エレナ救出作戦
キーラ、ゾル、アライン、ジェイクの4人は、
ドリム大公の前にいた。
キーラ:「救出作戦は、連合軍の進軍開始と同時に決行します。
指揮は、私、キーラが行います。
メンバーは、パイン、ゾル。
そして後3人、インビジブルLV5を扱える者を
選抜してください。」
ドリム:「インビジブルLV5か。
それだと、かなり絞られてしまうな。」
アライン:「インビジブルLV5ならば、私も使える。
私が行こう。」
ジェイク:「アライン様。
それは、おやめください。
元首が最前線に立つなど前代未聞です。
それに、あまりにも危険すぎます。」
アライン:「ジェイク。
いくら同盟国だとは言え、
この件は本来、メルトニアの問題なのだ。
確かに私は、メルトニアの元首ではあるが、
国が無くなれば、元首など何の意味もなさない。
多くの国民は、既に奴らの手中にある。
ここで、私が動かなければどうするのだ。
同盟国の後ろで隠れていろとでも言うのか?
自分の身を守るために、
国民を見殺しにしろとでも言うのか?」
ジェイク:「しっ、しかし。
奪還後の復興はどうされるのですか?」
アライン:「任期のある元首なのだ。
メルトニアには、他に元首になれる器の者が
いないとでも言うのか?」
ジェイク:「いっ、いえ、それは、、、。」
キーラ:「万が一にも敵に捕獲されたらどうするのです?
防御魔法が発動すれば、手の打ちようが無くなります。」
アライン:「問題ない。
自刃して果てる。」
ジェイク:「!!!。
アライン様、それはなりません。」
アライン:「ジェイク。
君の気持はありがたく思うが、
防御魔法の発動を遅延させる
最も効果的な方法は何だと思う?」
メルトニア宮殿の防御魔法は、元首がいなければ発動しない。
しかし、それは、あくまでも即時発動のことである。
アラインを生きたまま確保することができれば、
その時間は、本人の意思に関係なく短縮可能である。
たとえ、元首が生存していない場合でも、
優秀な魔導士と多くの時間があれば、不可能ではないのだ。
ジェイク:「・・・」
アライン:「もう、気が付いているだろうが、
私が死ぬことなんだよ。
私がいなくなれば、
防御魔法の発動は、さらに困難になるだろう。」
ジェイク:「・・・」
キーラ:「どうやら、意志は堅そうね。
最後に一つ聞かせてちょうだい。
エレナの為に行きたいの?」
アライン:「確かにエレナは助けたい。
しかし、それだけではない。
この作戦は、救出を目的としているが、
裏の目的は、連合軍の進軍を助ける為の
砦の攪乱なのだろう?
確かに結界に守られているであろう砦に
侵入することは容易ではない。
しかし侵入さえできれば、攪乱させることは容易だ。
メルトニアの国民を救うためにも、
砦の攻略が最善の手段だと判断したのだ。」
キーラ:「なるほどね。
全てお見通しというわけね。
貴方がもっと若い時に出会いたかったわね。」
アライン:「それは、最高の賛辞として受け取っておくよ。
それで、参加は許可してもらえるのだろうか?」
キーラ:「わかったわ。
ただし、メルトニア元首としてではなく、
一人の魔導士として参加してもらうわ。
それでもいいかしら?」
アライン:「あぁ、それでかまわない。
感謝する。」
キーラ:「大公。
この件については、連合軍に秘密でお願いします。」
ドリム:「まさか、連合軍を囮にするつもりなのか?」
キーラ:「そうではありません。
ミンサの件を思い出してください。
既にスパイである者、あるいはこれから反旗を翻す者、
それらが既に存在するかもしれませんし、
これから現れないとは言い切れないのです。
それ故、救出作戦は極秘にしなければならないのです。」
ドリム:「バートランド国王にも秘密にするのか?」
キーラ:「バートランド国王のみに話す事ができるのならば、
問題はないでしょう。
連合軍の進軍に関しては、別途作戦を提示します。」
ドリム:「わかった。」
そして時は流れた。
進軍2日前。
キーラは、アンナの元へと向かった。
キーラ:「パインの方はどうかしら?」
アンナ:「はい。
剣術の基礎は教えたつもりです。
指示の件を中心に訓練を積みましたが、
本当にあれでよかったのですか?」
キーラ:「えぇ、今のパインでは、剣術で敵を倒すのは
難しいからね。
ところで、パインの剣の素質はどうかしら?」
アンナ:「まあ、普通だと思います。
実戦で戦うのが一番だと思いますが、
やはり本人の努力次第ですね。」
キーラ:「やっぱりね。
まぁ、いいわ。
引き続きお願いするわね。」
アンナ:「はい、承知しました。」
進軍1日前。
メルキスの第5軍議室に6人が集まっていた。
ラキ(キーラ)、パイン、ゾル、アライン、ミクスタ、トマスだ。
ミクスタとトマスは、ドリム大公の推薦であり、
すでにラキ(キーラ)との面接は終わっていた。
ラキ:「人魚の涙にある砦に潜入し、エレナを救出するのが
今回の任務です。」
ゾル:「しかし、どうやって侵入するのですか?
あそこは、天然の要塞と呼ばれるほど
潜入が困難な場所ですよ。」
ラキ:「その前に、一つ聞きたいことがあります。
何故あの半島は人魚の涙と呼ばれるか知っている?」
ミクスタ:「何の話ですか?
救出とどのような関係が?」
ラキ:「まあ、これも、意味を持つ重要なことだと思って
答えて頂戴。
知っている人はいる?」
トマス:「半島自体が涙の形をしているからですよね?」
ラキ:「では、人魚は?」
トマス:「それは、、、知りません。」
ラキ:「ほかに知ってる人は?」
全員:「・・・」
ラキ:「でしょうね。
これを伝える人々は、たぶんもう誰もいないからね。」
ゾル:「一体何が言いたいのですか?」
ラキ:「とりあえず、最後まで聞いて頂戴ね。
さて、ひとつ昔話をするわね。」
そう言ってラキ(キーラ)は話始めた。
=====
あの砦が建てられる前、あそこには村があり、
その村は、漁を生業とした人々が住んでいました。
その村にイーサンという若者が住んでおり、
毎日漁に出て魚を釣る生活をしていました。
ある日、イーサンが漁にでると突然嵐になり、
イーサンは、船と共に沈んでしまいました。
イーサンは、意識が無くなる直前、1人の女性を見ました。
イーサンは、その人を天使だと思い、自分の運命を悟ったの。
そして、意識を無くしたわ。
イーサンが目を覚ました時、彼は洞窟の中にいることを知った。
洞窟は亀裂から入る陽の光で満たされ、
洞窟の中は、半分地面で半分海面だとわかったわ。
イーサンが自分の身体を調べると、手当の後があり、
何者かに命を救われた事を知ったの。
イーサンは、外に出る為に洞窟の中を調べたわ。
そして、大きな亀裂を発見し、その先へと進み、
無事外に出る事ができたの。
イーサンは、驚いたわ。
自分の家の裏山に続いているとは思ってもいなかったからね。
そしてイーサンは普通の生活に戻ったの。
しかし、1つだけ違った。
毎日洞窟へ行き、自分の命を救った者が来ることを信じ、
待ったの。
そして、1年の月日が流れたわ。
イーサンがいつもの様に洞窟へ行くと。
海面に浮かぶ女性を発見したの。
その女性は、あの日意識が無くなる時に見た天使だった。
イーサンは、その女性の身体を見て驚いた。
彼女は、人魚だったのよ。
彼女は酷い怪我をしていたわ。
イーサンは、彼女の怪我を治そうと必死になった。
怪我はイーサンの看病のおかげで良くなっていったわ。
しかし、怪我が良くなっても彼女は目覚めなかった。。
イーサンは、八方手を尽くして目覚めさせる方法を探した。
そして、ついに一つの可能性を見つけた。
それは、魔導士に頼む事だった。
イーサンは、全財産をつぎ込んで、
当時最高の魔導士の住処を見つけ出したの。
しかし、その道のりは困難を極めた。
魔導士の住処へとついた時には、彼はボロボロだったわ。
道中でハルピュイアに襲われたのね。
イーサンは、ついに魔導士に会う事ができた。
しかし、彼の命は尽きようとしていた。
そして、イーサンは魔導士に手紙を渡すと息絶えたの。
魔導士は、蘇生の呪文*1を使ったけど、それは失敗に終ったわ。
手紙を読んだ魔導士は、洞窟に向かい、人魚を目覚めさせたの。
そして人魚に手紙を見せ、事の経緯を説明したわ。
人魚は突然泣き崩れたわ。
そして、辺りを人魚の涙の結晶*2で埋め尽くしたの。
一月後、魔導士が再び洞窟を訪れると、
大量の人魚の涙の結晶の中に人魚の遺体を発見したわ。
魔導士は、人魚の涙の結晶を買い取る事を決め、
村の長に事情を説明し、洞窟の亀裂の場所に祠を建てて
その横にイーサンと人魚を埋葬して供養したの。
村の村長は、この半島を人魚の涙と呼ぶようになったのよ。
そして今もその名前が受け継がれているのよ。
=====
話が終わると、最初に声を上げたのはミクスタだった。
ミクスタ:「まさか、その昔話の洞窟から
潜入するとでもいうのですか?」
ラキ:「そのまさかよ。」
ミクスタ:「ただの昔話ですよね?」
ラキ:「いえ、ただの昔話ではないわ。
これは、純白のセイラが残した記録なのよ。」
ミクスタ:「記録。
ということは、実話だったのですね。」
ラキ:「そう。」
ミクスタ:「しかし今も洞窟や祠があるか確認しないと。」
ラキ:「洞窟も祠も確認済みよ。」
ミクスタ:「でも、どうやって、、、。
まっ、まさか、憑依*3ですか?」
ラキ:「よく勉強しているわね。
漆黒のゾーラが残した秘薬を使わせてもらったわ。」
ミクスタ:「大魔導士ゾーラですか。
大魔導士セイラといい、
何故、そのような物をあなたがもっているのです。
いや、まさか、王国か公国の秘宝ですか?」
ラキ:「そうね。
まあ、そんなところね。
だから、この件は秘密にしておくように。
さて、潜入経路については、分かってもらえたかしら?」
アライン:「洞窟にはどうやって入る?」
ラキ:「海中よ。
海中に洞窟に繋がる穴があるのよ。
水中呼吸の指輪*4を使うわ。
指輪の個数が6個だったので、6人という訳ね。
他に質問は?」
アライン:「いや、特にない。」
ラキ:「では、見取り図を見て頂戴。」
ラキ(キーラ)は、そう言うと砦の見取り図を広げた。
ラキ:「これは、砦の脱走者の証言から作った物よ。
なので、細かい部分で間違いがある可能性があるわ。
その点は各自臨機応変に対応するようにね。
先ず、隊を3つに分けます。
私とパイン、アラインとゾル、ミクスタとトマスの
3つね。
私とパインは、エレナの探索に向かうわ。
残りは、攪乱をお願い。
そうね、火をつけて回るのが良さそうね。
そう、いくつか注意事項を伝えるわ。
各自インビジブルの魔法を使って姿を隠す事。
敵に発見されたら、直ちに転移の呪文で脱出する事。
敵は、我々よりも遥かに身体能力が高いから、
間違っても戦おうと考えないように。」
アライン:「攪乱部隊は、移動経路だけでも決めておこう。
近くで火を放っても効果は薄いからな。」
ミクスタ:「その通りだ。」
アライン:「それと、撤退の合図も検討しなければな。」
ラキ(キーラ)は、会話を聞いてニコニコとほほ笑んでいた。
そして、進軍の当日を迎えた。
*1:蘇生の呪文
対象者の生命力の上限を代償に死者を蘇生する呪文。
生物が死を迎えると生命力が急速に減少して行く。
そして生命力が無くなると、生物は完全な死を迎える。
生命力の上限は生物によって異なり、
年齢などによっても減少する。
生命力の上限の高い者でも蘇生の呪文を
繰り返し受ける事によっていずれは蘇生不能となる。
*2:人魚の涙の結晶
人魚の涙が結晶化したもの。
空気中に存在する人魚の涙は、すぐに結晶化する。
それは、魔法薬の素材として使用される。
水に溶けやすいため、発見は困難とされる。
*3:憑依
低級な動物に憑依してそれを意のままに操ることができる。
失われた術の一つで、呪術に分類される。
秘薬を使用する為、魔導士以外でも発動が可能となる。
*4:水中呼吸の指輪
魔法により対象者を柔軟性のある膜で包み込み、
膜の内側に空気を供給する。
効果時間は使用者により異なるが、
おおよそ30分程度である。




