英雄
公国へと移動した3人は、豪華な来賓室にいた。
そこはナガットに割り当てられた部屋だった。
ナガット:「こんな豪華な部屋を使ってもいいのか?」
パイン:「あぁ、問題ない。
自分も隣の部屋を使ってるんだ。」
ナガット:「おぉ、ベランダもあるのか。」
そう言うとナガットは、ベランダへと出て行った。
ナガット:「絶景だな。」
パイン:「だろ。」
ベランダから見える景色は、雄大な田園風景であった。
初代の大公は、この景色を残す為に建築物の建設を
宮殿の山側のみに限定した。
その甲斐もあって、いまだに風光明媚な景色が残っているのだ。
パインとナガットが景色に見惚れていると、
ラキがゆっくりと近づいて声をかけた。
ラキ:「君の出身は?
王国だと聞いたんだけど。」
ナガット:「はい。
王国の首都に実家があります。」
ラキ:「王国は、どっちだかわかる?」
ナガット:「いえ、わかりません。
実は、あまり地理が得意ではないんですよ。
それに方向音痴かもしれません。」
ラキ:「そうなのね。
ちなみに王国はあっちの方よ。」
そう言って左の方を指さした。
ナガットは、見えるはずもない王国の方をじっと眺めた。
ラキ:「パイン。
そろそろ時間よ。
アリス、ゾル、アンナを軍議室に集めて頂戴。
私は、大公に謁見してから向かうわ。」
パイン:「わかりました。」
ラキ:「ナガットには、申し訳ないけれど、
しばらくここで待機していて頂戴。
それと、この部屋からは出ないようにね。」
ナガット:「はい。」
そしてラキ(キーラ)は、大公の元へ。
パインは、3人を集めて軍議室へと向かった。
パイン達が軍議室へ入った時、キーラとドリム大公は、
既に着席していた。
キーラ:「きたわね。
さて、パイン。
グラントゥの力は試してみた?」
パイン:「いえ、まだです。」
キーラ:「どうやら、約束は守ってくれたようね。」
キーラは、しばらくの間、力のことを秘密にしておくように
パインに頼んだのだ。
キーラ:「さて。
ここに集まってもらったのは他でもないわ。
パインの持っている力を与える事が
できるようになったの。」
ゾル:「ほっ、本当ですか?」
キーラ:「えぇ、本当よ。」
ゾル:「よっし。」
ゾルは小さくガッツポーズをした。
キーラ:「まだ、詳しく知らない人もいるので、
説明するわ。
皆さんも、薄々感づいているかもしれないけれど、
人間の肉体的限界を超えた力を持つ者が現れています。」
アリス:「えっ、そうなんですか?」
キーラ:「そうね。
アリスはまだ直接見たことは無いでしょうしね。
でも間接的には見ているはずよ。
パインの異常な回復力をね。」
アリス:「あっ、あれが力なのですか?」
キーラ:「そう。
それも力のひとつね。
そして、同じ力を持つ者が他にも現れているの。
最近起こったメルキスでの事やメルトニアの
宮殿占拠の件もそう。
力を持った者達が武力で何かを成そうとしているの。
一方的に武力で解決しようとする行為は、
決して許される事では無いわ。
しかし、彼等の強さは常識外なのよ。
彼等と対等に戦うには、こちらも同じ力が必要なの。
そして、その力を受け取れる可能性のある者が、
ここにいる3人というわけ。」
アンナ:「それは、選ばれたという事でしょうか?」
キーラ:「そうね。
その言葉が的確だと思うわ。
グレイグという得体の知れないものにね。」
アンナ:「得体の知れないもの?」
キーラ:「神か悪魔か私にも分からないわ。」
アリス:「えっ、悪魔なんですか?」
キーラ:「古の石板には、神と書いてあったわね。
人間に力を与えるために、
人間によって生み出されたと。
ただ、グレイグが現れると災いが起こっているから、
必ずしもそうだとは言い切れないわね。」
アンナ:「なるほど。
人間が生み出した力ですか。」
キーラ:「今の話は、あくまで推測でしかないわ。
なので、ここでおしまい。
それで、力を受け取るかどうかを貴方達に
決めてほしいの。」
ゾルは、即答した。
ゾル:「もちろん、受け取ります。」
キーラは少し呆れた顔をして言った。
キーラ:「直ぐに結論を出すのではなく、
その前に話を聞いてほしいの。」
キーラは、一同を見回すと一呼吸おいて話始めた。
キーラ:「力を受け取って、敵に勝つことができれば、
英雄になれるわ。
ただし、一時的な英雄にね。」
ゾル:「どういう意味ですか?」
キーラ:「その国をも脅かす存在を国ではなく、
英雄と呼ばれる者達が救ったとしたら
どう思うかしらね。
最初はちやほやしてくれるでしょうね。
しかし、貴族達は、全て善人では無いわ。
一部の貴族達は、その力を手に入れようと画策する。
まあ、貴方達なら、その手の話には
乗らないでしょうけどね。
そして、手に入らないと知ると、
手のひらを返したような行動にでるわ。
しかし、英雄だから手もだせない。
だから、噂を流すのよ。
最初は誰も信じないでしょう。
しかし小さな過ちを犯した時、それを思い出す。
そして、疑念も生まれる。
英雄達は、国を脅かす力を持っているのよ。
いずれ、英雄達に怯えるようになるわ。
いつ裏切られるかを考えてね。」
ゾル:「裏切りですって!!
そんなことを考えるはずがない!!」
キーラ:「言いたいことは分かるわ。
しかし、本人以外に、
誰もそれを保証することはできないのよ。
あくまでも結果論として大丈夫だったとしかね。
それに、国王以外の国の人、
特に王族や貴族に接触すれば、
あらぬ疑いが生まれる事は間違いないわ。
国王は信じてくれたとしても、
他の貴族は分からないわよ。
特に力を手に入れようと画策したものたちはね。
まさか、他の貴族に説いて回る?
そんなことをしたら、かえって疑われるわよ。」
ゾル:「・・・」
キーラ:「つまり、英雄として語り継がれたいなら、
国王になるか、
あるいは最終的に身を隠すしかないのよ。
そうすれば、私達みたいに、
伝説として語り継がれることになるわ。
セイラとゾーラ、そして私は、そう言う理由で
山に籠ったのよ。
まあ、他にやる事も有ったので、
問題は無かったけどね。
力を持つという事がどういう結果をもたらすか、
分かってくれたかしら?」
パイン:「私も最後には、身を隠すしかないという事ですよね。」
キーラ:「そうね。
平穏な生活を送りたいのならば、
それが賢明なことだと思うわ。」
キーラの回答にパインは少し寂しそうな顔をした。
アリスは、パインをちらっと見ると言った。
アリス:「話を聞く限り、この国が大変な脅威に立たされている
ということが分かりました。
私はやります。
たとえこの国を去らなければならなかったとしても、
現状を回復しないと何も始まりません。」
その発言を聞いてパインの顔に驚きと笑顔が戻った。
キーラ:「よく言ってくれたわ。」
下を向いていたアンナが顔を上げると静かに話始めた。
アンナ:「私は悩んでいます。
私の務めは、エレナ様をお守りする事。
仕事であること以上に、
私の気持ちがそれを望んでいるのです。」
キーラ:「強制するつもりはないわ。
直ぐに答えはでないかもしれないから、
明日、もう一度聞くわね。
それまで、じっくりと考えておいてちょうだい。」
そして話し合いは終わった。
その日の夜中、パインはゾルにたたき起こされた。
パイン:「ゾル。
こんな夜中にどうしたんだ?」
ゾルは真剣な顔でパインに語った。
ゾル:「エレナ様が襲われた。」
パインは、その言葉に驚きを隠せなかった。
パイン:「えっ、一体誰に?」
ゾル:「お前が連れて来たナガットだよ。」
パイン:「なんだって!!
何故そんなことに。
それで、今どこにいるんだ?」
ゾル:「エレナ様の部屋に立て籠っている。」
パイン:「分かった直ぐに向かう。」
パインはそう言うと支度を始めた。
パイン:(ナガット、一体なぜ?)
パインとゾルがエレナの部屋へとついた時には、
部屋の前には多くの人が集まっていた。
その中にキーラとアンナの顔もあった。
キーラとアンナは話している最中だった。
アンナ:「私が突入します。
何としてもエレナ様をお守りしなければ。」
キーラ:「少し待って頂戴。
パインが来たら交渉させるわ。
あっ、どうやら来たようね。」
パインがキーラの前へとやってきた。
キーラ:「パイン。
ナガットと話して。」
パイン:「わかりました。」
パインは扉の前に立つと、ナガットに呼びかけた。
パイン:「ナガット。
パインだ。
何をやっているんだ。」
ナガット:「何をやっているって?
見たとおりだろ。」
パイン:「何故こんなことを?」
ナガット:「相変わらず、お前はお人よしだな。
教えてやるよ。
俺は、お前が思っているような
人間じゃないってことだ。」
パイン:「なんだって!」
ナガット:「お前、最初の仕事の時の事は覚えているんだろ。
グレーターアントに襲われたときの事だよ。
馬車を降りたあの時、
俺は、お前達にフィアー*1の魔法をかけたんだよ。」
パイン:「まっ、まさか!?」
ナガット:「俺たちレベルの者がグレーターアントには勝てない。
まあ、当たり前のことだ。
だから逃げることを考えた。
そして、思いついたのがお前達を犠牲にして、
生き延びることだったんだよ。
だから、フィーアーの魔法をかけた。
お前が、気が付いていないことは知っていた。
びっくりしたよ。
まさかレジストされるとは思っていなかったからな。
お前知ってるか?
グレーターアントは逃げ出す奴を最初に狙うんだよ。
だから、生き残るためにフィアーを使った。
あいつらが呪いの言葉を吐いたのは、
フィアーの魔法に対するものだったんだよ。」
パイン:「・・・」
ナガット:「滝の時もそうだ。
俺は、滝に飛び込んで逃げる事を選んだ。
お前は、俺が川の流れに足をとられたととでも
思ったんだろうな。
まさか、一緒に落ちるとはな。
滝つぼに落ちた俺は、お前を置いて一人で逃げた。
そして奴らに助けられた。
力ももらったよ。
この神の力の前には、魔法なんてなんの価値もない。
いや悪魔の力と言った方がいいかな。
最初は順調だったよ。
しかし、ちょっとばかしヘマをやっちまってな。
それで、ボッシュさんを助けられなかった。
その上に砦までも盗られちまった。
悪いな、信頼を回復するには、これしかないんだよ。」
その時、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。
それはまるで強力な魔法攻撃を受けたような音だった。
アンナが驚いて、扉を破って突入する。
部屋の中は、瓦礫が散乱していた。
アンナは舞い上がる埃のなか、
上を見上げるナガットを目視した。
アンナが上を見ると、天井の穴から輝く星々が見えた。
ナガットは、エレナを抱きかかえたまま天井に空いた穴へと
飛び上がる。
そしてナガットは何事も無かったように屋根の上へと着地した。
アンナも足場を見つけて上へと飛び上がった。
しかし、アンナは天井に空いた穴まで飛び上がることが
出来なかった。
そして、無残にも瓦礫の中へと落下した。
ナガットはニヤッと笑うと、扉から突入するパインを確認した。
ナガットは、穴から下を覗き込むように見ると言った。
ナガット:「どうやら、希望通り行動してくれたようだ。
星空が美しいな。
さて、パイン。
次に会う時は、どちらかが死ぬことになるだろう。
まぁ、生き残るのは俺の方だけどな。」
そう言うと、ナガットは屋根伝いに消えていった。
*1:フィアー
周りの人間の恐れや恐怖を呼び覚ます魔法。
LV高くなるほど影響時間が延びる。
魔法を受けた者は恐れや恐怖が治まった時に、
フィアーをかけられたことを知ることになる。
レジストした者は、発動したことすら
知る事はできない。




