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グレイグ  作者: 夢之中
3/52

募集


----- 冒険者心得 -----

冒険者は常に死と隣り合わせだ。

仲間の死を悼んでいる暇はない。

行動せよ。

それこそが、生き残る方法なのだから。

----------------------


パインは、アッシュ達との会話で、

この村に冒険者協会の事務所が存在することを知った。

護衛失敗の報告の為、いやいやながらも事務所へと向かった。



冒険者協会では、依頼を受ける者として

守らなければならないものの一つである、

報連相(ほうれんそう)を徹底している。

つまり、報告・連絡・相談である。

いかに戦闘力の高い冒険者であっても、報連相を怠る冒険者は

協会から退会させられる場合がある。

魔物の行動は予測できない。

難易度の低い依頼であったとしても、強い魔物が

移動してきている場合もある。

できる限り迅速に他の冒険者に伝える必要がある。

それらを纏めているのが冒険者協会なのだ。

冒険者が生き残るためには、情報は命なのだ。

たとえ依頼が失敗に終ったとしても、

他の冒険者の生命を守るために報告が必要なのだ。


パインは、民家の立ち並ぶ中に冒険者協会事務所を見つけた。

普通の民家を事務所として使っているのだろう。

外観は、民家と変わりない。

しかし、入り口に『冒険者協会』の看板があった。

パインは、扉を開け中へと入った。

部屋の中は完全に民家だった。

都会の冒険者協会事務所と違ってカウンターがある訳でもなく、

部屋の真ん中にテーブルが置かれていた。

民家と大きく違うのは、壁には書棚が並んでいることだった。

真ん中のテーブルには1人の男性が座っていた。


事務員:「いらっしゃい。

    冒険者協会へ、ようこそ。」

当たり障りのない挨拶だった。

パイン:「依頼の報告なんですが?」

事務員はパインを繁々と見た。

事務員:「失敗ですか?」

パインは、驚きの表情をすると言った。

パイン:「えっ、はっ、はい。」

事務員:「そうですか。

    あまり気を落とさないでください。

    冒険に失敗はつきものなんです。」


パインは、依頼の遂行中に起きた出来事を細かく説明した。

それに対する事務員の対応は、

事務的で人間味を感じられなかった。


事務員:「そうですか。

    大変な目にあいましたね。

    お気の毒です。

    依頼失敗ですので、報酬は支払われません。

    荷物の回収・運搬は、別の冒険者に依頼します。

    またカッパークラスの場合は、襲撃が証明されれば、

    依頼品が喪失していた場合でも

    弁済の必要はありません。」

パイン:「それは助かります。」

事務員:「なお、カッパータグですが。

    規則上、返却していただくことになります。

    無印タグ*1を再発行いたします。」

パイン:「わかりました。」

事務員:「以上になります。

    なにかご質問はございますか?」

パイン:「いえ、ありません。」

事務員:「さて、ここからは別の話になります。

    現在王国から冒険者協会に対して、

    討伐軍の募集*2が来ています。」

パイン:「討伐軍の募集ですか。

    募集の締め切りは?」

事務員:「締め切りは、今月末です。」

パイン:「作戦開始は?」

事務員:「作戦開始は、3ヶ月後となります。」


パインは、金銭的には多少の蓄えはあったが、不安もあった。

初めてのチーム依頼に失敗し、次の依頼は無かった。

個人でのチーム再編は時間がかかる。

しかし、冒険者協会のチームは、もうこりごりだった。

討伐軍であれば、チームは関係ない。

その上、多くの冒険者と交流を持てる。

チームに所属していないパインにとって、

参加することによるメリットは計り知れない。


事務員は探るようにパインの顔を見ていた。

そして、表情の変化を感じとったのか、パインに話しかけた。


事務員:「どうされますか?

    応募しても合格するとは限りませんが、

    参加できれば何かが変わるかもしれませんよ。」

パインは、事務員の言っている事は本当だと感じた。

踏み出さなければ変わらない。

まさにその通りだ。

パインは募集という形態から、

応募後のキャンセルは可能と判断した。

そして、情報収集は後回しにして応募することを選んだ。


パイン:「応募します。」


その後の手続きは、パインは最後に名前の記入のみで、

ほとんど事務員が行った。

一ヶ月後に冒険者協会で結果が発表される。


パインは、冒険者協会を後にすると、アッシュの所へ向かった。

冒険者の作業の多くは情報収集に充てられる。

情報が命を助けるからだ。

どんな依頼でも情報収集を怠ると命を危険に晒す。

依頼者が依頼内容を偽ることもあるからだ。

通常であれば、冒険者協会が調査を行う。

しかし、膨大な量の依頼を全て詳細に調査することは

不可能である為、詳細調査は抜き打ちで行っている。

つまり、依頼によっては問題が発生することがあるのだ。

現に過去には冒険者が命を落とすこともあった。

さらに依頼を偽った、実際に起こった事件もある。

依頼者が密輸品の輸送を冒険者に依頼し、

依頼者が輸送隊を襲い、魔物の仕業に偽装するという

事件だった。

この事件は大々的に報じられ、その後から冒険者は、

依頼内容を精査する習慣が生まれたのだ。


アッシュはパインを快く迎えてくれた。

パインはアッシュとパムが冒険者に復帰することを考えていると

思っていた。

2人は冒険者引退後も鍛錬を怠らず、現役さながらな体系を

維持していた。

情報も同様に精査しているのではないかと考えたのだ。


アッシュ:「パインじゃないか。

     一体どうしたんだ?」

パイン:「討伐軍について、情報があれば知りたいのですが。」

アッシュ:「討伐軍募集の件か。

     そうだな。

     誤情報も多く出回っているし、

     出来る限り正確な情報を教えてやろう。」

パイン:「よろしくお願いします。」

アッシュ:「まず、海賊ゲイルの砦を知っているか?」

パイン:「はい、人魚の涙にある砦ですよね?」

アッシュ:「あぁ、そうだ。

     その砦が建国宣言を発した。」

パイン:「その話は聞いた事があります。

    しかし何故建国なんて。」

アッシュ:「何故かは、何も情報は得られていない。

     ただ、その兆候と思われることは起きている。」

パイン:「それは?」

アッシュ:「関係ないかもしれないが、話しておこう。

     ゲイルには7人の副官と呼べる部下がいた。

     彼等は海賊時代からの仲間だった。

     そう、1年ほど前の事だ。

     7人の内3人の部下が多数の元海賊達とともに

     砦から逃げ出したんだ。

     理由は解らない。

     彼等の消息は今も分かっていない。

     彼等と話ができれば、何かわかるかもしれない。」

パイン:「内部分裂ですか。」

アッシュ:「あぁ、そう考えるのが普通だな。

     話を戻そう。

     砦の建国宣言に対して、王国は軍を動かした。

     その数、およそ数百人。」

パイン:「1000人じゃないんですか?」

アッシュ:「噂というのは尾ひれがつくもんだ。

     あまりにも切りの良い数字は疑ってかかるべきだ。

     さて、話の続きをしよう。

     軍が砦に近づいた時、先頭を進んでいた兵士が

     次々と倒れだした。

     毒ガスかと考えて進軍を中止して救護を始めた。

     そして奇妙な事を発見した。

     皮鎧の胸の部分に丸い穴を発見したんだ。

     その穴は皮鎧を貫通していた。

     弓矢だとしたら距離がありすぎるし、

     矢も残っていなかった。」

パイン:「魔法?

    しかし、そんな魔法は聞いたことが無い。」

アッシュ:「あぁ。

     従軍した魔導士も不思議がっていたらしく、

     魔法ではないと判断されたみたいだ。

     結局のところ、分からず終いだった。

     部隊は混乱し、1人の人間。

     いや、人間かどうかはわからない者の

     接近をゆるしてしまった。」

パイン:「人間かどうかわからないって?」

アッシュ:「その人間と思われる者は、全身を覆うタイプの

     黒く染めた皮鎧を着ていたようなんだが、

     その行動が人間離れしていたらしい。

     ここからの話は、話半分で聞いてほしい。

     フルプレートアーマーを着た兵士を

     片手でもち上げたとか、剣を振るったら、

     プレートアーマーが真っ二つになったとか、

     瞬間移動したとか、いわゆるそう言う話だ。」

パイン:「なんかすごい話ですね。」

アッシュ:「そして、先頭の10人ほどの兵士を倒したあと、

     砦へ帰って行ったらしい。

     直接見ていた兵士達はその恐怖で逃走したらしい。

     部隊は半壊となり帰路へとついた。

     兵士達に事情聴取がおこなわれたが、

     直接見ていた兵士は何も語らないそうだ。

     状況を語った兵士は、直接見たわけでは無く、

     叫び声等から推測した話だということだ。」

パイン:「確かに、話半分で聞いたほうがいいですね。」

アッシュ:「王国は、真偽を確かめる為に軍を動かすらしい。

     それが今回の討伐軍だ。」

パイン:「なるほど、それで冒険者を集めていると。」

アッシュ:「あぁ、酷い話だ。

     王国は冒険者を捨て駒にして

     真偽を確かめようとしているようだ。」

パイン:「ところで、これらの情報はどこで?」

アッシュ:「情報源を教える訳にはいかないな。」

パイン:「まぁ、そうですよね。」


冒険者は、情報屋*3であったり、知り合いの冒険者であったりと

様々ではあるが、多数の情報源を持っている。

しかし、情報源を明かす事は、提供者との関係に亀裂を生む。

その為、情報源を明かす事は決して無いし、

冒険者であるならば、それを知らないはずはない。

アッシュは少し驚いたような顔をしてパインに聞いた。


アッシュ:「まさか、参加するつもりじゃないだろうな?」

パイン:「応募しましたが、まだ迷ってるんです。」

アッシュ:「なら、やめておけ。

     真偽は別にしても、

     命を懸けるほどの事でもないだろう。」

パイン:「やっぱり、そうですよね。」


パインはそう言いながらも、

もう少し情報収集するつもりでいた。



*1:無印タグ

 冒険者チームには、タグが配布されるが、

 それにはチーム情報が魔法刻印される。

 チームメンバーの変更は、一度チームを解散した上で、

 再結成する必要がある。

 チームに所属しない者には、無印タグが発行される。


*2:討伐軍の募集

 戦争や魔物の大軍等を討伐するために国が軍を派遣する場合、

 冒険者協会を通じて冒険者の参加が募集される場合がある。

 大抵の場合、通常依頼よりも危険度は増すが、

 その分報酬が高額になっている。

 最低限の食費・消耗品なども別途提供されるため、

 冒険者にとっては非常に好待遇といえる。

 しかし詳細が明かされないことがほとんどである。


*3:情報屋

 一般的に流布する情報には誇張や嘘が多く含まれる。

 それらを精査して正確な情報を集めて高額で販売する者を

 情報屋という。

 違法ではないが、手に入れた情報によっては

 命を狙われる場合もある。

 このため、ほとんどの情報屋は表立って販売はしていないし、

 さらに顧客を選んでいる。

 冒険者の間では、信頼できる情報屋と繋がるだけでも、

 財産だと言われている。


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