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グレイグ  作者: 夢之中
27/52

英雄


公国へと移動した3人は、豪華な来賓室にいた。

そこはナガットに割り当てられた部屋だった。


ナガット:「こんな豪華な部屋を使ってもいいのか?」

パイン:「あぁ、問題ない。

    自分も隣の部屋を使ってるんだ。」

ナガット:「おぉ、ベランダもあるのか。」

そう言うとナガットは、ベランダへと出て行った。

ナガット:「絶景だな。」

パイン:「だろ。」

ベランダから見える景色は、雄大な田園風景であった。

初代の大公は、この景色を残す為に建築物の建設を

宮殿の山側のみに限定した。

その甲斐もあって、いまだに風光明媚な景色が残っているのだ。

パインとナガットが景色に見惚れていると、

ラキがゆっくりと近づいて声をかけた。

ラキ:「君の出身は?

   王国だと聞いたんだけど。」

ナガット:「はい。

     王国の首都に実家があります。」

ラキ:「王国は、どっちだかわかる?」

ナガット:「いえ、わかりません。

     実は、あまり地理が得意ではないんですよ。

     それに方向音痴かもしれません。」

ラキ:「そうなのね。

   ちなみに王国はあっちの方よ。」

そう言って左の方を指さした。

ナガットは、見えるはずもない王国の方をじっと眺めた。


ラキ:「パイン。

   そろそろ時間よ。

   アリス、ゾル、アンナを軍議室に集めて頂戴。

   私は、大公に謁見してから向かうわ。」

パイン:「わかりました。」

ラキ:「ナガットには、申し訳ないけれど、

   しばらくここで待機していて頂戴。

   それと、この部屋からは出ないようにね。」

ナガット:「はい。」


そしてラキ(キーラ)は、大公の元へ。

パインは、3人を集めて軍議室へと向かった。

パイン達が軍議室へ入った時、キーラとドリム大公は、

既に着席していた。


キーラ:「きたわね。

    さて、パイン。

    グラントゥの力は試してみた?」

パイン:「いえ、まだです。」

キーラ:「どうやら、約束は守ってくれたようね。」

キーラは、しばらくの間、力のことを秘密にしておくように

パインに頼んだのだ。

キーラ:「さて。

    ここに集まってもらったのは他でもないわ。

    パインの持っている力を与える事が

    できるようになったの。」

ゾル:「ほっ、本当ですか?」

キーラ:「えぇ、本当よ。」

ゾル:「よっし。」

ゾルは小さくガッツポーズをした。

キーラ:「まだ、詳しく知らない人もいるので、

    説明するわ。

    皆さんも、薄々感づいているかもしれないけれど、

    人間の肉体的限界を超えた力を持つ者が現れています。」

アリス:「えっ、そうなんですか?」

キーラ:「そうね。

    アリスはまだ直接見たことは無いでしょうしね。

    でも間接的には見ているはずよ。

    パインの異常な回復力をね。」

アリス:「あっ、あれが力なのですか?」

キーラ:「そう。

    それも力のひとつね。

    そして、同じ力を持つ者が他にも現れているの。

    最近起こったメルキスでの事やメルトニアの

    宮殿占拠の件もそう。

    力を持った者達が武力で何かを成そうとしているの。

    一方的に武力で解決しようとする行為は、

    決して許される事では無いわ。

    しかし、彼等の強さは常識外なのよ。

    彼等と対等に戦うには、こちらも同じ力が必要なの。

    そして、その力を受け取れる可能性のある者が、

    ここにいる3人というわけ。」

アンナ:「それは、選ばれたという事でしょうか?」

キーラ:「そうね。

    その言葉が的確だと思うわ。

    グレイグという得体の知れないものにね。」

アンナ:「得体の知れないもの?」

キーラ:「神か悪魔か私にも分からないわ。」

アリス:「えっ、悪魔なんですか?」

キーラ:「古の石板には、神と書いてあったわね。

    人間に力を与えるために、

    人間によって生み出されたと。

    ただ、グレイグが現れると災いが起こっているから、

    必ずしもそうだとは言い切れないわね。」

アンナ:「なるほど。

    人間が生み出した力ですか。」

キーラ:「今の話は、あくまで推測でしかないわ。

    なので、ここでおしまい。

    それで、力を受け取るかどうかを貴方達に

    決めてほしいの。」

ゾルは、即答した。

ゾル:「もちろん、受け取ります。」

キーラは少し呆れた顔をして言った。

キーラ:「直ぐに結論を出すのではなく、

    その前に話を聞いてほしいの。」

キーラは、一同を見回すと一呼吸おいて話始めた。


キーラ:「力を受け取って、敵に勝つことができれば、

    英雄になれるわ。

    ただし、一時的な英雄にね。」

ゾル:「どういう意味ですか?」

キーラ:「その国をも脅かす存在を国ではなく、

    英雄と呼ばれる者達が救ったとしたら

    どう思うかしらね。

    最初はちやほやしてくれるでしょうね。

    しかし、貴族達は、全て善人では無いわ。

    一部の貴族達は、その力を手に入れようと画策する。

    まあ、貴方達なら、その手の話には

    乗らないでしょうけどね。

    そして、手に入らないと知ると、

    手のひらを返したような行動にでるわ。

    しかし、英雄だから手もだせない。

    だから、噂を流すのよ。

    最初は誰も信じないでしょう。

    しかし小さな過ちを犯した時、それを思い出す。

    そして、疑念も生まれる。

    英雄達は、国を脅かす力を持っているのよ。

    いずれ、英雄達に怯えるようになるわ。

    いつ裏切られるかを考えてね。」

ゾル:「裏切りですって!!

   そんなことを考えるはずがない!!」

キーラ:「言いたいことは分かるわ。

    しかし、本人以外に、

    誰もそれを保証することはできないのよ。

    あくまでも結果論として大丈夫だったとしかね。

    それに、国王以外の国の人、

    特に王族や貴族に接触すれば、

    あらぬ疑いが生まれる事は間違いないわ。

    国王は信じてくれたとしても、

    他の貴族は分からないわよ。

    特に力を手に入れようと画策したものたちはね。

    まさか、他の貴族に説いて回る?

    そんなことをしたら、かえって疑われるわよ。」

ゾル:「・・・」

キーラ:「つまり、英雄として語り継がれたいなら、

    国王になるか、

    あるいは最終的に身を隠すしかないのよ。

    そうすれば、私達みたいに、

    伝説として語り継がれることになるわ。

    セイラとゾーラ、そして私は、そう言う理由で

    山に籠ったのよ。

    まあ、他にやる事も有ったので、

    問題は無かったけどね。

    力を持つという事がどういう結果をもたらすか、

    分かってくれたかしら?」

パイン:「私も最後には、身を隠すしかないという事ですよね。」

キーラ:「そうね。

    平穏な生活を送りたいのならば、

    それが賢明なことだと思うわ。」

キーラの回答にパインは少し寂しそうな顔をした。

アリスは、パインをちらっと見ると言った。

アリス:「話を聞く限り、この国が大変な脅威に立たされている

    ということが分かりました。

    私はやります。

    たとえこの国を去らなければならなかったとしても、

    現状を回復しないと何も始まりません。」

その発言を聞いてパインの顔に驚きと笑顔が戻った。

キーラ:「よく言ってくれたわ。」

下を向いていたアンナが顔を上げると静かに話始めた。

アンナ:「私は悩んでいます。

    私の務めは、エレナ様をお守りする事。

    仕事であること以上に、

    私の気持ちがそれを望んでいるのです。」

キーラ:「強制するつもりはないわ。

    直ぐに答えはでないかもしれないから、

    明日、もう一度聞くわね。

    それまで、じっくりと考えておいてちょうだい。」

そして話し合いは終わった。


その日の夜中、パインはゾルにたたき起こされた。

パイン:「ゾル。

    こんな夜中にどうしたんだ?」

ゾルは真剣な顔でパインに語った。

ゾル:「エレナ様が襲われた。」

パインは、その言葉に驚きを隠せなかった。

パイン:「えっ、一体誰に?」

ゾル:「お前が連れて来たナガットだよ。」

パイン:「なんだって!!

    何故そんなことに。

    それで、今どこにいるんだ?」

ゾル:「エレナ様の部屋に立て籠っている。」

パイン:「分かった直ぐに向かう。」

パインはそう言うと支度を始めた。

パイン:(ナガット、一体なぜ?)


パインとゾルがエレナの部屋へとついた時には、

部屋の前には多くの人が集まっていた。

その中にキーラとアンナの顔もあった。

キーラとアンナは話している最中だった。

アンナ:「私が突入します。

    何としてもエレナ様をお守りしなければ。」

キーラ:「少し待って頂戴。

    パインが来たら交渉させるわ。

    あっ、どうやら来たようね。」

パインがキーラの前へとやってきた。

キーラ:「パイン。

    ナガットと話して。」

パイン:「わかりました。」


パインは扉の前に立つと、ナガットに呼びかけた。

パイン:「ナガット。

    パインだ。

    何をやっているんだ。」

ナガット:「何をやっているって?

     見たとおりだろ。」

パイン:「何故こんなことを?」

ナガット:「相変わらず、お前はお人よしだな。

     教えてやるよ。

     俺は、お前が思っているような

     人間じゃないってことだ。」

パイン:「なんだって!」

ナガット:「お前、最初の仕事の時の事は覚えているんだろ。

     グレーターアントに襲われたときの事だよ。

     馬車を降りたあの時、

     俺は、お前達にフィアー*1の魔法をかけたんだよ。」

パイン:「まっ、まさか!?」

ナガット:「俺たちレベルの者がグレーターアントには勝てない。

     まあ、当たり前のことだ。

     だから逃げることを考えた。

     そして、思いついたのがお前達を犠牲にして、

     生き延びることだったんだよ。

     だから、フィーアーの魔法をかけた。

     お前が、気が付いていないことは知っていた。

     びっくりしたよ。

     まさかレジストされるとは思っていなかったからな。

     お前知ってるか?

     グレーターアントは逃げ出す奴を最初に狙うんだよ。

     だから、生き残るためにフィアーを使った。

     あいつらが呪いの言葉を吐いたのは、

     フィアーの魔法に対するものだったんだよ。」

パイン:「・・・」

ナガット:「滝の時もそうだ。

     俺は、滝に飛び込んで逃げる事を選んだ。

     お前は、俺が川の流れに足をとられたととでも

     思ったんだろうな。

     まさか、一緒に落ちるとはな。

     滝つぼに落ちた俺は、お前を置いて一人で逃げた。

     そして奴らに助けられた。

     力ももらったよ。

     この神の力の前には、魔法なんてなんの価値もない。

     いや悪魔の力と言った方がいいかな。

     最初は順調だったよ。

     しかし、ちょっとばかしヘマをやっちまってな。

     それで、ボッシュさんを助けられなかった。

     その上に砦までも盗られちまった。

     悪いな、信頼を回復するには、これしかないんだよ。」


その時、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。

それはまるで強力な魔法攻撃を受けたような音だった。

アンナが驚いて、扉を破って突入する。

部屋の中は、瓦礫が散乱していた。

アンナは舞い上がる埃のなか、

上を見上げるナガットを目視した。

アンナが上を見ると、天井の穴から輝く星々が見えた。

ナガットは、エレナを抱きかかえたまま天井に空いた穴へと

飛び上がる。

そしてナガットは何事も無かったように屋根の上へと着地した。

アンナも足場を見つけて上へと飛び上がった。

しかし、アンナは天井に空いた穴まで飛び上がることが

出来なかった。

そして、無残にも瓦礫の中へと落下した。

ナガットはニヤッと笑うと、扉から突入するパインを確認した。

ナガットは、穴から下を覗き込むように見ると言った。

ナガット:「どうやら、希望通り行動してくれたようだ。

     星空が美しいな。

     さて、パイン。

     次に会う時は、どちらかが死ぬことになるだろう。

     まぁ、生き残るのは俺の方だけどな。」

そう言うと、ナガットは屋根伝いに消えていった。



*1:フィアー

 周りの人間の恐れや恐怖を呼び覚ます魔法。

 LV高くなるほど影響時間が延びる。

 魔法を受けた者は恐れや恐怖が治まった時に、

 フィアーをかけられたことを知ることになる。

 レジストした者は、発動したことすら

 知る事はできない。


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