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グレイグ  作者: 夢之中
25/52

侵入


大軍の移動には、少人数よりも多くの時間が必要である。

足の速い者、遅い者、体力のある者、無い者など

人だけを見ても様々だ。

それらを同時に移動させるには、

最も遅いもの(者・物)に合わせる必要がある。

そのため、どうしても余裕をもった行軍となる。

休息や食事の為の陣を張ることにより、さらに遅れるのだ。

ラキは本隊と敵の接触までは、およそ3日と予想していた。

1日遅れて、ラキ(キーラ)達は、

メルキスの近くの漁村から魚船に乗り込み、海上を進んだ。

大回りになるが、目的の地点までおよそ2日と想定した。


ラキ(キーラ)、パイン、ゾル、アライン、ミクスタ、トマスの

6人は、船の中にいた。

砦から1Km程度の離れた位置に停泊し、時を待っていた。

その時、ラキの持つ魔法具が光った。

その魔法具は、アラインとエレナが持っていた指輪に近い力を

秘めた物であった。

そう、相手の場所を知る事ができる力だ。

それをラングに渡し、本隊の場所を知ったのだ。


ラキ:「そろそろ時間のようね。

   作戦を開始するわ。」

そう言うと、水中呼吸の指輪を発動し、

次々と海中に飛び込んで行く。

海流のおかげもあり、およそ20分後、

6人は洞窟へとたどり着いた。

ラキの話の通り、洞窟も亀裂もボロボロの祠も存在していた。

各自インビジブルの魔法を唱えると、

作戦通りに散開していった。


想像以上に人が少ない。

連合軍の進軍により、多くの者が門付近に移動したのだろう。

パインとキーラは、建屋に入るとエレナの捜索を開始した。

1つ1つ部屋を確認して行く地道な作業だった。

 「南の倉庫で火災が発生した。

 すぐ鎮火に向かえーっ。」

時折、何人かの海賊と思われる者達が慌てた様子で

目の前を通過して行く。

どうやら、攪乱が成功しているようだった。


その頃連合軍は、戦闘の真っ最中だった。

メルキス駐屯軍を先頭に公国軍、王国軍が続いていた。

連合軍は、前回の砦攻略の失敗を鉄鋼車を使う事で

解決しようとしていた。

鉄鋼車と言うと、いかにも強そうな名前ではあるが、

実際は、前面にくの字型の巨大な鉄の盾(いわゆる鉄板)を

設置した荷車である。

その荷車を人力で押しているのだ。

鉄鋼車を最前面に配置して、それを盾に、ゆっくりとだが

確実に前進して行く。

そして、その後方には重装歩兵*1が続いていた。

今のところ敵の遠隔攻撃は分厚い鉄板を打ち抜くほどの

力は持っていないようだった。

ある程度前進したところで、砦から火の手が上がるのが見えた。

同時に城門にいた兵士達が慌ただしく動き始める。

連合軍の中から歓声が上がる。

勢いづいた兵士達は、次第に速度を上げて砦へと進んでいった。

その時、城門にいた3人の兵士が城門から飛び降りた。

常識的には、あの高さから落ちれば無事では済まないだろう。

しかし、彼等に常識は通用しなかった。

城門から飛び降りた者達は、空中で何回転もすると、

華麗に着地し、人間離れした速度でこちらへと走ってくる。

しかし連合軍の兵士達は、驚くどころか冷静にそれを見ていた。

そして号令が発せられた。

 「槍構え!!!」

最前列にいた重装槍兵達が、一斉に前方に向けて槍を構える。

同時に鉄鋼車の盾に鋭い突起が出現した。

鉄鋼車の盾には、無数の小さな穴があけられている。

その穴から金属の槍が飛び出したのだ。


敵は瞬く間に距離を縮め、鉄鋼車の手前で飛び上がった。

鉄鋼車を飛び越えようと考えたのだろう。

少し離れたところで、ラングはその様子を見ていた。

ラング:「やはりな。」

ラングは、この人間離れした者との戦いを十分検討した。

彼等は戦いの中、良く飛び上がった。

彼等の近くの兵士は、突然目の前から敵兵が消え失せた為に、

成す術無くやられたのだろう。

しかし、遠くから見ていれば彼等の動きは良く分かるのだ。


その時、新たな号令が発せられた。

 「槍立て!!!」

その号令で槍兵達は、一斉に槍を立てた。

そして、全員が上空の敵を凝視した。

この光景を遠くから見たら、まるで剣山の様に見えた事だろう。

空中高く飛びあがった敵兵は、槍から逃れようともがいていた。

しかし、飛行の魔法や転移の魔法等の離脱ができる魔法を

持たぬ者には決して逃れる事は叶わなかった。

自由落下によって着地点に向かって無情に落ちて行く。

あまりにも単純極まりない方法ではあるが、

効果的な方法であることは間違いない。

空中の敵兵は、手持ちの短剣を着地地点へと投げつける。

しかし、フルプレートアーマーを貫くことは叶わなかった。

そして、空中の敵兵は次の行動へと移った。

両脚を大きく広げ、身体をねじって、

両脚で槍の矛先を変えようとした。

確かにその行動で両脚の範囲内の矛先は向きを変えた。

しかし、他の槍兵は空中の敵を認識していた。

そしてその方向へと槍を突き出した。

無数の矛先は空中の敵兵を無情に突き刺したのだ。

3人の敵兵が串刺しになった時、連合軍の兵士達から

歓声があがった。

ラングは、その様子を無表情で眺めていた。

ラング」「初戦は、勝利できたようだな。

    よし、このまま前進だ。」



その頃、キーラとパインは、砦の地下を探索していた。

何度かインビジブルの魔法を掛けなおし、通路の奥へと進んだ。

そして、一人の歩哨が立つ部屋を発見した。


キーラ:(どうやらあそこのようね。)

キーラは、歩哨に対して呪文を唱えた。

歩哨は魔法の糸でグルグル巻きになり、床に転がった。

キーラとパインは、透明化の魔法や能力を解除すると、

扉を開けた。

部屋の中には、エレナが座っていた。

キーラ:「パイン、歩哨を中にいれておいて。」

エレナ:「貴方達は何者ですか?」

落ち着いた口調であったが、

エレナの顔は引きつっていた。

キーラ:「アンナに頼まれて助けに来ました。」

キーラは、この回答が最も早くエレナに信じてもらえると考え

そう答えた。

エレナは、アンナという言葉に驚いた。

エレナ:「アンナは無事なのですか?」

キーラ:「はい。

    2人共、安全な場所にいます。」

エレナ:「2人?

    もしかして、アラインもいるのですか?」

キーラ:「はい。」

エレナの顔が緊張から一気に解き放たれた。

エレナ:「そうですか。

    安心しました。」

キーラ:「直ぐに脱出しましょう。」

エレナ:「分かりました。」

キーラは、エレナの返事を待ち、転移の呪文を唱えた。

しかし、呪文は発動しなかった。

キーラ:「どうやら、転移の魔法は封じられているようね。」

そう言った時、突然扉が開いた。


現れたのは、見覚えのある顔だった。

そう、遺跡で出会ったヘマタイトチームの1人だ。


???:「歩哨が居ないから何事かと思って来てみたら、

    お客さんではないですか。

    それも、見た顔が来るとは。

    火を放ったのもお前たちの仲間だな。

    陽動とはやってくれる。

    それと、そっちのお嬢さんは、遺跡で世話になったな。」

パイン:「ヘマタイトチームか?」

???:「覚えていてくれたか。

    元ヘマタイトチームのリーダー、ボッシュ様だ。」

パイン:「元?」

ボッシュ:「そうだ。

     そこの女。

     貴様の罠にかかって飛ばされた先が、

     この砦だったんだよ。

     他のメンバーは選ばれなかった。

     そして殺された。

     俺だけが選ばれたのさ。

     そして、力を得た。

     さらに、この砦の司令官にもなったんだ。」

キーラ:「ひとつ訂正させてもらうわね。

    あの罠は、遺跡の罠であって、私の罠では無いわ。」

ボッシュ:「そんなことは、どうでもいい。

     お前のせいで仲間が死んだんだ。

     お前を倒すことだけが、俺の生きがいなんだよ。」

そう言って剣を抜く。

刀身が青く光っている。

明らかに魔法の品だ。


キーラ:「パイン。

    修業の成果を見せて頂戴ね。」

キーラは、エレナを守るように2人で壁側へと移動した。

パイン:「分かりました。」

パインは、2本の剣を抜く。

1本は、ロングソード、もう1本は、短剣だった。

ロングソードは、刀身に青い光を携えていた。

短剣の方は、特に魔法の品とも思えないが、

しかし、キーラの弟子ビックスから譲り受けた物である。


ボッシュ:「なるほど。

     お前が相手か。

     二刀流とは笑わせてくれる。

     直ぐに片づけてやるからな。」


次の瞬間、ガンという鈍い音が辺りに響いた。

キーラは2人が動いたようには見えなかった。

常人には見る事さえ許されない速度で剣がぶつかったのだ。


ボッシュ:「多少は、剣術の心得があるようだな。

     しかし、わたしは、ジェムの称号を持つ者だぞ。

     私に剣技で勝とうなど思わぬことだな。

     これではどうだ?」


ガッガッガッ、、、ガッガッガン。

鈍い音が続く。


ボッシュ:「まさか貴様も選ばれた者なのか?

     おもしろい。」


ガガガ、、、ガガガン。

鈍い音が連続で続く。


ボッシュ:「受けは、なかなかのものだな。

     しかし、受けだけでは、勝つことはできんよ。

     本気で行かせてもらう。」


ガーーーーーーガン。

パインが劣勢なのだろう。

パインは徐々に後方へと下がる。

両者の額から汗が流れる。


ボッシュ:「くそっ。

     選ばれた私の剣を全て受けきるとは。

     貴様は何者なのだ。

     魔導士ではないのか?」


キーラは、パインの剣術に満足していた。

アンナは、十分役目を果たしてくれたようだ。

アンナには、受けのみを訓練するように指示したのだ。

そしてロングソードは、公国の国宝、受けの剣*2だった。

受けの剣を使用すれば、ジェムの称号を持つ相手にも

十分対応可能と判断したのだ。


パインは何も答えなかった。

しばらくの間、2人は動かなかったが、

そして、痺れを切らしたボッシュが動いた。

ボッシュ:「必殺の一撃を受けてみよ。」

次の瞬間、ガンという音と共に接触部分が光りを発した。

同時に、ボッシュは剣を落とした。

ボッシュは、驚いていた。

なにが起こったのかわからなかった。

そして、その一瞬がボッシュの命運を決めた。

全く無防備な身体めがけてパインは受けの剣を突き出し、

ボッシュの身体を貫いたのだ。

ボッシュは短いうめき声と共にその場に倒れ込んだ。


パインも驚いた表情をしていた。。

そして、ポツリと呟いた。

パイン:「やった。

    本当に成功した。」

そして、ビックスと出会った、あの日の事を思い出すのだった。


=====


パイン:「どんな魔法なんですか?」

キーラ:「マリオネットという魔法よ。

    マリオネットは、ビックスの生み出した基本魔法なの。」

パイン:「マリオネットということは、何かを操るんですか?」

キーラ:「えぇ、人間をね。」

パイン:「えっ?」

パインは、対象が人間であると聞いて驚いた。

それもそのはずである。

人間を操る魔法というのは今まで存在していないからである。

魅了にしてもあくまでも感情に働きかけるだけであり、

対象者には提案として受け取られる。

最終的には対象者の意志で行動することになるのだ。

つまり、完全に支配することは不可能なのだ。

パインはグレイグについては、自分と共生している別人格だと

認識しているのだ。

同時に操れる人数や効果時間など、様々な要因があるが、

一人相手ならば、ほぼ無敵だと言って過言ではないだろう。

本当にそれが実在するのならばである。


そんなことを考えていると、

ビックスが2本の剣を持って戻ってきた。

1本は金属で作られた短剣。

もう1本は、木で作られた模擬戦用のロングソードだった。

ビックスは木の剣をパインに渡すと、

受けの構えをさせ、その場に立っているように告げる。


ビックス:「マリオネットの魔法は、私の持っている

     この短剣に付与されているのじゃ。

     今からその木の剣に向けて、この剣を振るう。

     避けずに受け止めるのじゃ。

     人生をかけて生み出した魔法じゃ。

     どうなるかが、楽しみじゃろ?」

パインは、なにが起こるのか分からなかった。

少し不安を感じながらも剣を受け止める事に専念した。


ビックスが剣を上段に構え、振り下ろした。

パイン:(遅い。)

決してグレイグの力が発動して、遅いと感じたのではない。

確かにグレイグの力は発動していなかった。

にもかかわらず、パインはビックスの振り下ろした剣が

遅いと感じていた。

この老人の行動が遅いのか?

それとも自分が早くなっているのか?

こんなことを考える時間さえ存在する。

その時、老人の後ろにある砂時計が眼に入った。

そして、ある事に気が付いた。

砂の落ちる速度が明らかに遅く感じるのだ。

この時初めてパインは己の身体能力が向上していることに

気が付いた。

これもまた、グレイグの力なのだろうか?

丁度その時、ビックスの振り下ろした剣がパインの持つ剣と

接触した。

接触部分が一瞬光る。

接触部分から、まるで稲妻の様に光が走った。

次の瞬間、剣を持つパインの5本の指が開いた。

パインは驚いた。

木の剣が支えを失い、落下して行く。

そして、パインの驚きが覚めたときには、

木の剣は床に転がっていた。


ビックス:「どうじゃ?

     これが、マリオネットの効果じゃよ。」


パインは2つの事で驚いていた。

1つは、確かに自分の意志とは関係なく指が動いた事。

もう1つは、この程度の魔法に人生をかけたという事だった。


キーラ:「あり得ないって顔してるわね。

    そう、普通ならあり得ないわ。

    でもね、あり得ないと思っていたら何も進まないわ。

    ビックス坊やは、その初めの一歩を生み出したのよ。

    最初の一歩は小さな一歩でも、

    この一歩がなければ、進歩はないのよ。

    それに、対策をされるまでは、

    かなり有効であることは間違いないわ。」

パイン:「確かにそうですね。」

キーラ:「但し、1回のみのね。

    よく覚えておきなさい。

    チャンスは1度きりだとね。」


この後、キーラはビックスとマリオネットについての話をした。

そして最後にキーラは質問した

キーラ:「それで、受け継ぐ者はいるの?」

ビックス:「墓まで持っていくつもりですじゃ。」

キーラ:「そう。

    そう決めたのね。」

パイン:「えっ、なぜ?」

キーラ:「この魔法は効率が悪すぎるのよ。

    たった数秒のために、

    ほぼ全ての魔力を必要とするなんて、

    使いたくなるかしら。

    もしそれが解決したとしても、次に来るのは、

    悪意を持った者に使用された場合の対処方よ。」

パイン:「対処方?」

キーラ:「優秀な魔導士であれば、詠唱呪文や残留魔塵から

    同じ魔法を作り上げる事は不可能では無いわ。

    つまり、同じ魔法を自分を含め、多くの人が受ける

    可能性があるということなの。

    対処もせずにそれを行使するということは、

    将来的に多くの人を危険に晒す事になるのよ。

    愚かな魔導士は、それを考えずに公にしてしまう。

    その行為が最終的に多くの人を不幸にしてしまうことを

    考えずにね。」

ビックス:「その通りじゃな。

     時には諦めも必要なんじゃよ。」

キーラ:「魔法を付与した剣は何本あるの?」

ビックス:「この1本だけですじゃ。」

キーラ:「貸してもらえるかしら?」

ビックス:「貸す?

     くれの間違いじゃろ?」

キーラ:「あぁ、そうね。

    頂けるかしら?」

ビックス:「構わんよ。

     もうわしには必要ない物じゃ。」


=====


キーラ:「パイン。

    よくやった。」

パイン:「あっ、はい。」

キーラ:「ぐずぐずとしていられないわ。

    直ぐに撤退するわよ。」


3人は、部屋を出ると、転移の魔法を試した。

転移の魔法は発動し、そして3人は公国へと移動した。



*1:重装歩兵

 フルプレートアーマーを装備した歩兵の事。

 武器は状況に応じて持ち替えている。


*2:受けの剣

 攻めの(つるぎ)と受けの(つるぎ)は、

 ニ本一組の剣として知られている。

 2本合わせて、夫婦(めおと)(つるぎ)とも呼ばれる。

 古代の遺跡で発見されたものであり、

 ドリム公国の国宝でもある。

 攻めの剣は、相手の急所を狙う攻めに徹した剣である。

 その激しい動きから使用者を選ぶ剣と言われている。

 受けの剣は、相手の太刀筋に合わせて剣を動かす、

 受けに徹した剣である。

 追従性は高いが、動きはさほど激しくない為、

 使用者を選ぶことはない。



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