僕(しもべ)
ドリム、アライン、パイン、キーラ、ゾル、アンナ、アリスの
8人は、軍議室に集まっていた。
アンナ:「パイン殿、直ぐに私に力を与えてください。」
それはアンナの悲痛な叫びに思えた。
パインは困ったようにアンナとキーラを交互に見る。
アラインは、黙っている。
キーラ:「本当にいいのね?」
アンナ:「えぇ、構いません。
今エレナ様を助けなければ、
私の存在意義がありません。」
黙っていたアラインが口を開いた。
アライン:「わたしからも頼む。
アンナの好きなようにさせてほしい。
エレナは、アンナを妹の様に思っているのだ。
アンナも同様に姉の様に思っているのだろう。」
キーラ:「わかったわ。
但し勝手な行動はなしよ。」
アンナ:「わかりました。」
キーラはパインを見ると、目で合図した。
パイン:「わかりました。
両手を差し出してください。」
アンナはパインの前に両手を差し出した。
パインはアンナの両手を掴むと目を閉じた。
それを見ていたアリスは、すこし嫌な顔をした。
しばらくして、パインはアンナの両手を離すと言った。
パイン:「数時間もすれば、力を得る事ができるでしょう。」
アンナ:「数時間!?
そんなにかかるんですか?」
パイン:「すみませんが、どうしようもないんです。」
アンナ:「あっ、ごめんなさい。
でも、そんなには、、、。」
キーラ:「多分大丈夫よ。」
アンナ:「えっ?」
キーラ:「公国からメルトニアに向かうには、
どういう経路を使うと思う?」
アンナ:「普通なら海路ですね。
無理するなら、ゲーノモス山脈を越えるとか?」
キーラ:「そうね。
私もそう思うわ。
まず海路だけれども、公国の全ての港に出航停止命令を
発令しているわ。
昼あたりには、王国にも連絡がいくはずよ。
公国一帯のゲーノモス山脈には、漆黒のゾーラの塔が
無数に存在するの。
踏み入れば、すぐに連絡が届くようになっているわ。
それに、公国の作りにも助かっているのよ。
建築物が山側に偏っている。
この作りのおかげで昼間の移動は困難になるわ。」
アンナ:「なるほど、行動は夜になると。」
キーラ:「えぇ、そういうこと。
私は、町中に彼等のアジトがあると考えているわ。」
アンナ:「なら、しらみつぶしに捜索すれば。」
キーラ:「それは、貴方の仕事ではないわよ。
貴方には、もっと重要な仕事があるわ。
エレナ救出という重要な役目がね。」
この後、数時間後に本格的に捜索が始まる事となる。
キーラが何故事前に準備することができたのだろうか?
それはキーラは、ナガットの事を尋問の時から
疑ってかかったことに始まる。
しかし、それはあくまでも推測の域をでない。
キーラはそのことを話した上でドリム、アラインに話をした。
キーラが最初に疑問に思ったのは、ナガットの発言の中の
北西という言葉だった。
ずっと牢屋に入っていた者が、
どうやって北西だと知ったのだろう?
仮に何らかの方法で知ったのであれば、
よほど砦について詳しい者か、
あるいは直感的にそれを知る能力なのだろうと。
しかし、彼は目覚めたら牢屋の中だったと言っていた。
それに彼は海賊でもない。
想像しうることは、直感のみしか思いつかない。
そこで彼女はナガットにカマをかけた。
故郷の方向を聞いたのだ。
それに対して彼は、方向音痴だと答えた。
明らかに矛盾している。
彼は、何かを隠しているのだ。
そう考えるしかなかった。
そして最悪の場合、何かが起こるであろうことを告げた。
しかし、アラインはそれを無視した。
その場で殺されるとは思っていなかったし、
万が一捉えられても自決の道もあるからだ。
妻のエレナにも同意を得ていた。
アラインは言っていた。
今は逃げているときではない。
一刻も早くメルトニアを奪還しなければならないのだと。
その後、キーラとドリムは、話し合い。
残っている兵達を各所に派遣するという手を打った。
決して捕えようとせず、報告のみ直ぐに行う様にと。
そして、3時間後。
ドリム、アライン、パイン、キーラ、ゾル、アンナ、アリスの
8人は、再び軍議室に集まった。
キーラ:「アンナ。
どう?
何か変わった。」
アンナ:「まだ実感はないです。
ただ、グレイグと名乗る者の声を聴きました。
『与えし者に許される限り、力を得られる』と。」
キーラ:「なるほどね。
単純に考えると、パインは、力を与えるだけでなく、
止めることもできるということになるわね。
どうやら事情が少し変わってきたようね。
まあ、この話は私の想像でしかないから、
終わりにしましょう。
ほかには何かあるかしら?」
アンナ:「先ほども言いましたが、全く変化はありません。」
キーラは、パインの方を見ると、目で助言を求めた。
パイン:「そうですね。
私も最初は変化を感じませんでした。
普通に行動しているときは何も起こりませんません。
しかし、意識して行動した場合は変わります。
例えば、重い荷物を持ち上げるとか、
早く走ろうとかすると、いきなり発動します。」
アンナ:「なにかはっきりと分かる事はありますか?」
パイン:「時間の進み方がゆっくりになった様に感じますよ。」
アンナは、黙ったまま立ち上がると、テーブルから少し離れ、
腰の剣を抜いた。
そして、剣に意識を集中した。
アンナはピクリとも動いていない。
しかし、そこにいた全員が感じていた。
時折聞こえる風切り音がアンナが剣を振っているのだと。
剣術をある程度修行すると、
受けの形というのを理解することになる。
相手の攻撃を受ける為の最も理想的な形である。
最も隙を生むのは、攻撃時であり、受ける事は難しい。
攻撃の形から受けの形へ、いかに早く戻せるかが
勝負ともいえるだろう。
アンナは剣の使い手でもあり、受けの形を身につけている。
だからこそ、アンナが動いていないように見えたのだ。
驚きが辺りを支配した。
極限までの驚きにより、誰もが言葉を発しなかった。
しばらくして、アンナがその場を移動し、
席に着いた時にようやく緊張の糸が途切れた。
パイン:「できましたね。
あとは、徐々に慣れて行けばいいだけですよ。
注意点としては、周りを意識しないで急激な行動は
避けた方がいいでしょう。
非情に危険です。」
アンナ:「確かにそうですね。
ありがとうございます。
ところで、マスターキーラ。
今すぐにでもエレナを救出に向かいたいのですが。」
キーラ:「もう少し待ってもらえるかしら。」
アンナ:「いや、しかし。」
アンナは、何故か、キーラではなくパインを見た。
パインはその行動にキーラを見てから判断をゆだねた。
キーラの目はパインに発言するようにと指示していた。
パイン:「すまないが、少し待ってもらえるかな。」
パインがそう答えると、アンナは一瞬びくっとすると、
まるで怒られた子供の様に黙ってしまった。
キーラは、その様子を見逃さなかった。
キーラ:「なるほどね。
魅了に近い効果を示すのね。」
アライン:「魅了か。
だとすると敵の今までの行動も理解できるな。」
ドリム:「そうですな。
しかし、これは大きな問題になり得ますな。」
アライン:「仰る通りです。」
パインは意味が分からなかった。
そしてその疑問を口にした。
パイン:「どういう意味でしょうか?」
キーラ:「パイン。
魅了の呪文は知っている?」
パイン:「使えはしませんが、どんな魔法かは知ってはいます。」
キーラ:「知っての通り、魅了にかかった者は、
提案を受けているように感じるの。
魅了のレベルに応じた近親者にね。
アンナ。」
アンナ:「はい。」
キーラ:「パインから止められたとき、どんな感じがした?」
アンナ:「そうですね。
子供の頃に、両親に叱られたときのような。
そんな気持ちがしました。」
キーラ:「やっぱりね。
完全に魅了と同じね。
ただし、最終的な判断は本人が行うのよ。
これが、大きな問題なの。
ある意味、洗脳されているような状態というわけ。」
キーラは、話を止めて、パインの顔をみた。
しかし、パインは今一つ理解していないように見えた。
キーラ:「ところで、パインはどうして旅にでたの?」
パイン:「グレイグに言われて、白い玉を探しに、、、。」
んっ?、あっ、そうか。
本来ならば、白い玉を探しに行く
必要なんかなかったんだ。
グレイグに言われて。
だんだんと白い玉を探しに行かなければ
ならないと思い込んでいた。
そう言う事ですね。」
キーラ:「その通り、飲み込みが早いわね。
貴方は、白い玉を探しに行く必要などなかった。
でも、だんだんと白い玉を探しに行かなければ
ならないと考えるようになった。
そして、その全てを自分の意志で決めたことにより、
もう、完全に自分の決めた道に
なってしまっているのよ。」
パイン:「そうか、なるほど。
でも、今でも、その選択が間違っていたとは
思っていませんよ。」
キーラ:「ならば、よし。
敵となっている者達は、考え直すことを
思い付いていないのだと思うわ。
だからこそ、やっかいなのよ。」
ゾル:「マスターキーラ。
それは、本来の意志に反するかもしれない者達と
戦わなければならないということでしょうか?」
キーラ:「すこし違うわね。
魅了というのは、考え方が正反対ならば、
まず承諾しないわ。
完全に騙されている場合でない限り、
近い思想であることは間違いないでしょう。」
ゾル:「なるほど。」
キーラ:「パイン。
グレイグは、貴方を騙す様な発言をしたことがある?」
パイン:「いえ。
というよりも、
命令的な話を聞かされたことは一度もありません。」
キーラ:「でしょうね。
敵のグレイグ。
今後、黒グレイグと呼ぶことにしましょう。」
キーラは一同を見回し、反対意見が無いかを確認した。
そして反対意見が無い事を確認すると話を続けた。
キーラ:「黒グレイグも、よほどのことが無い限り、
意識を奪い取るような行動には出ていないわ。
直接話せたのは、メルキスで敵を捕らえた時の
尋問だけかしら。
あの時も話しすぎという理由で現れただけ。
つまり、殆んどの場合、本人の自由意志ということね。
ここで注意してほしい事は、
グレイグは、本人の意志を
乗っ取る事が出来るという事。
最悪の場合も考えなければならないわ。」
少しの間、彼等の存在する空間に沈黙が訪れた。
それを破ったのは扉を開ける音だった。
???:「エレナ様と思われる者を発見したとの報告が!」
一同:「!!!」
キーラ:「さて、アンナ。
さっそく出番のようね。」




