再会
キーラ、パイン、エレナの3人がドリム公国へ転移した後、
しばらくして、アライン、ゾル、ミクスタ、トマスの4人も
ドリム公国へと無事帰還した。
6人+ドリム大公が作戦の成功を喜んでいる間も連合軍の
進軍は続けられていた。
連合軍は、敵の遠隔攻撃が治まったのを機に進軍を速めた。
そして、人魚の涙に作られた最初の城門の攻略を開始した。
想像していた事とは異なり、敵の反撃は無く、
連合軍は損害を出さずに城門を落とす事ができた。
連合軍は、さらに進軍を速めた。
そしてついに、砦を取り囲み、敵の反応をまった。
敵からの反撃は驚くべき程に少なかった。
砦の外に出撃することもなかった。
空中での槍の回避に危惧しているのではないかと思われた。
メルキス軍の総司令ラングの元にエレナ救出の報が届いたのは
この頃であった。
極秘の作戦であり、ラングはこの作戦のことを知らなかった。
そしてラキがこの件に関与しているだろうことを想像した。
エレナの救出、そして砦の司令官の死。
それを受けてラングは、総攻撃を開始した。
後方にいた魔法部隊が前方に移動し*1、魔法攻撃を開始すると
砦は火の海と化した。
ラングは、同時に砦の攻略を命じた。
ドリム大公の元に連合軍の勝利の報が届いたのは、
次の日の朝のことであった。
連合軍の死傷者数は2000人強、
敵の死者数は20人程度であったことが報告された。
その内、力を得ていた者は、10人程度であったと思われた。
力を得た者の戦闘力は、単純に考えても10人が2000人に
匹敵する力であると考えられた。
砦の中の戦闘は、乱戦であり、
敵は、陽動によりばらけていたのだ。
砦に突入した兵士達は、重装歩兵であった。
重装歩兵は、フルプレートアーマーを装備した部隊である。
並みの剣では、鎧を貫いたら最後、
剣は使い物にならなくなるだろう。
たとえ魔法の剣だとしても、200人の鎧を切る事は
不可能だと考えられた。
しかし力を得た者はそれを成し遂げた。
彼等は、プレートアーマーのつなぎ目や隙間に剣を
突き刺したのだ。
しかも、周りは敵だらけの中でだ。
これは、驚くべきことであった。
戦力差が大きくなれば損害は減るのが普通*2であるため、
それ以上の戦力であると考えざるを得ない。
この事実は、貴族達を恐れさせるのに値する結果でもあった。
そのため、貴族達には勝利のみを公表し、
戦死者数などは明かされることはなかった。
これは、貴族達の離反を防ぐことが目的とされた。
そして、態勢を整える為という名目の元、
人魚の涙の砦から先の進軍は一時休止された。
パインとキーラがドリム大公に呼び出されたのは、
その日の昼のことだった。
ドリム:「知っての通り、連合軍は砦の戦いで勝利した。
現在、砦内の調査が行われている最中だ。
ここに呼び出したのは他でもない。
2つの白い玉が発見されたのだ。」
パイン:「えっ、私にはわかりませんでしたよ。」
キーラ:「距離の問題か、あるいは隠蔽する方法が
何かあるのでしょうね。
そして、それは最近知ったか、
あるいは最近入手したのね。
メルトニアに有ったと考えるのが普通よね。」
パイン:「なるほど。」
キーラ:「パイン。
早速見に行ってみない?」
パイン:「はい。」
ドリム:「砦には転受の魔法陣が存在しない。
監視塔から向かうのが良いだろう。」
キーラとパインは冒険者協会から監視塔へと転移した。
その場所は初めてパインがゾルと出会った場所でもあった。
キーラ:「この塔は何なの?
出入口が無いじゃない。」
パイン:「あっ、そうでした。
武器部屋の箱の腕輪を装備してください。」
2人は2階へと移動し、腕輪を入手してキーラに渡した。
2人揃って、塔の外へと出ると、草原を話しながら歩き始めた。
キーラ:「壁の仕掛けは、面白いわね。
仕組みは隠し部屋の壁と同じだけど、出る為に使う。
こういう使い方もあるのね。」
パイン:「キーラにも知らないことがあるのですね。」
キーラ:「それは、買い被りすぎよ。
確かに他の人よりも長く生きて来たけれど、
それでも得る事が出来た知識は極わずかなのよ。
世の全てを知る事は不可能なの。
だからこそ、知り得た知識の先を見ないといけないの。
知識というのは利用できなければ意味が無いのよ。
優秀なものは、知識を使って何かを成し遂げる。
知識があっても何も成し遂げられなければ、
それだけの人ということよ。」
パイン:「何かを成し遂げるか。
自分にはまだまだ知識が足りません。」
キーラ:「パインはまだ若いんだから、知識を蓄える時なのよ。」
パイン:「確かにそうですね。」
キーラ:「成し遂げる者にとって無駄な知識は存在しないと
知りなさい。
知識の中には、その答えにたどり着いた
考え方が存在するの。
その考え方は他の事にも応用が利くのよ。
だから考え方を手に入れる事が一番重要なの。
考え方を多く知れば知るほど、新しい考え方を
導き出しやすいからね。」
パイン:「なるほど。
今回の壁の仕組みは、新しい考え方から生まれた、
一つの形という訳ですね。」
2人の話は尽きなかった。
そして数時間かけて最初の門へと到着した。
巨大な門は、ボロボロだった。
それは連合軍の攻撃の凄まじさを物語っていた。
パインは辺りを見ると、表情を曇らせた。
パインは口にこそ出さなかったものの、辺りの土や草に
こびりついた血の跡に気が付いたのだ。
門を抜け、さらに小一時間歩いたところで、
砦の外壁が見えてきた。
その時、突然声をかけられた。
???:「おい、お前達。
何者だ?」
2人が振り向くと、そこにいたのは連合軍の巡回兵達であった。
巡回兵:「一体なにをやってる。」
2人はフードを上げると、顔を見せた。
ラキ:「ラング将軍に会いにやってきました。」
巡回兵:「なんだと。
怪しい奴め。
隊長!!。
怪しい奴等を発見しました!!。」
その声に反応して巡回兵の後ろから近付いてきたのは、
ラングを2回り程、小さくした厳つい男だった。
隊長:「なんだ。
んっ?
誰だ?、こいつらは。」
巡回兵:「不審な者を発見しました。」
隊長と思われる男はラキとパインを睨むと言った。
隊長:「お前達は何者だ?」
ラキは、ラングに会うために来たことを説明した。
しかし、白い玉のことは伏せておいた。
隊長:「これはこれは、ラキ将軍ですか。
と言うとでも思ったのか?
残念ながら、ラキという将軍は聞いたことは無い。」
巡回兵が隊長に耳打ちした。
巡回兵:「しかし、もしこの者達の言っている事が事実ならば、
後で咎めを受けるかもしれません。」
隊長:「確かにそうだな。」
隊長は2人を再度見ると言った。
隊長:「ラキ将軍。
ラング将軍の元まで、護衛させていただきます。」
口調は丁寧になったが、その目は明らかに疑いの目だった。
そう言って巡回兵達に指示をだす。
ラキとパインは巡回兵に取り囲まれる形になった。
パイン:(くそっ。
これは、護衛と言いながらの連行じゃないか。)
ラキ:「まあ、私を知らないのでは、しょうがないわね。
指示に従うわ。
但し、手荒な真似はしないようにね。」
隊長:「分かっておりますとも。」
巡回部隊は、最後尾には、他に捕まったと思われる者が
拘束され連行されていた。
そして、2人は連行されるがままに、
ラング将軍の元へと向かった。
砦の門の外には、ひと張の大きめのテントが設営されていた。
門の内側では、兵士達が消火を行っているのが見えた。
砦の中は、まだ燃えている場所が存在しているようだった。
テントの周りには、警備の兵が立っている。
ラキ:「どうやら、目的地のようね。」
隊長が1人で中に入り、そして出てくると言った。
隊長:「ラキ将軍閣下。
ラング将軍閣下が中でお待ちです。」
隊長の言葉遣いは非常に丁寧であった。
ラキの話が事実であることを知ったのであろう。
隊長が右手を上げると、ラキとパインの周りの兵達が散開した。
ラキは、ニッコリとほほ笑み、
隊長に 「護衛、ありがとう。」 と告げると、
テントの中へと足を踏み入れた。
テントは想像以上に大きかった。
入口から最も遠く離れた場所にラングが座っていた。
ラングは立ち上がると、睨み付けるような顔をしながら、
ラキの元へとやってきた。
ラング:「これはこれは、ラキ殿ではないですか?」
ラキ:「ラング将軍。
この度の勝利、おめでとうございます。」
ラキはそう言って頭を下げる。
ラング:「いえいえ、攪乱が成功したことが勝因ですよ。
その上に救出作戦まで成功されるとは。」
ラキ:「そんなことはありませんよ。
力を得た者を倒せたのはラング将軍の才覚があっての事。
ラング将軍でなければ、成し得なかったことでしょう。」
ラング:「ほう。
そのように報告していただけますかな?」
ラキ:「もちろんですとも。」
その言葉にラングは笑みを漏らした。
ラング:「いやいや。
儀礼(?)はここで終わりにしよう。
さて、ラキ殿。
今日は、何用で来られたのかな?」
ラキはラングに近づくと耳打ちした。
ラング:「なるほど。
それならば、地下ですね。
あそこは、火災の被害を受けていない。
案内できる者をつけましょう。」
ラキ:「いえ、大丈夫です。
ここの見取り図は頭に入っています。」
ラング:「あぁ、そうでしたな。
ならば、腕章を。」
ラングは側近の兵に指示すると、腕章をラキに手渡した。
2人がテントを出た時、外には1人の拘束された男がいた。
パインは、その顔を見て驚いた。
パイン:「ナガット。
ナガットじゃないか?」
ナガット:「えっ?」
うつ向いていた男は顔を上げるとパインを見た。
ナガット:「パイン。
パインなのか?」
パイン:「よかった。
一体どして?」
ラキ:「知り合いなの?」
パイン:「はい。」
兵士はラキの腕章を確認すると言った。
兵士:「将軍。
勝手に会話されては、こまります。
ラング将軍の尋問が終わってからにしてください。」
パイン:「・・・」
テントの中から声が聞こえた。
「よし、はいれ。」
その声で兵士とナガットはテントへと入って行った。
ラキ:「パイン。
私達も戻りましょう。」
そして、2人はテントの中へと戻り、邪魔にならない位置へと
移動した。
ラングは、2人に気が付いたが特に何も言わなかった。
ラング:「さて、幾つか質問をさせてもらおう。
名前と職業、出身は?」
ナガット:「ナガット・パミエ。
神聖魔導士見習いです。
出身は、バーランドです。」
ラング:「なるほど、王国の民か。
何故、あそこにいた?」
ナガット:「実は、良く分からないのです。」
ラング:「良く分からないとは、どういうことだ?」
ナガット:「気がついたら、砦の牢屋の中にいました。
何が何だか分からないんです。」
ラング:「ずっと牢屋に閉じ込められていたのかね?」
ナガット:「はい。」
ラング:「食事は?」
ナガット:「食事は定期的に運ばれてきました。」
ラング:「では、意識を失う前は、何をしていた?」
ナガット:「そこにいるパインと一緒にいました。
滝から落ちて意識を失いました。」
ラング:「パイン殿、それは事実かな?」
パイン:「はい。」
ラング:「なるほど。
では、どうやって牢屋からでたのだ?」
ナガット:「今回の攻撃で壁が壊れたのです。
最初は何が起こったのか、わかりませんでした。
そして、開いた穴から脱出しました。」
ラング:「おい。
牢屋が壊れたという報告はあるか?」
兵士:「はい、南側に牢屋がありました。
そこは、魔法攻撃の直撃を受けています。」
ラング:「そうか。
では、牢屋から脱出した後はどうした?」
ナガット:「壁際を移動しながら、北西に向かいました。
壁の所に人が通れる亀裂があって、
そこを通って外にでました。」
ラング:「おい、すぐに調べさせろ。」
その言葉に兵士の一人がテントを後にする。
ラング:「その後は?」
ナガット:「森に入り、じっとしていました。」
ラング:「今のところ、おかしなところは無いようだな。
ラキ殿、貴殿はどう思う?」
ラキ:「そうね。
特に怪しいところは別に無さそうね。」
ラングは、しばらくの間、黙っていた。
少し経つと1人の兵士がテントへと入ってきた。
兵士:「報告します。
北西の壁に亀裂がある事を確認しました。」
ラング:「そうか。
わかった。
どうやら、矛盾はないようだな。
さて、ラキ殿。
この者の処分だが、パイン殿とも知り合いのようだ。
貴殿の管理下に置くということで、どうだろうか?」
ラキ:「それは願ったりね。
私の方で引き取りましょう。
ただ、私達の用事が終わるまで、
引き取り保留ということで。」
ラング:「わかった。」
ラキ:「この事とは別でちょっとお耳に入れたいことが。」
ラキは、ラングに近づくと耳打ちした。
ラング:「なんだと!!。」
ラング:「んっ、そう言う事か。
わかった。」
そして、2人は、ナガットを残してテントを後にした。
ラキとパインは、地下を歩いていた。
腕章の効果は絶大だった。
道すがら出会う兵士達は、腕章を見るなり、直立不動で
敬礼をしてくる。
2人は何の弊害もなく、移動することができた。
そして、エレナが監禁されていた部屋の先にそれはあった。
台の上に2つの玉が置かれていた。
パインは、目の前に置かれた白い玉を見ながら呟いた。
パイン:「やはり、なにも感じない。」
よく見ると、白い玉は何かに覆われているようだった。
パインは、手拭き用の布切れを取り出すと、玉を拭き始めた。
玉は、べとべとしたもので覆われていた。
すると突然、グレイグの声が聞こえた。
グレイグ:(見つけた。
目の前だ。)
同時にパインの目の力も発動した。
赤い目印が目の前に現れる。
パイン:「どうやら、このべとべとしたものが、
力を妨げているようですね。」
ラキ:「やはりそうだったのね。
それで、得られた力は?」
パインは、布から手を離すと、直接玉に触れた。
グレイグ:(バレットの力を手に入れたぞ。
これは、血液を硬化して弾のように打ち出す力だ。)
パイン:「敵の遠隔攻撃の正体が分かりました。
バレットと言うようです。
弾の正体は血液を硬化したもののようです。」
ラキ:「それは、すごいわね。
考えもしなかったわ。
それで、もう一つは?」
パインは、もう一つの玉を拭くと、玉に触れた。
グレイグ:(パイン、よくやった。
グラントゥの力を手に入れたぞ。
この力は己の力を僕に与えることが出来る力だ。)
パイン:(一体誰に?)
グレイグ:(お前なら分かるはずだ。
お前は、既に僕と出会っている。)
パイン:「やはりそうか。」
ラキ:「どうしたの?」
パイン:「ついに見つけました。
仲間に力を与える方法を。」
ラキ:「やったわね。」
パイン:「ちょっとまってください。」
グレイグ:(しかし、これは終わりではない。
始まりなのだ。
僕を集めよ。
そして、僕達を引き連れ、
黒の根源の元へと向かうのだ。
そこで勝利することが終わりであり、
始まりなのだ。
もう良いだろう。
私の始まりについて話そう。)
:
:
ラキ:「パイン!!、パイン!!。」
パイン:「あっ、なんでしょう?」
パインが眼を開くと目の前にキーラの顔があった。
ラキ:「あなた、突然気を失ったのよ。」
パインは、自分が床に寝かされている事を初めて知った。
そして、ゆっくりと起き上がった。
ラキ:「何があったの?」
パイン:「いや、よく覚えていないんです。
グレイグの始まりの事を聞かされたようなんですが、
それが一体なんなのか?
ただ、覚えている事もあります。」
ラキ:「それはなに?」
パイン:「グレイグには、白い自分と黒い自分が存在していて、
白と黒の力を与えられる者は異なっていると。」
ラキ:「つまり、力を与えられる者は何かの要因によって
決まっていて、
白と黒では、適合者は異なるという事かしら?」
パイン:「えぇ、多分そうです。
あと、力は分け与えられると。」
ラキ:「どういう意味かしら?」
パイン:「その時が来れば分かるはずだと。」
ラキ:「なるほどね。
ほかに何か覚えてない?」
パインは申し訳なさそうに言った。
パイン:「残念ながら。」
ラキ:「まあ、いいわ。
その内に思い出すでしょう。」
パインとラキはテントに戻るとナガットを連れて公国へと
転移の魔法で戻った。
*1:後方にいた魔法部隊が前方に移動し
魔法攻撃は、射程が短いために敵の近くまで
移動しなければならない。
しかし防御の弱い魔導士を前面に出す事は
諸刃の剣でもあった。
そのため、攻撃力の高い魔法攻撃は最善の注意を払った上で、
実行されるのが一般的である。
*2:戦力差が大きくなれば損害は減るのが普通
この世界では、知る者は存在しないが、
ランチャスターの二次法則からすれば、
生存人数は戦闘開始時の両軍の人数の自乗の差によって
決まることになる。
つまり、能力を得た者の1人当たりの戦力は、
200人分どころではないという事になる。




