が本能を抑えているけど、仮面をつける事により、

   それが解放されるみたいな感じかしら。

   仮面を付けて理性に負けた場合、

   行動がより大胆になるわ。

   よく、呪いの仮面とか言われている物も、

   よく調べてみると呪いでも何でもなく、仮面を付けた者の

   本質が現れた行動だったっていうのが多いのよ。」

パイン:「なるほど。

    自分も気を付けないといけないですね。」

5人は、真直ぐに進み突き当りの扉の近くまできた。

扉の前には、2人の男が立っていた。

ラキ:「2人か。

   パイン、アンナ。」

パイン、アンナ:「はい。」

ラキ:「どうやら、魅了はこの2人が限界のようだわ。

   中に入ったら、すぐに制圧を開始して頂戴。」

パイン、アンナ:「わかりました。」

ラキ:「それじゃあ、行ってくるわね。」

ラキが扉の前まで進むと2人の男に止められた。

男1:「申し訳ありませんが、この先は立ち入り禁止です。」

ラキは、丁重な発言に少し驚いた。

ラキ:「ゴルザさんに会いたいのですが?」

男2:「今日は面会の予定は無かったはずだが?」

男1:「あぁ、そうだな。

   予約を入れていただけないと、

   ゴルザ様には、お会いできません。」

ラキは、ローブ前をはだけ、2人に見せた。

男2:「んっ?

   この方なら、予約が無くても問題ないんじゃないか?」

男1:「あぁ、そうだな。

   どうぞ、お入りください。」

5人が中に入った時、目の前に2人の男が立っていた。

フロアは、広めの1階と2階へと続く階段で構成されていた。


男3:「何者、、、うぐっ。」

男4:「どうやって、、、うぁっ。」

その言葉が発し終わる前にアンナが動いた。

男3を気絶させると、男4の後ろに回り込み、両腕を固定すると

喉元に剣身を当てた。

ラキが近づき問いかける。

ラキ:「ゴルザはどこ?」

男4:「こんなことをしてただで済むとおもっているのか?」

ラキ:「質問に答えなさい。

   ゴルザの心配をするよりも

   自分の心配をした方がいいわよ。」

男4:「くそっ。」

その時突然ホール内に響き渡る声がした。

ホール内に音が反響し場所が特定できない。

???:「ホールに侵入者だ!!」

男4は、不敵な笑みを浮かべた。

男4:「こちらの勝ちだな。」


その声に反応し、奥の両開きの扉から10数人程の

男達がゾロゾロと現れた。

ラキは、とっさにショックの魔法*1を唱えた。

現れた男達を取り囲むように稲妻が走ると、

彼等はドミノ倒しのようにバタバタと倒れた。

それを見ていた男4の顔が引きつる。

ラキ:「最後まで、形勢はわからないものよ。」

男4:「貴様ら何者だ?」

ラキ:「それで、ゴルザは何処にいるの?」

男4:「ボスは、今日はここにはいない。

   今朝早く、ナカサ村に向かった。」

ラキ:「嘘は言って無いでしょうね。」

男4:「本当だ。」

アンナがナサカ村というキーワードに反応した。

アンナ:「思い出しました。

    ナカサ村の言い伝えで、バートランド平原に繋がる

    洞窟が存在するというのがあります。」

ラキ:「そんなところに。

   どうやら、先を越されたようね。」

アンナが首筋に当てていた剣を降ろすと、

リックが男4の前に立った。

何処に隠し持っていたのか短剣を取り出し男の首に突き付けた。

リック:「姉さんはどこだ?」

男4:「ちょっと待て、

   姉さんとは誰だ?」

リック:「とぼけるな。

    姉さんはどこだ?」

リックの短剣が振るえ、男の首筋から一筋の血が流れた。

男4:「ちょっとまて、なんでも話すから、

   こいつを止めてくれ。」

ラキ:「リック、少し彼と話させて。

   ここに捕えている女性はいるかしら?」

男4:「俺は、詳しい事は知らない。

   だが、奥に牢獄があるらしい。

   そこに売り物の女達が捕らえられていると聞いている。」

ラキ:「人身売買までやってるのね。

   これは、見逃せないわね。

   さて、案内してもらうわよ。」


数十分後、パイン達は、十数人の女性達と共に公国にいた。

クーザは、人身売買の件をビッツ将軍に報告するために戻った。

人身売買は、王国、公国でも重い罪になるため、

彼女達は、ゴルザを追求する大きな証拠となる。

それ故にに彼女達を守る必要があったのだ。

リックの姉は、捉われた女性達の中にいた。

リックは、ラキ達に感謝するとともに、

今後も進んで協力すると言ってくれた。

あとはエレナを救出するためにナサカ村へ向かうだけだった。

不可思議な現象はナサカ村へと出発する直前に起こった。

リックが感謝の意を込めて握手をし始めた。

パインの番になった時、それは起こった。

パインがリックと握手しようと手が触れた時、

パインは手を引っ込めた。

そして、一言、「すまない、リック。」

そう言い残してその場から離れた。

同時にアンナもパインを追う様に離れたのだ。

ラキもリックも何が起こったのかわからなかった。

ラキが2人を追うと、2人は宮殿の外に立っていた。

ラキ:「一体どうしたの?」

パイン:「いや、良く分からないんです。

    突然身体が勝手に動いて。」

アンナ:「私も勝手にパインを追いかけました。」

ラキ:「どうやら、グレイグがやったことみたいね。

   まだ分からないけれど、何かありそうね。

   まあいいわ。

   このままナカサ村に向かいましょう。」

3人は、ナサカ村へ向かう為、冒険者協会にある

転移の魔法陣へと向かった。



丁度その頃、8頭引きの連結馬車が疾走していた。

後ろの馬車は、扉は外から(かんぬき)が掛けられ、

窓枠には鉄格子がはめられていた。

1人の女性が馬車の中の豪華なソファの上に寝ていた。

馬車は路面の凹凸に応じて、時折大きく揺れた。

そして、一段と大きく揺れた時、馬車の中の者が眼を覚ました。

エレナ:「うっ、うーん。」

エレナは、身体中に痛みを感じた。

痛みをこらえ起き上がると辺りを見回した。

馬車の中であること、今は昼であること、

囚われの身であることを認識した。

エレナは最後の記憶をたどった。

それは部屋の移動中の事だった。

部屋の移動はミンサの件(間者)があった為、安全を期すために

日々部屋を移動するように大公から指示されていたことである。

それに従い、エレナは別の部屋へと移動を始めた。

通路を歩いているとき、エレナは視線を感じた。

付き人に先に行くように指示し、

目的の部屋ではなく近くの部屋へと入った。

部屋に入った直後に侵入してきた男に襲われたのだ。

そこから記憶が無かった。

すぐに身体中を確認する。

エレナ:(魔法具がない。)

アラインは、もしもの為にエレナに多くの魔法具を

身に付けさせていた。

それらが全て無くなっているのだ。

そして脱出は不可能だと判断した。

覚悟を決めたエレナは、身なりを整えると豪華なソファの上に

座りなおした。



*1:ショックの魔法

 雷属性魔法の1つで、範囲魔法である。

 対人相手では意識を失わせる程度の威力しか

 持ち合わせていない。

 低レベルからの使用が可能なため、

 最初に覚える範囲魔法となる。

 範囲を変化させることにより威力を調整できる。

 高LVになると、範囲を狭くすることにより、

 対人殺傷能力を得る事が可能となる。

 範囲を変えること以外で威力を落とす事が出来ない為、

 高LV者が使用する場合は、場所と状況を選ぶ魔法ともいえる。


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