リック
ナガットが第4区画に到着した日の深夜。
ゴルザは、豪華な部屋のソファーに座っていた。
テーブルを挟んで反対側には、ナガットが座っていた。
ゴルザ:「それで、女をメルトニアに連れて行きたいのか。
しかしな、メルトニアへの転移の魔法陣は
壊れちまったよ。
どうやら、転受の魔法陣が壊されちまったようだ。
そういう訳で、復旧のめどは立たない。
さらに、メルトニアの航路は今封鎖されている。
それに、どうやら軍が動いているようだ。
こんな状態でどうやって移動するっていうんだ?
兄弟よ。」
ナガット:「ゲーノモス山脈を越えるのはどうだ?」
ゴルザ:「勘弁してくれよ。
あそこは、ドラゴンとドワーフの縄張りだぞ。
無事に超えられるとは思わない。
まあ、道が無い事は無いんだが、かなり危険を伴う。」
ナガット:「それは?」
ゴルザ:「ナサカ村を知っているか?」
ナガット:「あぁ、知っている。」
ゴルザ:「ナサカ村の東にある不帰の森の中に
地下に続く洞窟があるんだが。
それがメルトニア平野に続いていると言われている。」
ナガット:「言われている?」
ゴルザ:「あぁ、実は道が確立されているわけじゃあないんだ。
そこを通ったやつはもう死んじまってな。
手探りで探すしかないという訳だ。
そこでだ。
そのルートを我々のみの道として確立したい。」
ナガット:「なるほど、海路だと、軍の検閲をうけるからな。
裏ルートを作りたいというわけか。」
ゴルザ:「そう言う事だ。」
ナガット:「分かった。
俺はメルトニアに行ければそれでいい。
ルートはお前にやろう。」
ゴルザ:「ところで、当初の計画はどうなった?」
ナガット:「あれは、中止だ。
それよりも、もっといい話がある。
どうだ?
聞きたいか?」
ゴルザ:「あぁ、金になる話なら大歓迎だ。
なあ、兄弟。」
パイン、ラキ、アンナ、クーザ、リックの5人は、
第4区画へと続く城門建物の前にいた。
リック:「第4区画は、スリやひったくり、置き引きなんかが
いっぱいいるから、大切なものは置いて行った方が
身の為だよ。」
パイン:「そんなに危険なのか?」
リック:「あぁ、気がついたら取られていたなんて言うのは
当たり前の事だよ。
比較的安全なのは、美人の姉ちゃんが着てるような、
フードの付いたローブだね。
あと、武器は外から分かるようにしておけば、
牽制にもなるよ。
気の荒い連中が多いけど、武器を携帯している者は
警戒されるんだ。」
ラキ:「クーザさん。
準備できるかしら?」
クーザ:「はい。
すぐに。」
そう言うと、クーザは第4区画の城門前の建物に入って行き、
その後直ぐに出てきた。
クーザ:「アンナ殿とリックのローブは
常備品で対処できそうです。」
ラキ:「ありがとう。
それは、助かったわ。」
パイン:「リックは、若いのに修羅場をくぐり抜けてるって
感じだな。」
リック:「修羅場というより、生活の一部なんだよ。」
パイン:「生活の一部か。
ところで、リックはいくつなんだい?」
リック:「俺かい、12だよ。」
パイン:「えっ、12!!」
アンナ:「あなた、一体いくつから情報屋なんてやってるの?」
リック:「2年前だから、10の時からかな?」
クーザ:「なんだって、両親は何をしてるんだ?」
リック:「両親はいないよ。
姉さんと2人で生きて来たんだよ。」
クーザ:「そうか。
すまなかったな。」
リック:「気にしなくてもいいよ。
いつもの事だから、なんとも思わないよ。」
クーザ:「・・・」
ラキ:「ところで、クーザさん。
まだ時間がかかるですかね?」
クーザ:「あっ、申し訳ありません。
現在申請中であと少し時間がかかりそうです。」
ラキ:「しょうがないわね。」
リック:「あっ、そうだ。
中に入ると、色々と珍しい物を売り込みに来るけど、
相手にしちゃだめだよ。
99%偽物だから。」
ラキ:「99%?
1%は本物があるの?」
リック:「あるよ。
ここの売人は買い叩くから、自分で売るんだ。
そう言う売人は、本物を売っている。
他の区画から盗品なんかを売りに来るんだよ。」
クーザ:「盗品を売ってるのか?!」
リック:「そう熱くなるなよ。
ここじゃあ、当たり前のことなんだからさ。
それに、軍関係者もたまに買いに来るみたいだよ。」
ラキ:「へぇー、面白いわね。」
クーザ:「そうなのか?」
リック:「お偉いさんも特定の店には、たまに来るらしいよ。
どんな店かは知らないけどね。」
クーザ:「・・・」
リック:「ところで、作戦とかはないのかい?」
ラキ:「そうねぇ。
リックはマーケットに入ったことはあるの?」
リック:「いや、入ったことはないんだ。」
ラキ:「そうなのね。
情報収集する時間もないし、考えている時間もない。
だから、正面から正々堂々と突入することにしましょう。」
リック:「大丈夫なのかい?」
ラキ:「大丈夫だから、安心してみていなさい。」
リック:「あぁ、わかったよ。」
リックは、若干の不安を感じながらも、
ラキの事を信じる事にした。
そして、しばらくたった後、許可が下り、
5人は、第4区画へ続く門を通過した。
5人が中に入ると、第3区画と同様に入り組んだ
路地が続いているのが見えた。
大きく違っていたのは、住居ではなく露天や出店で
溢れかえっていたのだ。
周りにいる人々が一斉にこちらに注目する。
そして、数人の売人がこちらへとやってきて、
早口で商売の話を始めた。
リックが彼等と話を始めると、すぐに売人達は5人の元から
去っていった。
パイン:「どうやって追い払ったんだい?」
リック:「あぁ、自分の上客だから手をださないでくれってね。
帰りに店を紹介するからって言ったら、
おとなしく帰ったよ。」
パイン:「すごいな。
リックは、値切りとかもうまいのかい?」
リック:「もちろん。」
パイン:「何か買う時は、リックに相談しないとな。」
そう言うとリックは、ニコニコしながら答えた。
リック:「何時でも言ってくれ。」
その後、5人はリックの道案内で、マーケットの入口のある
路地へとやってきた。
路地は、人通りが極端に減り、異様な雰囲気を醸し出していた。
路地を進むと、少し広くなっている場所に到着した。
その凹み部分に1人の男が立っていた。
スキンヘッドに刺青を入れた屈強な男だった。
彼は、5人を睨み付けると、声をかけて来た。
???:「おい。
ここに何の用だ?
ここは、貴様らの様な者が来るところじゃないぞ。
道に迷ったんなら大目に見るが、
直ぐにこの場から離れるんだな。」
ラキ1人が前に歩み出ると、ローブのフードを上げた。
???:「おっ、こりゃとんでもない上玉じゃないか。
どうだい、俺の女にならないか?」
そう言っている間にラキは、ローブの前をはだける。
???:「な、なにか、ごようでしょうか?」
突然スキンヘッドの男の態度が変わった。
ラキ:「中に入りたいんだけど、どうかしら?」
???:「はっ、はい。
いま、開けさせます。」
そう言うと、スキンヘッドの男は中の者に指示を出す。
そして、難なく扉を開けさせることに成功した。
ラキ:「ありがとう。
ところで、ゴルザはいまどこにいるのかしら?」
???:「ボスですかい。
ボスならいつもの場所にいるはずです。」
ラキ:「いつもの場所?
良く分からないわ。
詳しく教えて頂戴。」
???:「地下街の道を奥まで行った突き当りの扉の先です。」
ラキ:「わかったわ。
ありがとう。」
それを見ていたリックは驚いた。
リック:「えっ、一体何が?」
パインはリックの耳元で小声で答えた。
パイン:「魅了だよ。」
リック:「ラキは魔導士なのかい?」
パイン:「あぁ、高名な精霊魔導士だよ。」
リック:「そうか。
ますます嫁にしたくなってきたな。」
パイン:「えっ!!」
リック:「いや、なんでもないよ。」
5人が扉の中へとはいると、少し大きめの部屋だった。
奥にカウンターがあり、仮面をつけた女性が立っており、
カウンターの上には受付と書かれた板が張られていた。
受付嬢:「初めての方々ですね。
この先へ行くには仮面を付けていただきます。
ここにある仮面の中からお選びください。」
ラキ:「へー。
じゃあ、私は、そこの猫の仮面を。」
5人は、仮面を選んだ。
ラキは、猫の仮面。
パインは、狼の仮面。
アンナは、黒豹の仮面。
クーザは、犬の仮面。
リックは、鷹の仮面。
そして、仮面をつけると奥の扉の先へと進んだ。
扉の先は、長い階段だった。
階段を最後まで下りると目の前には広い空間が広がっており、
広い道と左右には華やかな店が立ち並んでいた。
人はそれほど多くはないが、全ての人が仮面をつけていた。
パイン:「客の情報を守る仕組みみたいですね。
仮面舞踏会みたいなものですかね?」
ラキ:「そうね。
人にもよるけど、自分が誰か分からなければ
行動が大胆になる事が多いのよ。
理性が本能を抑えているけど、仮面をつける事により、
それが解放されるみたいな感じかしら。
仮面を付けて理性に負けた場合、
行動がより大胆になるわ。
よく、呪いの仮面とか言われている物も、
よく調べてみると呪いでも何でもなく、仮面を付けた者の
本質が現れた行動だったっていうのが多いのよ。」
パイン:「なるほど。
自分も気を付けないといけないですね。」
5人は、真直ぐに進み突き当りの扉の近くまできた。
扉の前には、2人の男が立っていた。
ラキ:「2人か。
パイン、アンナ。」
パイン、アンナ:「はい。」
ラキ:「どうやら、魅了はこの2人が限界のようだわ。
中に入ったら、すぐに制圧を開始して頂戴。」
パイン、アンナ:「わかりました。」
ラキ:「それじゃあ、行ってくるわね。」
ラキが扉の前まで進むと2人の男に止められた。
男1:「申し訳ありませんが、この先は立ち入り禁止です。」
ラキは、丁重な発言に少し驚いた。
ラキ:「ゴルザさんに会いたいのですが?」
男2:「今日は面会の予定は無かったはずだが?」
男1:「あぁ、そうだな。
予約を入れていただけないと、
ゴルザ様には、お会いできません。」
ラキは、ローブ前をはだけ、2人に見せた。
男2:「んっ?
この方なら、予約が無くても問題ないんじゃないか?」
男1:「あぁ、そうだな。
どうぞ、お入りください。」
5人が中に入った時、目の前に2人の男が立っていた。
フロアは、広めの1階と2階へと続く階段で構成されていた。
男3:「何者、、、うぐっ。」
男4:「どうやって、、、うぁっ。」
その言葉が発し終わる前にアンナが動いた。
男3を気絶させると、男4の後ろに回り込み、両腕を固定すると
喉元に剣身を当てた。
ラキが近づき問いかける。
ラキ:「ゴルザはどこ?」
男4:「こんなことをしてただで済むとおもっているのか?」
ラキ:「質問に答えなさい。
ゴルザの心配をするよりも
自分の心配をした方がいいわよ。」
男4:「くそっ。」
その時突然ホール内に響き渡る声がした。
ホール内に音が反響し場所が特定できない。
???:「ホールに侵入者だ!!」
男4は、不敵な笑みを浮かべた。
男4:「こちらの勝ちだな。」
その声に反応し、奥の両開きの扉から10数人程の
男達がゾロゾロと現れた。
ラキは、とっさにショックの魔法*1を唱えた。
現れた男達を取り囲むように稲妻が走ると、
彼等はドミノ倒しのようにバタバタと倒れた。
それを見ていた男4の顔が引きつる。
ラキ:「最後まで、形勢はわからないものよ。」
男4:「貴様ら何者だ?」
ラキ:「それで、ゴルザは何処にいるの?」
男4:「ボスは、今日はここにはいない。
今朝早く、ナカサ村に向かった。」
ラキ:「嘘は言って無いでしょうね。」
男4:「本当だ。」
アンナがナサカ村というキーワードに反応した。
アンナ:「思い出しました。
ナカサ村の言い伝えで、バートランド平原に繋がる
洞窟が存在するというのがあります。」
ラキ:「そんなところに。
どうやら、先を越されたようね。」
アンナが首筋に当てていた剣を降ろすと、
リックが男4の前に立った。
何処に隠し持っていたのか短剣を取り出し男の首に突き付けた。
リック:「姉さんはどこだ?」
男4:「ちょっと待て、
姉さんとは誰だ?」
リック:「とぼけるな。
姉さんはどこだ?」
リックの短剣が振るえ、男の首筋から一筋の血が流れた。
男4:「ちょっとまて、なんでも話すから、
こいつを止めてくれ。」
ラキ:「リック、少し彼と話させて。
ここに捕えている女性はいるかしら?」
男4:「俺は、詳しい事は知らない。
だが、奥に牢獄があるらしい。
そこに売り物の女達が捕らえられていると聞いている。」
ラキ:「人身売買までやってるのね。
これは、見逃せないわね。
さて、案内してもらうわよ。」
数十分後、パイン達は、十数人の女性達と共に公国にいた。
クーザは、人身売買の件をビッツ将軍に報告するために戻った。
人身売買は、王国、公国でも重い罪になるため、
彼女達は、ゴルザを追求する大きな証拠となる。
それ故にに彼女達を守る必要があったのだ。
リックの姉は、捉われた女性達の中にいた。
リックは、ラキ達に感謝するとともに、
今後も進んで協力すると言ってくれた。
あとはエレナを救出するためにナサカ村へ向かうだけだった。
不可思議な現象はナサカ村へと出発する直前に起こった。
リックが感謝の意を込めて握手をし始めた。
パインの番になった時、それは起こった。
パインがリックと握手しようと手が触れた時、
パインは手を引っ込めた。
そして、一言、「すまない、リック。」
そう言い残してその場から離れた。
同時にアンナもパインを追う様に離れたのだ。
ラキもリックも何が起こったのかわからなかった。
ラキが2人を追うと、2人は宮殿の外に立っていた。
ラキ:「一体どうしたの?」
パイン:「いや、良く分からないんです。
突然身体が勝手に動いて。」
アンナ:「私も勝手にパインを追いかけました。」
ラキ:「どうやら、グレイグがやったことみたいね。
まだ分からないけれど、何かありそうね。
まあいいわ。
このままナカサ村に向かいましょう。」
3人は、ナサカ村へ向かう為、冒険者協会にある
転移の魔法陣へと向かった。
丁度その頃、8頭引きの連結馬車が疾走していた。
後ろの馬車は、扉は外から閂が掛けられ、
窓枠には鉄格子がはめられていた。
1人の女性が馬車の中の豪華なソファの上に寝ていた。
馬車は路面の凹凸に応じて、時折大きく揺れた。
そして、一段と大きく揺れた時、馬車の中の者が眼を覚ました。
エレナ:「うっ、うーん。」
エレナは、身体中に痛みを感じた。
痛みをこらえ起き上がると辺りを見回した。
馬車の中であること、今は昼であること、
囚われの身であることを認識した。
エレナは最後の記憶をたどった。
それは部屋の移動中の事だった。
部屋の移動はミンサの件(間者)があった為、安全を期すために
日々部屋を移動するように大公から指示されていたことである。
それに従い、エレナは別の部屋へと移動を始めた。
通路を歩いているとき、エレナは視線を感じた。
付き人に先に行くように指示し、
目的の部屋ではなく近くの部屋へと入った。
部屋に入った直後に侵入してきた男に襲われたのだ。
そこから記憶が無かった。
すぐに身体中を確認する。
エレナ:(魔法具がない。)
アラインは、もしもの為にエレナに多くの魔法具を
身に付けさせていた。
それらが全て無くなっているのだ。
そして脱出は不可能だと判断した。
覚悟を決めたエレナは、身なりを整えると豪華なソファの上に
座りなおした。
*1:ショックの魔法
雷属性魔法の1つで、範囲魔法である。
対人相手では意識を失わせる程度の威力しか
持ち合わせていない。
低レベルからの使用が可能なため、
最初に覚える範囲魔法となる。
範囲を変化させることにより威力を調整できる。
高LVになると、範囲を狭くすることにより、
対人殺傷能力を得る事が可能となる。
範囲を変えること以外で威力を落とす事が出来ない為、
高LV者が使用する場合は、場所と状況を選ぶ魔法ともいえる。




